顕在化していない価値を拾い上げ、未来に心の豊かさを―第9回 女性のあした大賞2024
今年も気づき多き授賞式だった。「第9回 女性のあした大賞2024」が開催され、女性の未来を支える商品やサービスが表彰された。個人的な感想として「無駄遣い」という概念を物だけでなく時間にも適用することに意義を見出した。女性的感性が、顕在化されていない価値を拾い上げることで、実は、無駄にストレスのかかる時間を作らない。タイパとよく言うがそれは効率化ではなく、情緒的で健やかな生活をもたらす商品やサービスによってもたらされるのである。
竹炭が創る新しいエコライフ――竹虎の『竹炭の洗い水』
世の中には魅力的な価値がたくさんある。けれど、それがどれだけ具体的に認識されているのか。そう言われると、意外と曖昧だ。
そのことに気づかされたのがここでの最初の気づきだった。
そして偶然にも、以前から親しくしている山岸竹材店の代表取締役、山岸義浩さんの言葉が胸に響いた。彼は、ECサイト『竹虎』の名物店長としても知られる人物だ。会場で僕を見つけるなり駆け寄ってきて、こんな本音を打ち明けてくれた。
「自分らにとっては当たり前に思っていたこと。それが、世間から見れば珍しいものだった」。
同アワードでSDGs部門優秀賞を受賞したのは、「竹虎」が開発した『竹炭の洗い水』。
まず前提として、竹には独特の問題がある。竹はわずか3ヶ月ほどである程度の高さまで成長するため、伐採が追いつかず、利用価値が見出せないまま放置されてしまうことが多い。この課題に長い間向き合ってきた彼らは、従来の竹の使い方にとらわれず、新しい活用方法を模索した。
その結果、生まれたのが『竹炭の洗い水』だ。
国産孟宗竹を使い、職人が土窯で焼き上げた竹炭。それを原料にして、煮沸とろ過、竹炭灰の加熱処理を加えて、製造している。とはいえ、それらは、彼らが何か特別な発明をしたかといえば、そうではない。
これは、先人たちの知恵を現代に蘇らせたに過ぎない。
昔の人々は、煮炊きなどに使ったカマドの灰でアルカリ性の水を作り、それを使って洗濯板で洗濯していたのだ。
当たり前が当たり前ではないから当たり前になっていく
ここが、今となっては、自然と女性的感性につながるところ。概して、その感性は未来にとって人間が本来、必要とされることへの“より戻し”である。
同アワードの主催、一般社団法人女性のあしたアカデミー代表理事 日野 佳恵子さんが話していることでもあるけど、彼女はオーガニック食材をそれが受け入れられる何十年も前に提唱していた人だ。
儲かるからというわけではない。ごく自然に人間を思えば、必要な価値であるとして、女性的感性がその意義を見出したのだ。話を戻せば、『竹炭の洗い水』は結果的に、界面活性剤を含まない自然素材100%の洗剤を実現させることになった。
先人たちの知恵である。だからこそ自然の力を応用したもので、当然、体に優しいものになる。山岸さん自身、実は、アトピー性皮膚炎である。けれど、自らの衣装などは、これらで洗うことで肌荒れを恐れることがなくなったというのだ。
僕らは、商業主義的な考え方の中で生産性を追うようになった。だから、やや手間のかかる、人間本位の商品開発は後回しにされてきた。でも、それは一巡して時代の流れに追いついた。山岸さんが不思議がるのも無理はない。自分たちの周りでは常識だけど、都会の人たちには発見となる。
それを呼び起こしたのが、女性的感性。情緒的で優しい世の中を意識するようになって、その価値が再認識されたのである。
デリケートな悩みに寄り添う――アミーの『アミーコットンライナー』
女性的感性は、人に優しいものである。
4年ほど前、僕は、ハヤカワ五味さんから何気なく「女性はずっと我慢してきた」という言葉を聞いて驚いた。それ以来、見方が変わったのは、女性の生理に対してである。まさに彼女の嗅覚がさすがと言えるのは、ちょうどその時からそこへのアプローチが企業でも推進されるようになったのだ。
我慢をしてやり過ごすのは、健全ではない。それが、今、さらに多様化が進んでいることを痛感させられたのが、フェムテック部門優秀賞を受賞した『アミーコットンライナー』である。この商品は、そこからさらに、踏み込んでいる。
僕は考えもしなかったけど、デリケートゾーンでも当然ながら、敏感肌のようなものは存在する。しかしそこに対応する商品がない。だから「我慢する」ことになる。ゆえに商品を通して、そこへの課題解決に向き合ってきたのが、アミー社である。
突き詰めれば、それはムレによって引き起こされた。それで、痒みや黒ずみなど問題が起こりうる。
そこで、彼女たちは、素材にこだわった。それは、一般的な紙製品の176倍以上という圧倒的な通気性を備えており、ムレによるトラブルを効果的に防ぐ。また、コットン100%の素材を採用しており、肌に優しく摩擦を抑えた快適な使用感を実現した。
新しい価値観を発掘する
先ほどから言っている通り、その感性には、未来に必要な姿勢がある。
だから、生分解性の高いエコ素材を使用して、約3か月で土に還るように設計。そのため環境にも優しい。加えて、使用時に音がしない静音設計が施されている。これは、公共の場でも周囲を気にせず安心して利用することができるという気持ちへの配慮である。
これが、最初に僕が痛感した「時間の無駄遣い」をなくすことに直結する。彼女たちの話を聞いて、これらの商品があることで、気付かされた。これらによって、不要に抱えていたストレスや不満に関する時間をなくすのである。それこそ、本当の意味での“タイパ”ではないか。
この“タイパ”が意味を持つのは、持続可能であるからだ。不要なストレスを起因とする家族内の摩擦が減り、家庭の雰囲気そのものが良くなる。これこそが、女性的な感性によってもたらされる理想的な環境。僕はそう思うのだ。
それは理屈よりも感受性を起点としたビジネスの有り様なのだ。
これこそがこれから大事な視点。だから、フェロー特別優秀賞「テクノロジー部門」を受賞した『ルクミー』にも納得した。なるほどと思ったのは、僕にも親戚に保育士がいるから。
無駄なイライラ時間を減らせば、家庭の空気は変わる
彼女たちの話を聞くたび、そこに専門性があることを痛感する。卒園してからも未だに会いに来る児童や親がいると話しているのが何よりもその証拠であろう。『ルクミー』がその専門性を伸ばすのに必要なことは何か。そこを追求したところが真骨頂なのだろうと思う。
『ルクミー』はAIやIoT技術を活用し、登降園管理やお昼寝の見守り、保育記録の作成をデジタル化。保育士が子どもと向き合う時間を増やすことで、専門性をより発揮できる環境を整える。デジタルが人々の生活に潤いをもたらすのである。
その思想は、保育園を「預ける場所」から「価値を生む場」へと変えようとしたことにあるのだ。働く環境における生産性が高くなければ、個々が持つ保育士の専門性が発揮されないのである。
『アミーコットンライナー』の話と同じである。保育士が日常業務で精神衛生上、不安定な要素を抱えると、結果その皺寄せが、彼らの業務に影響する。だからここをテクノロジーにより改善していくことで、保育士としての価値を見出し、それが子供にも、預ける家族にもプラスに働くようにしたわけだ。
これらの視点に共通するのは、情緒的な要素なのだ。
理屈ではない。機能的な要素で物事を解決しつつも、そのスタート地点は感性の豊かなところにある。そこに焦点を当てると、今度はやるべきことが「シンプルに研ぎ澄まされていく」という側面もある。
必要なものが見えると何を削ればいいか見えてくる
皆さんは、ミシンと聞いて、どう思われるだろう。語弊を恐れず言えば、今の時代、商売が成り立つのか?そう言われても仕方がないくらい“馴染みがない”という人も少なくないのではないか?(失礼!)
確かに市場自体、減少傾向にある。その中で、右肩上がりの成長をしているのが、「アックスヤマザキ」である。ヒントは情緒性である。
ファミリー部門で優秀賞を受賞した『子育てにちょうどいいミシン』はその代表例。ミシンの魅力を熟知しながら、大胆にも、必要なもの以外を削ぎ落として、シンプル化させた。そこに価値がある。
ずばり、育児中のママたちが手作りを楽しむために設計された。
きっかけは何気ないこと。代表取締役 山崎一史さんの家族に新たにお子さんが産まれた時のこと。その子のものを自分でミシンを使って編んだのである。どう考えても不恰好(苦笑)。だが、そこに気づきを得た。
ミシンを通して編むことは、感動的なことなのだと。つまり、情緒的な価値を見出した彼は、敢えて同じような「出産後を迎えた家族」に提案しようと考えた。
この瞬間にターゲットがこれまでにない層に設定された。そうすることで、その商品構造が従来のミシンと異なるものとなった。初心者でも簡単に操作できるシンプルな設計。使い方やレシピ動画をスマホで視聴できる機能もあり、安心して始められるという。
部屋に馴染む手づくりを楽しめるエンタメ
そして、若き家庭もあるだろうから、部屋も大きくはない。幅約30cm、重さ約2.5kgと軽量でコンパクトにして、収納にも困らず、必要な時にさっと取り出せる便利さを追求した。また、12種類の縫い模様やデニムの厚手生地を縫えるパワーを備え、ボタンホール縫いや刺繍も可能。さらに、安全針カバー付きで、小さな子どもがいる家庭でも安心して使用できるという徹底ぶりだ。
情緒的な要素に従って、トレードオフする。そうすることで他にはない市場を開拓したのだ。マスで手広く相手を対象とするのとは違う。また、インテリアに馴染むスタイリッシュなデザインもそこに基づく。手作りの楽しさを身近にするエンタメとなっているのが秀逸である。
大事なのは、情緒的要素がマーケットを作り出すのは、何も「ミシン」の話だけではない。
インテリアに馴染む。その意味では、ライフスタイル部門優秀賞の「祈り百貨店」もそうだ。運営元、丸喜は仏壇を扱う企業である。仏壇と聞いて何を思うだろう。
大きく場所を取る格式高いもの。それはそれで価値はある。けれど、現代の家庭にマッチしづらいからそれ自体が敬遠されるのである。そこで思い切って、インテリアにマッチするデザインとコンパクトさを追求した。お線香もお香のように捉えているのが、センスが効いている。
オシャレさゆえペット用の仏壇としても需要が拡大しており、新ジャンルを確立したと言って良い。
従来とは違う視点での発掘
受賞した商品や視点。それらは、向き合うべき相手を見定め、安心感を抱く社会を作ろうとしている。
食部門で受賞した『プロテイン葛バー』もそう。タンパク質不足をどうお菓子で解決できるか。行き着いた先の「高タンパク質」のアイスバー。100gあたり約13gのタンパク質を含み、発売元の福々庵 代表取締役 森本 真由美さんは「未来を輝かせる健康習慣を提供したい」と意気込んだ。
また、新しい価値観に通販がもたらす意味を感じたのは、ECサイト「ていねい通販」の話。人気となった「すっぽん小町」は健康部門で受賞した。はがくれすっぽんを原料に美容と健康と向き合う姿勢を示した。だが、彼らの真骨頂は、通販によって補完されていること。
商品背景とそこに込められた真心を重んじて、接客に活かされ、心にゆとりをもたらす。いわゆるCRMという部分で築かれた真心ある関係構築。それは、結果、お客様に心身ともに美しく、健康的な要素を備える後押しするのである。
そして、情報過多の時代において、道を指し示すことの大事さを証明したのが、食部門で受賞した一般社団法人、日本マタニティーフード協会。妊婦の繊細な気持ちを考慮し、避けるべき食材に着目。敢えて食べるべき食材に認定を与えることで、道筋を作ったわけである。同じく、環境への道筋を子供達に示したのが、キッズ部門で受賞したキッズ向け紙媒体「エコチル」である。
ちょっと幸せを手にする雑貨店――『3COINS』の挑戦
そして最優秀賞に輝いたのは、『3COINS』を展開するパルである。
思うに、コミュニケーション力の賜物なのではないか。古くは約10坪の小さな大阪の路面店で、キッチン周りの雑貨やソックス、アクセサリーを仕入れて、販売するに過ぎなかった。その後、僕らの馴染みのある『3COINS』のスタイルへと転換していく。
ただ、その『3COINS』のスタイルすら、実は利用していたパルが考えていた層と違っていることがわかったのが、2020年。20代を想定していたのだが、利用者の多くは30代。
もともと、パル自体がファッションブランドを抱えるおしゃれなテイストを基調としていた。だから、それが差別化要因で、女性に受け入れられた。ただ、その世代が異なっていたことで、リニューアルを図って、商品構成も変え、内装も落ち着いたテイストへと転換させた。
毎週、700〜800種類もの新商品を販売しているという。自ずと、そのターゲットに見合ったものへと商品構成が整うのも時間がかからない。早い段階で、お客様の気持ちを見逃さず、躍進へと繋げた。
特に、男性向けが多かったモバイル系のアイテムを、女性向けで提案したり、推し活グッズを用意するなどの新しい動きでの成功事例も見られた。それを支えるのは、バイヤー自身がママや推し活経験者だからで、お客様との距離を大事にしようと思うからこそ。
徹底した顧客目線の商品群と大切にする顧客接点
その一方で、新たに原宿にフラッグシップショップを作り、環境配慮を意識した古着販売や、日本酒・ビールの取り扱いなど、新たな分野への挑戦も行う。これらの変化は、ものを売る場所以上に、楽しむ場所としての価値を見出すことになる。
忘れてはならないのが、これらを補完しているスタッフ。と言っても、店にいるだけではなく、SNSでの発信力も含めての話。なにせ、30万人フォロワーがいる店員もいるくらい。個々を尊重し、自然とお客様との目線を合わせる環境がそこにはある。
だから、呼びかけから始まり、季節ごと楽しめる商品ラインナップ。勿論、その店員と直に触れ合う、お客様に即した雰囲気。それらが店内に醸成されて、一つの統一した形を成す。情緒的な商品企画に止まらず、店として完成度の高いものへと昇華させた。そこにこのお店の意義がある。
女性的感性を最大化させるサイクルを形成して、成長に繋げている。まさに、コミュニケーションを通して、誰が自分たちの向き合うべき相手なのかを見定め、深掘りした結果がもたらした功績である。
顕在化していない価値を拾い上げる大切さ
今回の「女性のあした大賞2024」は、いかがだったろう。
例年同様、見落としていた価値を拾い上げ、形にしている。ただ思うに、それも進化している。パルの動き然り、女性的な感性を企業全体が後押しして、成果につなげていることを見ればわかる。
もう単発的な動きではない。
そして、最後の挨拶で、一般社団法人女性のあしたアカデミーの代表理事 日野 佳恵子さんは、この授賞に絡んで、3つの視点を示した。
一つは機能は外せない。体が楽であるとか、歩きやすい。時間がない中、機能性の重視は全世代で必要とされているということ。
二つ目は、パルの話然り、本当の顧客を見定めること。本当に買っている人は誰なのか。それを把握することなしに、無駄なものを作ってしまうということ。
三つ目は、情緒性。男性が好意的に受け止める色味や感覚。それと女性の感じる心地よい色味や感覚は異なるという事実。
全ての受賞企業に共通している。これによって、得られた幸福感は未来に残すべき価値として、持続可能なものになっていく。
そして、冒頭書いた通りだけど「時間」という資源を限りあるものとして、いかに無駄にせず、効果的に活用するか。それは効率化ではなく、感性により導かれる。掘り起こされていない心のモヤモヤを商品で晴らすことで、その人の生き方が明るくなる。この発掘が心身ともに自然体で健やかな未来をもたらすことを期待したい。
今日はこの辺で。