Wi-Fiのデバイスをレンタル?ニッチゆえの奮闘とシステムを味方につけ年商20億円企業へ飛躍の理由
なんでもモノを売ればいいのではない。少し視点を考えて、世の中に必要なモノを必要な形で提供するという独自目線も大事なことに気付かされる。例えば、Wi-Fiを使えるデバイスを“貸し出す”。モバイルプランニングは、そうやって生活の環境改善を果たすことで、売上を伸ばした。通信は、今や仕事に欠かせないインフラだからこそ、その着眼点で時代の波に乗ったのだ。一方で、ニッチゆえに事業的に属人的になりがち。その成長は限定的かと思われたが、属人的でありながらもシステムを味方につけて、約6年ほどで、年商約1.5億円を20億円越えするまでにしたのである。
ニッチさゆえになかなか手が出せないWi-Fi事業
1.売るのではなくは貸す
ネットが当たり前の時代だ。とはいえ、Wi-Fiに関するデバイスを「売る」のではなく「貸し出す」。ご存知の通り、通信まわりのインフラは、必要でありながら手間がかかる。企業はその時々の規模感に合わせて、柔軟に対処しなければいけない。
ならば貸し出そう。貸し出す金額で、マネタイズすることで、企業側の利便性を向上させた。そこに彼らが歓迎される所以がある。それが、今や年商20億円を越える売上にもなっているのだけど、それが「誰でもできるわけではない」から、形となっている。
誰でもできるわけではない。聞こえはいいけど、そこには自由さの利点がある一方で、不自由さのデメリットもある。そことの戦いが彼らの歴史そのものである。
さてさて、そこで、この取材に対応してくれたのが、執行役員の渡邊真利子さん。
恥ずかしがり屋で、写真すら拒む彼女ではある。(だから、TOP写真はふらりと取材現場にやってきた代表取締役古賀広幸さんである。笑)。まさに、古賀さんの自由な裁量のもと、彼女は、煩雑になりがちな現場を整理して、飛躍させた功労者だと僕は受け止めた。
2.元々は通信に関しての専門家
そもそもこの会社は古賀さんが一人で始めた会社。創業当初は、通信の自由化に伴い、MVNO事業ができるようになったという時代。とはいえ、MVNOって何?「それができるようになった」と言ったところで、どうすれば、企業にとってプラスになるのかが分からない。
そこで、第二電電の出身で、そこに知見があった古賀さんが、そういう人への事業の指南をしたり、コンサルティングをしていたというのが始まりである。その後、この会社は、渡邊さんの入社時期と時を同じくして、同社が買収した会社NETAGEの事業を手にしたことで、転換期を迎える。
2015年から2016年の話でそれほど昔の話ではない。
「儲かるよ!」という触れ込みで、この企業を買収したはず。なのだが、半年も経過して見えてきたのは、毎月、赤字続きの実態であった。
そもそも、NETAGEは、主に個人に対して、Wi-Fiルータのレンタルを行い、通信のインフラを整備していくことで、日常生活の向上を行うものだった。それこそ、そのジャンルはブルーオーシャンだとされていたわけだけど、赤字を目の当たりにして、気づくのである。
3.ど素人からのスタートで赤字立て直し
ジャンルとして可能性はあるものの、買収したものだけでは、立ち行かなくなる。そう察するのに時間はかからなかったわけだ。そこで、白羽の矢が立ったのはECサイトである。元々、NETAGEも自社でそのレンタルをできるサイトを作っていたが、まだ、使いこなせているとはいえなかったのだ。つまり、ブルーオーシャンではありながらも、事業の可能性を最大化できていなかったのである。
ここがみそ。つまり、売り上げの立て方は想定できていたものの、好循環でまわる「仕組み」が確立できていなかった。だから、渡邊さんの入社と時を同じくしたことが、運命的なのだ。
これを語る上では渡邊さんのことにも触れさせてもらう。彼女は体当たりで色々な社会経験をこなして、この場所に辿り着いている。時に、芸能事務所でアイドルのマネージャーをしていたり、インフルエンサーによるマーケティング会社など、その振り幅には驚かされる。
確かに、それまでの彼女は好奇心旺盛とも言える。だが、素の彼女は真面目で、自分の可能性はどこで活かせるのかを求めて、気がせっていた部分もあったのだと思う。元を辿れば、実家が干物屋さんを経営しており、「働かざる者食うべからず」という考えが強い。自ら事業は生み出すものだという考え方によれば、自ずとその行動が主体的なものになるのはうなづける。
そう、この会社の雑然とした、その状況は過去のどの仕事よりも彼女の性に合っていたのだ。
3.実は性に合っていた
徹底して古賀さんから言われたのは、「売り上げを上げろ」ということ。
中身に関しては口出しをしなかったし、だから、彼女はそこで頭角を見せ始める。上記の通り、彼女の気質もある。ただ、彼女の過去の経験で、インフルエンサーマーケティングをやる中、エクセルで全て分析していたので、それも奏功した。ことほど左様に、人生とは何がプラスになるかわからないものだ。
彼女が最初に手掛けたのは、新たな売り場を作ること。買収前からあった自社サイトに加え、「楽天市場」、「Yahoo!ショッピング」への出店と、自社EC「九州Wi-Fiレンタル」での展開を開始した。
ここが運命の分かれ道。基本、ECサイトだから、レンタルと親和性の高い仕様になっていない。だから、元々の自社のサイトも含めると、運用は困難を極める。だが逆に、彼女は自由な裁量で、自分とエクセル一つで、仕組みを作り上げていくのである。
つまり、元からあった財産「だけで」やりくりしろ。もし、そう言われていたら、こうはならなかったはずだ。これを契機に、このモバイルWi-Fiのレンタル事業の全体の業務フローを徹底的に洗い出し、エクセルで、共通化させ、飛躍の一歩を手に入れたわけである。光明が見えたのだ。
4.未開の地を歩くようなもの
最初は「月500万円くらいは、それでできるだろう」。そう高を括っていたわけだが、驚くなかれ、月々2000万円の売上達成まで、時間を要するに至らなかった。
考えてみればわかるが、レンタルである。当然、戻ってくるものをすぐに新品同様にクリーニングし、次なる出荷に備えなければならない。加えて、通信は使い続けていることが前提で、返却後、貸出までのタイムラグがない方が、粗利は高まる。
このサイクルが、売上と共に、大きくなっていく。だから、このエクセルを使った管理が徹底されてこそ、在庫数を増やすことができる。在庫数が増えれば、また、そのサイクルが機能して、という具合に、エクセル管理が右肩上がりを生み出す原動力となった。
でも、大変かと言われれば、そうではなく、売上が上がっても、適切に管理されている。だから、ありがちな徹夜作業などは皆無だった。買収したWi-Fi事業に関しては、ここが肝だったのだとわかる。
2016年には、2億9000万円だった売上は、2017年に4億67000万円、2018年には6億3700万円と右肩上がりを辿った。
今もそうだが、だからホワイト企業。午後6時には綺麗に、皆が家路へと急ぐ。これなら人員増加も難しくない。涼しい顔で、「2000万円くらいの売上までなら、エクセル一つで管理できる自信がある」と渡邊さんはいうが、これこそがこの会社の転機となった。
属人的なところが差別化されて強さに
1.自由さと不自由さ
ただ、懸念点もあった。これは学びだなと思ったのは、整理によって、業績が上がった。けれど、業績のレベルによって、求められる整理の度合いが変わってくる。この会社ならではの「自由さ」ゆえの強さは、同時に「不自由さ」ゆえの弱さを混在させることになるのである。
どういうことか。この会社は「売る」ことを生業としていなかったから、「売る」ルールにとらわれない。それゆえに「自由に」運営の仕組みを構築できた。渡邊さんのような存在もあって、その「自由さ」はこの会社の強みになった。彼女曰く、あらゆる法人などの要望にとにかく応えてきた。それが、結果、信用となり、リピーターを形成していたのである。
ただ、その一方、その「自由さ」は、属人的な要素をはらむ。
そもそも、エクセルによる管理を彼女がやっていたことも属人的だ。
また、買収前からある自社のサイトも属人化が進んでいた。仕様がわからないから、買収と共に関わったエンジニアがそのまま、ジョイン。何かあれば、そこで全て、そのエンジニアに一任していた状態だ。あの人がいないとできない。その点だけは、売上が伸びるほど、不安が募るばかりであった。
2.不自由さを乗り越えるシステムのあり方は?
世にいうECのシステムは、「売る」ことに特化しているから、皆、一律共通化させて、その中で運用することでコストを抑え、差別化を図っている。しかし、モバイルプランニングは、全く異なる。現場で、個々が判断し、お客様にとって必要な要望に対しては全て答えた。その顧客ファーストが属人的なまま、安心感となり、強力な差別化要因となっていて、売上と直結している。
どういうシステム会社と組めばいいのか、それすらもわからない。そんな中で、コロナ禍に突入して、いよいよ、このままでは、今、会社が持つポテンシャルを最大限活かしきれていないことに気づく。
確かに、過去から照らし合わせれば、十分に伸びていた。けれど、このマーケットは更に伸び代があったのだ。
思えば、一番最初の買収時の古賀さんの着眼点は正しかったってわけだ。悠長にそんなふうに喜んでいるそぶりもなく、彼らは数社との話し合いの末、UZENと出会い、手を組むことになった。さらなる可能性のもと、飛躍を目指して。
2.UZENとの出会いで属人的は進化する
へえと思った。UZENといえば「G1commerce」という自社ECを手がけたい企業に、プラットフォームを提供している。それも、割とカスタマイズ性の高いサイトを得意としている。だから、レンタルという少し、ECをアレンジした仕組みの構築も可能なのかと、気付かされたわけである。
誤魔化しがない。UZEN(というよりは同社 エンジニアの井上さん(苦笑))の資料の徹底ぶりに対しての渡邊さんの印象はそれだった。
営業サイドにおいては資料が細かすぎて、読みづらいのでは、という声すらあった。けれど、そのくらい、最初から、プレゼンテーションの資料はぎっしり字で埋め尽くされていた。でも、渡邊さんはそこを見極めていて、その指摘はかなり鋭い。
「『うまくいっていなくて、いい感じにします』という人がいますが、それは一番信用できないと思っているんです。なぜなら、『通信のことも知らない。』『レンタルのことも知らない。』なのに、どうやって『いい感じにする』というのですか?」と。
3.ECの知見で世の中にビジネスを作り出す
なるほど。渡邊さん、仰る通り。
確かにUZENは、元を辿れば、同じ自社ECのプラットフォーマーに関わっていた人が多く集まって、志を共にしている。その対象企業がどこであれ、利用者の使いやすい環境が、実は、ECの専門性を駆使することで、柔軟に、具現化できるのではないか。共通して、その姿勢がUZENの根底にある。
だから、カスタマイズなのだ。できる事はなにか。できないことがあるとすれば、ECに関連して、こういう風にシステムを組んでみよう。(ECの仕様ではないので)100%の要望に応えられないかもしれない。でも、ここまでならできるでしょう。そうさし示してくれる。
その度合いがUZENは特に細かくて、それは、あらゆる現実を想定してくれていなければできないことだ。よって、信頼に足りうる存在となり、お互いに歩み寄り、着地点が見えてくる。渡邊さんも熱心に、大事なパートナーとして、その声に耳を傾けて、一緒になって考えていくわけだから。
この出会いは成長を支えてきた『整理』のレベルを引き上げた。彼らにとってまた、それらを活かすシステム構築で、属人的価値は、システムにより飛躍のチャンスを得ることになる。
2.属人的な強みの落とし所
では、それは具体的にどう、形にしてきたのだろう。実例をあげたい。モバイルプランニングは、お客様の要望になんでも応える。その姿勢を貫いてきた。
請求書は当然、PDFで発行しているわけだが、「このレイアウトじゃ使えない」といわれれば、企業ごと修正した。気が付けば、ありとあらゆるタイプの請求書が存在するようになったわけだ。そういう顧客の要望で様々な修正を行うからこそ、彼らはUZENにこう提案してみたのである。「システムからExcelで出せないだろうか」と。
ところが、UZENにとってはそれができない。システムでは、初期にどこの部分を修正するかを定義しないといけなかったからだ。そもそも、システムというのは共通化させて、出すものなので、そういう属人的な個別対応で、一気に処理することを得意としていないのだろう。
では、「うちのシステムではそれは難しいです」そう突っぱねるのか。そうではない。ここで大事なのは「自由さ」ゆえの弊害で生まれた「不自由さ」。それをいかに解決して、業務効率を上げていけるか。そこにこそシステムが存在する所以を示すところになる。
さてどうしたのか。ここで、UZENが述べたのは、そもそも請求書を、それだけきめ細やかに対応させて、エクセルで出す仕様は「できない」。だがしかし、そうであれば、それらをデータで出してみてはどうかと提案した。
3.自由と不自由の落とし所を探る
つまり、この出力されるデータがきちんとエクセルと対応している項目に沿っていればよい。なぜなら、それを出せれば、あとはスタッフがエクセルに当てはめるだけで、一発で、その請求書は作ることができる。全部をシステムに依存するのではなく、スタッフとの合わせ技で、効率化を形にしたのだ。それにより、きめ細やかなあらゆるニーズに応える請求書が具現化できた。
これであれば、一件一件、ものすごい数に膨れ上がっても大丈夫。迅速に、正確に、相手の要望通り、処理することができるようになる。これが結果、受注できる数を増やすことができる。
これは、ほんの一部である。
自分のシステムの都合を押し付けることなく、であれば、相手の使いやすいようにシステムを組み換えて提案する。勿論、そこには、利用企業側の協力を得ることもあるだろうが、全体で見れば、大幅な業務改善であり、効率化を図れているというわけである。
こういう様々な案件をよりよく具現化するときに、渡邊さんのいうところの“細かさ”が効いてくる。確かに、これはモバイルプランニングにとって、また、新しい階段をひとつ登ったと言える。更に受け入れられる件数は増えて、2023年の3月期決算では約23億円で、前年比10%増を見込んでいるというわけなのである。
加えて、繰り返すが、古賀さんの買収にあたっての目の付け所は正しかったってこと。笑。
思いがけないありがとうに大いなる可能性
1.潜在的な可能性を秘めた市場
思えば、人や企業の「ありがとう」はどこに潜んでいるか、わからない。ネットは、見落としがちな「ありがとう」を拾い上げて、事業にして最大化させる醍醐味がある。
しかも、最近、思うのは独自性だと思う。差別化はできても、それを売り方に渡るまで再現してこそ、ビジネス。自社ECで特に躍進している企業の多くはここを踏まえて、うまくテクノロジーと向き合っている。
ただ、潜在的な可能性を持つ事業は、形あるものではないからこそ、どうしても雑然としがちであり、「整理」が必要なのだ。
2.整理するにもフェーズごとその中身もパートナーも違う
そこで活きたのが、このモバイルプランニングの「自由」度の高さ。その自由度の高さはある一定の成長までは有益であり、ある一定のレベルを超えたら、今度は「不自由」になる。それでも、まだ見ぬお客様のことを思い、実績を高めようとするには、自由と不自由の間の落とし所を探ることなのである。システム会社との歩調を泡わせた二人三脚は、こうまでして、企業の実績を伸ばした。
渡邊さんが入ってから実に、20億円近く、売上は向上した。
その意味で、古賀さんの目利き。そして、渡邊さんの自分で切り拓く姿勢と、独自の整理能力が発揮されて、今に至るわけだ。見事なのは、常に貪欲で、整理のレベルも、投資できる額に応じて変わってきて、節約すべきはして、一方で惜しむなく投下したこと。
彼らにとってみれば、まだ発展途上の最中なのかもしれない。
もはや彼女は、エクセルでの作業は現場の人間に任せて、次にさらに成長させるための“整理”の仕方を俯瞰的な立場でUZENと共に考えている。おそらく、それらは本質的な話だから、彼らなりにその回答を導き出して、次のステージへと向かうことだろう。
おそらくネットがなければ、ここまでの飛躍はなかっただろう。底知れぬネットがもたらす可能性にただただ、唸る次第であり、何より、その支えとなった信じあう互いの関係に敬意を示したい。
今日はこの辺で。