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ライブコマース 成功の理由 データに基づき全員でお客様を考える“アーバンリサーチ”流 DX の賜物

 改めて、数字を通して、現実を把握し、そして組織を変えて一丸となってお客さまに向き合う。シンプルだけど、DXなんて言葉を語る前に、それが一番大事な気がしたのが、ファッションブランドとしても有名なアーバンリサーチの転換に関しての話で、執行役員デジタル事業本部 デジタル営業部 部長 齊藤 悟さんが教えてくれたものだ。

ライブコマース成功 と アーバンリサーチのDXの考え方

1.ライブコマース単体で考えると限定的

 今、DXという話をしたけど、彼の話が非常に興味深い理由は、ライブコマースの成長に擬えて、その話をしていたからで、ライブコマースというと、日本では多くの企業がこれまで取り組んできたけど、それほど、成果を出すに至っていない。

 そこでよく聞かれたのは、中国ほど、特出したインフルエンサーがいないからだとか、文化が違うなどということ。しかし、斎藤さんの話を聞くと、それはライブコマース単体の話ではない。

 会社全体で見て、例えば、ライブコマースなら、それがどこに位置付けされていて、他の事業とどう相乗効果を満たすか、という考え方の問題である。

 さて、前置きが長くなったけど、斎藤さんが本格的に、デジタルに関わったのは実は、コロナ禍前後のことである。元々、25年前、販売スタッフから始まり、その後、雑誌へのプレスも行い、お客様への発信という部分も含めて、担当する中でマーケティングを学んでいたから、売れるための本質的な部分は抑えていたのかもしれない。

2.皆が自然と俯瞰的に考える役割分担

 僕が思ったのは一見すると、通常ならやらないだろうと思われる役割をその部署に担ってもらっている印象があって、例えば、デザインに関わる人たちがデザインをする傍ら、Googleアナリティクスで、アクセスの確認をする。

 また、よく、会社でもコンピュータの設定などを行ってくれる部署は存在する。しかし、どちらかというと“お手伝いさん”というイメージが強い。そこで、この会社ではそれだけでなく、各部門からデータを一括してこの部署に集めるように仕向けて、各部署との接点を活かして、それぞれにプラスになる情報をフィードバックする仕組みを作った。

 これでわかるように、ありがちな自分の担当のことしか、やらないという現象は鳴りを潜めることになり、お客様の満足度、一点に絞られて、そこのために会社が一丸となることで、いわゆるデジタルを活用する土台を作ったことが大きい。

 改めて、DXというのは実は、リアルだけでやるのと比較して、データがシェアしやすいことで、それぞれが自分の役割を把握しながら、何をするべきなのかを考えやすい仕組みなのではないかと思って、それがデジタル化が進む企業ほど、成長している理由のような気がしてきたわけである。

数字の何をみて、全員野球で頑張るか

1.満足してもらうためのベクトルって何?

 さて、それを踏まえた上で、売上高を見ていくと、FY 2020からFY2022までで見ていくと、177%増を記録していて、その成果の度合いを窺わせるが、斎藤さんはその結果にまだ納得ができていない様子で、それは、粗利が166%増という数値を見てのことである。

 つまり、売上は伸びている実感はあるのだけど、それに対して粗利が鈍化傾向にあって、それはなぜかを考えていく必要性があるとしている。

 つまり、例えばだけど、その鈍化傾向には安易に「値引き合戦」に参戦していたのではないかと推測されるわけだ。それは結局、一見さんしか集まらず、長くお客様との関係を築いて、深く寄り添う姿勢とも一致しないし、実はそれが会社にとっても堅実に事業を進めていく上でプラスに作用しない事でもあることに気づけるわけだ。

 ここでわかってくるのが、デジタル化の波に乗る事で大事なのは、改めてそれをテコに、お客様と深く寄り添う姿勢を打ち出し、相思相愛の関係を築こうというメッセージであって、これが彼らの思うところの全スタッフが向き合うべき顧客満足度に紐づくのである。

2.それは旧来のリアルをベースにした考えとは異なる

 これは、昨今のサスティナブルを重視する傾向もあるが、コロナ前までは多くのアパレルで見られていた、在庫の考え方の見直しをする必要が出てきたりと、全体で見た時に、事業の中身を変えていく必要性にすら気づくことができるようになる。

 つまり、大量に商品を作って売上を上げていくという時代ではないことを定義した上で、では、改めてその施策を「全体を通して」見渡していくと、先ほどの組織体系のように、全体で数値を意識して、一丸となることに意味が出てきて、役割が明確に、そして各々のモチベーションも上がっていく。

 自然な話であるけど、「お客様と深く寄り添う」というのは、一人一人のお客様と長くつながっていくという姿勢になって、CRMの概念が出てきて、各々のスタッフはそれぞれの持ち場でそれをどうやったらいいかを考えていくわけである。

3.リアルが減ってもECは伸びない

 これは斎藤さん自身も話していたことだけど、一連の最近のネットへのシフトに関して言えば、店舗に行かなくなる分だけ、ECの売上は自ずと伸びるはずだと思い込んでいる経営者も少なくはない。しかし、そのようなことは全くない。寧ろ逆で、リアルよりも綿密に、どのお客さまにどうアプローチするかが求められるのであって、それはデジタルというのは様々なデータをあらゆる角度から収集できるから、なのである。

 だから、購入率一つを取ってみても彼は、先ほど触れた「お客様との相思相愛」の為に適切で必要な形で数字を抽出する。具体的には、2021年と2022年で比較して、その購入率の伸びと訪問件数の伸びを出すわけである。すると、彼らの場合で言えば、購入率の伸びの方が伸長しているから、彼は判断するわけである。「これは良い兆候。お客様と気持ちで寄り添えて定着しつつある」と。

お客様と相思相愛に

1.全スタッフの行動をお客様の満足度に集約

 例えば、売上に対して利益率が低かったとすれば、一律に「クーポンやります!」というような施策をしていた可能性も否定できないから、それを徐々に修正していくのである。

 つまり、一律な提案ではなく個別な提案をデータに基づき、やっていけば、ここまで話しているCRMの観点から、お客様との距離が近づいていると、見ることができる。そういうことが周りまわって結果、訪問率に対して、購入率の方が伸びているということへと直結するわけである。

 繰り返すが、これらを全員が把握して、各々の立場で最大化させているから、逆にその数値が上がって、結果、お客様の満足度が上がってきているという事実を受け止めなければならなく、一人一人のスタッフの功績によるわけである。

 そうすると、例えば、ライブコマースをやっているうちに、「お店に行ったらあるのに、EC上では在庫切れになっていた」という声が出て、それに関連するスタッフがハッとするわけだ。直ちにそれを反映することになって、結果、売上と長い目で見たお客様とのCRMの両方の観点で利点がある。現に売上に関して言えば、それだけで、大幅に伸びていて、具体的な数値で言うと、それがもたらす売上は全体の売上の10%程度を占めるほどだと言うから、侮れない。

2.そこで初めてライブコマースの真価が発揮

 いわば会社の中にお客様の満足度を高めるだけの土壌がデジタルを進めるうちにでき始めていて、比喩的に言えば、その土に栄養分が張り巡らされているので、上にどんな花が咲いても、改善を図りながら、すくすく育つということなのだ。

 そこまでやった上でのライブコマースだから、成果が出るのではないかと思った。

 勿論、ライブコマースはインタラクティブにやり取りをすることでメリットがあって、それによって低身長、高身長ゆえにサイズ感に悩む人の気持ちに同じ体型のスタッフが応える事でお客様の満足度を補完したり、ウェブ上だけでは判断できない要素に的確に応える事で痒いところに手が届いているけど、それもそれ単体で考えるのではなく、お客様との向き合う中で、どう最大化させていくか、という話なのだと思う。

 その点、僕が関心を抱いたのは、サイト全体の購入率とそれとの比較である。サイト全体の購入率(CVR)が1.13%でこれは標準的であり、ライブ閲覧者のCVRは3.33%にも膨れ上がって、もっと驚くのはライブコマースのアーカイブに関しての数値で、その閲覧者のCVR 5.0%である。

 つまり、購入しようと思った際に、そのアーカイブを見ることの効果の大きさだ。具体的な数値は言及を避けたが、このライブコマース関連の部分の数値だけで、数千万円レベルになっていて、会社としても太い幹になっているそうなのだ。これは確かに大きな成果だ。

3.お客様が何を求めているのかに真摯に向き合う

 結局、お客様の気持ちだ。リアルでやっていたお客さまにとって喜ばしいことがネットを生かして、どう近づけられるかなだけであって、改めて、リアルかネットかを分けるのはナンセンス。ライブコマースのアーカイブの数値はそれを示す決定的な要素で、本質的な部分だと思う。

 斎藤さんも話していたけど、結局、通販番組のように一方的に台本があれば、ある意味、お客様からの質問はそれを崩してしまうのだけど、寧ろ、そこがよかったと。そこに他のお客様がいるということが大事で実は視聴者が聞いてもらいたかった質問であったり、それを聞いてリアリティを感じて、購入するというわけで、レビューのような役目を果たしてもいると。レビューか、確かにこれは深い。

 その上で、何が言いたいか。先ほどのデータの話とも繋がってくるが、そこで関係を深めた先にライブコマースがあるから、意味を為す。冒頭話した通り、単発でライブコマースをやっているのとは訳が違って、これまでのライブコマースの議論は、果たしてそういう視点で語られていたかというと、そうではないから、そこに検討の余地があるということなのだと僕は思っている。

ゆえにLTVが大事になって相思相愛へ

 相思相愛だからこそ、気に入って買ってくれるという現実。改めてファッションにおいてもLTVの大事さを思うのである。なるほど、と唸ったのは、お客様の年間購入額を見て、どのカテゴリーのセクションでの購入率が高いのか、そこの方の購入する際の平均の転換率はどのくらいなのか、という具合にデータとデータを掛け合わせると人が見えてくる、と説く。

 何より大きいのは、それが見えてくることで、例えば、10万円購入してくれるお客様のうち、こちらは6万円の利益をもたらし、こちらは4万円の利益をもたらすお客様という具合に、見えてくるから、そこに対して同じようなサービスを提供するのではなく、うまく棲み分けをしていくこと。そこに価値があるのだと思う。

 これが本当に意味を持つ理由は、最後にこの数値を並べてみて、わかると思う。このLTVという考え方で店舗のみ利用するお客様を100と考えると、ECのみの利用のお客様は135となって、注目すべき点は、店とEC相互利用のお客様は372となることを明らかにしてくれた。その差は3倍に及ぶのか。

 DXなんて言葉がはびこる世の中だけど、まずは組織のあり方をそのデータで紐付けて、個々のお客様のために、どうやって役割分担しながら、適切にアプローチできるかという風に変えていけるかである。ライブコマースもそこを形成する大事な「一部分」である。

 今日はこの辺で。

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