限られた時間で最高のパフォーマンス その背景に見た 想像力の力 スタッフ・オブ・ザ・イヤー2023
想像力の力は偉大だ。人が何気なく発する言葉が、受け止める相手の想像力をかき立て、気持ちを触発するのだ。僕は東京・渋谷のヒカリエホールにいて、「スタッフ・オブ・ザ・イヤー」というイベントを観て、それを痛感した。「いかにお客様に親切で、快適な買い物を提案できるか」。そのシンプルかつ難しい目的を果たす。そのために、多くのスタッフは自らの接客を通してしのぎを削り、そのトップを極めたのである。
リアルな接客力が問われる
その審査はどうやって行われるか。それは、リアルな接客。この日、村重杏奈さんやなこなこカップル、スパイクなどがゲストとして現れ、その“来店者”に扮した。
彼らが、ファイナリスト16名の接客を受けて、その様子をアンミカさんを筆頭とする審査員が厳しくチェックする。ただ、このファイナリストにしてもここにいる段階で、百戦錬磨の接客の達人。全国8万人もの挑戦者の中で生き残った精鋭である。
バニッシュスタンダードが率先して接客をする意義
このようなイベントが行われる背景には、今まで以上に、お店における接客の重要性が高まっているから。それは、リアルは勿論、ネットも含めての話。そこに注目したのが、主催のバニッシュスタンダードであり、彼らがネット系企業であるという要素も素敵。
彼らは「STAFF START」というサービス通して、スタッフの価値を引き上げ、ブランドの売り上げを伸ばすことに寄与した。つまり、スタッフ一人一人のセンスを高く讃える一方で、コーディネイト提案をサイト上、アップロードしてもらうことを意図した。そうやって、お客様の目に触れさせ、ダイレクトにやり取りを生み出す。それとともに、その実績を可視化したのである。
それに連動してライブ配信での価値を唱え、それを紐づける。そうすることで、スタッフはネットを契機に輝くこととなった。
それに加えて、スタッフの頑張りを、インセンティブとして反映できる仕組みを実装。そこまでして、スタッフの士気を高めてきた彼らだから、こういうイベントをすることに意義がある。それも、リアルとネットの垣根を超えて、接客の重要性を改めて認識させるこのようなイベントを。
情報量の多さはお客様の気持ちを乗せてこそ
グランプリは「ユナイテッドアローズ」のnakaさん。準グランプリは「B:Ming」SUDOさん。彼ら二人は、情報量において抜きん出ていた。とはいえ一方的に話すわけではない。相手の服のセンスを切り口に、相手のその服を着る時のイメージを聞き出す。それでいて、話をそこそこにとどめているのが特徴。不快感はない。
察するに、最初から時間という概念を、頭におきながら会話を構成している。適度な顧客との距離感を作って、会話の中に情報を盛り込んでいるのである。
毎回、このイベントのゲストは曲者であり、余談に走りがち。だから、そういう人すらも引き込む力はなんだろう。それを思って今回、僕は“観戦”していたわけだが、一番感じたのは「想像力の世界へと導く」ことだった。
例えば、SUDOさんはお客様が「彼女とUSJに行くこと」を聞くなり、USJでのそれらの格好を連想させる話し方で、想像力へと誘う。これは、雑貨などを思い浮かべればわかるが、部屋のイメージを添えて提案するとつい買ってしまう。そんな感覚に近い。
彼の場合はそれを陳列されたアパレルとトークでそれを行うわけだ。
だから、現地の話題を織り交ぜながら、その場所に、その服を着用して、来ているイメージを連想させる。「早く着てみたい」という衝動に駆られるのは、もうその想像上でコーディネイトして楽しんでいるのだ。すると話は自ずと服に関連したものに集約される。
自分たちは何が求められているのかというプロ意識
nakaさんの場合は、そこに加えて、紹介される商品点数の多さと親和性の高さが際立っていた。nakaさんの話はテンポが良く、相手の話に深煎りしすぎることなく、軽快にサクサクと商品をピックする。
それは、襷掛けのように、ひとつ一つの商品が連なっているよう。台本でもあるかのような流れるような説明は圧巻だ。
勿論、商品知識に関して頭の中にすでに入っている。それは彼女に限らないだろう。だが、今、目の前にいるお客様にとって「必要な情報を、彼女が取捨選択している」ことは一目瞭然。
話に無駄がない。制限時間をフルに、中に着る服と外に合わせる服、さらには、スカートとブーツまで全ての提案を済ませて、時間を終えている。このことは前回のグランプリBEAMSのHeg.ちゃんにも通じる。要するに、プロフェッショナルなのだ。
自分たちがやるべきことは、何か。「商品を提案することで、相手が満足する」ことにある。勿論、雑談に乗り、楽しい時間を演出するのも大事。親しみやすさに本音が出るから。
ただ、限られた時間で、逆算して考えると、何を質問すればいいのかは限られる。適度な情報量を持って、適切な商品点数を訴求する。それが求められていることなのだから、そこに対して徹底して向き合う。プロの顔つきが笑顔の中にチラつくのが印象的だ。
不思議と自己PRも自然体で響くものになる
ちなみに昨年、僕は「スタッフの自己PR」を見ていなかった。だが、今回見てみると、そこにも発見があった。上記に挙げた二人は、不思議と、自己PRも想いが“伝わる”ものであった。
決して、話し上手というわけではないだろう。ただ、書いてきたものを読み上げる人もいる中で、2人は自分の言葉で話していた。接客をしながら、時間という感覚を身につけた功績だ。同時に、自分の中にある確かな思いあってのことだ。
お客様は神様でもない。決して、お世辞なんかもいらない。
人の心を胸を打つのは何か。提案する人が、自分の中に、確固たる意思を持っているということ。それをもとに、自分たちが求められていることを、自分たちの意思の元で、考え答えを編み出すこと。それが自然と、接客そのものにも顔を出している。このトップの座につけるのは必然だ。
特にnakaさんの言葉は響いた。立派に母としての役目を務め上げ、「時間短縮の中で」仕事をした。それでいてしっかり、成果を出して見せた。限られた時間で最高のパフォーマンスを。接客の姿勢に通じる生き方だと思った。
感動の想像力をかきたてられ、見ている僕も目を潤ませた。自己表現も含め、人の心を動かす接客であったように思う。今年もまた、スタッフからスターが生まれた。また、新たなスタッフの時代のスタートである。
今日はこの辺で。