洗濯マグちゃん 消費者庁からの指摘 その後 宮本製作所 宮本隆 社長に直撃した
一時期、「洗濯マグちゃん」という商品が、消費者庁により景品表示法違反に該当するという指摘を受けたことで、ニュースを賑わせた。それ自体は、表現の問題として反省すべき点はあるとしても、その後、この商品で洗える事が「嘘」であるかのような表現で書くメディアがいて、疑問に思った。嘘をついてまで商売をするのだろうかと。
洗濯マグちゃん その後
1.洗濯マグちゃんの背景
結論から言えば、マグネシウムを使って洗えるという事実そのものは嘘ではない。僕は、この「洗濯マグちゃん」発売元の宮本製作所 代表取締役 宮本隆さんに話を聞いてみて、思った次第だ。
そもそもの話だがなぜ、僕が元々この会社のこの商品に着目したか。それは町工場が生んだ大事な発明であり、そこに純粋に感銘を受けたからだ。逆にいうと、その価値を知っているからこそ、真実を知りたかったし、だからこそ、誤解を招く表現などで、そういう地道な努力の芽を摘む可能性があってはならないと思って、その信念だけでこの記事を書いているにすぎない。
嘘かどうかの前に、「洗濯マグちゃん」を知らない人のために、その背景について少し触れたい。下の写真の商品で、洗濯機に洗濯物と一緒に入れるタイプの商品だ。
元々、この商品はマグネシウムの価値を発見したことから始まっていて、中でも高純度のマグネシウムは水と反応し、洗浄力のある弱アルカリ性の水に変化する。それゆえ、皮脂汚れを落としてくれるということになっている。
2.マグネシウムの価値になぜ気づいたか
では、なぜそこに町工場が気づいたのか。それは宮本製作所がマグネシウムの加工品を扱っていて、何気なくその削りカスをその土管の中に入れておいたからであって、ある時、そこに溜まった雨水が綺麗になっていることに気づいて、その原理を着想するわけである。
普通の土管にはボウフラなどがいたのにも関わらず、削りカスが入っている土管の方には一切、それがなく、綺麗であったというのだから驚きだ。
そこで、実証実験を行なってみると、本当に、マグネシウムの力で洗濯物の洗浄・消臭・除菌ができることが判明した。ならば、とマグネシウムを詰め込んで、先ほどの写真のようにして、洗濯補助用品として売り出したのである。洗濯物と一緒に入れるだけで汚れ落ちがあるのと、消臭力もあって、洗剤を控えても綺麗になると謳ったわけだ。それが上記における景表法の話に至るわけである。
3.洗濯機のニーズとは違うベクトル
さて、ここからが先ほどの宮本さんの話となる。それが「効果がないのに効果があるように表現した」ように思われてしまった要因には実は「時間」という概念が抜け落ちていたからなのである。
「、、、ということは、これをもっと水に浸けていれば実感できたということですか」と僕がいうと、宮本さんは大きくうなづいた。
宮本さんの話すところから察すると、今の洗濯機は時代のニーズもあり、素早く洗濯を終えてしまうことを意図しており、そこでは「洗濯マグちゃん」のポテンシャルを最大限、発揮し得ない。具体的にいうなら、それを活かすには、水に浸かる時間が少なすぎるのである。
なるほど。ここで捉えるべきことは何か。それは、洗濯機が応えようとするニーズと彼らが応えようとするニーズ、それぞれの目的、ベクトル(向く方向)が違かったということなのではないだろうか。
洗濯マグちゃんの価値をと意気込む宮本さん
1.だから嘘ではない
「洗濯マグちゃん」の場合、マグネシウムと水が反応して、pH値が上がる。pH値が上がることでタンパク質を分解することになり、それで汚れが落ちる実感へと繋がっていく。ただし、そこに必要とされる時間が大体10分から15分というものである。
それゆえ、本当に深い実感を得たいとすれば、洗濯機のスイッチを入れて極論ではあるけど、10分ほど経過したら、そのまま30分ほど放置して再開すればいいということになる。
勿論、ここの部分に対しては賛否あるだろう。ただ、そこでどう思うかは別として、結局、先ほど、僕は触れた通り、「洗剤を極力控えたい」のか「それとも早く洗濯を終えたい」のかという部分で、応えようとするニーズが違うのだから、噛み合うわけはない。それを通り一辺倒に、バッサリ嘘であるとしてしまうのは難があるだろう。
2. 新商品を以てその意思を伝える
客観的にいうなら、お客さまに誤解を与えたなら、それは素直に書き損じと言った方が良く、その部分は反省するべきであるように思う。しかし、少なからず「嘘」という言い方ないしは、そうと受け止められる表現は誤解を与えるもので相応しくないと僕は思う。
本当に商品の価値がどこにあるのか。そこに対しての真理を追求して、表面上で捉えることなく、あともう少し思いやりを持って接していたら、と思うと切ない。メディアとしては目立つことを優先させれば、その方が目を引くが大事なのはそこではない。
ただ、ここで宮本さんたちのその後の姿勢で注目すべきは、そういう風潮に対して意義を唱えるわけでもなく「マグネシウムの効果に疑問符が投げられた」のであれば、それを実証して「正しいことを伝える」までだと考えた点である。
つくづく商品とはメディアである。自分達が主張してきたことの真意を理解してもらうために、敢えて「洗濯用液体マグちゃん」という商品を投入して、世に問うわけである。
3.液体を出す理由
「液体ですか???」そう僕は宮本さんに尋ねると、「そうなんです、あともうこれからというところで、マグネシウムの効果が発揮されないまま、その水が捨てられてしまうのであれば、最初からそれらを混ぜた状態で、短い時間でも効果が実感できるようにしたかった」と答えた。なるほど。
勿論、それも自ら実験を行った。
それが下記のデータ。こちら「洗濯用液体マグちゃん」(25ml)を水道水38lに対して使った際のpH値である。
さらに、その洗濯用液体マグちゃんに通常の「洗濯マグちゃん」4個を入れた際のpH値も指し示しておく。
要は、この数字が全てであり、9.96pHの段階までくると、タンパク質を分解できるレベル感となるので、洗濯としての価値を実感してもらえるというわけだ。
価値の求める箇所が違う
1.お客様と直で繋がれる今の時代なら訴求できる
正直、これによって値段が高くなるということはあるだろう。ただ、そこから先は価値観の問題ではないかと思う。昨今、特にD2Cなどの文脈で、メーカーもまた価値を直接、お客様と分かち合い、共感することで、継続的に繋がっていくその姿を僕は見ているので、必ずしも価格競争だけでものが買われる時代ではないことを実感している。
思いがけず、宮本さんから僕は「社外秘なのだけど」と見せられた資料があって、そこの一部にはこう書かれてあった。それがこの商品の価値を何より示すものではないかと思う。
「肌が大変弱く数年前より洗剤をやめマグちゃんにしてから一気に体中の肌が改善し、皮膚科の薬漬けから解放されました。いつも7キロの洗濯物に大量のまぐちゃんを投入しています。(原文のまま)」
彼らが求めるベクトルはこちらなのだと思う。その価値観に理解を示せば、例えそれが少しばかり手間がかかろうが価格があがろうが、限度はあるけど、そこの落とし所を探ることで、受け入れてもらえるゾーンはあると思う。
2.伝えた後も責任を持ち、その後の経緯も正しく価値は伝えられるべき
何より、僕が考えさせられたのはこのお客さまのコメントだ。
「報道を見て、手のひら返しみたいで疑問を持ちました。試しに洗濯マグちゃんを入れないでやった時と、洗濯洗剤+まぐちゃんを試してやったら、マグちゃん入れた時の方が時間が経った時のにおいが違うような気がしました。(中略)報道は出っ放しで、イメージ落として改善されたことやその後のことは報道しないので、今すごい大変だとは思いますが、頑張ってください。(原文のまま)」
その通りだと思う。ただ、宮本製作所に対してもドライな言い方をすれば、ビジネスである以上、価値に見合った対価を提供しなければ生き残ってはいけないのも事実であるということ。
思うに、彼らが目指すべきは単純な価格での競争ではなく、もっと昨今言われる「SDGs」において自然環境に配慮した商品作りにも直結し、上記に示したようなアレルギーに悩む人に対しての付加価値ある洗濯なのである。
この実感と世の中で、この商品がもたらす意味に、共感させる為の努力を、企業として、どれだけできるか、それに尽きる。僕はそれこそ、認められる大事な価値だと思うから、なんとかそのお客さまのために奮起して企業努力に励んで欲しく、この文章に変えてエールを送りたいと思う。
今日はこの辺で。