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YOASOBI と 少年ジャンプ+ 新しい 才能発掘の仕方

 「デジタルで存在している人は、紙は存在しないものとされている」。集英社 少年ジャンプ+編集長 細野修平さんからそんな言葉が飛び出した。だからこそ、才能の発掘には工夫が必要になった。一方で、世の中に溢れる才能がデジタルで身近なものになりつつある。だからこそ、彼らは紙にこだわらず、新しい視点でそれを取りに行く。先日、ヤプリのイベント「UPDATE」で鼎談での内容だ。

YOASOBI レコード会社らしからぬデジタルの活用でヒット

1.YOASOBIは小説投稿サイトが起点

 語られた中身は「少年ジャンプ+」だけではない。ソニー・ミュージックエンタテインメント REDエージェント部 屋代陽平さん、山本秀哉さんも登壇して、「YOASOBI」 に関しても言及された。

 つまり、そこでの鼎談に共通するのは、こういうことだ。アナログで世間を牽引してきた企業も、デジタルで新たなきっかけづくりに躍起であるということ。僕はなぜ、そこで躍起になるのかその理由が大事だと思った。

 まず、屋代さんは小説投稿サイト「monogatary.com」を立ち上げた張本人。同サイトの企画の一環でYOASOBIプロジェクトを発足させたのだ。山本さんは2019年から「YOASOBI」プロジェクトの立ち上げに参画して、今もそれを盛り上げている。

2.出会いはインスタの弾き語り

 最初に、小説投稿サイト「monogatary.com」で2019年、「小説を音楽にする」というプロジェクトがスタート。そこでプロデューサーとなったのがAyaseさん。彼はInstagramを通じてikuraさんが弾き語りする動画を見つけて、ボーカリストに彼女を選ぶ。これが「YOASOBI」の結成となったわけだ。

 一方、この小説投稿サイトでは、星野舞夜さんによる短編小説『タナトスの誘惑』という作品があった。それを原作として手がけた楽曲が『夜に駆ける』なのである。

 それが音楽配信されることで、一気に広がっていくことになる。2020年には紅白歌合戦にも出演するほどの国民的な大ヒットを掴んだ。まさに、この一連の動きは、音楽がデジタルに歩み寄ってそのコンテンツの価値を最大化しようとした先にあったのだ。

3.デジタルでユーザーと熱狂を生み出して音楽に繋げる

 ところで、ソニー・ミュージックエンタテインメントというレコード会社が、小説投稿サイトを手掛けるあたりがまず面白いではないか。屋代さんも「小説投稿サイトといっても、出版社には追いつけるはずはない」と当時を振り返る。

 だから彼らもまた、そこに工夫を加えた。敢えて、コミュニティを作って熱量を生む事に注力して、従来の小説とは、別の表現方法を探し求めたのだ。それが結果、小説を起点とした音楽の配信へと繋がり話題を集めるという事になったのである。

 要は、レコード会社がただCDを売る為にプロモーションをするのではいけない時代になったということ。その手法は過去になりつつある。デジタル時代の到来を迎える中で、何を通してユーザーと接点を持ちコンテンツを生み出すか。ここがポイントだった。だから、小説なのだ。今に相応しい提案をして、熱狂を生み出すかが、勝負だった。そこに尽きるのだと思う。

 縦割りの発想ではヒットを掴むのが難しくなっている。逆に言えば、型破りで面白い世界である。

少年ジャンプ+ で週刊少年ジャンプとは違う切り口で才能発掘

1.デジタルの存在感は皆無だった

 さて一方、集英社。週刊少年ジャンプの存在感は圧倒的である。だが、10年ほど前は「デジタルにおいてジャンプはほぼ存在感はなかった」。そう細野さんは振り返っている。

 アプリの「少年ジャンプ+」はそんな中で立ち上がり、遡る事、2014年。新しい才能を獲得する文脈でも、また今を生きるデジタルユーザーを獲得する意味合いでも必要だった。そう細野さんは語る。

 改めて「少年ジャンプ+」のアプリではどんな付加価値があるのか。

2.才能の発掘面でデジタルを活用した

 とはいえ、「週刊少年ジャンプ」を定期購読できて当然。「少年ジャンプ+」独自の要素が必要。それで言うと無料で読める漫画が多数用意したというのがデジタルだけの新機軸だ。

 そこでコメントと閲覧数を公開。曜日ごと漫画家が競い合う形をとることで、順位が変動するようにしていったのだ。ここにも週刊少年ジャンプのイズムがある。同誌が読者へのアンケートを取ることで、その結果を、連載の期間に反映させているのは、有名な話。

 それさながらに、彼らは彼らなりに曜日ごと切磋琢磨する方法を取り入れたのだ。時代を踏まえた才能ある漫画家を発掘することに繋がる。ちなみに、その手法で生まれたのが「SPY×FAMILY」。アプリ起点で「週刊少年ジャンプ」ではないのに、(紙の)単行本で7巻1000万部を超えている。

新旧問わず才能をユーザーと引き合わせられるデジタル

1.デジタルで才能とファンと両方の距離が近づく

 これら両社の事例に共通して注目すべきことは、何だろう。

 ユーザーも、優れた才能を持つ人も実は一般の中にいる。上記企業はその両者を上手に使い分けて、才能の発掘に繋げた。そこで大事なのは、デジタルリソースである。

 それを味方につけることで、才能のある人との接点を持つ事ができて、仕組み次第では一般ユーザーのリソースを通して、その才能のある人の力を最大化できる。

 どちらが欠けてもなしえない。彼らはその仕組みを作って、アーティストや作家、漫画家にチャンスが巡ってきやすくなるようにしたのだ。

 集英社も、ソニー・ミュージックも、一大企業である。だから、今までのやり方でも十分、才能のある人との接点が作れただろう。でも、もしも、デジタルを味方につけなければ、YOASOBIも、スパイファミリーもなかったのである。多くの才能を漏らさず、従来のやり方にとらわれることなく、開花させた。この功績は大きい。

2.従来ではえられなかった手法で才能が開花する

 そして、デジタルは才能の掘り起こしもできる。西野カナさんがこの「monogatary.com」で作品を発表して、とある現象が起こった。それは、彼女の旧譜にも関心が集まったというのだ。従来であれば新譜のみがアナウンスされ、街中のレコード屋にはそれらが優先して陳列されていた。でも、今は小説投稿サイトをきっかけに旧譜にアクセスできる。

 サブスクリプションとの合わせ技である。旧譜を知らない世代が、そこで旧譜を知り、新譜のような新鮮味を持って、スマホで聴くのである。どこに接点を設けるかで、ヒットの生まれる場所が変わる。今の時代はデジタルシフトによって“引き合わせ”が加速した。その引き合わせをいかにして、工夫するかなのだ。

 優れたものは時代を超えて優れている。新しいものも、古いものも同時に並列に価値を持って受け止められる時代になった。だからこそ、それが大事。

 入口さえ工夫すれば、かつても、今も、未来もそのコンテンツは開花する。だからこそ、企業においてはデジタルを味方につけて、才能を見逃さず、それらを「引き合わせる」きっかけ作りが試されている。

 今日はこの辺で。

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