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街の味を全国へ、そして世界へ――資さんうどんの挑戦

 福岡県北九州市発祥の「資(すけ)さんうどん」は、地元の人々に愛され続けてきた。しかし、その発展の道のりは単なるローカル飲食店の成功物語にとどまらない。職人の技とこだわりが詰まった一杯のうどんを、どのように全国へ、そして世界へと広げていくのか。僕が思うに、その鍵となるのは、ものづくりのスケールの仕方である。つまり、創業者の精神を受け継ぎながら、資さんうどんはどのように進化し、全国展開、さらには世界進出への道を歩んでいるのか。本稿では、佐藤崇史社長が語る、資さんうどんの挑戦の軌跡を追う。

1. 地域に根ざした「資さんうどん」の誕生

 資さんうどんは1976年、北九州市に1号店をオープンした。特徴的なのは、その圧倒的なメニューの多さだ。うどんだけでなく、カツ丼やおでん、カレーライスまで提供し、まるで定食屋のような業態を築いてきた。地元の労働者が求めるパンチのある味付けと、バリエーションの豊富さが、多くの人々の支持を集めた。

 また、24時間営業というスタイルも北九州という土地柄に適していた。鉄工所の労働者が3交代勤務をする環境で、いつでも温かいうどんを提供することができる体制が、独自のポジションを確立する要因となった。

 しかし、この地元密着型の経営は一方で「北九州の味」としての認識が強く、全国展開への足かせにもなっていた。そんな中で、資さんうどんが大きな転機を迎えたのが、佐藤崇史社長の就任だった。

2. 職人の技とスケール戦略――変革への一歩

 2018年に社長に就任した佐藤氏は、元々コンサルティング業界での経験を持ち、資さんうどんの潜在力を高く評価していた。

 しかし、社内には「この味は北九州でしか通用しないのではないか」という慎重な声もあった。

 佐藤氏が最初に取り組んだのは、社内の意識改革だった。

 まずは、現場の従業員たちと徹底的に対話を重ね、資さんうどんの強みを明確にすることから始めた。その結果、見えてきたのは「出汁へのこだわり」だった。北九州ならではの濃厚な出汁、そして出汁の旨味を活かすための特製麺。この技術と味の再現性を高めることで、全国展開への道筋が開かれると確信した。

 また、全国に展開するためには、味のばらつきを抑え、一貫したクオリティを提供することが必要だった。これまでは店舗ごとに微妙な違いがあり、それが地域の個性として受け入れられていた。しかし、スケールするためには、「どこで食べても資さんうどんの味が楽しめる」仕組み作りが不可欠だった。

3. 全国展開の加速とDXの導入

 資さんうどんは、九州から全国への展開を進める中で、さまざまな工夫を重ねてきた。その中でも特に重要だったのがDX(デジタルトランスフォーメーション)の活用である。

  • 自動案内システムの導入:従来の紙の受付ボードを廃止し、デジタル受付システムを導入。これにより、待ち時間のストレスを軽減し、回転率を向上させた。
  • オーダータブレットの導入:お客様がスムーズに注文できるようにし、スタッフの業務負担を軽減。
  • 動画活用による販促:待ち時間に商品紹介の動画を流し、新商品の認知度を高める。

 これらの施策により、資さんうどんは従業員の働きやすさとお客様の利便性を両立させることに成功した。

4. 通販とイベントを活用したブランディング

 全国展開と並行して、資さんうどんは通販にも力を入れている。コロナ禍において、外食の機会が減る中で、北九州の味を全国の家庭に届けることを目的とし、EC事業を強化した。

 特に、北九州出身者が東京や大阪に住んでいるケースが多く、「ふるさとの味」としての需要が高かった。通販を通じて、資さんうどんの認知度は全国的に広がり、新規出店の際の顧客基盤としても機能した。

 また、キッチンカーイベントやデパートでのポップアップストアも積極的に展開し、出店前にブランドを浸透させる戦略を取った。この取り組みが功を奏し、新店舗がオープンする際にはすでにファンがついている状態が作られていた。

5. 世界へ向けた新たな挑戦

 資さんうどんの次なる目標は、海外展開である。すでにアジア圏やアメリカでの市場調査を進めており、現地に適した形での展開を模索している。

 また、すかいらーくグループの傘下に入ったことで、物流や生産のインフラを活用できるようになったことも大きい。これにより、資さんうどんの規模はさらに拡大していく。

 資さんうどんの成長を聞いて、いかがだろう。僕は、純粋に、そこにものづくりのスケールという視点に学びがあると思った。創業者が築いた職人の味を大切にしながら、それをより多くの人に届けるための仕組みを整えてきたのだから。

 「うちは地元の店だから」「この味はここでしか通用しない」。そう思っている飲食店経営者は少なくない。しかし、資さんうどんの事例が示すように、こだわりの味も、適切な戦略と仕組みがあれば、全国、そして世界へと羽ばたくことができる。

 腕は一級品。しかし、それをスケールさせる術を知らないとしたら。資さんうどんの挑戦が、そのヒントになるかもしれない。

 今日はこの辺で。

同じくオムニチャネルDAYの登壇はこちらでも。

参考:タイミーが生んだ新たな雇用モデル─小川嶺さんが語るスポットワークの真価

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