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「小さな改良を重ねることで信頼を積み重ねる──LASIEMが地方から挑む、ブランドづくりの物語」

 学習塾を立ち上げた青年が、楽天市場に挑み、失敗を経てもう一度挑戦する。その歩みの果てに生まれたのが、財布やバッグのブランド「LASIEM(ラシエム)」だった。「信頼」という言葉を何度も口にする代表・齊藤真紀さんの姿勢は、単なるEC運営のテクニックにとどまらない。レビューひとつ、改善ひとつの積み重ねが、顧客との絆をつくり、ブランドを形にしていったのだ。

 地方・山口から世界へ──。その軌跡はやがて楽天市場で高く評価され、SOYTRIPに招かれるまでに至った。LASIEMの物語は、これからの小さな事業者にとって、大きな示唆を与えてくれる。

①:22歳で起業──学習塾から始まった道のり

 大学を卒業したばかりの22歳という若さで、彼は起業を決意した。選んだのは「学習塾」という教育のフィールドだった。実家が自営業という環境で育った彼にとって、商売はごく自然な選択肢だったのかもしれない。しかし、何をどう始めるのか分からないまま、それでも「自分らしく生きたい」という衝動に背中を押されるようにスタートを切った。

 10年間にわたる塾経営は決して順風満帆ではなかった。生徒の学力向上に全力を注ぎ、保護者との信頼関係を築く日々はやりがいに満ちていた一方で、経営的な厳しさも常に隣り合わせだった。「教育は尊いが、事業として持続させるのは難しい」──現実が突きつける壁を前に、彼は模索を続けた。

 そんなとき頭をよぎったのは、高校時代に味わった小さな成功体験だ。

 地方に住み、ファッションに触れる機会の少なかった少年時代。ネットはそこへの接点となった。ヤフオクで古着を売り買いし、思わぬ利益を得たことがあった。

 その原体験は、ただのお小遣い稼ぎではなく、「ECで商売する」という可能性を心に残していた。教育という道に情熱を注ぎながらも、心の奥底には「もう一度ECに挑戦してみたい」という芽がずっと残っていたのである。

②:初めての楽天出店──失敗から学んだこと

 とはいえ、華麗なる転身とはいかなかった。

 塾を経営して5年目、26歳の頃に楽天市場へ初出店。取り扱ったのは仕入れ雑貨だった。しかし結果は散々で、シャンプーや日用品を並べても利益は1円、50円といったレベル。売れても手応えはなく、わずか2年で退店を余儀なくされた。

「とりあえずやってみよう」という軽い気持ちで始めたECは、決して甘くはなかった。

 仕入れの難しさ、利益率の低さ、在庫リスク──すべてが未経験者には高すぎる壁だったのだ。結局、経営の軸を一旦は塾に戻さざるを得なかった。だからこそ、10年続けた塾経営のうち最初の楽天出店は5年目の出来事になる。

 それでも、不思議と心の奥には「またやりたい」という思いが芽生えていた。ネットで自分が扱った商品が売れる、その瞬間の高揚感は、失敗の苦さを上回る魅力を放っていたからだ。失敗の経験が、むしろ燃料になっていたのだ。

③:再挑戦──生活雑貨から財布へ

 2019年、ついに再出店を果たした。だが、そのときからすぐに財布や小物へ特化したわけではない。

 まずは雑貨全般を仕入れて販売し、顧客の反応を見ながら学び直す日々が続いた。そのなかで大きな気づきが訪れる。面白いのは、楽天市場を「単なる販売の場」ではなく、マーケティングの舞台として捉えていた点である。すでに多くの顧客が集まる楽天市場で注目を集めることができれば、そのまま商売につながる──そう考えたのだ。

 これは他の成功店舗にも共通して見られる“楽天流の方程式”だった。

 さらに齊藤さんは、楽天市場に精通する知人からノウハウを学びつつ、まずは仕入れ商材の販売からスタート。ここで「仕入れ商材から始める」というアプローチが肝心だった。いきなり商品を作り込むのではなく、どの立ち位置が自分にふさわしいかを、市場を通して効果測定できたからである。

 そうして経験を重ねるうちに、自分の進むべき道が徐々に明確になっていった。

「財布や小物には、潜在的なニーズがある」

 ブランド物は高価すぎる。一方で、安物では満足できない。結婚や家庭を持てば、ファッションに使えるお金は限られてくる。それでも、デザイン性や機能性にはこだわりたい──そんな“ちょうどいい”商品を探す人が多いのではないか。

④:オリジナル商品への道──中国工場との出会い

 実際、消費者からは『ブランド物は高すぎるけれど、安っぽいものでは気分が上がらない』という声が寄せられていた。そうした声を糸口に、LASIEMの方向性が少しずつ形を帯びていく。

 生活雑貨から財布へ──ジャンルを絞り込んだのは偶然ではなく、顧客の声に導かれた必然だった。

 とはいえ、財布や小物といっても世の中には数え切れないほど存在する。ではLASIEMはどう差別化したのか──。

 商品を仕入れて販売するうちに方向性をつかんだ彼は、やがて“仕入れ商人”から“メーカー”の立場へと踏み出した。そこで一貫して大切にしたのが、顧客の声である。レビューを読み込み、小さな改善を重ねながら商品を磨いていった。

 転機となったのは、中国の工場との出会いだった。若い社長が率いるその工場はLASIEMのアイデアに「面白い」と共感し、協力を惜しまなかった。単なる下請けではなく、共にブランドを育てるパートナーだったのである。

 僕は率直に齊藤さんに伝えた。オリジナル商品を作るとなれば原価は高くなる。いくら顧客が望んでいても、必ずしも理想的な価格で販売できるとは限らないのではないか──と。

 しかしLASIEMの強みはそこにあった。

 たとえば札入れを2ミリ広げる、小銭入れの仕切りを工夫するといった“細やかな改良”であれば、原価にほとんど影響はない。それでいて顧客が本当に望む商品に近づけることができる。楽天市場に集まる多くの顧客の声をフックに、商品は確実に進化していったのだ。

⑤:信頼を積み重ねるということ

 だから、「このお店はお客様の声を聞いている」──レビューにはそうした声が増え、自然と信頼が積み重なっていった。

 そして、商品企画から顧客との関係づくりに繋がっていくのは自然な流れであったのだ。

 その姿勢はSNSの発信にも表れている。実際、Xを拝見すると“店”という無機質な存在ではなく、スタッフの顔が見える設計が意識されている。そこには常に“対人”を意識した運営の姿勢がにじみ出ているのだ。

 齊藤さんは改めて「最初から顧客ケアを大事にしてきたことが伸びにつながった」と語る。それは単なる商品改良の話ではなく、購入後にどう寄り添うかという姿勢そのものだった。つまり、商品開発の姿勢と顧客対応のケアが同じ根っこで結びついているのだ。

 だから、施策も、メールや楽天専用LINEを通じて商品が届いた後も顧客とつながり続けることを重視する。おのずと、必要以上の安売りではなく、新商品の認知を広げるためのクーポン活用など、あくまで“顧客との関係づくり”を意識していく内容となる。

 信頼は一朝一夕では築けない。小さな接点を積み重ねていくことが、やがて「このお店は大丈夫」という安心感へと変わっていく。無機質に見えるECの世界だからこそ、LASIEMのECは“人の温度”で輝いている。

⑥:在庫と配送──数字の裏にある哲学

 そして忘れてはならないのが、顧客体験と“届く速度”の関係性である。

 とはいえ、それは綿密に考え抜かれた在庫管理があってこそ成り立つものだ。必要な数量が、必要なタイミングで倉庫に入っていなければ、顧客が「欲しい」と思ったときに購入することはできない。だからこそ、新規顧客の獲得と同時に「配送スピード」や「在庫管理」の姿勢が、そのまま信頼に直結する。LASIEMは楽天倉庫に99%の商品を預け、「最強配送」に対応した。

 「いつ届くか分からない」──それでは顧客は不安になる。

 以前は「◯日頃お届け」と曖昧に記していたが、問い合わせが増え、改善を余儀なくされた。今はできる限り正確な納期を提示する。小さな誠実さが、確かな信頼を支えている。

 この視点にも、顧客との関係性を大切にする姿勢が現れている。とはいえ、彼らはすでに“メーカー”の立場。過剰に在庫を抱えれば、経営の足を引っ張りかねない。

 だからこそ、毎週データを分析し、回転率や長期在庫を可視化。単純な値下げで処分せず、早めに調整することで顧客の信頼を損なわないようにしている。在庫の裏にあるのは、「お客様を裏切らない」という哲学だった。

 メーカーである以上、需要と供給のバランスを取る仕組みを、自分たちなりに確立することが欠かせない。それこそが、この会社にとっての肝なのだろう。数字と仕組みを管理する一方で、そこには人間的な温かさが込められている。ECという合理的な世界にあって、LASIEMの運営には確かに“心の体温”が宿っているのだ。

⑦:地方から挑む意味──山口で会社を立ち上げた理由

 商品の一つひとつに心を込める姿勢は、そのまま事業の拠点選びにもつながっていた。「自分が本当に生きたい場所で、仲間と共に挑戦したい」──そう考えた齊藤さんが選んだのは、地元・山口で会社を立ち上げることだった。

 そして、ここに込めた想いは「地方経済のエンパワーメント」そのものである。

 「地方からでも面白い仕事は生み出せる」──それを証明したかったのだ。自然豊かな環境を愛しながらも、地方に仕事の選択肢が少ないことに違和感を覚えていた。

 「地方に生まれたから諦める」のではなく、「地方にいるからこそできる」ことを示す。LASIEMの挑戦は、その意思表示でもある。地方に根差しながら全国に商品を届ける。その姿は、同じように地方で挑戦を夢見る人々に勇気を与えている。

 地元に仕事をつくることは、経済的な意味だけではない。若者に「ここで生きていける」という未来を見せることだ。そして、その挑戦を未来にどうつなげていくのか。地方に根ざしながらも、時代の大きな変化を見据える視点が欠かせない。

⑧:未来への展望──AI時代に残るもの、そしてSOYTRIPが教えてくれたこと

 地方に根ざすLASIEMが、次に直面するのはテクノロジーの急速な進化だ。 AIが進化すれば、商品はますますコモディティ化する──。似たような商品が溢れ、価格やスピードで競争する時代が来るだろう。それでもLASIEMが信じるのは繰り返しになるが「信頼関係」だろう。

 その確信をさらに深めてくれたのが、今年初めて参加した SOYTRIP だった。

 シアトルでの研修やロサンゼルスでの交流を通じて、楽天のスタッフと直接言葉を交わし、改めて気づいたのは「“店と顧客”との関係づくりを最優先にしている」という姿勢。LASIEM自体、クーポンや広告などの施策も単なる値引きではなく、信頼をベースにお客様体験を豊かにするために存在している。

 その姿勢は、自分たちがずっと大切にしてきた価値観と重なるものだった。

 それを踏まえて、訪問先のMicrosoftの話は、印象的だった。AIに関する最新テクノロジーの話は、何もデジタルに完結するわけではない。彼らが築いてきた人との信頼関係というアナログでこそ発揮する。つまり、楽天のそれらの姿勢とデジタルが調和して、もっと、自分たちの個性は発揮できるという確信を得たのだ。

 「やっぱり僕たちは間違っていなかった」。

 小さな改良を続けること。誠実な対応を積み重ねること。その地道な努力こそが、AI時代にも揺るがない価値になる。地方から世界へ──LASIEMの挑戦は、信頼という人間的な力が未来を切り拓くことを証明しようとしている。

 今日はこの辺で。

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