1. HOME
  2. News
  3. 買い談
  4. 通販/eコマース
  5. AIは人を救い、価値を拡張する──URBAN RESEARCH齊藤悟さんが語る“回復と実装”のプロセス

AIは人を救い、価値を拡張する──URBAN RESEARCH齊藤悟さんが語る“回復と実装”のプロセス

 心が震えた。これは単なる効率化の議論ではない。AIには、人間を救う力がある。だが、どんな場面においても「使うこと」自体が目的になってはいけない。生きる上で本当に必要な問いを投げかけ続けることで、初めて道が開けるのだ。生命においても、ビジネスにおいても。株式会社アーバンリサーチ DX管掌 執行役員・齊藤悟さんとの対話を通じて、僕はそのことを強く感じた。なぜなら──医師から「回復まで2年かかる」と告げられた言語機能を、齊藤さんはAIによってわずか3ヶ月で取り戻してみせたのだ。

 齊藤さんが語る考え方は、命に関わる場面にも当てはめられるほど普遍的で、あらゆる事象に応用が利く。だからこそ、ビジネスにも直結し、会社のDX化にも大きな成果をもたらしているのだという。

 ──さて、あなたはこの文章から何を感じるだろうか。AIを通じて自分を窮地から救い、価値を拡張することができるだろうか。決して、それは不可能ではない

言葉が出てこないということ

 彼に話を聞いてみたいと思ったのは、実にひょんなきっかけだった。何気なく一緒にお酒を飲みに行ったとき、ふと彼が口にしたのは──

「実は、数ヶ月前まで病気で言語を失っていたのですよ」という言葉。

「ええ? 今こうして普通に喋れているじゃないですか!」

 驚きながら、その背景をたどるうちに、人間の神秘や技術革新の偉大さを感じずにはいられなかった。──そんなやりとりを経て、この対話は始まったのだ。

 ある日突然、齊藤さんは病に倒れた。

 たまたま倒れた場所が病院内だったことで一命は取りとめたものの、診断されたのは「敗血症」。

 致死率はおよそ9割とも言われる中、彼はその“1割の生還者”となった。しかし、その代償はあまりにも大きかった。左脳に障害が残り、言葉が出てこなくなってしまったのだ。

 そんな状態で、医師からはこう告げられたという。

「ここから、元の状態に戻るには2年はかかるでしょう」──と。

2年かかる言語回復が3ヶ月で??

 ある種、仕事を諦めるほどの絶望に打ちひしがれるだろう。

 多くの人なら、医師に告げられたリハビリのスケジュールを受け入れ、病院で定められた方法に従い、少しずつ回復を目指すだろう。けれど、齊藤さんは違った。その証拠に、今こうして僕と普通に会話をしている。

 彼が入院したのは、2024年8月で、退院したのは2024年11月。本格的なリハビリが始まったのはそれからで、言語を取り戻して、会社に復帰したのは2025年1月。僕とお酒を飲んでいたのは2025年5月のことだった。

 つまり、医師から「2年はかかる」と告げられた言語機能の回復を、彼はわずか3か月で取り戻したのである。彼がそこで選んだ手段は──AIだった。

 改めて、その言語障害について詳しく考えてみよう。僕が話を聞いて強く感じたのは、それが“記憶喪失”ではないという点だ。彼の頭の中には、映像やイメージはしっかりと浮かんでいる。にもかかわらず、そのイメージを言葉に結びつけられない──そんな状態だった。

 たとえば「アーバンリサーチ」と言われれば、何を指すのかは理解できる。けれど、それを口に出すことができないのだ。これは、極めて深刻な状況だった。

 そこでどう解決すればいいというのだろう。

耳から入れるしかない

 そこで、彼はどうしたのか。「もう、耳から入れるしかない」と考えたのだ。自分が聞きたかった言葉を、一度“音”にしてみよう──そう思って、スマホを握りしめる。

 ところが、すぐに壁にぶつかる。言葉がわからないため、ローマ字入力すら使えないのだ。どうやって音声を特定するか。彼が頼りにしたのは、写真アプリなどに保存された数々の情報だった。

 そして「これが何という音声なのか」を教えてもらうには、ChatGPTが最適だった。

 写真やデータを読み込ませると、AIがそれを言葉で説明し始める──。そう、この瞬間に起きていたのは「頭の中のイメージ」と「口から出ない言葉」とが、AIによって結びつけられていくプロセスだった。

 驚くべきことは、ここからだ。僕もまた、固定概念に囚われて「言語を読み上げるためにChatGPTを使ったのだろう」と思い込んでいた。例えば、免許証の写真にある文字を読み上げて、という具合に。けれど、実際には、想像を超えた使い方があったのだ。

世の中は言語化できる

「そんなに音声に置き換える言語素材が、スマホの中にあるのだろうか。」と僕が尋ねると、彼は笑って答えた。

「あるじゃないですか」

 そう言って彼が開いたのは「マップ」アプリだった。え?言語じゃない。自宅付近をキャプチャーすると、ChatGPTがその場所の住所を読み取り、テキスト化して教えてくれる。そして彼は、その住所を音声に置き換え、自分の口で復唱していく。

 こうして、頭の中のイメージと、失われていた言語の回路が、AIによって繋ぎ直されていったのだ。

 その瞬間、僕ははっと気づいた。

「そうか! この世の中のあらゆるものは、すべて言語化できるのだ!」と。

AIは人間を救う

 さらに彼は、ChatGPTに使えるわずかな言葉を打ち込み、こう伝えた。

「ボクには“のう”にしょうがいがあって……コトバをなおしてください・・」

 AIはその不自由な文章を受け取り、正確に修正して返してくれる。彼はその「(修正した)自分の言葉」を音声に変換し、それを耳で聞き取り、自分の口で復唱する。この繰り返しによって、少しずつ言葉が身体に戻っていく。つまり、AIの助けを借りながら言語を修正し、その精度を高めていったのだ。

 つまり、これは単なる「AIの話」ではない。

「これは当時49歳の日本人が、ゼロから日本語を再学習しているようなものだったんです」

 そう齊藤さんは振り返る。最初に聞かれたのは『日本語と英語、どちらで置き換えますか?』ということだった。実際、最初は日本語よりも、文字数が少なく構造もシンプルな英語の方が理解しやすかったという。英語圏があれだけ広い理由が分かりましたと笑う。

 道端の看板、地図、免許証、Googleマップ──世の中にあるあらゆるものを素材にして、彼は言葉を取り戻していった。そして、そうした「言葉の再構築」のプロセスこそが、後に彼が推進するAI活用や現場DXのベースとなっていったのである。

質問から逆算して考える

 だから、本当に大事なのはAIそのものではない

 人間側がどんな問いを立てるか──問いかけの質こそがすべてなのだ。世の中ではAIについて盛んに語られているが、「結局それがなぜお金にならないのか」という課題がつきまとう。

 その理由についても、齊藤さんは明確に答えている。要するに、「何を解決するためにAIが存在するのか」を、誰も本当には把握していないのだ、と。

 僕は話を聞いていて、齊藤さんがこういう答えにたどり着いた原点が、実は大学時代にあるのではないかと思った。彼は大学生の頃、予備校で先生をしていたという。

 そのとき意識していたのが──「質問から逆算して考える」という方法だった。

 普通、先生というと「どう教えるか」という視点が先に立つ。しかし、彼は違った。まず「どんな質問が出るか」を先に想定し、その質問への答えを用意するところから始めた。

必要なものを見極めてこそ、使い道は見える

 簡単に言えばこうだ。

 目標校を突破するために生徒が発する質問こそが、避けて通れない課題であり、そこをやり切ることこそが必要なこと──だから、そこから逆算して指導する。これは、今のAIの話と全く同じ構造ではないだろうか。

「言語を取り戻すためにAIをどう使えばよいか」を逆算して考えた結果、齊藤さん独自の“リハビリ”にたどり着いたに過ぎない。人は誰しも何らかの課題感を持って生きている。その課題から逆算してAIを使えば、病気からの回復に限らず、仕事にも活かせる。

 大量の情報の中から、自分に必要なものを「質問から逆算して取り出す」。その発想があるからこそ、齊藤さんはAIを「単なる生産性向上の道具」ではなく、「日常を支える道具」として使いこなしているのだ。

病院でも会社でも、ゴールから逆算する

 そして、そうやって本質的に捉えていけば、AIがビジネスの現場でも力を発揮するのは自ずとわかるだろう。面白いのは、結果としてそれらの取り組みが、彼自身の仕事にも生かされている点だ。

 少し変な言い方になるが──一時的に病気で戦線を離脱したことで、かつての部署は完全に彼の手を離れた。そして今、彼はゼロベースでAIを活用した新規事業に挑み、アーバンリサーチに旧部署では実現できなかった新しい風を送り込んでいるのだから、やはり只者ではない。

 でも考え方は同じである。たとえば──

  • 顧客が本当に求めているものは何か。
  • 売上につながる行動とは何か。
  • どのタイミングで声をかければ接客が成立するのか。

 これらすべてに共通するのは、「結果から逆算する」思考である。予備校講師として。リハビリの患者として。そして、ビジネスパーソンとして。齊藤さんの人生を貫く共通のスタンスが、この「問いの立て方」に凝縮されている。

 会社としてはセキュリティの観点から Gemini を採用している。ならば、その中で、齊藤さんはそれをどう使うのだというのだろう──。

AIは、組み立ててこそ意味を持つ

 今、アーバンリサーチで齊藤さんがその中で着目したのは『Gem』という機能

 Gem(ジェム) とは、Google Gemini に搭載されている「カスタムAI」機能のこと。ユーザーがあらかじめ目的・役割・文脈 を設定しておくことで、そのGemが“自分専用のAI専門家”のように一貫して対応してくれる。

 通常なら、毎回ゼロから条件を説明して、答えを導き出していると思うが、その必要がない。一つのアクションで答えが出る。

 そこで、齊藤さんは、この仕組みで「swatch」という項目をつくった。

 そこに写真を入れるだけで、関連する商品情報を一気に引き出せるルールを設定している。さらに自社の商品リストを読み込ませ、ウェブ上の情報とも紐づけているため、売り場で撮影した写真からでも、瞬時に該当する情報を導き出せるのだ。

つまり、接客の現場では──

  1. 商品の写真を撮る
  2. Gemに入れる
  3. すぐに説明用の情報が得られる

 この流れが成立する。スピード感は顧客体験に直結するし、仮に間違いが出ても「それは違う」と指摘すれば修正できる。従来は商品情報を探しきれずに機会損失をしていた。

 しかし今は、欲しい情報を、欲しいタイミングで、スタッフ自身の言葉で伝えられる。顧客にとっての心地よい体験とは、まさにこの瞬間にある。

 売上から逆算して考えると、顧客体験の向上はアパレルにおいて貴重。だから、重要なのは、スタッフ自身の感性や視点を活かす過程でAIを利用している点だ。スタッフ自身の感性を活かす接客に集中でき、人間の才能の拡張につながる。

整体師なら、どう使う?

 この考え方こそ、齊藤さんの思想の原点である。ここまでの本質を踏まえれば、AIはどんな領域にも応用でき、人間の価値を拡張する装置であることが見えてくる。何気なく、僕は友人の整体師の話を持ち出した。彼は齊藤さんの“言語の復活”の話を聞いて深く感銘を受け、こう言った。

「AIを使えば、半身不随の人だって救えるんじゃないかね?」

 齊藤さんは大きくうなずいた。そのためには、まず整体師側が、お客様の声や症状、カルテを一つひとつ“言語化”して記録しておくことが大切だ。それは、彼自身が写真を言語化したのと同じだ。

「相手の困った声を、頭の中だけで曖昧に捉えてはいないだろうか?」

 症例を分類し、AIに尋ねることで、次回の提案や施術計画に生かしていける。そうすれば“15回でここまで改善”といったゴールを数字で示すことも可能になる。

「そういえば、いつ退院できるのか、医者は最後まで言わないんですよね」

 リハビリ中、齊藤さんが最も強く感じたのは、ゴールが見えないまま治療が進んでいく違和感だった。ある日突然、医師から「あと3日で退院です」と告げられる。

 しかし、その「あと3日」がなぜなのかは、誰も説明してくれない。「それなら、1か月前から“あと30日”と見えていた方が、自分のリズムも作れるのに」──齊藤さんはそう考えた。

 計画を医師と患者で共有し、ゴールに向けて一歩一歩歩んでいく方が、はるかに健全だ。ここにあるのはまさに「逆算の思考」。AIはその仕組みを支えることで、治療やケアをより体系的で再現性のあるものにできるのかもしれない。

AIは「自分の使い道」を見つけてこそ最大化する

 まずは一緒に「何をやりたいのか」「何に困っているのか」を探る。そこから始まる。「何をやってみたいのかを一緒に探すほうが、圧倒的に大事なんです」

 だからこそ、齊藤さんは、先ほどの話を社員に対して、共に考えるように勧めて、個々の使い道を模索するよう促す。生成AIの活用において、「自分だけが使いこなすこと」に意味はないと考えているからだ。

 さきほど紹介したGemの仕組みも、確かに便利だ。だがそこで、社員が「便利なツールが整うのを待つ」だけでは、AIの本当の使い方にはならない。だから齊藤さんは、社内でAIに関心を示すメンバーに対しても、すぐに使い方を教えたりはしない。

 そう語る齊藤さんの視線は、すでにその先を見ている。

 例えばGemに投げる条件を「売上比較」というルールにすればどうだろう。実際に彼は、売上データを週次で確認し、グラフ化する条件設定をつくっている。その仕組みにデータを投げるだけで、常に数字が可視化されるのだ。

「……ということは、こういうこともできるのではないか?」

 そうやって次々に広がっていくのがAIであり、その意義は数字という明確なゴールに応える中で最大化される。そして、それを個々が自分の課題に即して模索することこそが、AI活用の真髄なのだ。

回復と実装は、同じプロセスだった

 言葉を失ったとき、齊藤さんが最初にしたのは「問い」を立てることだった。

「ここの場所は、なんて言うんだっけ?」

「これ、なんて読むの?」

 地図や免許証、看板や写真──身の回りのすべてを使い、知りたいことをAIに問いかけ、それを音声に変換して復唱する。そうして少しずつ、言葉を取り戻していった。その過程で彼は、自分なりの“順番”と“構造”を模索しながら、情報をどう受け取り、どう覚えるかを組み立てていた。

 そして今、彼が社内で取り組んでいるのは、まさにその延長線上にある。生成AIをどう使えばよいのかという問いに対して、彼はまずこう返す。

「あなたにとっての問いは何ですか?」

 問いを明確にし、情報をどう整え、どう答えにつなげるかを共に考える。

 齊藤さんの言葉の数々には、そんな実感が込められている。人は誰しも、何かしらの“言葉にならないもの”を抱えている。それをどう言葉にしていくか。どう人と共有できる形に変えていくか。

 生成AIは、その“プロセス”を支えるツールになり得る。そして齊藤さんは、そのプロセスを自ら体験した人間として、実践者であり、設計者であり、支援者でもある

 効率化なんて、どうでもいい。大切なのは、人それぞれが、自分の視点でちゃんと向き合うことだ。自分にとって本当に実現したいものは何か──それを問いにしたとき、AIは人間を救う。

 今日はこの辺で。

関連記事

145が自らの考えを大事に、わかりやすく想いを持ってビジネスの本質に迫るメディアです。主に小売業、ものづくりとキャラクターライセンスを追っています。
詳しくはこちら

all/初心者 culture/SDGs culture/学生クリエイター culture/推し活 culture/渋谷 culture/生成AI culture/調査・データ DEEP DIVE: 1推し(イチオシ) DEEP DIVE: ものづくりのセオリー DEEP DIVE: アーティストの感性に触れる DEEP DIVE: ボーダーレス─僕らは空間と時間をクリエイトする DEEP DIVE: 奥深きキャラクターの背景 DEEP DIVE: 店の声─舞台裏での奮闘記 DEEP DIVE: 潜入イベントレポ DEEP DIVE: 賢くなろう─商売の教科書 DEEP DIVE: 超境─クールジャパンの新次元へ EC/Amazon EC/au PAY マーケット EC/BASE EC/Instagram EC/LINE EC/Shopify EC/Yahoo!ショッピング EC/YouTube EC/フューチャーショップ EC/メイクショップ EC/日本郵便 EC/楽天ファッション EC/楽天市場 ECshop/MA ECshop/OEM ECshop/ささげ(採寸・撮影・原稿) ECshop/アプリ ECshop/オンラインモール ECshop/コンサルタント ECshop/コールセンター ECshop/チャット ECshop/ライブコマース ECshop/多店舗統合システム(OMS) ECshop/自社EC Fancy/Curious George Fancy/PEANUTS Fancy/すみっコぐらし Fancy/カピバラさん Fancy/サンエックス Fancy/サンリオ Fancy/シルバニアファミリー maker/バンダイ maker/ユニクロ RealShop/ZARA RealShop/コンビニ RealShop/スーパーマーケット RealShop/専門店 RealShop/百貨店・商業施設 RealShop/飲食店 Shop/ウォルマート Shop/接客スキル Shop/決済 【Buying】オムニチャネル・OMO 【buying】サプライチェーンマネジメント 【Buying】フィンテック・金融 【Buying】フルフィルメント 【Buying】フードデリバリー 【Buying】マーケティング・CRM 【Buying】リユース 【Buying】レンタル 【buying】ロジスティクス(流通) 【Buying】商品企画/マーチャンダイジング 【Buying】海外 【Buying】集客 【Fancy】ディズニー 【Fancy】ピーターラビット 【Fancy】ムーミン 【Game】Nintendo 【IP】Buzzverse – SNSから拡がる共感の宇宙 【IP】Gameverse–Gameから派生し、自分ごととして関わる世界 【IP】Storyverse –物語から生まれたキャラクターたち 【IP】Zakkaverse–モノとともに日常を彩るキャラクターの世界 【IP】キャラクター・スポット 【IP】ファッションブランド 【IP】未来図(WEB3/NFT等) 【Product】ふるさと納税 【Product】アクセ・ジュエリー 【Product】アパレル 【Product】インテリア 【Product】コスメ・健康 【Product】スイーツ 【Product】ホーム・台所 【Product】文具 【Product】玩具・ガチャ 【Product】花・植物 【product】製造業テック 【Product】雑貨・小物 【Product】食品 【Product】飲料・酒 キャリアと生き方|HERO insight —逆境をチャンスに変えるストーリー ビジネス思考法|HERO insight —“仕組み”と“本質”を捉える視点 事業化のリアル|HERO insight —アイデアを持続可能なビジネスへ 創造のヒント|HERO insight —人の心を惹きつけるアイデアの源泉 経営・マネージメント

最近の記事