SOY受賞店舗に学ぶ 挑戦し続けるEC事業者のマインド〜市場の変化と新たなブランド価値〜

先週、「Rakuten Shop of the Year 2024」へ取材に行き、受賞店舗には共通する特徴があることに気づいた。それは、市場の変化に適応しながら、ブランドとしての価値をどう伝えるかを常に考え続けていることだ。その結果、新たな顧客を開拓し、ECの枠を超えたブランドを確立。それが楽天経済圏の人々の心をつかんでいる。
本記事では、特に印象的だった三店舗を紹介する。一つは、YouTubeを活用してD2Cブランドを確立した「mariness」。もう一つは、新たな市場を生み出した「TENTIAL」。そして最後に、顧客のリアルなニーズを捉えた「HUG.U」。彼らの成長の背景には、「とりあえず売る」のではなく、「どのようにブランドとして認知され、成長するか」を考え続ける姿勢があった。
YouTubeでブランド価値を構築した「mariness」

YouTubeでの急成長とブランド戦略
「サプライズ受賞でした! 去年の新人賞も驚きでしたが、2年連続での受賞は本当にありがたいです。」
「mariness(マリネス)」は、ダイエット・健康ジャンル賞を受賞。受賞の喜びを語る竹脇まりなさん。彼女は、YouTubeを活用し、ブランドを確立した。その成功の鍵は、視聴者との距離感を大切にしながら、商品を展開してきたことにある。
つまり、商品のためにYouTubeがあるのではない。YouTubeの文化をより深掘りする過程で、商品企画にたどり着いたのだ。だから、ここではYouTubeの話を軸に、今に至る経緯について聞いてみた。
遡ること、2019年秋、「2週間で10kg痩せるハンドクラップダンス」動画が大ヒット。それを機に宅トレ(自宅フィットネス)チャンネルへと舵を切り、コロナ禍を追い風に登録者数100万人を突破する急成長を遂げた。
チームワークによるコンテンツの継続性
単なる人気ではなく、視聴者の要望を取り入れたことが商品のブレイクにつながった。「マンションOK」エクササイズの企画や、「観るだけでなく一緒にやる」参加型のスタイルが共感を呼んだのだ。
正直、そのネタ作りには困らないのか。そう質問して見えてきたのは、YouTubeのチームワークが支えるコンテンツ作りである。竹脇さんの背後には、ご自身の夫も含め、彼女以外にも専門家チームが控える。だから、各々の視点で、常に新たなアイデアを生み出し続けているのである。
その結果、「無理なく体を動かし、自分を褒める」という前向きなメッセージが根付いた。
また、視聴者からのフィードバックを活かし、飽きられない工夫も行っている。例えば、新しいトレーニング動画のリリース時には、SNSを活用したキャンペーンを実施し、参加者を巻き込む戦略を取っている。
そして満を持して、展開されたのが、mariness proteinである。プロテインというととかく「ムキムキのアスリート向け」のイメージが付きまとう。しかし、それを女性向けの美容・ダイエット商材として展開した。
ECとの相乗効果とブランドの確立
そして、それらは、YouTubeでのブランドビジョン「運動を文化にする」に沿った商品開発の賜物だ。YouTubeの番組が商品の世界観を示し、商品はYouTubeの考えを示し、相関関係を生み出す。
ゆえに購入者の多くは、全て考え方に共感して集まったファンである。だから、逆に「楽天市場」との相乗効果も大きい。
「YouTubeで知った人だけでなく、楽天でプロテインを探している人にもアプローチできる」と竹脇さん。
楽天に集まる人たちは商品を探して訪れる。彼らが集めてきたユーザーとは異なる。だから、ここでの出会いが、商品を通して、そのまま動画にプラスに作用する。
ECと動画メディアの融合が、新たな市場を切り開いた。
色々SNSを見れば、コメント欄やSNSで積極的に交流しているようである。商品力もさることながら、このファンとの距離感は、商品の販売面でも継続面でも奏功するだろう。「楽天市場」の存在がこれまでアプローチできなかった存在にリーチ。新たなファンを創出して、その拡大は現在進行形である。こういう繋がり方があるのかと思った。
新たな市場を生み出した「TENTIAL」

アスリートの視点で開発された製品
続いて、2024年の「Rakuten Shop of the Year」において、インナー・下着・ナイトウェアジャンル賞を受賞した「TENTIAL(テンシャル)」。
彼らもまた、市場の変化を見極め、新たな価値観を醸成している。
僕らが寝具と聞いて思い浮かべるのはなんだろう。寝る時に着やすい、体を動かしやすいというところか。
その点、彼らはみている箇所が違っていた。創業者がアスリート出身という背景を活かし、「社会人が快適と感じる生活」を創出することを目指したのである。
代表的な商品が「BAKUNE」だ。
つまり、スポーツ科学とテクノロジーを融合した専門性の高さを、寝具に取り入れた。そして、寝ている間に「回復する」という価値観を持ち込んだわけのだ。それを彼らは「リカバリーウェア」と言い、その概念を多くの人に訴えかけることで、受け入れられたのである。
商品というよりは概念を啓蒙したと言って良いだろう。
リカバリーウェア市場の確立
ただ、確かに、その理念はわかった。しかし、それを伝えていくための工夫も必要なのではないか。彼らは、同商品を販売し始めてから、わずか4年足らずでヒットに恵まれた。伝える工夫なしには、そういう加速的な広がりは得られない。そう質問すると、担当者は大きくうなづき、こう話してくれた。
「確かに、市場にないカテゴリーを作るのは簡単ではありません。『これは何に使うのか?』『本当に効果があるのか?』という疑問を抱かせないように、ブランドの言語化が重要でした」
この戦略のもと、生まれたのが「疲労回復パジャマ」というシンプルなメッセージ。
これらを広告やSNSを活用し、広めていくことで、従来の寝具のユーザーとは違う、新市場を確立した。アイキャッチとしてそれらのキーワードを用いて、消費者が「試してみたい」と思える仕組みを作り上げた。
楽天市場での展開と安心感の提供
一方で、TENTIALは概念を重んじるがゆえ、ウェブメディア「SPOSHIRU」を運営。スポーツ科学の知識を発信して、それらの価値を深掘りした。いうまでもなく、製品の専門性や信頼性を高め、ブランド価値を向上させることに繋がる。先ほどの「mariness」と共通する。
まずは伝えたい価値観が先にあり、そこに商品が生まれている。
メディアを通して、関係が構築されるほど、共感が広がる。また、それらのユーザーのデータを収集・分析することができる。だから、それらを通して、ユーザー目線で、そのリカバリーはブラッシュアップされたということになる。土台は盤石だ。
楽天市場への出店は、買い物を入り口に、それらの文化を広めようということに他ならない。価値観が先行する中で、今度は、ECでものを買おうという人の選択肢として商品を見てもらう。だから、細心の注意を払ったのは、ECで求められる「安心感」だった。広告や商品ページの工夫により、消費者が不安を抱かずに購入できる環境を整えた。
これらは、口コミを積極的に活用し、実際に使用したユーザーの声を前面に押し出したコンテンツマーケティングとは違う広がりを見せたのである。
TENTIALの成功は、「商品を売るのではなく、市場を作る」という視点を持ち続けたことによるものである。
顧客のリアルなニーズを捉えた「HUG.U」

最後に「HUG.U(ハグユー)」についても触れよう。2024年の「Rakuten Shop of the Year」で特別賞を受賞。10年以上の歴史を持ち、「体型をカバーし、快適に着られる服」をテーマに支持を集める。
誰しもこんなことはないだろうか?
「もう少しここが隠れたらいいのに」「この部分がフィットしてたらスタイルが良く見えるのに」
こうした消費者のリアルな声を商品に反映した。プリーツスカートの洗濯耐久性向上や、マタニティ対応ウェア、裏起毛アイテムなど、多様なニーズに応えることになった。ファッションに絡む悩みは案外多い。
企画のヒントとなったのが楽天市場のレビュー。
レビューをマーケットリサーチツールとして活用し、消費者の意見を即座に商品へ反映。お客様の声が商品に生かされ、悩みを商品で解決するから、店の姿勢に共感が集まる。
言うなれば、彼女たちの場合、商品を“メディア”にしたのだ。
とはいえ、伝わらなければ、購入へと至らない。だから、、、
「そもそも楽天市場では試着ができない。だから、体型別の着こなし例や生地の質感を分かりやすく伝えることにこだわっています。」
この細かさは他に類を見ないほど。つまり、機能面を視覚的な情報で発信し、購入のハードルを下げつつ、個々の共感を集める。購入して、悩みが解決する度、期待を込めてレビューする。リピート購入は言わずもがな、HUG.Uの文化に共感しているからだ。
ブランドの価値を考え続けることが成功の鍵
お気づきいただけただろうか。
今までの楽天市場での売り方とは少し様相が異なることに。一言で言えば、より情緒性を持った商品であるということ。つまり、「とりあえず売る」のではなく、「どのようにブランドとして認知され、成長するか」を考え続けている。まとめると・・・
- ・mariness はYouTubeで考えを定着させ、フィットネス文化とプロテイン市場を結びつけた。
- ・TENTIAL は「リカバリーウェア」という新市場を創出し、ブランドの言語化を徹底。
- ・HUG.U は、顧客の声を反映し、オシャレさに機能性を付加して、共感を促すブランドへと進化。
そう思うと、もはや、ECは単なる販売の場ではなくなっていることがわかる。一方で、楽天市場には商品を購入する目的で集まるユーザーがいる。だから、個々でブランドの価値を伝え、育んだ後で、ブランドが楽天市場の存在に注目しているわけだ。今度は商品を通して共感を促し、自ら掲げる文化に関心を持ってもらうという新たな視点が生まれているのである。
それらの事実は、今後のEC運営において「どのように伝え、関係を築くか」がより重要になることを、間違いなく、示しているのだと思う。
今日はこの辺で。