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“eコマース”の躍進と“実店舗”の変貌〜小売りがデジタル武装する理由〜

 小売の実態を知る上で、大事なのは、なぜeコマースが躍進したのかをちゃんと考えてみること。それを考えることで、未来が見えてこないだろうかと思ってペンを取った。ベテランの方は「知っているよ」という情報もあるかもしれない。だが、実は改まって俯瞰してみると見えてくることがあるはず。過去から今は繋がっていて、そこには人の生活がある。だから因果があって、その因果にこそ、未来につながるヒントがあるはず。今思えば、これって必然だったのかもと思えるようなことが多いから。

経済産業省発表による『BtoC EC 市場規模

 改めて、何かものを買うといえば 実店舗 (リアル店舗)だった。でもそれも20年で激変して、eコマースの状況を知らずして未来は語れなくなったのである。そもそも、この「eコマース」というのは「Electronic Commerce」のこと。訳せば電子商取引、要はインターネットを通して売り買いすることを意味している。

 eコマースを考える上で、欠かせないのが、BtoC ECの動向。BtoCとは、Business to Consumerを言う。つまり、企業から一般消費者の人に対して売るってことだ。この市場は、2022年までで、基本的には右肩上がり。遡ること、2013年は11.1兆円だったのに、2022年は22.7兆円(経済産業省調べ)である。

経済産業省ec市場規模2020年データ(2023年公表)

 この規模感がどれだけのものかを考える上で、比較するとわかりやすいのが、コンビニエンスストア業界。コンビニって結構、日本国内に多く存在していて、馴染みがあるけど、規模感はいかほどか。

小売を牽引したコンビニ並みの市場規模

日本フランチャイズチェーン協会調べでは、コンビニエンスストア既存店(出店から一年以上経った店)の2023年年間売上高は 11兆 1,864 億円(前年比+4.3%)。つまり、eコマースはそこにダブルスコアをつけているということになる。ちなみにコンビニは、2019年に初めて10兆円を超えている。

関連記事:ネット通販 の 市場規模 拡大に限界!?コロナ禍 経済産業省 EC 市場調査 を読み解く

 もう少しわかりやすく言えば、このうちのBtoC ECの中から「物販系」を切り分けたところでは、こんな感じ。デジタルサービスなどを除いて、本当に商品の行き来に着目したデータでは、13兆9997億円。ほぼ、eコマースはコンビニ並みのインフラなのだとわかる。

「ネットの普及率」が急激に躍進

  そこまで上り詰めた理由は、どこにあるのか。それを支えているのは、ネットの普及率。そもそも、2020年における個人の年齢階層別インターネット利用率が、13歳~59歳までの各階層で9割を超えている状況だ。しかも驚きなのは、所属世帯年収別インターネット利用率は、400万円以上の各階層で8割を超えていること。

 一般的な家庭でもほぼネットに触れている可能性が高い。それを後押ししているのは何かというと、スマートフォンの存在なわけだ。

(出典)総務省「通信利用動向調査」

 改めて、これもデータで見て見るとこの通り。

 実に7割の人が持っている状況。遡れば、ネットはMicrosoftのOS「Windows95」の登場を機に、世の中にパソコンが浸透したことに伴う。楽天が、仮想商店街(オンラインモール)を開設したのは、1997年だ。当時は、まだISDNなどの固定の電話回線などを使って、インターネット通信を行っていて、この上にネットの文化はあったわけだ。

スマートフォンの普及が社会を変える

 それが2007年のiPhoneの登場によって、ネットといえば、その主戦場はスマホに変わったここがみそ。というのも、それまでは一家に一台というのがパソコンだった。ここで革命的だったのは、スマホが一人一台だということ。

 それがeコマースを浸透させた。スマホの普及は極めて、親和性が高いことは、2022年時点でスマホ経由の売上を見ればわかる。もはや50%を超えている。

 思うに、eコマースは個人単位で商品を買えるようになったのが大きい。買い物って基本、自分で街に出掛けて、購入する。今までは家庭のPCでやっていたものが、それを家にいながら、個人単位でできるようになっていくわけだから、買い物の行為がネットに置き換わるのはいうまでもない。

 SNSの利用など、個人単位で興味関心が生まれ、そして、物事に関心を抱いた後で、ここに商品を購入していく。PCでの購入は依然高いものの、スマホ利用が増えたのはこの部分だろう。リアルのショッピングに匹敵する存在であり、新しいマーケットが生まれた。

eコマースと実店舗の違い

 消費者の生活の変化に促されるようにして、企業も変革を余儀なくされた。ただ、一部の企業では腰が重かった。最大の理由は、お金の使い道が異なるから。例えば、リアルは固定費にお金をかけている。その最たるものは人件費で、売上に対して、15%〜20%を占めるとも言われる。

 それに対して、eコマースは、実は固定費は3%程度に止まる。その代わり決済手数料やモールにかかる手数料、広告やアフィリエイトなどの変動費に9%程度かかると言われているわけだ。

 ビジネスのあり方が違うので、そこにリソースを割けなかった。しかも、リアルのお店がもう1店舗増える感覚でやっていた。だから、本来のネットの価値を活かしきれない。図らずもそれに、コロナ禍で、多くが気づ木、初め変わり始めわけである。

 どういうことか。要するに、ネットが家庭から個人に浸透した。そのことによって、データの収集が人をベースにしたものとなったからだ。ゆえに、リアルはデジタルを軸にすべきであると。個人と向き合い、リアルとネットの垣根を超えて、顧客満足度の高いサービスを提供すべし。そう考えるに至り、すべての企業にとってデジタルが軸になったというわけである。

eコマースと実店舗が融合しつつある

 ただ、本質的にはやろうとしていることは同じ。来るお客様に対して、満足度を高める為の接客、内装などを今までは「人」が自分で動いてやっていた。それをシステムに置き換えている。だから、コスト面で見ると全く異なるものだが、これまで使ったことのない部分への予算配分に理解を示すか。経営者がそれを理解することが大事なのだ。

 さて、小売はデジタルを軸にして、リアルとネットの双方の価値を最大化させていく。それが大事になったことを象徴するのが、デロイトトーマツという会社が出している「世界の小売業ランキング」である。この調査データは小売企業から売上高上位250社を選定し分析したもの。1位から3位の企業はeコマースと実店舗を調和させたところに、成長を見出している。2020年から概ね、この順位で固定されている。

1位ウォルマートはリアルでありながらデジタル企業

 トップ10企業はデジタル機能を充実させている。物販系BtoCECの場合、どうしても商品が移動するから、Amazon然り、物流が肝となる。 例えば、1位の「Walmart(ウォルマート)」における「グローサリーピックアップ」はリアル店の強みをデジタルで最大化させた好例である。

参考:飛躍は“オムニチャネル”にあり ウォルマート に学ぶ リアルとネットの融合

 つまり、eコマースで購入した商品を、車から降りなくても受け取れるようにした。実店舗をもつことの強みをネットの利便性と掛け合わせて、独自性を出したわけだ。ここから定額会員を作るなどして、よりお客様を特定。付加価値を上げる工夫をしており、それは、2位のAmazon.comもそう。また、2023年から7位に中国のJD.comが入り、「デジタルを活かして小売を制す」は常識となった。

 要するに、デジタルを皆が持つということは、個人単位でデータを集められるということ。すると、リアルとネット、それぞれが持つリソースを使い、膨大なビッグデータから、個々のお客様に、利便性を高いサービスを提供できるようになる。だから、あとは、そこで生産性を高める為の、シンプルな事業形態を作って、そこで平準化を図り、人的リソースを投入する。そうすれば、一気に拡大を狙えるというわけである。

参考:Amazon を世界企業に押し上げた「 メカニズム 」

顧客に合わせてチャネルがあり、垣根を考えない

 ただ、時代とは面白いもので、変わっていく。個人単位でデジタルが持てるようになったことで、SNSなど、小さな価値観で共感し合うもの同士がつながり合うことができるようになった。それゆえ、そこを起点に商圏が形成され、売り買いが成立する動きが出てきたのである。

 これを後押しするのが自社ECを作り出すもので、Shopifyなどがそれにあたる。

 ECがなぜここまで浸透し、リアル業態もデジタル化を急ぐようになったのか。それは消費者の動きと照らし合わせると一目瞭然だろう。改めて、総務省の情報通信白書の下記の図を見ると、しっくりくるのではないか。

 現代で言えば、消費者の感覚では、日常がリアルとネットとで一つである。だから、その一つになった世界で、お客様との関係をいかに深掘りしていけるか。そこに集約されるはず。

消費者の気持ちに変容なし、人との接点に変容あり

 だから、右端にある通り、生成AIやメタバースという文脈が出てくるわけだ。現代で言えば、消費者の感覚では、日常がリアルとネットとで一つなので、その一つになった世界で、お客様との関係をいかに深掘りしていけるか。そこに集約されるはず。そこに機能するための手段である。

 ここで大事なのは変わることと変わらぬことの認識。

 一つ例を挙げよう。30年前は「オタク」と言われた文化は、今や「推し活」となった。理由は、偏愛が個人で完結せずに、SNSなどを通して複数の人で共感できるようになったから。繰り返すが、人の気持ちは変わっていないけど、手段が変わって、マーケットが生まれた。推し活仲間で行動を共にするのは、SNSを背景にしたものだ。

 記事に記してきた過去の事象を読めば、そこに因果があって、その因果関係からどう企業が躍進したのかを本質的に読み解ける。人の気持ちをどう触発できるかであり、人の心理の活かし方である。それさえ、抑えて過去に学べば、どの手段が台頭しようとも、柔軟に未来の予測できるだろうし、備えもできるだろう。

 さあ、これから、読んでいる皆さんは、どう小売に挑み、また、小売を利用するだろうか。

関連記事:世界の小売業ランキング 2021 Amazonが世界第2位に ネットシフト顕著

関連記事:小売 世界 ランキング 2020 売り場に轟く技術革新の波

 

 

 

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