「届ける」という信頼を、次の時代へ──駿和物流 代表 清水紀美彰さんが描く物流の再定義

物流に、温度なんてあるのだろうか?駿和物流──九州に根ざすこの企業は、もともと百貨店の納品代行という、極めて繊細で、人の気配りが求められる現場で信頼を積み重ねてきた。その祖業に宿る“誠実さ”は、時代を越え、やがて「WMS(倉庫管理システム)」というテクノロジーに昇華され、今では“EC物流”という全く新しいフィールドで、ふたたび信頼を紡ぎ始めている。
この物語は、一人の継承者・清水紀美彰が、自らの過去と向き合いながら、未来に向けて企業を変えていく挑戦の記録だ。そこには、彼らにしか出せない“想い”と“温もり”が、確かにある。
第1章|納品は「届ける」ことじゃない。「信頼を運ぶこと」だった。
・お客さんが一番
「お客さんが一番。その次が母さん。それ以外は全部三番以下だ」
駿和物流・清水紀美彰社長が育った家庭には、そんな“父の教え”があった。創業者である父は、まるで戦うようにして物流と向き合い、家族の目の前でも会社のことばかり考えていた。
駿和物流が担ってきたのは、九州の百貨店向けの納品代行。
その仕事は、商品を“運ぶ”のではない。売り場に“預かる”ように届けるという、極めて繊細な任務だった。百貨店の倉庫に届けるのではない。売り場へ、タイミングと状態を完璧にして運び込む。その背後には、厳しい目を持ったバイヤーや現場担当者が控えており、そこでミスは許されない。
・融通のきく姿勢
しかも駿和物流は、百貨店の内部的なパートナーであると同時に、商品を送るメーカーにとっては外部委託先でもある。つまり「百貨店とメーカーの“間”に立つ存在」であり、その双方に対して高い信頼を求められる存在だった。
この独特な立ち位置が、駿和物流の強みになった。売り場まで届けきる緻密な対応と、それを裏で支える“融通”の効く姿勢。そのきめ細やかさこそが、メーカーからの信頼を集め、結果的に取引先が増え、会社が拡大していく原動力となった。
清水社長はその現場を見て育ちながら、やがてある大志を持つようになる──「この誠実さを、未来へどう繋いでいけるか」
第2章|日立物流で学んだ、“仕組みが人を助ける”ということ
・日立物流で学んだこと
清水紀美彰さんが駿和物流に入ったのは、2010年。その後、彼は日立物流へ修行として出向する。
そこは、多忙を極めた現場であった。毎週のように新しい物流現場を立ち上げ、営業・設計・稼働すべてを一気通貫で回す超実践の場だった。
上司に教えられたのは、物流を成立させるための3要素──「箱(倉庫)」「足(配送網)」「人(作業員)」を揃えることが営業の仕事だということだった。
「仕事を取って、箱と足と人をセッティングする。物流とは、仕組みを設計し、現場を動かす“プロデュース”なんだ」と叩き込まれた。
・濃厚かつ実りある2年
この感覚は、後に清水氏が自社でWMSを構築する際の“要件定義力”の礎にもなっていく。
数字で現場を動かし、トラブルがあればすぐさま修正をかける。自社とは真逆のスピード感。本来なら、年一で行うことが年間、何回行われていただろう。
「物流は、仕組みで人を守るんだ」
そう思わされた日立物流の2年間。それまで、家庭環境もさることながら、自然に大学時代に物流を専攻するようになっていた彼にとって、ここは“現場での再教育の場”だったのだ。
清水氏はこの経験を通じて、物流を“属人的なもの”から“構造的なもの”へとアップデートする必要性を強く意識する。そして、それは帰社後、動き出すWMS開発へとつながっていく。
第3章|WMSは、信頼を未来に渡すための“手紙”だった
・WMSがあるにはあるが独自であることが大事
清水氏が、駿和物流に戻ってまず直面したのは、「自社に倉庫管理システム(WMS)が存在しない」という事実だった。勿論、倉庫はあるが、WMSは他社仕様のものを、色々バラバラに使っていたに過ぎない。
しかも、語弊を恐れず言えば、当時は“倉庫業”としての意識すら希薄だった。
それも仕方がない。なぜなら、納品代行の現場では、在庫の数や動きを正確に把握するのはメーカーや百貨店の役割であり、自社は「届けきること」に集中する構造だったからだ。
・誠実さゆえの盲点
でも逆に、だからこそ、彼らは百貨店に密着して、陳列に近いところまで、関わっていたし、メーカー側の倉庫で作業をすることもあった。彼らの強みは“寄り添い”ともに作業するところにあった。事業はトレードオフだから、そこに集中するなら、やむをえない。気づこうにも気づけなかった。
しかし、時代が変わり、荷主側から「在庫も見たい」「一括で任せたい」というニーズが増えていく中で、それに応えるには自社でも在庫を「管理できる倉庫」へと脱皮する必要があった。
清水さんはSE(エンジニア)を採用し、自ら要件を定義し、取引先の“あの時こんな要望があった”という記憶をコードに落とし込んだ。結果生まれたのは、ただのシステムではない。
“痒いところに手が届く御用聞き力”をテクノロジーにした、現場発のWMSだった。
第4章|土地に対しての考え方──BtoCがくれた希望
・BtoCが持つ可能性
ある種、倉庫として進化を遂げて、クライアントが増えていく。そんな折、清水さんはある数字に出会う。BtoC物流の現場における坪単価である。
つまり、今までは送り先が企業であった。(そりゃそうだ、百貨店の納品代行だから)。しかし、いざ、ネット通販(EC)などで、BtoCを請け負うと、それまでのその一坪あたりの単価が目に見えて違っていたのだ。
それは“空間”の話ではなかった。どれだけ“回転”させられるか。どれだけ“売れる流れ”をつくれるか。その設計力の差だった。
・次第にEC物流に関心を抱くように
同じ土地を使っていても、同じく商品を扱っていても、それでも、これだけの違いが出る。
だから、EC物流に関心を抱くことになるわけだ。額が云々以上に、その仕組みがそれまでとは、違う金額を出していたという現実。確かに、粗利は多いわけではない。だが、その売り上げの基準は今までの彼らの常識にはなかった。そして、そのこと自体に、BtoCの可能性を抱くこととなり、駿和物流を新たな道へと駆り立てるヒントとなった。
やり方次第では、きっと、今までとは全く違った形の収益を作りあげられる。
この時、彼の中で物流は“モノを置く空間”ではなく、“流れをつくる装置”だと再定義された。そして、より高回転な物流へ向けて、倉庫そのものの価値を見直していくことになる。
第5章|寄り添う物流──“1件からでもいい”と背中を押したい
・カスタマイズをしているがゆえのWMSの柔軟性
自社のWMSで生まれた柔軟な倉庫は、やがてEC事業者にも開放されていく。
改めてその売りは何かといえば、フットワークの軽さという。すなわち、そのWMSの柔軟性に裏付けられた、あらゆるニーズに応えられる倉庫環境だ。
そこでもフィットし始めることで、EC市場にも本腰を入れ始める。ただし、課題感として、元々、百貨店の納品代行の彼らは、全国的な物流会社としての認知はない(失礼!)。
ただ、清水さんは思っていた。
繰り返しになるが、自社でWMSを構築しているから、システムに依存することなく、倉庫を自由に変幻自在に変えることができる。あらゆる取引先のニーズに応えられる倉庫の体制ができているから、あとはそれを多くの人に知ってもらうだけだと。
・エンジニアへの的確な指示で仕組みから作れる
不思議な話だけど、ここには彼の日立物流での経験が活きていると思った。
それは清水さん自身が、新しいサービスを立ち上げるとともに、そのサービスに伴う要件定義ができること。つまり、要件定義ができるから、エンジニアに的確に指示出しができる。これが上記に書いた、自社でWMSを実装していることの利点を最大化させる。
だから、彼らの中で彼ららしい物流のあり方を示すわかりやすいサービスが必要だった。
その象徴が「キミロジ」というサービスなのだ。出荷1件から、商品は段ボール1箱でもOK。料金も完全従量制。自社WMSだからこそできる、きめ細やかな設定。
それは、以前、彼らが百貨店の立場であらゆる“御用聞き”としての物流の知見が生かされていると言っていいだろう。彼らの知見は、今、このWMSを実装することで最大化されるわけだ。
物流という“裏側”の整備があって初めて、表側(ショップや商品)が力を発揮できる──そんな考えのもと、小規模なEC事業者でも倉庫が使えるようにしたのがこの取り組みだ。
第6章|キミロジとは?──“1箱から、1件から”を実現する、ECの裾野を広げる
改めて、キミロジとは、小規模事業者やEC初心者に向けた「柔軟で、小さく始められる発送代行サービス」である。
特長は、たった3つのシンプルな思想。
一つは、預けるのは「段ボール1箱」からでいい。倉庫を借りるというと、もっと大きなものを想像するかもしれない。でもキミロジでは、小ロット・少在庫でも良い。それこそ、預けたい商品が10個でも、30個でも、倉庫スペースが空いていれば対応できる柔軟さがある。
二つ目は、出荷は「1件から」できるということ。通常の物流代行は“ある程度の数”がないと割に合わない。けれど、1日1件だけの出荷でも、ちゃんと動く。なぜなら、それは、自社開発のWMS(倉庫管理システム)が、フレキシブルな運用を可能にしているから。
三つ目は、料金体系は「従量課金制」だから無理がない。初期費用はいらないし、月額固定費だってない。使った分だけ支払う完全従量課金制にした。ECの“これから”に合わせて、伸びるときはしっかり支え、最初はそっと寄り添う。そんな料金設計なのである。
しかも入力はスマホ一つでできてしまう。まさにどこでもいっしょの物流。
でも大事なのは、なぜ、こういう設計になったのかだ。そこにこの会社として価値があるから。しかし、それは今までのストーリーを読めば、多くの人が納得することだろう。
最終章|物流は、人の挑戦のそばにある
・挑戦を後押し
聞いていて思った。要するに、、、
「商品を売る人の幅を、物流で広げたい」。
百貨店の売り場に届けきったあの頃のように、今は“ECの売り場”に向けて、商品を丁寧に運んで、顧客に喜ばれる日を待ち望んでいる。そんな感覚に近い。なぜなら、今や誰でもECができるようになったものの、中小零細企業にとっては、店の建て付け(カートシステムなど)と両輪であるはずの物流の壁は高い。金額で割に合わないのだ。
だから、清水さんの言葉に、嘘はない。
「物流会社として、うちと組めば売上が上がる。そう言ってもらえる存在になりたいんです」
テクノロジーの話をしているようで、彼が一番届けたいのは “あなたの挑戦を支えたい” という気持ちだ。
・どんな状況でも向き合う柔軟性に誠実が宿る
挑戦にはイレギュラーがつきもの。だからこそ――寄り添う姿勢、そして、柔軟にカスタマイズできる WMS、その仕組みを活かす倉庫環境。つまりは、駿和物流が必要になる時が来る。彼はずっとそれを信じて、日々、奮闘している。
そして、僕は清水さんに会い、とことん人を大事にする姿勢に共感したし、彼の思いを持って、それが未来に明るい兆しをもたらすことを思い、今日この記事を書いている。
挑戦は、信頼なしには始まらないからだ。物流が、何かを始める人の背中をそっと押す。そのために、今日も駿和物流の倉庫には灯りがともっている。
今日はこの辺で。