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高まるECの表現力 それを活かしたコミュニケーション力が鍵 “くらしきぬ” リニューアルの奮闘日記

 昨今、ECサイトのリニューアルが各々必要な時期に来ていることを思う。確かにカートシステムを変えてまで刷新を行う店もある。「くらしきぬ」オンラインストアの刷新を聞き、僕はとある事を痛感したのだ。それは「ECサイトの表現力」があがっているという事。店舗はECサイトのその高い表現力をもとに、顧客とのコミュニケーション能力を上げることが急務なのである。

職人魂をどう伝える「くらしきぬ」

1.価格訴求ではない価値を提供し続けてきた

 そもそも「くらしきぬ」というブランドは、服飾雑貨を扱うお店。看板商品「はらぱん」はお腹とお尻をすっぽり包み込み、からだを冷えから守る商材である。彼らの特徴は、素材にもこだわることにあり、多くの企業はそれに綿を使用する中で、シルクとウールを使う。

 つまり、価格訴求ではなく、質感にこだわって、お客様を納得させる職人魂がある。だから、そこが支持されている。他のヒット商品、冷えとり靴下などもそこで熱狂が生まれている。

関連記事:着眼点が素材に光を当てる くらしきぬ “靴下”で見せた企画力

 でも、それはまだまだ伝えきれていない。色々取り組んできたけれど、今のテクノロジーをまだ最大化しきれていないからだ。

 自分たちのお店の価値をどうすればお客様にもっと伝えられるのか。検討に検討を重ねた結果、「くらしきぬ」は2022年10月にカートシステムの変更を伴うフル・リニューアルを行った。なぜ今、このタイミングでリニューアルする必要があったのか?同社の片山仁さんに聞いた。

2.問われるECの表現力

 そこで思ったキーワードが、「ECサイトの表現力」である。

 それはどういう意味なのか。語弊を恐れずいうなら、今までECサイトは「売り場があって、売り出されればそれでよかった」。つまり表現力がなかったわけである。しかし最近ではそうはいかなくなっている。カートシステムなど根本的に考え方が変わって、店次第でその表現力を発揮できる土壌ができつつある。

 つまり「買いたい」その気持ちが生まれるまでの過程が問われている。そこには、店側の柔軟性が必要とされていて、買うまでの流れで世界観をどれだけ伝えられるか。それが肝となってきているのである。

 ちなみに「くらしきぬ」で言えば、そのカートシステムを「Shopify」に切り替えた。片山さん自身、大手術といえるだけの取り組みの必要性は聞けば聞くほど、現実味を帯びてくる。

3.至難の業でもやる他ない。10年先を見据えて

 カートを取り替えてまでのリプレイスなど、しなくていいのならしないほうがいい。同ブランドも10周年を迎え、それをするのがどれだけ至難の業かはわかる。

 簡単に例を挙げれば、リダイレクトの問題。以前のURLから新規URLにリダイレクトをさせなければ、ページの価値も引き継がれない。API連携でやっていた大元のURLも全て変更になる。更に、前のカートとShopifyに同じプラグインがなければ、それに近いものを探さなければならない。こんな具合で、約半年、片山さんはここに没頭した。うん、確かに大手術だ。

 それは今の移り変わりの激しいEC業界の状況を象徴する動きでもある。このShopifyへの切り替えも、自分たちの課題感がどこにあるのかを要件定義して、吟味した上での選択だった。その吟味したものの中身を具体的に説明するなら、「サイトの表示スピード」「API連携」「モバイルフレンドリー」の観点からのようだ。

顧客体験向上からブランド価値体験へ誘う

1.スピード向上もブランド価値を伝える上で優先順位が高い

 この「サイトの表示スピード」ひとつにしても実は学ぶことが多い。というのも上記の通り「くらしきぬ」では職人魂の訴求が重んじられている。するとそういう訴求が強くなるほど、使う画像の数が多くなりがちである。

 結果、それが今度は、読み込みスピードの低下に繋がっていく。想いと伝わることが反比例していく。

 せっかくの想いもここでの顧客体験が低下して伝わらないのでは意味がない。その点、Shopifyでいうなら、コンテンツ配信ネットワーク(CDN)を介して情報が転送されるので、読み込みが早くできる。実際、それでスピード向上させた結果、リニューアル後、直帰率が下がったという数値も出た。

 でも大事なのは直帰しない人が増えて「ブランド体験」の価値を享受する人が増えたという点である。しっかり、伝わるものが伝わって購入しているという事実が大事なのだ。

2.表現力を向上させて体験価値を上げる

 検索部分でもそうだ。

 街中でお店を見つけて店内に入って、その商品にまつわる世界を感じて、購入する。そんなリアルの体験にネットは限りなく近づいてきている。それが検索エンジンの変容である。「最近、Googleの検索や広告も潮目が変わったのではないか」と片山さんは推測する。

 つまり、適切なキーワードさえ入れていれば、お客様を獲得できる時代は終わったのだ。これまでなら、自分たちで「シルク」「靴下」などのキーワードを作って、然るべき箇所に置いておき、お客様を待っていた。要は検索エンジン側もネット上に情報が少ないから、こちらからキーワードを提示し結びつけていたわけだ。

 でも最近では、徐々に変わってきているのかも知れないと。情報がGoogle側に蓄積されている分、紐付けがより人間的になって直感的になる。

 その点、Shopifyはやりやすい。API連携を使ってGoogleに商品情報を読み取らせることで、検索キーワードを設定しなくとも広告を出すことができる。ユーザーの検索意図を読み取るGoogleの力を使って、最適な場面で最適な商品へ誘導し、そこで買い物を楽しんでもらうことができる。

 そうなると小手先のキーワードではなく、商品の魅力を伝える表現力やユーザーにとって使いやすいサイトの構築の方がよっぽど大事というわけだ。

文字通り店の回遊し体験する楽しみ

1.たかがカテゴリー、されどカテゴリー

 そこまでくれば、今度は「くらしきぬ」のサイト側はどう受け止めたらいいのだろう。動線を徹底してチェックを図り、回遊の質を向上させてお客様の「ブランド体験」の寄与に努めるわけである。

 些細なことだが「ブランド体験」にはカテゴリー分けも実は重要である。「くらしきぬ」ではこのリニューアルに伴い、カテゴリーを細分化させている。「はらぱん」などの商品のカテゴリーに加え「メンズ」「レディース」「ギフト」といったカテゴリーを追加したのである。

 なぜか?例えば冷えとり靴下は25cm以上のサイズがないバリエーションが存在する。最初から男性が購入できない商品なのであり、そこを親切に区分けするだけで道が開ける。

 最初から男女で分かれているものをカテゴリー分けするなら分かる。冷えとり靴下はそうではない。顧客視点において、そのような分け方をすることで、ブランドの理解につながる。だから、そうするだけのことである。男性の方々にもパッと見で自分にもそれが利用価値のあるものだと感じさせる為に「メンズ」カテゴリーを用意するわけである。

 改めて、ここでいう「カテゴリー」は店の姿勢を示すものだ。分けられないものも実は分けられるのであり、「ギフト」が追加されたのも分かる。また、レディースのカテゴリーを見れば、その商品ラインナップが豊富なゆえに、下記写真のようにさらにカテゴリーが分かれて、段階を経て理解が深まる。

2.検索からの流れでもスムーズにブランドの価値を訴求

 これは同時に、先ほどの「検索」の話ともリンクしてくる。検索された際に、商品単体にアクセスするのではない。カテゴリーのトップページへとアクセスするように、サイト側が受け皿を用意すれば「この中で買えばいいのね」となる。それだけの備えで「ブランド価値」を伝える機会損失を防げる。

 だから、今やECサイトはメディア的な運用を兼ねて、その表現力を高める必要性が出てきているというなのである。適切に回遊させていけば、その顧客体験が、ブランド体験に直結する。それが検索からのアクセスと合わさることで最大化されるということなのだ。

 それは新規顧客の獲得にも繋がる。

 例えば、確かに「メンズ」は「レディース」に比べてカテゴリー内の商品数は少ない。でも、メンズが男性でも購入できる幅があると知れば、男性のアクセスは増える。カテゴリーページの価値が最大化されて、購入が増えれば、商品の追加の機会を得て、新規獲得に繋がるだろう。これも、ECサイトでの「表現力」がもたらすであろう成果である。

 これが、先ほど触れた「表示スピードの向上」と掛け合わさる。ストレスなく、そのブランド価値が自分の頭に入ってくれば、もはや今までのECサイトとは違った体裁を備えている。

3.リプレイスした意味はそこにも

 ブランド価値を訴求して購入に至る機会を増やすかが大事である。

 それはメディア的であり、整理された空間なのである。shopifyはノーコードでページを作成でき、レイアウトも積み木のように組み立てて、コンテンツを作り込める。だから、その意味でも大きい。時代に沿って、受け皿となりうるサイトを作りやすい。それが、Shopifyが浸透する理由なのかも知れない。

 だからこそ、コンテンツも充実させている。今回の刷新に合わせて「はじめてのくらしきぬ」という入り口を用意したのはその一つ。それぞれのフェーズのお客様に合わせて、向き合えるようにコンテンツを増やしている。つまり、ECサイトが自動で、お客様との関係を“育てて”いく土壌を作ることで、5年先を見据える戦いができるようになった。

今ECサイトはその表現力を武器にお客様に近づくべき

1.未来を見据えると表現力向上は必要な変化

 しかも、モバイルフレンドリーということで、片手でスマホを操作しながら、これらを体験できる。スマホで見て貰えば分かるが、ハンバーガーアイコン(モバイルのメニューにある「三」マークのアイコン)がついていて直感的である。本当にECサイトのありようが変わっている。

 「必要性に駆られてという部分は否定できない」。片山さんはそう言いつつも、これがベストタイミングだと僕は思う。まさに、僕も、多くの企業から昨今、聞かれ始めているのは、そういう柔軟性への対応とその必要性だからである。

 冒頭、書いた通りで、これまでは「売り場を作ること」が目的だった。けれど、今は売り場であり「体験の場所」としてECサイトが求められている。特に新興勢力はそこを強みに、表現力を創造の域を超えて、従来のECにとらわれないECをしているほどである。でも、残念ながらそれは、旧態依然の考え方、仕組みでは難しく、新しい表現力の高いECサイトが構築できなくなっている。

 言い換えれば、ハウルの動く城のよう。機能を継(ぎ)接ぎして、逆に身動きが取りづらくなっている。だから、思い切った発想の転換が大事なのだ。

2.高い表現力は顧客との距離を縮める

 改めて、検索でも、売り方でも、単細胞ではやっていけない時代だと思う。テクニックというよりはもっと、柔軟性を伴う直感的なサイト運営が重要になっていく。ブランド訴求と購入が一体化した空間というのが、未来のECサイトのあるべき姿ではないか。これからはECサイト上でサイトのその表現でお客様と出会い、交流を図り、購入へと促すのだ。

 「売る」だけに重きを置いて、広告と商品の説明に終始して、力技でサイト作りをしても、どこか頭打ちが来るだろう。そこをどう捉えるかが、明確に新時代と旧時代を分ける大きな境目となるだろう。新たに備えたECの表現力は、お客様とのコミュニケション手段である。店はECサイトの高い表現力をもとに、顧客とのコミュニケーション能力を上げることが急務なのである。

 今日はこの辺で。

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