教えて! 自社EC 何がスゴイの?-BASE と Shopify 相応しいのは-
色々な企業がネット通販を利用し始める中でよく聞かれるのは「“自社EC”(独自ドメイン/本店サイト)とは何か」「“BASE”と“Shopify” 何が違うの?」と言った事である。案外、モールをやっている人でも成功する人は少なかったりするし脚光を浴びている理由も案外分からないものだ。そこで初心者でも分かるように、フラクタ代表取締役 河野貴伸さんに基礎的知識を聞いてみることにした。
フラクタは企業のブランド構築をこれまでも多数手がけており、そこから派生して河野さんはShopifyのエバンジェリストも務める。ただ、とはいえ彼は、それを売り込むわけではなくそこへの深い理解を通して、各々の企業のオリジナリティを尊重して然るべき方向性を指し示す、正直な人なので、聞く相手として僕は適任だと考えた。
BASE Shopify 以前に 自社EC を理解する
「自社でECをやろう」と言っても、大抵が形から入るので「BASE、Shopifyどっちがいいのだろう」みたいな議論になりがちだが、「待て!待て!」その前に考えることがある。そもそも「自社EC 」が「楽天市場」「Amazon」などのショッピングモールと何が違うのかを根本的に理解するところから、始めないといけないと思う。
それは初心者は勿論、モールに出店している人も意識すべき事。その証拠にモールをやっているのに 自社EC がうまくいかない人は少なくない。似ているようで別物なのだ。
どういうことか。
まず、河野さんは、自社の通販サイトというのは「砂漠の中に店を立てるようなもの」であり、それに対して楽天市場やAmazonは「街の中にお店を作ること」と説明していて、それ自体は、想像に難くない。ただ河野さんは「モールはそうやって集客してくれている」現実をより深く受け止めるべきだと強調するのである。
もう少し具体的に話を進めよう。モールというのは新宿や渋谷のような存在と説明する。新宿?渋谷?つまり、そこには“買い物慣れしている人”達が存在していることが大事。だから
“買い物慣れしている人”たちがわかりやすい要素を抑えることで、売上を立てやすくなる。例えば「ポイント還元」「大特価」などの“セール感”のようなものもまさにその一つであろう。
そこで話を戻して 自社EC ではどうだろう。砂漠の中にあって、歩いてきた旅人に、そのようなビラを配ったとしたら。大抵が「え?」って躊躇してしまうのが自然だろう。
何も大特価を売りにしてアピールしているお店はないだろうが、はて?なんて伝えようかと悩むのは目に見えていて、要はそれはやり方が根本的に異なるわけである。だから、自社ECではその表現を少し変えなければならない。では、どういう表現であればその砂漠の地で振り向いてもらえるようになるのだろうか。
始まりは信頼から
まず第一に「嘘はないように」ということである。極論、個として信頼性のある情報を発信していく。モールで言えば、少なからず街中で比較されながら存在しているので「どれだけ他より効果が高いのか」というような視点で勝負しがちになる。ここが違う。
繰り返すが「本当に自分たちの価値はどこにある」ということを「嘘偽りなく真摯に伝えていく」ことが大事になるわけである。そういう「表現の仕方」というのが肝であり、そこを鍛えているかどうか。
ある意味モールは集客してくれているという現実があって、そのおかげでそこまで本質的なことを言わなくても戦える強みがあるわけである。ここが自社ECとモールとで「街中か砂漠か」の決定的な違いであろう。
すると河野さんも話しているが“顧客理解”が大事な要素となる。「お客様が何を求めているのか」「どんな価値を求めているのか」を突き詰めて考えなければならず、そこに自分のお店はどう答えていけるのか、先程の文脈で考えるわけである。
顧客がいないのに顧客理解?
しかしそこで気になるのは何も始めていなければお客様もおらず、自分たちの価値もわからない。その中でどう“顧客理解”をすればいいのだろう。実はここが河野さんの話で一番響いた部分でこう答えたのである。
「身の回りの人が理解できるかどうかが第一ステージ」。
「家族でもいい、恋人でもいい、友達でもいい」と。多くはそれを「身近な人だから」と言って商売の対象から外すのだが、本当に身近な人に対してでも「言語として自分の考えている価値を伝えられるか」という部分が問われているのである。
その理由にD2Cと言われ、自社ECでブレイクしている企業の多くは実は「自己満足」と言われるような所から始まっている。例えば、自分がこういうものが好き。そういうものを自分向けに作ってしまって、自分の価値観と合う友達に聞いたら、皆がいいと言ってくれたと。その友達の友達も「いいよね」と言って広がっていく。
そのサイクルでやっていると「皆がこの商品がいいよ」という部分で関係性が築かれ、河野さんはその様子を“チェーンしていく”と表現するわけである。
かつ今の時代ではその“チェーンしていく”事が広がりやすい。理由は昔と違いそれを可視化しやすくなったからだと分析する。例えば「このめっちゃ酸っぱいコーヒーが好きなんだよね」といってお洒落な袋に入っているそれを紹介したとする。
それが今まででは友達が「いいね」と言ってくれたとしてもその友達がた別の友達に対して「このコーヒーいいんだよね」と言っている様子は可視化できなかった。しかし今はSNSがあることによってその一つ一つが可視化されていくので大きな動きとなるわけだ。
どれだけ“チェーンしている”のかを客観的に見ると、改めて「クチコミにはものすごいパワー」があって、かつ、その口コミの大きな波が発生して伝達するためには、“刺さる言葉”や“響くクリエイティブ”などが大事だということがわかってきた。ここが自社ECの急成長と密接に絡んでいるわけである。
伝わる言葉の重要性
各々が持つ自分の大事なことを身近な人にも伝わる言葉で伝えること、ただそれだけの事が考えもよらない結果を生む理由はここにある。ここまで話せば街中で商品を販売する先程のモールの視点とは明らかに違う。
これを聞いて思うのは、ここ5〜6年で小売の概念が変わった事がわかる。今までは地域の垣根を越えられなかったお店が、集客してくれるモールで勝負を挑めるようになったわけで、それが最初の革命。
次にもっと小さな身近な仲間内での共感ですら価値となって、時に世界を超えて商品を販売できるようになったという第二の革命に来ている。だって、150センチくらいの女の子に対して商品を発信する「COHINA」はその典型だろう。誰でもそのチャンスは掴める時代になったと言って良い。
売ろうとするのではなく伝える事だなと。以前「フィースト」というブランドを手がけるハヤカワ五味ちゃんと話していた時に『通販に大事なのは「読解力なんですよね」と話してくれた』ことが忘れられない。でも、ここまで話してきたように、特別な才能ではなく、うちなる想いを伝えたいという熱意に裏付けられている。
“BASE”“Shopify” どっち? 自社EC
自社ECサイトで売る「ヒント」は見えてきた。その上で僕はよく聞かれる「BASEとShopifyのどっちがいい?」という議論を持ち出した。すると、そこに対しての河野さんの答えはこの一言である。
「自分の商売をどこまで大きくしたいか」。
例えば、月の売上が100万円以下で自分の作った作品を売って、それができれば幸せな暮らしができるということであれば「BASEがベストです」と河野さんは断言した。理由は固定費用がかからないし非常に簡単に作れるし、日本語でしっかりサポートしてくれるので長くやっていける筈だからと続けた。
ただBASEの最大の弱点は取引手数料がかかるという点で3%かかる。100万円を超えると3万円の費用がかかっているのと同じになるわけで、一方Shopifyの一番上位プランは299ドルで(5/26のレートで言えば)3万1000円くらい。100万円以上になってきたら、Shopifyの方が安くなるというわけなのである。
その証拠にBASEは広告を使って売り上げをガンガン伸ばしていくというイメージがない。まさにその個人商店としての可能性を大事にしているように見える。ここに尽きる。
だからどっちが良いかは個々の描く未来で異なる。
ただ、余談であるが、なぜBASEやShopifyが比較的、注目されやすいのかにも言及したい。難しい議論になって恐縮だが、その理由はそのアーキテクチャー(基本構造)に起因する。河野さんさん曰く「コマースのシステムというのは元来、トランザクション(一つの行動に対して複数の処理をすることで成り立っている)ベースでできている」。
例えば、「商品を一個、受注する」行動一つにしても、お客様がカートに入れて購入をして、そこで決済を取り、在庫を落として、決済完了メールを送るという複数の処理が行われているのである。
この時、決済完了して、すぐにキャンセルした場合はどうなるだろう。それらの動作を全て巻き戻さなければならなく、具体的には在庫を元に戻し、受注データを元に戻し、決済を取り消すわけでこのロールバックこそが技術的には相当手間のかかる作業なのだそうだ。
これがどのECのシステムでも取り入れられているのだけど、これがある故に、カートによっては外部連携などをしづらくしてしまうのだそうだ。この点をBASEやShopifyのような新世代ECのシステムは考慮していて、トランザクションの個々の処理が独立した仕様にすることで他が介入しやすい状況を作っている。
Shopifyが先日、Shopify POSを発表したのは店頭側の注文をEC側に入れられるようにして、介入しやすくしているから割とスムーズに実現できるのである。つまり、何をするにも柔軟性があって、新時代の売り方に対して適応しやすい側面を持つから、結果、売り方の変化に合わせて彼らが脚光を浴びるわけである。
敢えてなぜこんな小難しい話をしたのかというと、もはやデジタル企業を中心に、売ることの多様化を模索していて「売る」ことを目的にした「売る」はもはや旧時代の話になると思うからだ。リアル、ネット、ツールなどあらゆる垣根をこえて、小売を通して、力強いメッセージを発信する事が可能な時代となる。
コロナ禍で苦しむお店はまずは自分たちを理解し、“刺さる言葉”や“響くクリエイティブ”などを研究して、真に自分の存在を世に知らしめようではないか。何気ない「大好き」という気持ちすらも大事にしようではないか。共感が生まれるほどの情熱を持てば、一個人でも大きな革命を起こせる土台もある。それはまさにこの 自社EC への理解から始まるのである。
今日はこの辺で。
なお、この話題は6月10日木曜日22時のclubhouse「ゆるECナイト」とも連動させて、河野さんと深掘りトークをして、新しい切り口で情報提供をする取り組みをしてみようと思います。お聞きになりたい方はそちらでもお会いしましょう。