三菱商事・KDDI・ローソンの協業による新しいコンビニモデル:リアルとデータの融合が生む未来
最終的なプラットフォームは「街」なのだろう。そして、リアルの付加価値は、裏側でデジタルを機能させることで最大化する時代がすぐそこまできている。昨日、三菱商事、ローソン、KDDIの3社が記者会見を開き、新たなコンビニエンスストアの未来像を示したけど、それを痛感したのだ。リアルとテックの間を行き来して、僕らはどちらとも言えない、今までにない体験を手にする。地域を巻き込んで、壮大な構想が、彼らの連携にはあるのだ。
1. 三菱商事の支援とローソンの成長
ローソンにとって創業以来、大きな節目は何度かあった。ただ、その多くは三菱商事によってもたらされていて、不思議と時代背景にもあっている。一つは2000年の業務提携の開始で、もう一つは2017年の子会社化である。
三菱商事の代表取締役 中西勝也さん曰く、商社としてサプライチェーンやエネルギー、物流などの面で支援を行い、ローソンの付加価値を上げてきた。単なる店ではなく、その大元となる部分のインフラを商社として補強していく。それは、両方にとって利点があった。
流れが変わるのは、それもまた時代背景ゆえのこと。三菱商事には「FILM」という戦略があった。それはFinancial Technology、Information Technology、Logistics Technology、Marketing Technologyを指す。
中西さん曰く、Information Technologyにおいては三菱商事単体では着手しきれない。そんな部分において、通信キャリアとしてのKDDIの存在が大きくなっていったわけである。
2. リアル店舗の強みとデータ基盤の課題
一方、ローソンはどうだろう。リアル店舗が存在することで、長年にわたり、生活者に根付いた体験価値を提供してきた。しかし、現代においては、リアルの強みだけでは限界がでてきた。
一番は、データ基盤が整っていないことだろう。ご存知の通り、リアルに足を運んで、お馴染みの店員がいることはあっても、その関係性がデータとして蓄積されない。ゆえに、顧客単位でのサービス提供に限りがあったのである。
つまり、リアルの価値を最大限に引き出す。そのためには、データの活用が不可欠となる。
ここでKDDIが出てくる。彼らが提供する高度なデータ基盤と、リソースをローソンに組み合わせる。そうすることで、リアル店舗の価値がさらに深まる。
例えば、こんなことも可能になる。消費者の購買行動をリアルタイムで把握し、適切なサービスや商品を提供できる。下の写真は寿司を取ったら、天ぷらそばの提案をサイネージで提案をしてくれる。上にはカメラがあり、女性であるとか、そういうヒントを手がかりにパーソナライズデータに基づく、ふさわしい提案がなされる。
正直、よく考えられた連携だなと思った。というのは、KDDIにはau、UQ Mobileを利用する3100万人の“継続的な”ユーザーが既に存在する。KDDIと組めば深掘りするに相当する、データをローソンは手にできる可能性が出てくる。
3. テクノロジーと顧客体験の融合
そもそもKDDIは、単体で深掘りしていく為の施策を続けている。それは、通信に留まらないサービス提供だ。
例えば、「auマネ活プラン」という金融特典を通信の「使い放題MAX 5G/4G」と掛け合わせた。結果、そのセットは70万件を突破。通信の解約率が25%改善するとともに、利用者のARPUが10%増加した。でも多くはそんな風にして、デジタルで完結していたのだ。
参考:どこが売れるかでなくどこの誰に売るか au コマース&ライフ 社長 桑田祐二さんと話して。
そこに、ローソンを加えることができれば、リアルを巻き込んだ体験が補完される。
それを叶える、肝となるのがPontaなのである。それはローソンにおいて、ポイントを「貯めて」「使う」存在であったに過ぎない。
しかし、PontaをKDDIのサービスにおいても、付与されるよう、組みあわせた。これで、通信を利用しているユーザーにもPontaが付与されれることで、リアル、ネットを超えた顧客データが集まる。その土台は、継続的な利用に基づく、信用の高いデータ。その顧客と紐づくことの利点は大きい。
そこで、スマートフォンを通じた購買体験や、AIを活用したリコメンド機能をリアル店舗に導入する。
これで、これまでの一方通行のマーケティングとは異なる、双方向的な購買体験。それを「ローソンが」生み出せる素地がここにできたのである。
4.PontaはKDDIの通信ユーザーのデータと紐付きローソンの価値を上げる
それを前提として、今回の子会社化を契機に、KDDIがギアを入れるわけだ。
「au スマートパス プレミアム」という、月額548円の定額サービスで、通信のコアユーザー向けサービスがある。昨今の通信環境の向上に伴い、周辺領域を手厚くフォローする。アニメの見放題、音楽の聴き放題など、サブスクリプションで提供することで、快適なスマホライフを“継続的に”演出している。
それを思い切って「Pontaパス」へと名称を変える。これは今までの特典に加え、ローソンを巻き込んでサービスが大きく刷新されることを意味する。
例えば、ローソンで購入する商品に関して使える、600円相当のクーポンが毎週受け取れる。定額料金を既に上回る金額に相当する特典である。それ以外にも、Pontaポイントの還元率が通常よりも高くなる。しかも、それらのアプローチは個々のユーザーの趣味嗜好に合わせたものになる。
これで初めて、パーソナライズされたデータに基づき、アプローチが可能になる。リアル店として難しかったハードルがこれで乗り越えられる。デジタルを土台に、リアルとネットの双方で、精度の高いパーソナライズデータが形成されることになるのである。
5. 効率化と人手不足への対応
また、同時に昨今のKDDIにおいては、BtoB戦略を推進している。それがローソンのリアル店舗運営における課題の一つである人手不足に対して、応える事ができる。
今の課題は、デジタルで解決できるものが多い。だから、KDDIは自らの通信網を盤石にして、その上で共通化したあらゆるBtoB向けのソリューションを用意しているのだ。
参考:KDDIとAIがもたらす可能性、そして企業の未来 潜入!KDDI SUMMIT
それらのソリューションはAIなど最新のテクノロジーを備えていて、成果が見込まれるもの。それをKDDIの共通した基盤の上に成り立たせるから、生産性高く、柔軟にそれを推進できる。この戦略にローソンの進化を掛け合わせる。
具体的には、AIやロボティクス技術を活用し、店舗のオペレーションの30%削減を目指す。
現に、最近、ローソンではAI.COというサービスを導入した。商品の仕入れと在庫数量、その在庫数量に伴う値引きを洗い出せるもの。だから店の売上と粗利を向上させられ、活用するフランチャイズの店長からも評判良く、運営上での付加価値となっている。
これによって、何が大きいか。それは、当然、従業員の負担が軽減され、新たな価値創出に向けた業務へとリソースを集中させられることである。皆がリアルに足を運ぶ所以を考え、顧客満足度を考える。
6.Pavo(パボ)のギガチャージサービス
一方で、ローソン 代表取締役 竹増貞信さんは、最短15分での配送を実現するクイックコマースにも言及した。
中国や他の市場での成功をモデルに、日本国内でも展開を進めていく。顧客のニーズに迅速に応え、距離を超えた利便性を提供すること。それこそが、新しい形のコンビニエンスなのだとする。
KDDIも自らのサービスの可能性を、ローソンを利用することで広げる。それが「povo 2.0ギガチャージ専用eSIM」である。
ローソンに来店するたびに「データ容量がチャージされる」のである。そもそも「Pavo(パボ)」は柔軟性を持った通信サービス。Pavoはこういう風に用途に合わせて切り分けをして、サービス化できるのが長所。
しかも、既に登録している通信キャリアのサブ回線として行える。だから、すべてのユーザーが対象となる。さらに、無料でそれらを得られ、最大で月10回まで利用可能という大盤振る舞いだ。
これにより、主回線でデータ上限を超えてもOK。「Pavo」を利用することで安心して通信が続けられる仕組み。また、これを求めて、ローソンへ来店する事が増えるだろう。
彼らが示す、この新しいコンビニモデル。それは、単に商品の購入だけでなく、生活全般にわたるサポートを提供する場。そして、地域社会に深く根ざした存在を目指していく。
7. 新しいコンビニの未来と社会課題への対応
そして、もっと構想は大きく。地域に根ざして貢献するレベルを広げていくために、テクノロジーとリアルを融合させる。それは、少子高齢化や地方創生など、現代社会が抱える課題にもトライ。街全体を巻き込み、取り組んでいくのである。
だから、その証拠にローソンは「ローソンタウン」という新しい街づくりの構想を掲げた。
ローソンのリアル店舗を中心に、テクノロジーを活用して地域社会の活性化を図る。それゆえ、僕は、冒頭に、最終的なプラットフォームは「街」なのかもしれないと書いた。
街単位で共通化させたインフラを作れば、そこの上で生産性高くあらゆるサービスが提供できる。結果的に、ローソンを核として、保育園や老人ホーム、エンターテインメント施設などを含むコミュニティ形成が進む。それを通じて、老若男女が集う場を提供し、豊かな社会を実現できるというわけだ。
ローソンにとっては、サプライチェーンの部分で三菱商事と強固な関係を築く。そして、その裏側で機能するのが、KDDIのデジタルのインフラ。それらを生産性高く、店舗運営を可能にさせるとともに、通信で培った顧客データの上にサービスを向上させる。
その時、ローソンは単なるお店ではなく、住民単位で、各々の必要に応える拠点となっていく。そこが軸となって、街全体の快適な生活を作り上げていく。だから、コンビニが見据える世界は最終的に街を変えていくのだ。
今日はこの辺で。