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越境ECの突破口──日本市場の限界を超える“実践知”と海外市場のリアル

 時代の流れを踏まえれば、そして今の日本の実態を見据えれば、越境ECは然るべき選択肢なのだと思う。なぜなら、日本市場の縮小傾向は誰の目にも明らかだからだ。国内の消費は「必要最低限」へと傾き、企業が成長を模索するなら、内に閉じこもるのではなく、外へと視線を向けるべき時に来ている。では、越境ECとどう向き合うか。慣習やルールを理解することはもちろん大切だが、専門家の知識だけに頼るのでは実践の裏付けを欠くことが多い、と僕は感じている。

 必要なのは「知識」と「実践」が一体となった視点であり、その両輪が揃って初めて成果につながる。

 そうした視点を形にしようとしているのが、株式会社キレイコム代表・上田直之さんによる「国際ビジネス連結機構(RENKETSU)」なのかもしれない。越境ECを“学ぶ場”であると同時に、“実際に動かす場”として機能している点に興味を惹かれた。

1. 国内市場の行き詰まりが示す未来

 物流コストは高騰し、労働力は不足し、実質賃金は伸び悩む。結果として消費者の行動はより慎重になり、嗜好品や娯楽品から生活必需品へと購買の重心が移っている。

 街中での買い物も、数千円のファッション小物よりも「米20キロを買う」という選択が優先される時代になっている。これは単なる一時的な節約ではなく、社会全体のマインドシフトだと言えるだろう。

 実際に、かつては消費の起爆剤だった大型セールイベントでさえ、かつてほどの熱気を呼び起こせなくなっている。以前は「特別価格」や「半額」といった言葉に群衆が飛びついたが、いまや消費者は「本当に必要か」を吟味し、セール価格であっても財布の紐を緩めない傾向が強まっている。

 こうした動向は、国内市場が縮小均衡へと向かっていることを示す明確なサインだ。

 このような状況下で「国内だけで戦う」ことに意味があるのか。

 企業は広告費や販促費をかけても、それに見合うリターンが得られないリスクに直面している。加えて、国内市場に固執するあまり新しい挑戦を避ければ、衰退のスピードはむしろ加速する。縮小市場でシェアを奪い合うことは「消耗戦」に過ぎず、未来を切り拓く戦略とは言えないだろう。

 上田さんが注目するのは、まさにこの「閉塞感」だ。国内にこだわることは自らを縛り付けることに他ならず、むしろ積極的に外の市場へ打って出ることこそが突破口になる。

2. 世界の消費は日本を追い越した

 一方で海外市場に目を向けると、日本とはまったく異なる風景が広がっている。

 ドバイや米国を訪れれば、ランチに数万円を支払うことも珍しくなく、チップ文化も重なって日常的に支出の額は大きい。こうした生活水準の違いは、そのまま消費マインドの差として現れる。つまり「いいものにお金を払うこと」が当たり前になっているのだ。

 この背景には、潤沢な収入と経済の循環がある。

 海外では働くことで得た収入が自然に消費に回り、それがさらに新しい需要を生み出すサイクルが成立している。

 一方、日本では収入が伸びず、支出に慎重にならざるを得ないため、購買力は低下の一途をたどっている。このギャップは年々広がっており、日本が「安い国」として位置づけられてしまう現実がある。

 日本の商品は品質に優れているにもかかわらず、国内での価格競争に巻き込まれ、安価なイメージを纏ってしまう。これでは、世界市場で本来の価値を発揮できない。だからこそ、海外で改めて「高付加価値商品」として位置づけ直すことが重要になる。

3. 「Joom(ジューム)」という“知られざる大陸”

「石郷さん、『Joom(ジューム)』って知っていますか?」

開口一番、上田氏はそう問いかけ、「でも、日本人の多くは知らないのではないか」と続けた。

ここで強調したいのは、「Joomで売れる」という話ではない。むしろ、そうした売り場の存在自体を知らずして、日本企業は自らのポテンシャルを最大限発揮できないという事実だ。

「Joom(ジューム)」は日本ではほとんど知られていないが、欧州ではAmazonを凌ぐ巨大モールとして成長している。ユーザー数は4.8億人に達し、フランスやスペイン、ドイツではAmazonを超えるシェアを誇る。GMV(流通総額)は12〜13兆円規模に及び、その存在感は計り知れない。

4. 欧州市場への高い参入障壁

 しかし、この市場に参入するには大きな壁がある。欧州での法人登記が必須条件であり、日本企業が単独で挑むのは現実的に難しいのだ。そこで上田氏は現地パートナーを通じて名義を借り、「キレイコムストア」としてJoomに出店を実現した。

 これにより、日本企業は自ら欧州法人を立ち上げることなく、巨大マーケットに商品を並べることが可能になった。

 さらに興味深いのは、Joomの仕組みが徹底して「ローカライズ」されている点である。フランスの顧客が商品を閲覧すればフランス語で表示され、ラストワンマイルの配送費用まで自動計算される。ドイツならドイツ語、イタリアならイタリア語と、消費者がシームレスに買い物できる環境が整っている。つまり、日本企業が「現地に合わせる努力」をしなくても、Joomのインフラが自動的に適応してくれるのだ。

 つまり、越境ECに取り組むうえで「専門的知識を押さえることが大事」とよく言われるが、それだけでは不十分だ。実際の売り場で挑戦し、日本には存在しないマーケットを獲得していく──そうした“実践を伴う環境設計”こそが欠かせない。そこにこそ、上田氏の意図する本質があるのだろう。

5. ライブコマースは“今”の勝ち筋

 だからこそ、最近の上田氏の発言では「ライブコマース」という言葉を頻繁に耳にする。

 ただし、それは単にライブコマースの可能性を語っているのではない。海外に打って出る際に、有効な手段として現実に機能しているからこそ注目しているのだ。ここで重要なのは、日本国内で語られるライブコマースとは趣旨が異なるという点である。

 台湾やマレーシアでは、人気ライバーが1時間で数千万円規模を売り上げる事例が次々と生まれている。日本企業の商品が取り上げられ、わずか15分で600万円以上を売り切った実績もある。これは従来のECでは考えられないスピード感だ。

 ここで語られるべき「知識」とは、単なる理論ではない。

 数多く存在するEC手法の中で、いまはライブコマースが海外市場で最も有効に機能している──その現実を体感することこそが大事なのだ。将来は別の形が登場するかもしれないが、重要なのは「いま世界でどう売れているのか」を実践を通じて知ることにある。

 ライブコマースの裏側では、ライバーが自ら商品のパネルを作り、ビフォーアフターを提示するなどの工夫を凝らす。メーカー側も積極的に資料を整え、選ばれる努力を重ねる。選ばれるか否かで企業の明暗が分かれる緊張感は、まさに越境ECのリアルそのものだ。理屈だけではなく、実際の現場で得られる経験値こそが、企業にとってかけがえのない財産になる。

6. ドバイで開花する可能性

 それは、商品企画の領域においても同じである。

 上田さんが語るように、ドバイは越境ECの「可能性の象徴」といえる市場だ。たとえば、日本国内でも一定の人気を得ていたフカヒレコラーゲンの商品が、現地デザインでOEM化され展示会に出展されたところ、2,000本もの発注を獲得し、一度の取引で大きな粗利を生み出した。

確かに日本でも注目を集めていた商品ではあるが、マーケットが小さければ伸びしろには限界がある。ここで重要なのは、この事例が示す通り「デザインやパッケージを変えるだけで飛躍的に売れる」という現実だ。日本市場に縛られない柔軟な発想こそが、可能性を切り拓く鍵になる。

7. 市場は一国にとどまらない

 ドバイの展示会には多くのバイヤーが集まり、その場で発注が決まることも珍しくない。これもまた、机上の理論ではなく“実践を伴った知識”である。マーケットに即した売り方を吸収し、日本企業が本来持つ商品力を最大限に引き出すこと──それこそが越境ECの醍醐味だ。

 さらに踏み込めば、日本で評価されなかった商品が海外で大きな支持を得ることもあれば、逆に海外でのヒットをきっかけに日本市場で再評価されることもあるだろう。市場は常に流動的であり、可能性は一国に限定されるものではない。

越境ECの本質は「売れる場所を探す旅」である。ドバイのように購買力の高い市場に挑むことは、企業にとって大きな飛躍のチャンスにつながるのだ。

8. 大手企業も動き出す

 その意味で、冒頭に触れた「RENKETSU」の存在はやはり興味深い。中小企業だけでなく、大手企業も次々と参加しており、彼らが共通して抱えているのは「国内市場の限界」だ。国内だけに依存していては成長は見込めない。

 だからこそ、月3万円の投資で国際ネットワークにアクセスできるRENKETSUを選び、国内では得られない顧客との接点を築こうとしている。実践を伴った専門的知識を武器に、海外で力をつけようという動きなのだ。

 この流れは象徴的である。かつて越境ECはスタートアップや中小企業の挑戦領域と見られていた。しかし、いまや大手も同じテーブルについている。中小と大手が混ざり合い、それぞれの強みを活かしながら海外に挑む場が形成されているのだ。そこに共通するのは、「国内に留まっていては未来がない」という危機感である。

  加えて、RENKETSUでは参加企業の商品をライブコマースのライバーに紹介してもらうことができる。ただ、それもライバーが選んでくれればの話ではあるが、自社が直接アプローチすることなく、現地の消費者に届ける仕組みがあるのは大きい。

 これであれば、スタートアップの企業は最初から海外を視野に置き、商品を販売していける。さらにメーカーに限らず小売ショップも参加しているため、仕入れ商品の売り方や訴求方法も実践とともに蓄積され、より多様な形で海外をマーケットとする戦略的な土台が整うのである。

9. 越境ECの本質──“どこで売れるか”を探す旅

 僕はずっと、小手先のテクニックには興味がないと言い続けてきた。

 その意味で、越境ECの本質を語るなら、単に海外で売上を伸ばすことではない。大事なのは「自社の商品が、どこの市場で、どのように受け入れられるか」を見極めることだ。

 国内で売れているものなら、海外でも売れる可能性はないかを考えてみる。知識を机上の空論で終わらせるのではなく、実態を伴った実践として取り組むことで、海外で爆発的に支持を得ることは珍しくない。

 市場ごとの文化や感覚に合わせて、パッケージや見せ方を柔軟に変えることが成功の鍵になる。実際、美容商材に限らず、雑貨のようなカテゴリーも売れているという事例を耳にした。

 日本では「安い小物」として価格競争に巻き込まれがちな商品が、発想を変えて製造したり、セット商品として組み合わせて提案することで、海外では「高品質なライフスタイル雑貨」として数千円単位で売れているのである。

 越境ECは、こうした“再定義”の舞台でもある。時代の流れを捉えるなかで、こうした仕組みも現れている──たとえばRENKETSUのように。企業は世界中の流通ネットワークやライバーとつながり、自社商品の「最適な土壌」を探す旅に出られる。

 今日はこの辺で。

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