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デサント スポーツの専門性を日常に活かす ムーブウェア 価値観に寄り添うものづくりの時代

 その会社に僕が関心を持った理由は、スポーツウェアの捉え方の転換にある。それは、デサントという会社であり、彼らは有数のものづくり企業。特に、スポーツという専門性に特化して成果を上げている事を誇りつつも、最近は特定ジャンルにとどめない。その専門性で培われた技術を、他のジャンルでも活かして、企業価値を最大化させようとしていて、その先頭に立つのが 代表取締役小関 秀一さんである。

デサント 経営 に学ぶ

1.デサントとは

 デサント?まず、その社名を聞いて、ピンときた人がいるかもしれない。今から遡ること3年前、この企業は伊藤忠商事から敵対的TOB(株式公開買付け)を受けて、それを機にこの会社の体制が一新された。小関さんはそのタイミングで入ってきた社長であり、今もまだ、変化の過渡期にあるけど、それがどう変わっていったのかということと、上記の企業価値の最大化というのがリンクしていて、興味深いのである。

 そもそもデサントという会社に関しては、ブランドを冠に掲げて、数多くのスポーツ用品を製造、販売している。ブランドは自らのコーポレートブランド「デサント」の他に「ルコックスポルティフ」「マンシングウェア」「アリーナ」など9つ。この会社の強みはそれらを活かす高い商品力で、それがブランドの信用を高め、かつお客様からの信頼を得るに至っている。

2.危機を乗り越え危機が来る

 ただ、これは小関さん自身が話していることでもあるけど、そんな名だたるブランドの商品を手掛けてきたデサントジャパンであっても3度に渡って経営危機に陥っている。ものづくりにありがちなミスとブランドビジネスを主とする故のリスクもあって、企業とは改めて順風満帆なところはないものだな、とこれだけのブランドを持つからこそ、思うところである。

 最初は1980年代前半。「マンシングウェア」というペンギンマークのゴルフウェアで実績を伸ばした時で、あまりのヒットゆえに商品を作りすぎて、在庫の山となり、156億円の赤字を計上した。

 もう一回は1990年代。日本国内における「アディダス」のライセンスを取得して、自らそれらの商品を販売して大黒柱となったけれど、アディダス自体が日本での展開を発表したことで、その分大きなダメージを受けてしまったというわけだ。

 そして、3度目の危機というのが小関さんが入社とともに社長に就任した時であり、その時を振り返る話を聞いていると、彼が参画する前は、難しいブランドビジネスの運用への配慮を欠いたまま、売上至上主義を進めてしまって負のスパイラルに入った事が言葉の節々に受け取られる。

デサントは何を見失っていたのか

1.三回目の危機で小関さんの就任

 売上至上主義が会社の成長を鈍らせ、危機的とも言える状況に陥ったと言えるのはどの辺の数値から導き出す事ができるのであろうか、それについて小関さんはこう語る。

 デサントは実は、2010年からの約10年の間に、3度に渡り「三ヵ年計画」を掲げていて、売上上昇に伴い、会社の成長を意図するものであったが、その10年を振り返ると、ほぼ売上の水準は平行線をたどり、その計画が指し示した上昇は見受けられなかったと。

 ここの部分が先ほど、書いた「ブランドビジネスの運用」の難しさという部分にも直結する。それは数字に顕著に現れていて、小関さんが就任するまでの間で、最も利益が高かったのは「2015年」でその時の売上は697億円。

 売上はその後、伸びてはいるけど、どこで破綻をきたしているのか。三ヵ年計画でも話しているのが「売り上げが伸びる事で利益も伸びる」と指摘している点で、実はこの2015年を境にして「売上」こそ上昇はしているものの、「利益」は減少に転じていて、そこで迷走ぶりがよくわかる。打つ手なしといったところだ。

2.ブランドには適正な規模がある

 ここで小関さんが強調するのは、「ブランドには適正規模がある」という事。そこから先はそれ以上は増えないのに、むやみに売上を伸ばそうとすればするほど、無理が生じるわけで、それが利益の減少に現れているというわけである。

 だから、同じやり方で推し進めたところで結局、企業としては疲弊してしまう。それが恐ろしいのは、本来、彼らの強みを発揮すべき商品の価値を下げて、下手すれば、せっかく築き上げていたものづくりとしての信用を失って売り上げすら減少していくことになるわけである。

 ここに物事の本質があって、強みを活かして、企業を成長させるとはどういうことか、という事である。彼らの自慢はものづくりであるはずだ。

3.何が大事で何が尊ばれるべきか

 大変失礼ながら、僕はこの小関さんを、敵対的TOBという成り行きもあるから、鳴り物入りで「経営手腕を発揮して」といったイメージが強かった。しかし、意外だったのが、彼の話の中で、岩手の水沢工場についての「ものづくり」力の高さを誇らしげに語り、その現場で働く職人の人たちの技術を讃えた点にあった。

 僕はその存在を知らなかったが、デサントの「水沢ダウン」はもはや知る人ぞ知る人の間で、愛されているブランド。高い信用を持ってずっと長く支持されていたのであって、改めてこの企業はものづくりの会社なのだと気付かされたのである。

 生産数は決められていて、それ以上を超えるともう生産はしない。それはその人たちの技術を守るために必要なことと言って、ここには決してメスを入れなかったのだ。

4.活かせぬものを省くのは活かせる価値を尊ぶこと

 小関さんは、一方で、同社がヨーロッパなどにも進出していたものを不採算部門と位置付け、大胆にクローズしていくなど、思い切った決断を見せた。

 それもシンプルに売り上げを求めようとすれば、もっと多くの国に進出して、よりグローバルな展開をと考えがちであるが、それこそが要注意だとするのである。

 元を正せば、それまでデサントでの売上の中心は、日本、韓国、中国で、特に韓国での伸びは顕著。韓国は日本のように小売と卸の関係に捉われる事なく、現地の社長がメーカー兼小売を徹底させた事で、売上と利益の両面から、上昇気流にあった。更にはそれがこの会社自体の伸びを牽引するほどであって、確かにそれは海外へ展開した事で奏功したと言える。

 しかし、それは韓国の社長がそれだけその売り方を構築して優秀だったからだと説くのであって、拡大したから伸びたのではないと強調するのである。

 ただ、ここも不思議と先ほどの話に通じることでもあるけど、売り先が増えれば、売上が増えるわけではなく、売り先を広げた時に見るべき点はその売上の数字だけではない。ここで印象的だったのは小関さんが「大事なのは、経営資源は備わっているか」という言い方で、ヨーロッパへの進出に疑問を呈した事だ。

5.経営資源は備わっているか

 そもそも、日本人と違う人に売ってもらい、買ってもらうということは生やさしい事ではなく、確かに、アジアでの展開ではそれが奏功しているけど、改めて、ヨーロッパでの人材でそれが出来るだけの環境を会社として提供できているかという部分での検証が必要だとしたわけだ。

 その意味では、ヨーロッパは上記に示した三カ国には及ばないので、結果、それを訴求しても、その商品力を理解してもらうだけのポテンシャルがなければ、一度、撤退して、改めてそれができる環境を作った上で、提案すべきだとしたわけである。

 人もまた大事な経営資源であり、本当にそれを生かせる環境なのかを考えることは、冷静に見て、自分たちの強みを最大化する上で大事なことなのである。ここが売上至上主義の中では、なかなか見過ごしてしまう部分なのかもしれない。

ムーブウェアで活路を見出す

1.高い商品力は専門的な場面で評価されている

 さて、ここまで見据えた上で、大体、この会社にとって何が大事で、尊ばれるべきなのかが見えてきたと思う。ずばりものづくりとしての商品力である。

 実際に、先日、北京オリンピックでも彼らと契約している選手の数は多いだけではなく、日本に限らず、多くの外国人選手も含めて、数十個のメダルを獲得に至っていて、それはデサントの開発力がもたらす機能性が、結実して実績に繋がっているということの証である。

 ただ、先ほどから触れている通り、安易に売上を伸ばすというのでは、ブランドにキャパシティがあるから、そこも頭打ちだ。そこで、小関さんがヒントにしたのは「ルルレモン」の動きである。

2.アスレジャーの浸透

 「ルルレモン」は、北アメリカ発祥のスポーツブランド。もとはヨガブランドのイメージが強かったが、彼らはここ最近、アスレジャーという言葉の浸透を背景にその裾野を広げた。どういうことか。アスレジャーとは、アスレチック(運動競技)とレジャー(余興)を組み合わせた造語のことである。

 つまり、彼らはヨガのウェアなどで培った知見を活かして、アスレジャーに見られる日常使いを提案して、ヨガをやる人以外にもその機能性を訴求して、ファンを拡大したのである。

 思うに以前のように大量生産、大量消費ではないから、何かの専門的なアピールの仕方よりもちゃんと自分達の持ち味を「価値観」で訴求できる時代になったという事ではないかと思う。例えば、ライフスタイルとして、それを訴求したことが昨今のSNS然り人から人へ広がりやすい土壌があって、広がったという事だ。ここがものづくり企業における大事なポイントであるように僕は思う。

3.ムーブウェアの発想へ

 だから、小関さんは自らもその商品力はスポーツというジャンルではどこにも負けない自信があるので、そこでの縫製など使われた技術を同じく一般ユーザーに訴求して、それを「ムーブウェア」と位置付けた。「動く」場面全般で使うように仕向けて、その価値を最大化させることで、自分達の持つ可能性に伸び代があることを見つけたわけだ。

 これこそが売上を伸ばすというのは、単純に売り場を増やし売り先を増やすのではないという全ての答えではないか。商品が商品である以上、お客さまがいる。そのキャパシティは個々にあるもの。そこを最大化できるように考えて、事業の構造を変えていく。それが「これまでなかった形で自分たちの強みを発揮する」ことの意味に直結するわけである。

 今までスポーツブランドとしてスポーツ用品だけ手掛けて、そのユーザーの数だけを無理に増やそうとしていたことに比べれば、遥かに現実的。連携する個々のブランドの裾野すら広げて、スポーツブランド全体の盛り上げに寄与することになる。だから、その戦略が無理なく、拡大できるものへと拡大したわけである。

2.売上だけをみてもみえてこない 強みと向き合う

 結果、先ほど、小関さんが誇らしげに語る水沢の工場の話に戻ってくる。結局、これが私たちの誇りで他にはない価値であると話して、ここでの職人技然り、彼らのものづくりが得てきた高い評価をいかに損なわない事業構造にしていくかである。敢えていうなら一つ一つの商品を「売るための道具」にしない、商品への愛があったことではないかと思う。

 シンプルな話だけど、事業としてやり続けているには理由があって、彼らで言えば、その高い技術力と職人技である。数多くのブランドからの信頼を集め、かつそのブランドを通して、ファンの心を掴んでいく。それらはアスリートの活躍もサポートできるほどの技術力に至って、それを宝の持ち腐れとしないように、日常に活用して、自らの価値の最大化を図るのである。

 魅力のない企業などない。魅力に気づけるかどうかがこれからの企業には大事だろう。

今日はこの辺で。

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