VRで知りVRで生息し、時にリアルで交流を深める バーチャルマーケット リアルの渋谷・原宿に
もう、ただただ別世界で驚いた。例えば、そこでの挨拶一つにしても「わかりますか」。そういって名刺のアバターを見せて、お互いを認識し「ああ、こんにちは!」といった具合。それが「バーチャルマーケット(Vket)」のリアルの世界。渋谷と原宿の“リアル”の拠点でイベントが催され、その熱狂に酔いしれた。
リアルの渋谷・原宿へ
1.バーチャルマーケットの熱狂
「バーチャルマーケット(Vket:バーチャルマーケットの略称)」は、渋谷や原宿、沖縄などの実際に近い仮想空間の街に、クリエイターが制作物を発表している。それにより、多くの人がアバターに扮して集まることになった。数々のブースが区画され、そこにはいまやクリエイターだけではなく、企業も出展する。
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開催期間は、だいたい二週間ほどで、100万人の来場者を記録する。それだけ盛り上がれば、企業も無視できないというわけである。
早速、それを開催するHIKKYから「渋谷と原宿で、イベントをやる」。そう案内され、やってきたが、さすが渋谷、原宿。どちらの街も満員電車かと思うほど、人が多い。その中で一際目立つ、ド派手な「バーチャルマーケット」の看板が、トレンド発信地と混ざって、なんともカオス。
2.カートゲームで親しまれる小売店のベルク
ここはヒンメルブラウ原宿。「え?スーパーマーケットなんすか?」。HIKKYの松澤さんに聞かされ、驚きの声をあげる僕。そこに出展していた「ベルク」の話である。「ベルク」は埼玉を中心に展開してるスーパーで、リアルは今回が初めて。
そこへの経緯が面白くて、すでにVketでは四回連続で出展。実は、「ベルク」はユーザーにとっては“カートゲーム”(シャレではない)ができるお店として、愛されている。VR空間であることの自由度を活かして、ショッピングカートに乗って、ゲームを楽しめるようにしたわけだ。
その背景があるから、逆にベルクはそのショッピングカートを全面に出して、関心を集めた。VRで遊んでいたら「これってベルクって店なんだ?」という具合に関心を持ち、ユーザーは「今度、見かけたら、寄ってみよう」という思考回路になる。逆転の発想。VRで何かを流行らせて、それをリアルのエンタメ要素に繋げている。
つまり、僕らが連想する広告などの認知拡大とは全く違った形の販売促進になっている。これが実に面白い。
VRを広げることで自分の個性を世界に発信
1.HIKKYもその裾野を広げる
バーチャルマーケットはそういう価値の集積場所である。HIKKYがそれをやる理由は、逆に言えば、一人一人がVR上に自分の部屋を持って、自分の可能性を広げて欲しいということでもある。
だから、この場でもHIKKYは「My Vket(マイブーケット)」を紹介。スマホなどで簡単にアクセスできるメタバースの部屋と、自分のアバターを作れるツールで、誰でも作成可能。
その部屋もカスタマイズ可能。JR九州なども部屋を飾るモチーフを提供していて、ハッとした。つまり、こういうツールがあることで、自分の趣味嗜好を、部屋で可視化できるのである。交流を図るにしても、自分が何に興味を持っているのか、それを部屋自体で表現できれば、友達が生まれやすい。
企業はそこでモチーフを提供する。そうすることで、認知を高めることができるだけでなく、ファンを構成しやすくなる。HIKKYとしては、カナヘイのピスケとうさぎなど、IP系との連携も強めることにもなる。カスタマイズの度合いは、以前にもまして、個性的になっているのだ。そして、人は今より個性的に人生を謳歌する。
2.VRで知り、VRで生息し、時にリアルで交流を深める
こうやって裾野が広がっているから、冒頭のような会話が生まれる。アバターを見て誰かを認識し、その瞬間、リアルの友達のように会話を深める。クリエイターたちの物販が行われていた、ワーフ原宿という拠点でそれを痛感した。
これまでのコミュニケーションと全く違うのだ。何気なく、物販の販売主の女子に聞くと、その販売のお手伝いをしているだけで、作家本人ではない。(だから、名乗らない(笑))。その女子は作家とどこで知り合ったのかというと、それもバーチャルの中で、という話なのだ。
その女子曰く、リアルでも友達はいるが、バーチャル上の方が多いという。リアルの友達は、バーチャルでそのような友達がいることも知らないという。つまり、二面性を持って、使い分けて、生きているということになる。「こんな風にVR上で、パワーポイントを使って、会議もするんですよ」と彼女。
気づきだったのは、僕らは、決められたリアルの枠組みの中で、人と出会い、それを友達と言っている。でも、本当のつながりは、そればかりではない。人種も、住んでいる場所も、性別も関係なく、ただ、興味関心で繋がる人の出会いと繋がりもある。むしろそちらの方がリアルよりも深くなったりすることもありえるだろう。
真実を追ってバーチャルの世界へ
1.ボーダレスが広がる「クラブコスメチック」
出来立ての施設「Shibuya Sakura Stage」では、プロゲーミングチーム「Crazy Raccoon」に所属する「ふらんしすこ」さんが登場。出ていたのが「クラブコスメチック」のステージというのが実にイマドキ。
どういうことかというと、彼は化粧歴が5年ほどだという。
「クラブコスメチック」も彼を呼ぶのは、男性用コスメの「t8k(テイトク)」などを展開しているから。ふらんしすこさんも理解があるから、集まる女性の来場者と共に、化粧品に関する専門的な知識がかわされるわけだ。
一方で、巨大なモニターを通してVR上の「クラブコスメチック」へアクセス。
そこでも、同社の化粧品が、展示、販売されている。だから、まだVR世界に馴染みのない人に、ふらんしすこさんらと共に、VR世界と通して、化粧の理解を促す。それを100年を超える老舗がやっているという現実。VR未体験の人にも化粧をきっかけに、新しいふれあいの仕方を提示するわけだ。彼らは、老舗でありながら交流の仕方に先進的価値を取り入れ、より深くお客様と結びつく関係性は何かを考える。
2.おきゅたんbot他、アバターが変貌させる人間の価値
皆、手探りながら、リアルとネットを超えた人の繋がりの真実を模索しているのだ。
ステージを終えて歩いているとVtuber「おきゅたんbot」さんが寄ってきた。といっても写真の通り、ロボットのよう。でもモニターを覗くと微笑む彼女がいて、僕の声は届くようで、しっかりと返事をしてくれる。
どうやら「おきゅたんbot」さんはメタバースの世界では有名人だとか。その証拠に、彼女が監督、脚本、主演をつとめる映画が、12月にユナイテッド・シネマ アクアシティお台場で公開される。それを“彼女自身が”教えてくれるのも衝撃。
横に付き添っていた企業の三五屋のスタッフ曰く、こういう人格を持ったアバターがもっと出てくることで、社会が変わる。彼女のような存在をプッシュする理由は、いずれ一人一人が、アバターを持つようになるからだという。
すると、その中の人格が大事になっていく。それが大事なのは、極論、人々の遊び方、仕事のあり方すら変わるからだ。バーチャルであれば、その中身の人の長所が、場所や人種、性別の垣根を超えて、活かされる。これは、先ほど、My VketでVRの裾野を広げたいとしていたHIKKYの動きと実は一致する。バーチャルを通して、人の価値を尊ぶ時代へ。
3.リアルとVRとそのまた先の真実
考えるに、想像を超えた全く違う世界。そして、サントリーのような大手企業が、アルコールフリーのビールを配り、その賑わいに花を添える。・・・すごい、そして、驚き続けて疲れた(笑)。それでも、配る女性の笑顔に疲れを癒されるのは、リアルの醍醐味。リアルとVRとが混在して、ビールを飲みながら、感慨に耽る。
最後に、僕は「SHIBUYA109」に設置された大きなモニターを眺めて、そのリアルとネットを超えた真実の姿を見た。その場でリアルの人が手を振れば、それがVR上でアバターとなり、手を振る。でも、そのVR上で彼女を見つめる群衆は、皆、この場所にいない。
その群衆に混じっている一人は、先ほどのVket会場である「Shibuya Sakura Stage」にあるモニターの前にいる人である。そして残りの人は、他の場所で操作をしている。リアルであり、バーチャルであり、垣根を全てとっぱらったその光景もまた、真実の姿である。
バーチャルの世界は今以上に拡張していくほどに、人はつながり、一人一人の個性が尊重されて、もっと、深掘りされていくのだろう。向かう先には、より真実味を増した世の中が待っているのかもしれない。
今日はこの辺で。