1. HOME
  2. News
  3. 買い談
  4. 通販/eコマース
  5. 「届ける」という信頼を、次の時代へ──駿和物流 代表 清水紀美彰さんが描く物流の再定義

「届ける」という信頼を、次の時代へ──駿和物流 代表 清水紀美彰さんが描く物流の再定義

 物流に、温度なんてあるのだろうか?駿和物流──九州に根ざすこの企業は、もともと百貨店の納品代行という、極めて繊細で、人の気配りが求められる現場で信頼を積み重ねてきた。その祖業に宿る“誠実さ”は、時代を越え、やがて「WMS(倉庫管理システム)」というテクノロジーに昇華され、今では“EC物流”という全く新しいフィールドで、ふたたび信頼を紡ぎ始めている。

 この物語は、一人の継承者・清水紀美彰が、自らの過去と向き合いながら、未来に向けて企業を変えていく挑戦の記録だ。そこには、彼らにしか出せない“想い”と“温もり”が、確かにある。

第1章|納品は「届ける」ことじゃない。「信頼を運ぶこと」だった。

・お客さんが一番

「お客さんが一番。その次が母さん。それ以外は全部三番以下だ」

 駿和物流・清水紀美彰社長が育った家庭には、そんな“父の教え”があった。創業者である父は、まるで戦うようにして物流と向き合い、家族の目の前でも会社のことばかり考えていた。

 駿和物流が担ってきたのは、九州の百貨店向けの納品代行。

 その仕事は、商品を“運ぶ”のではない。売り場に“預かる”ように届けるという、極めて繊細な任務だった。百貨店の倉庫に届けるのではない。売り場へ、タイミングと状態を完璧にして運び込む。その背後には、厳しい目を持ったバイヤーや現場担当者が控えており、そこでミスは許されない。

・融通のきく姿勢

 しかも駿和物流は、百貨店の内部的なパートナーであると同時に、商品を送るメーカーにとっては外部委託先でもある。つまり「百貨店とメーカーの“間”に立つ存在」であり、その双方に対して高い信頼を求められる存在だった。

 この独特な立ち位置が、駿和物流の強みになった。売り場まで届けきる緻密な対応と、それを裏で支える“融通”の効く姿勢。そのきめ細やかさこそが、メーカーからの信頼を集め、結果的に取引先が増え、会社が拡大していく原動力となった。

 清水社長はその現場を見て育ちながら、やがてある大志を持つようになる──「この誠実さを、未来へどう繋いでいけるか」

第2章|日立物流で学んだ、“仕組みが人を助ける”ということ

・日立物流で学んだこと

 清水紀美彰さんが駿和物流に入ったのは、2010年。その後、彼は日立物流へ修行として出向する。

 そこは、多忙を極めた現場であった。毎週のように新しい物流現場を立ち上げ、営業・設計・稼働すべてを一気通貫で回す超実践の場だった。

 上司に教えられたのは、物流を成立させるための3要素──「箱(倉庫)」「足(配送網)」「人(作業員)」を揃えることが営業の仕事だということだった。

 「仕事を取って、箱と足と人をセッティングする。物流とは、仕組みを設計し、現場を動かす“プロデュース”なんだ」と叩き込まれた。

・濃厚かつ実りある2年

この感覚は、後に清水氏が自社でWMSを構築する際の“要件定義力”の礎にもなっていく。

 数字で現場を動かし、トラブルがあればすぐさま修正をかける。自社とは真逆のスピード感。本来なら、年一で行うことが年間、何回行われていただろう。

 「物流は、仕組みで人を守るんだ」

 そう思わされた日立物流の2年間。それまで、家庭環境もさることながら、自然に大学時代に物流を専攻するようになっていた彼にとって、ここは“現場での再教育の場”だったのだ。

 清水氏はこの経験を通じて、物流を“属人的なもの”から“構造的なもの”へとアップデートする必要性を強く意識する。そして、それは帰社後、動き出すWMS開発へとつながっていく。

第3章|WMSは、信頼を未来に渡すための“手紙”だった

・WMSがあるにはあるが独自であることが大事

 清水氏が、駿和物流に戻ってまず直面したのは、「自社に倉庫管理システム(WMS)が存在しない」という事実だった。勿論、倉庫はあるが、WMSは他社仕様のものを、色々バラバラに使っていたに過ぎない。

 しかも、語弊を恐れず言えば、当時は“倉庫業”としての意識すら希薄だった。

 それも仕方がない。なぜなら、納品代行の現場では、在庫の数や動きを正確に把握するのはメーカーや百貨店の役割であり、自社は「届けきること」に集中する構造だったからだ。

・誠実さゆえの盲点

 でも逆に、だからこそ、彼らは百貨店に密着して、陳列に近いところまで、関わっていたし、メーカー側の倉庫で作業をすることもあった。彼らの強みは“寄り添い”ともに作業するところにあった。事業はトレードオフだから、そこに集中するなら、やむをえない。気づこうにも気づけなかった。

 しかし、時代が変わり、荷主側から「在庫も見たい」「一括で任せたい」というニーズが増えていく中で、それに応えるには自社でも在庫を「管理できる倉庫」へと脱皮する必要があった。

 清水さんはSE(エンジニア)を採用し、自ら要件を定義し、取引先の“あの時こんな要望があった”という記憶をコードに落とし込んだ。結果生まれたのは、ただのシステムではない。

“痒いところに手が届く御用聞き力”をテクノロジーにした、現場発のWMSだった。

第4章|土地に対しての考え方──BtoCがくれた希望

・BtoCが持つ可能性

 ある種、倉庫として進化を遂げて、クライアントが増えていく。そんな折、清水さんはある数字に出会う。BtoC物流の現場における坪単価である。

 つまり、今までは送り先が企業であった。(そりゃそうだ、百貨店の納品代行だから)。しかし、いざ、ネット通販(EC)などで、BtoCを請け負うと、それまでのその一坪あたりの単価が目に見えて違っていたのだ。

 それは“空間”の話ではなかった。どれだけ“回転”させられるか。どれだけ“売れる流れ”をつくれるか。その設計力の差だった。

・次第にEC物流に関心を抱くように

 同じ土地を使っていても、同じく商品を扱っていても、それでも、これだけの違いが出る。

 だから、EC物流に関心を抱くことになるわけだ。額が云々以上に、その仕組みがそれまでとは、違う金額を出していたという現実。確かに、粗利は多いわけではない。だが、その売り上げの基準は今までの彼らの常識にはなかった。そして、そのこと自体に、BtoCの可能性を抱くこととなり、駿和物流を新たな道へと駆り立てるヒントとなった。

 やり方次第では、きっと、今までとは全く違った形の収益を作りあげられる。

 この時、彼の中で物流は“モノを置く空間”ではなく、“流れをつくる装置”だと再定義された。そして、より高回転な物流へ向けて、倉庫そのものの価値を見直していくことになる。

第5章|寄り添う物流──“1件からでもいい”と背中を押したい

・カスタマイズをしているがゆえのWMSの柔軟性

 自社のWMSで生まれた柔軟な倉庫は、やがてEC事業者にも開放されていく。

 改めてその売りは何かといえば、フットワークの軽さという。すなわち、そのWMSの柔軟性に裏付けられた、あらゆるニーズに応えられる倉庫環境だ。

 そこでもフィットし始めることで、EC市場にも本腰を入れ始める。ただし、課題感として、元々、百貨店の納品代行の彼らは、全国的な物流会社としての認知はない(失礼!)。

 ただ、清水さんは思っていた。

  繰り返しになるが、自社でWMSを構築しているから、システムに依存することなく、倉庫を自由に変幻自在に変えることができる。あらゆる取引先のニーズに応えられる倉庫の体制ができているから、あとはそれを多くの人に知ってもらうだけだと。

・エンジニアへの的確な指示で仕組みから作れる

 不思議な話だけど、ここには彼の日立物流での経験が活きていると思った。

 それは清水さん自身が、新しいサービスを立ち上げるとともに、そのサービスに伴う要件定義ができること。つまり、要件定義ができるから、エンジニアに的確に指示出しができる。これが上記に書いた、自社でWMSを実装していることの利点を最大化させる。

  だから、彼らの中で彼ららしい物流のあり方を示すわかりやすいサービスが必要だった。

 その象徴が「キミロジ」というサービスなのだ。出荷1件から、商品は段ボール1箱でもOK。料金も完全従量制。自社WMSだからこそできる、きめ細やかな設定。

 それは、以前、彼らが百貨店の立場であらゆる“御用聞き”としての物流の知見が生かされていると言っていいだろう。彼らの知見は、今、このWMSを実装することで最大化されるわけだ。

 物流という“裏側”の整備があって初めて、表側(ショップや商品)が力を発揮できる──そんな考えのもと、小規模なEC事業者でも倉庫が使えるようにしたのがこの取り組みだ。

第6章|キミロジとは?──“1箱から、1件から”を実現する、ECの裾野を広げる

 改めて、キミロジとは、小規模事業者やEC初心者に向けた「柔軟で、小さく始められる発送代行サービス」である。

 特長は、たった3つのシンプルな思想。

 一つは、預けるのは「段ボール1箱」からでいい。倉庫を借りるというと、もっと大きなものを想像するかもしれない。でもキミロジでは、小ロット・少在庫でも良い。それこそ、預けたい商品が10個でも、30個でも、倉庫スペースが空いていれば対応できる柔軟さがある。

 二つ目は、出荷は「1件から」できるということ。通常の物流代行は“ある程度の数”がないと割に合わない。けれど、1日1件だけの出荷でも、ちゃんと動く。なぜなら、それは、自社開発のWMS(倉庫管理システム)が、フレキシブルな運用を可能にしているから。

 三つ目は、料金体系は「従量課金制」だから無理がない。初期費用はいらないし、月額固定費だってない。使った分だけ支払う完全従量課金制にした。ECの“これから”に合わせて、伸びるときはしっかり支え、最初はそっと寄り添う。そんな料金設計なのである。

 しかも入力はスマホ一つでできてしまう。まさにどこでもいっしょの物流。

 でも大事なのは、なぜ、こういう設計になったのかだ。そこにこの会社として価値があるから。しかし、それは今までのストーリーを読めば、多くの人が納得することだろう。

最終章|物流は、人の挑戦のそばにある

・挑戦を後押し

 聞いていて思った。要するに、、、

「商品を売る人の幅を、物流で広げたい」。

 百貨店の売り場に届けきったあの頃のように、今は“ECの売り場”に向けて、商品を丁寧に運んで、顧客に喜ばれる日を待ち望んでいる。そんな感覚に近い。なぜなら、今や誰でもECができるようになったものの、中小零細企業にとっては、店の建て付け(カートシステムなど)と両輪であるはずの物流の壁は高い。金額で割に合わないのだ。

 だから、清水さんの言葉に、嘘はない。

「物流会社として、うちと組めば売上が上がる。そう言ってもらえる存在になりたいんです」

テクノロジーの話をしているようで、彼が一番届けたいのは “あなたの挑戦を支えたい” という気持ちだ。

・どんな状況でも向き合う柔軟性に誠実が宿る

 挑戦にはイレギュラーがつきもの。だからこそ――寄り添う姿勢、そして、柔軟にカスタマイズできる WMS、その仕組みを活かす倉庫環境。つまりは、駿和物流が必要になる時が来る。彼はずっとそれを信じて、日々、奮闘している。

 そして、僕は清水さんに会い、とことん人を大事にする姿勢に共感したし、彼の思いを持って、それが未来に明るい兆しをもたらすことを思い、今日この記事を書いている。

 挑戦は、信頼なしには始まらないからだ。物流が、何かを始める人の背中をそっと押す。そのために、今日も駿和物流の倉庫には灯りがともっている。

 今日はこの辺で。

関連記事

145が自らの考えを大事に、わかりやすく想いを持ってビジネスの本質に迫るメディアです。主に小売業、ものづくりとキャラクターライセンスを追っています。
詳しくはこちら

all/初心者 culture/SDGs culture/学生クリエイター culture/推し活 culture/渋谷 culture/生成AI culture/調査・データ DEEP DIVE: 1推し(イチオシ) DEEP DIVE: ものづくりのセオリー DEEP DIVE: アーティストの感性に触れる DEEP DIVE: ボーダーレス─僕らは空間と時間をクリエイトする DEEP DIVE: 奥深きキャラクターの背景 DEEP DIVE: 店の声─舞台裏での奮闘記 DEEP DIVE: 潜入イベントレポ DEEP DIVE: 賢くなろう─商売の教科書 DEEP DIVE: 超境─クールジャパンの新次元へ EC/Amazon EC/au PAY マーケット EC/BASE EC/Instagram EC/LINE EC/Shopify EC/Yahoo!ショッピング EC/YouTube EC/フューチャーショップ EC/メイクショップ EC/日本郵便 EC/楽天ファッション EC/楽天市場 ECshop/MA ECshop/OEM ECshop/WMS ECshop/ささげ(採寸・撮影・原稿) ECshop/アプリ ECshop/オンラインモール ECshop/コンサルタント ECshop/コールセンター ECshop/チャット ECshop/ライブコマース ECshop/多店舗統合システム(OMS) ECshop/自社EC Fancy/Curious George Fancy/PEANUTS Fancy/すみっコぐらし Fancy/カピバラさん Fancy/サンエックス Fancy/サンリオ Fancy/シルバニアファミリー maker/バンダイ maker/ユニクロ RealShop/ZARA RealShop/コンビニ RealShop/スーパーマーケット RealShop/専門店 RealShop/百貨店・商業施設 RealShop/飲食店 Shop/ウォルマート Shop/接客スキル Shop/決済 【Buying】オムニチャネル・OMO 【buying】サプライチェーンマネジメント 【Buying】フィンテック・金融 【Buying】フルフィルメント 【Buying】フードデリバリー 【Buying】マーケティング・CRM 【Buying】リユース 【Buying】レンタル 【buying】ロジスティクス(流通) 【Buying】商品企画/マーチャンダイジング 【Buying】海外 【Buying】集客 【Fancy】ディズニー 【Fancy】ピーターラビット 【Fancy】ムーミン 【Game】Nintendo 【IP】Buzzverse – SNSから拡がる共感の宇宙 【IP】Gameverse–Gameから派生し、自分ごととして関わる世界 【IP】Storyverse –物語から生まれたキャラクターたち 【IP】Zakkaverse–モノとともに日常を彩るキャラクターの世界 【IP】キャラクター・スポット 【IP】ファッションブランド 【IP】未来図(WEB3/NFT等) 【Product】ふるさと納税 【Product】アクセ・ジュエリー 【Product】アパレル 【Product】インテリア 【Product】コスメ・健康 【Product】スイーツ 【Product】ホーム・台所 【Product】文具 【Product】玩具・ガチャ 【Product】花・植物 【product】製造業テック 【Product】雑貨・小物 【Product】食品 【Product】飲料・酒 キャリアと生き方|HERO insight —逆境をチャンスに変えるストーリー ビジネス思考法|HERO insight —“仕組み”と“本質”を捉える視点 事業化のリアル|HERO insight —アイデアを持続可能なビジネスへ 創造のヒント|HERO insight —人の心を惹きつけるアイデアの源泉

最近の記事