デジタルを駆使して人を重んじる姿勢 靴下屋の吉祥寺での挑戦は人の温もりで溢れている
トップの写真の笑顔を見てほしい。温かに育まれた靴下の会社タビオ。彼らはデジタル要素を取り入れて、なお温もりで溢れている。僕が以前から注目したのはその「ものづくり精神」。しかし、商品づくりに負けず劣らず、スタッフ自体も創造性豊かに、道を切り開いている。吉祥寺にオープンした彼らが運営する「靴下屋」のデジタルな挑戦に迫った。
吉祥寺店 のデジタル推進 スタッフのアナログな想い溢れる
1.タビオとは
タビオは靴下を第二の皮膚と謳って、編み方にも拘るなどそこには愛がある。創業1968年という老舗企業にして今に続くその実力は確かだ。そしてそれを今に伝えるためのデジタルを駆使したその工夫。それが気になって、僕はこの店にやってきた。
同社は、専門店「靴下屋」のブレイクを機に洗練された若い女性に認知されるに至った。一方で、靴下愛は「Tabio」や「TabioMEN」などメンズやスポーツなどにも活かされて、吉祥寺店ではそれらが一堂に会する。
僕が今回注目したのは、老舗の伝統を重んじながら「革新」に挑戦する部分。特に、女性の気持ちを掴む工夫は他のブランドよりも先駆けている部分がある。根底にあるのは人を重んじる姿勢なのではないかと思った。下が「靴下屋」の吉祥寺の新店舗である。
2.デジタルサイネージに込めた想い
まず目につくのは、店内4ヶ所に設置されたデジタルサイネージであって、それが置かれていること自体は何ら目新しいわけではない。大事なのは、それをどう活用するかという点で、この中身のタイムリーさである。
サイネージといえば、決められたイメージ動画が繰り返し流される仕様が一般的だ。しかし、このお店では本部が操作して「トレンド」を反映してチェンジする仕組み。この「トレンド」の中身が大事である。
それは、スタッフのSNS投稿である。誰かの投稿が反響を集めれば、それをタイムリーに映し出し、その熱狂が生まれるその時をこの店は逃さない。それは店をエンターテイメントの拠点として考えている証拠である。
もっと注目すべきは、それを活かすための会社のスタッフとの向き合い方。ここ数年、コロナ禍もあって巣篭もりと言われる中で、店に来る以外でその価値を発揮するべく、スタッフと会社との間でSNSの活用方法に関して、試行錯誤を続けてきたのである。
3.スタッフ達の声に押されて
それこそ、最初は自らの靴下屋ブランドを投稿するにとどめていた。しかし、それでは会社のアピールに過ぎなくて、共感など集まるはずがなく、意味がない。そう現場の声に後押しされて、投稿におけるルールの殆どを撤廃した。つまり、各々が関心を持つブランドを着用するなど、本人の感性に任せる方向性に転換したのであって、実はこれが彼らにとっての転機となった。
インスタグラムで9.8万人ものフォロワーを抱える三輪まりんさんをはじめ、続々とスタッフから人気者が誕生したのだ。それを見るなり、会社はそれをプッシュするべく、スタッフ同士での勉強会の開催を行うなどして、その知見をシェアしてお互いが高め合う環境を作り出したのだ。
また、フォロワー数もそのスタッフの評価の指標にして、インセンティブを与えるようにした。要は、そこを起点にその頑張りを反映していき、評価の基準を徐々に変化させていったのである。その結果、このオープン前に集まったわずか数人のスタッフだけでも「15万人くらいはファンがいるのではないか」とのこと。一人だけではなく、多くがファンをつけるに至った。会社の後押しと、スタッフ自身の努力、その両方がなせる技である。どちらが欠けてもなし得ない。
スタッフの価値を最大化させるデジタル革命
1.スタッフのフォロワー数は10万人規模
「実は、昨年の7月までは5000人だったんです!」そう話してくれたのは、9.8万フォロワーを抱える三輪まりんさん。え?なんでそれが10万人近くになるのだろう?転換期はまさにその2021年7月で、この2ヶ月後には1万人となって軌道に乗ったと振り返る。
見せてもらって「なるほど」と思ったのは、コーディネイトにもいろいろ視点があるという事。あんりさんは、靴下をアクセントとしてコーディネイト提案をしている。その転換期から彼女は何をしたというのか。
「こんな感じですね〜〜」溢れんばかりの笑顔でこれを見せてくれた。
つまり、そのコーディネイトに文字を入れるようにしたのである。まるでその投稿にタイトルやテーマがつけられたな感覚で、一気にわかりやすくなったのである。ファッション誌のような感覚ではないか。
文字を入れただけで、それが豆知識のようにして、ユーザーにとってコーディネイトの学びになりやすい。かつ、文字を入れて投稿している人が少ないので差別化要因となりやすい。誰の投稿かが分かるから、そこを契機にブレイクしたというわけである。ノリが良く、話がしやすい人柄もプラスに働いていそうである。
要は、吉祥寺店が、スタッフの可能性を最大化させるための「ハコ」として機能している。
2.内装にスタッフの声が活かされ、店に新たな価値を
店内を見渡せば、そこには撮影スペースもある。「SNSの投稿をするにも、どこでもできるものではない。それなりの場所が必要」(スタッフの声)。つまりSNS投稿するのに相応しいロケーションが街中にありそうでない。だから、この場所がそれを兼ねればいいというわけである。
店が店としての価値以上に、集まる拠点としての意味合いを持ち始めている。
一つ一つ撮影を念頭に置かれているディスプレイ。独特な形状のミラー然り、その世界観の構築は言うまでもなく、そのスタッフの声を全面的に取り入れたものである。さりげなく、引っ掛かっているバッグは、スタッフのデザインによるもので、もはや人気商品らしい。
スタッフ自体も撮影するし、撮影をしにこの店に来る人もいる。また、それがきっかけでファンになり、商品を買うということもある。従来のマスで広告をかけて、お客様を呼び込むスタイルとの違いを理解するべきだろう。
4.オリジナリティと特別感
こういう土台を築いた上で、老舗として培ってきたものを訴求し、今にその魅力を届ける。下記は、刺繍サービスであって、この辺は靴下専門店ゆえの付加価値である。
オーソドックスに考えれば、母の日など、その刺繍サービスもギフト需要である。
しかし、女性はそれを華麗に、コミュニケーション手段に置き換える。最近、これを推し活グッズと位置付けて、シェアするのである。この日も某アーティストのメンバーの名前を入れる女子の姿があった。
女性はクリエイターだと真に思う。もはやデイリーで使われる刺繍サービスであり、それは生活の一部で、文化である。
売り込むから自然と集まるへ
選択と集中であって、リアルの接点で重んじるべきは何かということである。だから、それが店舗のサイズにも反映されていて、これがまた深い。
かつて吉祥寺にあった時のお店のサイズは40坪。しかし新店舗では28坪へと縮小させているけど、僕は少しもそれをネガティブに捉えていない。寧ろ、そこから「リアル店に必要なのは何か」を感じるべきだ。
必要以上に在庫を抱え、品揃え豊富に「売り込む」接客で、商品を買ってもらう時代ではないという事である。この地にいるスタッフの価値を最大化させて、メディアのような発信的な要素を持たせる。また、きてくれた人にそこにいる事が特別であることを、実感できる拠点にしていくのである。
かくして価値観を醸成していく場所に生まれ変わった。リアルとネット、どっちが良いというわけではない。その答えは、先ほどのスタッフの行動に表れているではないか。リアルとネットの相互に行き来して、どんな素敵な体験をもたらすことができるか。その部分で彼女たちはプロフェッショナルだ。
温かに育まれた靴下の会社タビオは、今の要素も温もりを持って取り入れつつ、素敵に躍動している。そう、僕が冒頭話したことの意味がお分かりいただけただろうか。「ものづくり精神」は、スタッフ自体の創造性豊か発想によって、今に相応しく日々育まれているのである。
今日はこの辺で。