なぜSK-IIは楽天市場で評価されたのか|SHOP OF THE YEARに見るブランドの論理

Rakuten SHOP OF THE YEARの会場で、SK-IIの話を聞いていて、静かな納得感が残った。それは「売れた理由」がわかった、というよりも、「評価された理由が腑に落ちた」という感覚に近い。楽天市場というモールに出ること。高価格帯・プレステージブランドであること。リアルでは当たり前の美容部員が存在しないこと。一見すると、難しさの方が先に立つ条件ばかりだ。だからこそ、なぜ評価されたのかを、丁寧に見ていく必要がある。
それでもSK-IIは、感覚や勢いではなく、極めて論理的にこの場所と向き合ってきた。その論理は、「EC攻略法」ではない。ブランドとは何か、顧客接点とは何かを、あらためて問い直した結果だった。
楽天に出た理由は「販路」ではなく「顧客の現在地」だった
SK-IIほどのブランドであれば、自社ECや百貨店を軸にした展開だけでも成立する。
それでも楽天市場を重視した背景には、非常に冷静な視点があった。
それは、「売り場を増やす」という発想ではない。
本当に使ってほしいお客様が、いまどこにいるのかという問いだ。
消費者の行動は、確実に変わっている。百貨店に行くことと、ECで購入することは、もはや対立関係ではない。生活の中で自然に行き来する、ひとつの連続した動線になっている。
楽天市場は、その動線の中で「忘れられない場所」になっている。だからこそ、SK-IIにとっては、避けて通る場所ではなく、きちんと向き合うべき起点だった。
出店する時代から、向き合う時代へ一見すると、難しさの方が先に立つ条件ばかりだ。
従来の考え方では、楽天市場への出店とは、全国の商店が販路を広げるための選択肢のひとつだった。
「出店すること」そのものに意味があり、どれだけ多くの店が並ぶかが価値とされてきた。
だが、昨今の楽天市場は、そうした発想を超えた存在になりつつある。
すでに多くのユーザーが集まり、日常的にショッピングが行われる“拠点”として機能している。
そこに人が集まるということは、単なる売り場ではなく、明確なマーケットが成立しているということでもある。
だからこそ問われるのは、「出店するかどうか」ではない。
そのマーケットに対して、自らのブランドがどう入っていけるのか、どんな価値を提供できるのか、という視点だ。
SK-IIの取り組みは、その変化を象徴しているようにも見える。楽天側が、高価格帯ブランドやプレステージブランドに対しても、単に“並べる場”ではなく、“伝えるための道筋”を示し始めた。その変化の上に、SK-IIの設計が重なった結果だった。
モールに入ることで、ブランドは薄まらなかったのか
高級ブランドがモールに出るとき、必ず浮かぶ不安がある。「楽天の色に染まってしまわないか」という問いだ。
この点について、SK-IIの考え方は明確だった。重要なのは“どこに出るか”ではなく、“どう設計するか”だ。特に大きかったのは、楽天側の理解と協力体制だった。
ブランドとして「やりたくないこと」「譲れないこと」を丁寧に共有し、その前提を壊さずに表現を組み立てていく。
モールに合わせてブランドを変えるのではない。ブランドの思想を、モールの文脈に翻訳する。その姿勢が一貫していたからこそ、ブランディングは損なわれなかった。
楽天のレビューとデータは、商品開発にも戻っていく
SK-IIは、単に楽天を「売る場所」として使っていない。顧客の声が集まる場所として、極めて重視している。
レビュー、購買データ、行動履歴。それらはマーケティング施策のためだけではなく、「本当に必要とされている商品は何か」を考える材料になる。
P&Gの思想として語られた「消費者こそが本当の上司である」という考え方。それは、このECの現場でも生きている。
ECで得られた声が、商品やコミュニケーションに反映され、また次の顧客体験へとつながっていく。楽天市場は、その循環が起きやすい場所だった。
美容部員がいないECで、どうやって一歩を踏み出してもらうか
リアル店舗とECの決定的な違いは、美容部員がいないことだ。
高価格帯の商品を、誰にも相談せずに選ぶ。その心理的ハードルを、SK-IIは最初から正面に据えていた。リアル店舗では、美容部員に声をかけられることで安心が生まれる。一方で同時に、「買わなければならない空気」も生まれる。ECには、その圧がない。
誰にも話しかけられず、自分のペースで情報に触れ、納得した瞬間に決断できる。
SK-IIは、このEC特有の環境を弱点とは捉えなかった。むしろ、「自分で選びたい人」にとっては、最適な状態だと捉え直したのである。
そこで活用されたのが、楽天のShowroomの仕組み。これは、楽天が用意している、ブランド向けのプロモーション施策のひとつだ。楽天市場の中に、ブランドの考え方や商品の背景を伝える専用ページを設け、ただ商品を並べるのではなく、ユーザーとの接点をつくるための仕組みである。
つまり、一度商品ページに触れた人や、関心を示した人に対して、実際の使用者の声や、商品の意味を丁寧に届けていく。それは、背中を押すための演出ではない。迷いを減らすための情報提供だ。SK-IIがECで行っていたのは、まさにそのための設計だった。
コロナ禍が突きつけた、ECに本気で向き合う覚悟
思うに、SK-IIが最初にSHOP OF THE YEARを受賞したのは、コロナ禍だった。百貨店が閉まり、リアルの接点が失われた時期だ。
当時は、生き残るための選択でもあった。だが、その後の成長と停滞を経て、彼らは再び基本に立ち戻る。
このチャネルで、このブランドを買う人は誰なのか。どんなカテゴリーと親和性があるのか。購入データを一つひとつ紐付けながら、愚直に考え直す。
派手な打ち手ではなく、顧客理解を積み重ねることを選び続けた結果が、今回の評価につながっている。
セールで売らない。準備が整った人に、選ばれる
楽天市場には、セールとポイントという強力な仕組みがある。だがSK-IIは、値引きで売れる商品ではない。だから彼らが考えたのは、「セールで売る」ことではなく、セールに入る前に、買う準備を終えてもらうことだった。
なぜ買うのか。
誰が買うのか。
何を、いつ買うのか。
これらを感覚ではなく、論理として設計し、実行する。SK-IIの強みと、楽天の強みを掛け算するとは、こういうことだ。
評価されたのは、売上の数字だけではない。ブランドと顧客をつなぐ構造を、地道に作り続けた思考そのものだった。
今日はこの辺で。







