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小田急百貨店 に出現 文具女子博 その“インク”で描くのは女性の夢でした

 文具には人の心を動かす要素がある。それに気付かされたのが『 文具女子博 』というイベントであって、そこには見ているだけで想像力をかき立てられる文具が並んでいる。利便性を求めるばかりではない価値がある。そこは案外、曖昧なもので「売れる」「売れない」という基準の前に見過ごされていた部分があったように思う。そんな繊細な女性の感性に 小田急百貨店 のような大御所が関心を示したことに僕は今の時代の潮流を感じたので、取材を試みたのだ。

『 文具女子博 』の価値観 小田急百貨店 に

1.この楽しさはバレンタインデー企画に通じる

 この催しは『 文具女子博 』のスピンオフ企画として「文具女子博 #インクとデコ沼」と銘打たれた。小田急百貨店新宿店の本館11階催物場をフルに使い切って(ということは物産展と同じスペースを使って)9月23日から4日間開催したのだから、その気合いの程が窺える。

 一番心に残っているのは、販売促進部催事担当 マネージャー近藤温子さんの「私はチョコレートも担当しているのですけど、この『 文具女子博 』のイベントに行って、この楽しさはバレンタインデーの催事に近いと思ったんです」という言葉。「確かに」と直感で聞いて思った。

 バレンタインデーのチョコレートは一つ一つパティシエの手によりチョコの素材、入れ物など細部にまでこだわり、ストーリーがある。チョコの美味しさもさる事ながら、そういうシーンと渡した時のイメージを思い浮かべて、心惹かれて買い求めるのであって、それはこの『 文具女子博 』での文具を“魅せる”姿勢に共通する。

 文具は書く為のものなのだけど「こういう風にして描いたら楽しいよね」という具合に、描くことそのものを想像し、買う事を楽しめるように演出しているわけで、そこに近藤さんはピンと来たわけである。

2.女性たちの熱狂に圧倒された『 文具女子博 』

 実際、彼女はこのイベントの事を知り、自らチケット(このイベントは入場料を要するのだ)を購入して足を運んで、その光景を目の当たりにして圧倒された。そこに広がるのは9割を占める女性であり、会社帰りと思しき20代〜40代の女性たちが皆、真剣な眼差しで買い物をしている姿である。

 彼女が足を運んだのも、この小田急百貨店のイベントと同様に「インク」をテーマにしたもので、それこそ従来の地味なインクのイメージは完全に覆されていた。彩り豊かで、それを使ってデコレーションするなどして可愛らしい印象でそれらの文具には華があった。

 だから、作り手のこだわりを感じて手にする人もいたし、かわいさに触れて心を満たす人もいた。それが近藤さんにとってみれば、小田急百貨店で仕掛けてきたバレンタインデー企画とイメージとして重なる部分があったというわけだ。そして同時に思い浮かべたのは、これであれば、きっと普段催事に来てくれている人にも親しんでもらえて、新しい人にも足を運んでもらえるきっかけとなるという確信。それを思った時には彼女の足はもうその事務局に向いていたという。

小田急百貨店にも女子が殺到

1.透けて模様が浮かび上がるファンタジー

 それでは小田急百貨店の「文具女子博 #インクとデコ沼」の中身を見てみる事にしよう。

 文具に欠かせないのがまず紙である。何気ないノートや日記帳も言うなれば、自分の気持ちなどを反映する“キャンバス”のようなもので、紙にも趣向が凝らされている。

 「kamiterior」というブランドを展開しているペーパリーは色々な製紙会社とのネットワークを活かして、さまざまな紙を組み合わせて、オリジナルの提案をしている。下記写真を見ると、表紙に「しょーとけーき」と書かれているから「これは何ですか?」と聞くと、ショートケーキにまつわる色の紙(クリーム色、いちごをイメージするエンジ色など)を集め、一つのメモブックにしているのである。

 僕が惹かれたのは「 SHEER stationery」というもので、絵柄が透かせるメモブロックである。「透かせる?」と思われる方もいるだろうが、写真を見ていただきたい。

 写真はその商品とその紙を光に向かって照らした時のものである。文房具の模様が浮かび上がっていることに気づくだろうか。「紙を透かして楽しめるだけではなく、ちゃんとこの上にペンで描いても全く水を弾くことなく、紙としての本来の機能も果たしています」とスタッフの方も誇らしげである。

 メーカーの人達は商品に込められたこだわりを伝えるプレゼンテーターであって、興味関心を抱く来場者との間には、そうやってコミュニケーションが生まれ、新しい魅力に気づいて購入していく。かくいう僕自身も魅了されてこれを購入した。

2.あの飲み物をモチーフにした「ラムネペン」

 文具の演者は紙だけではない。道具の楽しさとして語る上ではガラスペンは欠かせないだろう。その名の通り、ガラス製のペンでペン先にインクをつけるもので、そのデザインも秀逸である。このイベントで初日、瞬く間に販売予定数を完売して話題を集めたのがparaglassの手がける「ラムネペン」であって、1万円以上する代物であるがその値段たり得る惹きつける要素がある。

 持ち手の空洞部分には、小さなガラス玉が閉じ込められていて、あの飲み物の「ラムネ」を連想させる。中身のガラス玉はコロコロと転がり涼しげな音を奏でるのである。ペン軸には炭酸をイメージした水色の泡入りガラスを使用しているこだわりである。ガラスペンで夏を感じさせる爽やかさを表現するあたり、これは職人芸である。

3.描きたい気持ちを触発する「すずり」

 ペンがあればインク選びも重要。「この発想があったか」と思わせたのは、FUMISOMEというブランドが提案するガラスのすずりである。その名も「色々が映える硝子硯」である。

 「色々が映える」のはガラスゆえなのか。

 その「すずり」の表面が明るくクリアであり、そこで「色々に染める墨」を刷るわけであるけど、ポイントは複数の色を掛け合わせる事にある。すると、色が鮮やかに表現され、その様子はまるで絵の具のパレットのようだ。出来上がった色はオリジナルの色合いだから、ますますノートなどに描きたい気持ちを触発するし、描くまでの時間すら楽しめるわけである。

4.スタンプすらもアートである

 表現の幅を広げるものとしてスタンプも忘れてはならないアイテムである。これも感心したのがシードの「クリアほるナビ」という商品で、消しゴムスタンプ風であって自分で掘ってスタンプである。自ら掘って作るわけだけど、その名の通り、クリアであって、ここがミソである。

 クリアなのではじめから切り抜きたい図柄を敷いてそれを透かして、掘ることができる。出来上がった後も、透けているのでスタンプを押す場所がズレずに済む。創作することを前提に、かつ創作した後もそのスタンプでデコレーションすることまで意図して考えられた商品である。

 その他、スタンプ台に目をつけたのはシャチハタ。

「いろづくり」という商品では、スタンプパッドに自分の好きなインキを混ぜ合わせて、マダラ模様にするのである。映し出される色に着目することでオリジナリティが出す発想。ハンコを思うが故のきっかけ作りである。その横には市松模様などのハンコが置かれていて、つい手が伸びる。

5.ノートを選ぶ楽しさもある

 これら以外にも、ノートそのものが楽しい。日販アイ・ピー・エスが提案していたものは、表紙に円形の穴が開いていて、中から星の王子さまが顔を出す。キャラクターの魅力はさる事ながら、それを活かすノート自体の工夫に夢がある。キャラに依存せず、商品力で勝負しようとする姿勢が『文具女子博』ならでは。書籍のような体裁のハードカバーノートもあって、このブースのノートは文具であって文具ではない。その特別感が素敵である。

 冒頭、想像力をかき立てられる“魅せる”文具と説明した意味を理解していただけただろうか。その柔軟な発想としなやかな使い道は女性ならでは。その笑顔の裏側にメーカーの職人魂が活かされていることも喜ばしいし、それを通してメーカーとお客様とが会話を交わして、文化が出来上がっている。

 こういう感性が今のインスタグラムの浸透と呼応する形でマーケットと認知され、それをビジネスとして、また共感を生むイベントへと変えた『 文具女子博 』の手腕も見事だし、そこに気づいた小田急百貨店にも拍手である。僕らは見据えるその視点はもっと可能性があって、際限なく、楽しい要素で溢れているのである。

 今日はこの辺で。

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