東急プラザ 原宿店「ハラカド」売り場じゃない。人とものとシーンが出会い、価値を創造する 商業施設の挑戦
随分と、振り切ったものだ。僕がきたのは、東京・原宿の交差点にできた二つ目の「東急プラザ」。東急プラザ原宿、通称「ハラカド」である。交差点を挟み、反対にも東急プラザがあり、それは「オモカド」と呼んで対を成す。こちらは、商品の深掘りを意図した体験や、インフルエンサーへの場所提供など、従来の売り場のイメージとは一線を画している。
体験と商品とで場所が機能する
全体を通してクリエイティブな空間なのだ。なるほどと思ったのは、オープンセレモニーに現れた、水曜日のカンパネラ 詩羽さん。独創的で自分らしく、世の中を奏でる彼女は、まさにこの場所のイメージに近い。彼女は、開業を記念したショートムービーに出演しているとか。この日、東急不動産の星野浩明社長と写真に収まった。写真の向こうは、対を成す「オモカド」である。(わかりづらいか、、)。
上記のように書いた理由は、事前にプレス内覧会で来たからだ。繰り返すが、売り場というより、クリエイティブな場所なのだ。
別の記事でも書いたが例えば、原宿の真ん中にして、銭湯がある。ええ?と思うだろう。
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また、上の階へと上がると「音を確かめてみてください」って言われて、足を止めた。そこはスタジオであり、運営しているのが、メーカーの「カンロ」。え?と一瞬、驚いたが、その意図を聞いてなるほどと思った。商品の価値がどこから生まれてくるか、誰にもわからない。それをリアルに示す拠点である。
素材は「ヒトツブカンロ」という商品であり、今から10年以上前に発売された。ところが、ここ最近、大ブレイクして、オンラインストアでは完売状態が続いている。その理由は「音」なのである。
音から生まれたブレイク
連れられて行った先には、耳のフォルムをしたマイクがある。渡されたヒトツブカンロを口に入れて食べると、バリッ、ボリッ、その音が渡されたヘッドホンから聞こえる。うん、、感覚が心地よい。「でしょ?」そんな顔つきをする、得意げなカンロの方々。
実は、これこそが、昨今、話題を集める「ASMR」。Autonomous Sensory Meridian Responseの略らしい。この咀嚼(そしゃく)音が、YouTubeのショート動画をきっかけにして、ブレイク。それでその音を出す、この商品は脚光を浴びることになった。
正直、カンロ自身もそれは考えもしていなかった商品の魅力。大事なのは、ユーザーによって発掘された価値であるということ。
だからこそ、それを同じくユーザーに対して体験できる場所を作った。ハラカドの一階では、その専門店があるので、そこで購入することもできる。単純に商品を広告に載せて、店に並べて、買ってもらうのとは違う文化を形成しているわけだ。
振り切った店舗設計
もう、フロア全体がチャレンジ精神に溢れている。隣には本格的なスタジオ「STEAMstudio」が備わっている。それを、広告代理店である、博報堂ケトルという会社が運営しているのが面白い。
彼らはいう。「原宿は文化が生まれる最先端な場所」。率先して、自分たち、流行りに近いところで、クリエイターと接点を持つべく、その聖地としてこの場所を提供したわけである。
ある一定のフォロワー数がいるインフルエンサーに対しては、無料で貸し出す。この商業施設において、ものを売るわけでもなく、演じる場所として存在する。防音だから、この場所にいても発信内容が気にならない。
そういう提案が成し得るのは、ブレイクが先ほどのカンロ然り、一般人の拡散から生まれているからである。彼らはその起点となるインフルエンサーをしっかり捉えて、ここからブレイクを起こせれば、その相乗効果を自らのビジネスに活かせると考えているわけである。
それだけ、リアルの場所の価値を再定義しようとしているわけである。
普段はお披露目できないお店も
それは同時に、普段巡り会えない商品との遭遇も演出していく。
正直言って、驚いたのが、TENGAである。オシャレなミュージアム風なディスプレイだと駆け寄ってみたら、それは性欲を満たすアイテムである現実。アンダーグラウンドなのに、ここでは別にカーテンで仕切られることもなく、煌々と明るいライトがあたっている。
スタッフの方は、こう語る。「我々の商品は、駅の広告にも出すことができない。非18禁商品であることを言っても、信じてもらえない」。だからこそ、自らのブランディングが重要であるという考えのもとで、思い切ったこのディスプレイ。
また、性教育にまつわる絵本を出すなど、彼らも工夫している。作画は漫☆画太郎さんで、著名な漫画家であり関連して、このようなグッズを見せてくれた。
多様化であらゆる価値観が引き出される世の中。こういうこともオープンになっていくのかもしれない。しかも、その商品の特性ゆえに、どうしてもネットで購入される率が高くなる。だから、敢えてリアルで触れてみて、そのクリエイティブな姿勢を感じてもらう。
最近は、女性向けに「iroha」というブランドもあって、それにも驚いた。商品によっては、俳優の水原希子さんがコラボしている。多くが振動を用いる中で、その商品は、音波を使い、内部でそれを感じるという設計。実際、耳に当ててみると、音楽が流れていた。今の時代ならではの要素がここにはある。
リアルが商品とブランドの価値でひきたつ
それらのエッジの効いたブランドと同じフロアにあるのが、ファッションという妙。ブランド選びも新進気鋭。「let.tokyo」においては、ブランド自体はまだ1年半ほどで、個性的だ。
20代を対象としながら、着回しの充実を図る。そうすることで、低価格で個性的なファッションを実現させる。例えば、シースルーのような単体では躊躇うものを中に着用。それ自体はしっかり、個性を際立たせ、上に重ねる服で、補完して個性を変幻自在に操るわけだ。店長の着ているラメ入りのエンジ色のトップスを重ねても良く、このトップスだけで6500円。下とあわせても2万円弱で済むから、若年層でも手が届く。
クリエイティブの工夫の跡が見られる。下の写真は靴のブランド「スリートレジャーズ」。自身でブランドをやってはいるものの、多くのクリエイターやブランドとのコラボレーションを意図している。
というのも、ファッションショーなどで見られるデザイナーの作品は、衣装デザインに留まっている場合が多いからだ。だからこそ、そこでその衣装デザインでの個性とこだわりを持ち込み、彼らが靴のデザインをするわけである。だから、奇想天外なデザインができる。
そうはいっても、靴底の厚みは見るからに重そう。でも、手に取ると驚くほど軽い。それをリアルで手にして感動してもらいたいと。この店の出店は彼らにとっての第二章の始まりなのだ。
ハラカドの振り切り具合にリアルの覚悟が見える
「ハラカド」はとことん振り切っている。売り場と言われた商業施設に対して、敢えて違う切り口で挑む。
上記以外にも、GCCがやっている取り組みも体験型。匿名希望画廊といって、あえて作家の名前を隠して、展示するチャリティーイベント。思えば、僕らはそのアーティスト名でその作品を優先的に手にしたり購入したりする。
だからこそ、それを隠して、自分の感性の赴くまま、欲しいものに手を差し伸べる。すると、普段手にしていない作家の作品を手にすることだってある。それ自体が、自分自身の気づきである。期間限定なので、今後、この場所を同じようにクリエイティブで刺激的な場所にしたいとスタッフは語るわけである。
お分かりいただけただろうか。それはラボのようなのだ。
でも、それこそが他ならないリアルの未来の生き残る手段。既存のやり方にこだわっていると、ネットとの間で差別化ができない。売り場は誰でも作れる時代だ。だから、リアルはリアルたる所以を求めている。そうでなければ、廃墟になりうる。それゆえに、創造する空間であれと叫ぶ。
見据えるのは、企業同士が連携して、共創して違う価値を生み出すこと。
時代が変わる中で、再構築の必要性があるのであり、リアルとネットと消費者を巻き込んだ新しい動き。ハラカドにはそれがあるから、注目だ。前の前にある交差点の如く、あらゆるものがここで遭遇し合い、思いがけない価値が生まれる。
今日はこの辺で。