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楽天は「越境EC」を再定義した ーインバウンドCBTという戦略が、日本のEC市場を次のフェーズへ押し上げる理由

 楽天市場におけるインバウンドCBT(Cross Border Trade)。海外事業者の出店数が1,000店舗を超え、対応国・地域も22にまで広がった。数字だけを見れば、海外展開の成功事例として語ることもできるだろう。だが、この動きの本質は「数」ではない。楽天が静かに、しかし一貫してやっているのは、日本のEC市場そのものを、どういう“場”として未来に残すかという問いへの実装だ。海外から商品を集めることが目的なのではない。

 海外の事業者が、日本の市場にどう向き合い、日本の消費者とどう関係を築くのか。そのプロセスごと、楽天市場の内側に組み込もうとしている。インバウンドCBTとは、楽天にとっての「越境施策」ではなく、市場運営の思想を更新するための装置なのだ。

 ここでひとつ、言葉の整理をしておきたい。

 一般に「越境EC」と言うと、日本と海外がボーダレスに売り買いを行う取引全般を指すことが多い。だが、楽天が進めているインバウンドCBTは、少し性格が違う。

これは「国境を越えて売る」話ではない。海外の事業者が、日本の楽天市場という“場”に参加し、日本のルール、日本の期待値、日本の購買体験の中で商いをするという取り組みだ。

だからこそ、これは単なる越境ECではなく、市場運営の思想そのものが問われる取り組みなのである。

1. 出店可能国22の意味は「拡大」ではなく「選別」にある

 現在、楽天市場のインバウンドCBTで出店可能となっている国・地域は、ヨーロッパ、アジア、北米、オセアニアにまたがる22の国と地域だ。フランスやドイツ、イタリアといった欧州諸国、アメリカやカナダ、韓国、中国、台湾、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランドなど、地理的にも文化的にも多様な顔ぶれが揃う。

 重要なのは、これが一気に開放されたわけではないという点だ。

 楽天は段階的に、慎重に、出店可能国を広げてきた。ここに、楽天の市場設計の思想がはっきりと表れている。モールの安全性と信頼性を維持したまま、商品と店舗のバリエーションを広げる。

 つまり楽天は、「多様性」と「安心」をトレードオフにはしない。海外事業者にとっては、日本市場に参加すること自体が一種の“審査”になる。その審査を通過した国・地域、事業者だけが、楽天市場という舞台に立てる。

 この姿勢は、拡大戦略というよりも、選び続ける戦略だ。どこからでも来ていいわけではない。だが、条件を満たし、本気で日本市場に向き合う事業者には、門戸を開く。このバランス感覚こそが、楽天市場が「売り場」で終わらず、「市場」であり続けてきた理由だ。彼ららしいと言えば、彼ららしい。

2. 日本市場の厳しさは、越境ECの“壁”ではなく“価値”である

 海外事業者が日本市場に挑戦する際、必ず直面するのが、日本の消費者が持つ独特の期待値だ。商品が届くかどうか、配送にどれくらい時間がかかるのか、返品や交換はできるのか。それら一つひとつが、日本では「できて当然」として扱われる。

 楽天は、この厳しさを緩和しようとはしていない。むしろ逆だ。この厳しさこそが、日本市場の価値であるという前提に立っている。

 だからこそ、インバウンドCBTでは、出店審査やルール、サポート体制が細かく設計されている。

 不安を後から解消するのではなく、不安が生まれにくい構造を最初から用意する。これは、海外事業者を守るためだけの仕組みではない。日本の消費者が信頼を失わないための、市場側の責任でもある。

3. 物流は「便利な機能」ではなく、信頼を揃えるための基盤

 その上で、気になるのは物流だろう。まさに、楽天スーパーロジスティクス(RSL)が果たしている役割も、単なる物流支援にとどまらない。インバウンドCBTにおける物流は、体験の均質化のために存在している。

 海外からの商品であっても、日本国内の商品と同じ感覚で買える。検索し、購入し、届くまでの流れに違和感がない。この「違和感のなさ」は、日本市場では重要だ。

 なぜなら、日本の消費者は“特別扱い”を望まないからだ。楽天は物流を通じて、海外商品を「珍しいもの」として売るのではなく、日本の生活の中に自然に溶け込ませる設計をしている。ここが楽天市場たる所以でもあると思う。

4. NATIONS GLOBALは、楽天市場の“学び方”を世界に持ち出す試み

 そして、彼らはそれらに加えて、教育というインフラも整える。それも、従来、楽天市場がやってきたことの延長上にあるから、信頼度も高くなる。それが、2026年に予定されている「NATIONS GLOBAL」。

 これは売上拡大プログラムというよりも、楽天市場の文化を象徴する取り組みだ。楽天市場ではこれまで、成功してきた店舗が、同じ市場にいる他の店舗にノウハウを伝えるという循環が育ってきた。

 単なる座学ではなく、実際の店舗運営で培われた経験が共有される。この仕組みを、世界向けにも展開する。それはつまり、楽天が「市場の使い方」そのものを輸出しようとしているということだ。

 商品を売るだけではない。どう学び、どう改善し、どう市場と向き合うか。そのプロセスごと、楽天市場の外へ持ち出そうとしている。

5. 成功事例が示すのは「ヒットの作り方」ではなく「信頼の積み上げ方」

 では、具体的にどのような店舗があるのだろう。すでに、SHOP OF THE YEAR2024でカテゴリー賞を受賞するなどして、結果が出始めている。「VT COSMETICS」の事例は、その象徴だ。彼らが楽天市場で成功した理由は、韓国コスメというトレンド性だけではない。

 楽天市場という文脈を理解し、限定オファーやイベント、SNSを連動させながら、日本の消費者との接点を丁寧に積み重ねてきた。短期的な売上よりも、レビューや評価を通じた信頼を優先した結果、

「楽天で買うならこのブランド」という位置を獲得した。

 これは海外事業者だけの話ではない。日本の事業者にとっても、そのまま通用する示唆だ。逆に言えば、日本の出店店舗は自らの立ち位置を明確にしないと、本当にこれら海外の店舗に然るべき地位をさらわれる。海外がいいと言っているのではなく、それだけ競争が激しくなるということである。

6. そして、楽天×AIがこの戦略を“次の段階”へ進める

 ここで個人的に注目したいのが、楽天が近年力を入れているAI活用だ。楽天はもともと、日本国内における購買体験に関する膨大なデータと、問い合わせ対応の知見を持っている。思うに、その強みは、インバウンドCBTと極めて相性がいい。

 言語の壁。ニュアンスの違い。文化的な誤解。

 これらは、越境ECにおける最大の摩擦点だ。楽天がAIを活用し、多言語対応や問い合わせの翻訳、意図理解の精度を高めていけば、海外事業者はより安心して日本市場に向き合えるようになる。

 重要なのは、AIが「人を置き換える存在」としてではなく、日本市場特有の細やかさを、スケールさせる補助輪として使われている点だ。ここに、楽天らしさがある。

終章|インバウンドCBTは、楽天市場の未来像そのものだ

 インバウンドCBTは、海外事業者のための制度ではない。日本市場をどう守り、どう育て、どう開いていくかという、楽天の市場哲学の延長線にある。

 出店国を選び、信頼の前提を整え、学びの循環を用意し、AIでそれを支える。

 楽天は、売り場を広げているのではない。

「市場であり続けるための条件」を、一つひとつ実装している

日本にいながら、世界の良いものに出会える。それは偶然ではなく、設計の結果だ。――ここまで来ると、インバウンドCBTは施策ではなく、楽天市場という存在の、現在進行形の定義だと言っていい。

 今日はこの辺で。

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