あなたの知らない ライブコマース その攻略法と舞台裏 「フラコラ」の変貌が教えてくれること
案外、僕らはライブコマースの舞台裏を知らない。だから、その裏側に迫ろうと思い、現場の声に耳を傾けた。「フラコラ」という美容商材がライブコマースで奏功している。話してくれたのは、同ブランドを運営する協和の広報 神谷尚江さん。彼女は広報をやりつつ、各部署とのつながりを活かして、上手にその意思疎通をライブコマースの部署の業務にも活かしていて、実態をよく知っている。注目すべきはエンゲージメントを高める要素で、回り回って、売上に繋がるということである。
ライブコマースを国内では誰もやらない中で
1.とにかく全力投球
「フラコラ」は上記の通り、「協和」という会社が運営している。今から20年前、コラーゲンドリンクのヒットをきっかけに、美容における存在感を確立したのである。美容に関するサプリメントやアンチエイジングの美容液など、美に関する全般を扱う。
美容液やクリームなどを販売しているブランドだけど、会社としては、実店舗を持たない。通販としての歴史は古いけど、最近はネット通販にシフト。ライブコマースに関心を抱くのも自然な流れであったのだ。
そうはいっても、まわりでライブコマースをやっている企業はなかった。一部、空いていた部屋を作り替えて、撮影専用の部屋にして、カメラや照明を揃えた。その時の様子は下記の通りである。
2.疲弊、、、機材に凝るのはやめた
ところが!である。今は随分とその方向性が変わった。彼らは言う。「それだけの機材を揃えて大人数でやるところも実際にはあったのかもしれない。けれど、私たちの場合、担当者は最初3名で、全員兼務」と。つまり、通常業務もある中で、そこだけ打ち込んでやるには無理があった。
これは多くの企業にとって言えることなのではないかと思う。そんなリソースはないよと。
まさに、彼らも同じだった。だから、メリハリをつけていく。継続できなければ、意味がない。しかし、多くの人が気になるのは、「どこに強弱をつければいいのか」という事だろう。
まずは設備だが、今ではこんな感じ。あれ?奥にはコーヒーの機材があって、、、もしや。
そう。なんと今では「休憩スペース」でそれは撮影されている。何も虐げられているのではない。何が大きいかというと、大事なのは場所ではないということに気づいた事だ。しかも、この通り。
照明もない。それどころ、カメラもiPhone。これが今のデフォルトとなっている。だから、今回取り上げた。これであれば、誰でも、すぐに始められるではないか。ではどうやって形にするのか?
2.コンセプトと商品で世界観を伝える
ただ、大事なのは、コンセプト。それだけは、事前に企画側と話をしておく。こちらは当初、使っていたものだが、考え方としては今と同じ。
冬のシーズンで乾燥肌になりやすいといえば、潤いに関する商品を打ち出したいと企画サイドから話題があがる。だから、それをテーマに落とし込み、商品を挙げておく。特典と書いてあるのは、このライブ配信を視聴して購入した人への特典。これも販売と連携しておけば、コンテンツ内容として最大化できる。
もう一つ、上記のように手軽になった分だけ、言えることがある。それは、どこでも撮影場所になりうるという事。だから、上記のように、「フラコラ」の配送倉庫を使うこともある。そのほうが、この現場からいつも送っているということで臨場感が出る。彼らが配送倉庫を企画として押したのは、倉庫側の人が彼らのプラセンタなどを愛飲していて、マッチョだというネタを入れているからだ。
話題を作り、テーマ性を持ち、人に重きを置く。それが信用につながっていくのである。ここまで書けばわかるだろう。大事なのは大きく見せるのではなく、等身大の姿なのではないかと思った。
抑えるべき「テーマ」と「人間性」
1.台本だって変わった
上記に書いた通り、まずはコンセプトを考え、そこで紹介したい商品を列挙する。ここは以前から変わらない。そこに沿った形で、台本を作るのだが、ここが最初と大きく異なっている。下記通り、当初は、ぎっしり文字で埋めつくされている。演劇の舞台のようである。
そりゃ、そうだ。どういう流れで進むのか。どのタイミングで、どういうリアクションをしたらいいのだろう。配信者は初心者であれば、全てがわからない。だから、そこまで書き込んで、不安を除いていたのである。でも、そこにとらわれるほど、予定調和になって、かけた労力とは裏腹に、伝わるものも伝わらなくなる。
2.台本だって一枚に
だから、段々、配信者に任せるようになる。以前で言えば、入念なヒアリングと打ち合わせを行った上で、作っていた台本。それも、今やこれだけとなった。
伝えるべきことだけ、コンパクトに入れておいて、あとは配信者に任せるほうが自然体で伝わりやすいのである。昨今言われるところであるけど、どれだけ素顔が出せるかというのも大事なのかと思う。それが嘘偽りのないメッセージに繋がるからである。
インスタやzoomではなくライブコマースである理由
1.はじまりはインスタやzoom
今こそ、定着してきたライブコマースではあるけど、初めはInstagramとzoomを活用していた。基本的には考え方は同じ。お客様との対面に近いやり取りを通して、関係性を深めたいと考えていたのである。でも、なぜ、そこでライブコマースへのシフトを意図したのであろうか。そこがみそである。彼らは自社ECを持っていて、そことの繋がりを最大化させたいと考えたからなのだ。思えばこの流れが重要だったのではないか。
彼らのターゲットが比較的、年齢層の高い人たちが多い。確かに、それらのSNSで楽しんでもらったとしても、そこからECサイトへ飛ぶことは少なかったのである。だから、購入に繋がらないし、彼らが最も重視していた商品の理解を徹底しづらい。
だから、ライブ配信と商品詳細が一体で、興味を持てば買うこともできる環境が必要だった。
ゆえにライブコマースへの関心が高まっていったのだ。ただ、ここで注目すべきはその目的に「商品の購入」もあるだろうが、それだけではない。それは上記の流れを見ればわかる。配信中に明かされる知識を商品を通して理解し、各々で解決してもらうイメージを把握してもらう為というのが大きい。使って、実感してもらい、そこでやり取りを重ねていくことこそ、彼らが狙っていたことなのだ。
2.ライブコマースの専用ツールの導入
ただ、どこのライブコマースのツールが良いのだろう。これには、企業の求めるものによって違うはずだし、答えがない。ただ、彼らは、初心者であるなら「17LIVE」が提供する「Hands Up」を推してくれた。まさに、彼らが意図するように、ライブコマースを表示しながら、右に商品詳細が出る。だから、その熱を冷ますことなく、商品の購入画面へと推移ができるわけだ。
彼らが意図する知見を活かすコンテンツと商品が初めてここで紐づいた。
どうやって誘導したのだろう。この点は、幸いにして「フラコラ」が過去行った「LINE」の新規獲得が奏功した。つまり、LINEスタンプを使って、新規獲得策を実施していたので、そのユーザーに対して、このライブコマースへの呼びかけを行ったというわけだ。勿論、仕様上、ECサイト上でもライブ配信時には、それが同時で映し出される。
これも神谷さんが言っていたことだが、ライブコマースのツールによりも配信の中身に対しての意識を向けたほうがいい。極論、ツールを使うのはそこで要領をつかんでからでも遅くないと説く。それは、例えば、「フラコラ」ですら、最初はInstagramをやっていたという経験があって「Hands Up」に辿り着いた。
例えば、だから、まだファンがいないなら、ツールにこだわることなく、SNSでコツを掴んでファンを獲得してから、ライブコマースに繋げてもいいはず。
3.どんな質問にも天の声がフォロー
かくして、彼らはライブコマースを始めたが、いきなり視聴者がいたわけではない。地道に繰り返したのである。仮にファンが来てくれても、参加意識が高いとは言えない。だから、そこも試行錯誤。実は、最初から半年くらいは、“サクラ”を使って社内の人間が質問していたほどであった。それも、他の人が質問しやすい土壌を作る為であった。
常に彼らのイズムに流れるのは、コミュニケーションしやすい環境を作ることだ。結果、もはや今では全くそれは必要なく、お客様から当たり前に会話が飛んでくる。
そこに躊躇する必要すらない。よくコールセンターなどでも、何かを言われることを恐れて、一人でしゃべってしまいがちだと聞く。でも、それはかえって逆効果だ。質問しやすい環境を作り、そして質問には真摯に答える。
しかも、それは人である以上、完璧である必要はない。何より答えようとする真摯な姿勢こそが大事なのだ。本当にさまざまな質問が寄せられる。「アレルゲン素材が入っていますか?」など、かなり細かく商品知識を問うものもあって、配信者の知識では追いつかない時もある。
だから、彼らは“天の声”を使う。天の声?要は、配信者以外にスタッフが陣取っていて、その人たちが社内の担当者のところまで走って確認して、その質問に対しての答えを持って、再度、配信者に伝えるのである。
その内容は「購入できないんです!」といったものまで、ちゃんと向き合う。ここがライブコマースの真骨頂であり、改めて、お金をかけたセットではなく、コミュニケーション性の高さをフル稼働できる環境を作り上げることが大事なのだと気付かされる。
交流こそ打ち込むべき要素
1.台本ではなく視聴者のコメント
だから、神谷さんの言葉にも納得だ。事前に用意された台本より、視聴者のコメントを最優先していくことが大事だと。だから、最初の頃、格好をつけて、わざわざ作り込んでいた商品説明も今ではパワーポイントを元にして作ったフリップである。
そして、なるべく配信者の人となりを尊重する。ともすれば、コンプライアンスを気にする人も多いだろうと。それでリスクヘッジして一人一人の配信者の魅力を削っては勿体無いという。
しかも、他のSNSよりは遥かにネガティブな発言は見られないのがライブコマースの魅力でもある。それは自社ECなどを土台にしているから、ではないかと推測している。購入者も多く、実感が伴い、ブランドに愛着があるから、足元が救われるようなコメントもここまでないという。
いつしか伸び伸びと配信者が話すうち、掛け合いもイキイキしてきた。お互いの中に、「この話題を振ればいいな」という感覚が芽生えてくるからだ。つまり、自主性に任せたこちらの方が会社にもたらすメリットが大きいのである。最近では、配信者にもバリエーションが出てきて、彼らの商品を愛用するアンバサダーも出演し、おぐねぇなどの人気者も登場した。
2.お客様を知り自分たちも変わる
ここまでくると、ライブコマースは通販サイトにとっての社内外ともに“顔”と言っていい存在である。
どのライブコマースを視聴し、どの商品を購入したのか。その事実は、購入と連動して会員登録となるから、「購入者にある潜在的な悩みが何か」と「必要な商品が何か」を可視化する。それだけではない。インタラクティブなやりとりが触発されるほど、直接、ファンのニーズを把握できる。彼らはそれを商品作りに活かしていて、提案に幅ができた。
例えば、張りと潤いの悩みに応える商材として、プラセンタとサプリメントを別で販売している。ところが、生の声ではそれがセットで販売されていた方がいいという。実際、会話をしていくうちに、張りと潤いは同時に悩みが発生することが見えてきた。つまり、セットで提案した方がお客様の悩みにピンポイントで応えられる。そのことをファンの声によって気付かされた格好だ。
3.心を通いあわせるからトータルで考えてライブコマースは価値がある
中にはお客様同士が、配信者の話をそっちのけ(笑)で、会話が盛り上がる。そんな現象も発生しているのである。わかるだろうか。もはや、ライブコマースはテレビ通販の類ではなく、女子会のようなノリなのである。だからこそ、彼らが強調するのはライブコマースでは「売上をKPIにしない」こと。
それをKPIにした瞬間に、恐らく、配信者は商品の売り込みと、値段の訴求を前面に出すだろうと。そうすれば、一気にライブコマースの価値を損なう。ライブ“コマース”とは言っているけど、コマースの“土台”を作る場である。“売り場”と考えない方がいいわけで、それはここまでの「フラコラ」の試行錯誤を見ればよくわかるだろう。
非常に興味深いのは、ライブ配信の初心者であった彼らは、いつしかライブ配信がもたらす可能性に価値を見出すようになった。実は、最近、そのツールも「Hands Up」から「Fireworks」に切り替えて、挑戦する姿勢を見せた。それはなぜだろう。
正直言えば、「Fireworks」の方が料金体系が高価である。だがしかし、その分、拡張機能がデフォルトで多く実装されているからである。撮影した動画をさらに有効活用しようと考えていることの裏返しである。
フラコラはまさに、ライブコマースを通して、新しい自分たちの価値を見出した。そんな彼らは、まずは「やってみること」を何度も口にする。商品に自信があって、そこに潜むストーリーがあってそこに誇りがあるならば。それを嘘偽りなく、ここに書いたような形でありのあまの気持ちを伝えればいいと。笑顔溢れ、活気に満ちた交流の場がECの未来を作ることを祈っている。
今日はこの辺で。