体感し拡散して価値を底上げする「バーチャルマーケット 2024 Summer」企業の新たな販促のあり方とは?
伝達手段が多様化したからこそ、マスメディアの効果も限定的で、表現そのものも、はっきりとものが言えなくなってきた。広告に変わる販促の受け皿が必要なのかもしれない。企業が色々模索する中で、その一つに相当しそうなのが、メタバースなのだと僕は睨んだ。そんな思いで、VR法人HIKKYに足を運んだのである。そして、2024年夏の「バーチャルマーケット 2024 Summer」の今を聞いてきた。
企業の新たな発信地「バーチャルマーケット」
「バーチャルマーケット」は、最初こそ、クリエイターの発表と交流の場であった。仮想空間で人は出会い、その才能を讃えあい、交流を図る。ただ、それを求めて集まる人の数が、世界規模に及んだ。それは、この「バーチャルマーケット」が活用している「VRchat」が世界規模のプラットフォームだからだ。
世界の人がアバターに扮して集まり、その数は、100万人を超えるなどした。世界的なプラットフォームの上とはいえ、日本企業が作り上げたその空間が脚光を浴びること自体、素晴らしいこと。それで僕は注目していたのである。
そして何よりそれは名だたる企業の関心を集めるに至って、更なる発展を遂げる。それこそ、デジタルでは馴染みのない企業も少なくない。だから、面白い。熱狂が高まりつつある中、今日、2024年7月20日に「バーチャルマーケット 2024 Summer」は幕を開けた。8月4日までという長丁場で開催され、前回同様、リアルも巻き込み、関わる企業は総勢85社以上。
参考記事:老舗の百貨店「高島屋」リアルな店舗を飛び出して、いざ「バーチャルマーケット」へ参戦。
聞けば聞くほど、企業の努力の跡が見られる。それには理由がある。ここではその理由にも触れながら、各社のその様子を追いたい。自分たちの価値を発信するため、ユーザーを巻き込んで、真実を追う。それが、共通してみられる傾向となっている。
臭いと汚れを退治する「花王」
論より証拠で、こちらを見ていただきたい。
今回、同イベントは、3つの街をモチーフにした“マーケット”が出現しており、そのうちの一つが、ドバイである。昔ながらの旧市街と煌びやかな街並みが混在する中に、花王のブースがあるのだ。
中へ入ると「花王」商品を使ったゲームができるようになっている。
迎え撃つのはその名も臭王(におう)。武器となるのは「ピュオーラ」などの商品の数々である。
臭王が仁王立つ(苦笑)前線に、小さな汚れのキャラが出てきるので、これをそれらの武器で退治するのである。企業のコンセプトにブレはない。倒していくと、「花王」でお馴染みの月のマークが出てきて、臭王をやっつけるのである。
横には「My Kao Mall」と書かれた看板が。これこそが彼らのECサイト。メタバースはよりそれらの商品を手に取れるようにして、ECサイトへ誘うことで価値の深掘りをしている。
へぇ、入浴剤のバブにもこんなタイプがあるのか。手に取ってみて、発見もある。
売り先と連携して商品価値を伝える
そして、その企業が持ち合わせているリソースを、フルに活かして、アピールするのも特徴。階段を上がると、、、「おっと、ドンペンじゃないか!」つまり、花王の商品が置かれている実際のお店ともコラボをしているのだ。
メンズビオレがドン・キホーテ限定で販売されている。だから真ん中に薄汚れたボディがあるだろう。これを、短い時間で、それを使い、汚れた体をキレイにするというゲームが用意されている。
同じく花王の商品が販売されているカインズとも連携している。右側は何だと思う?
実は「ちんあなご」である。えええ?実は、カインズでは「洗剤アタックZERO」でスティックタイプの「発泡スパーク」に着目して、“シンデレラフィット”する箱を用意(右側)。“シンデレラフィット”とはキレイに収納できるという意味である。
思わず吹き出してしまったが、収納している感じが「ちんあなご」が生息しているよう。だから、「発泡スパーク」か「ちんあなご」か。正しい方を見分けるというゲームである。ゲームをやった人なら、カインズでにニンマリすることだろう。
ノンアルコールでお酒と違うマーケットを訴求するサントリー
このようにして、メタバースはユーザー参加型でプロモーションできることが強みになっている。これが最初、僕が話したことに直結してくる。つまり、販売促進の手段として、広告が表現や効果の面で、以前よりも難しくなってきたからこそ、この場所を活用するのである。
だったら、心機一転、その視点を変えてしまえばいい。そう考えているのが、サントリーである。
左右にバーカウンターが並んでいて、ノンアルコール飲料が7種類、並んでいる。
飲み会然りだが、お酒に絡む全てのことを「飲める人だけの楽しみ」と捉えるのはもはや過去の話。今は、飲める飲めないに関係なく、分け隔てなく誰でも楽しめる。そのことをここで訴求するわけである。
その世界観に浸れば、発見もある
上記のように、手に取ることができる。それで、持ち歩き、中央のステージ上へといくと、そのノンアルコール飲料の仕様になる。かつ、その横にいるアバター女子も衣装を変えて、乾杯をしてくれるのである。
笑顔が最高に可愛い。大事なのは「ノンアルでも楽しいんだよ」ということなのである。
驚きなのは、ノンアルコール飲料の進化である。実は、それはビールだけではない。ハイボールやワイン、カシスオレンジなど、お酒の種類に合わせて存在している。サントリーが発売中の商品だけでも14種類あって、ジュースとも違う独自のマーケットが形成されている。
また、上記のようなアバターと乾杯している写真。それをXに投稿してもらうことを呼びかけ、その数で、ギネス記録に挑戦している。年々、お酒の広告表現も厳しくなっている。だからこそ、ユーザーを巻き込み、その体験価値を、皆にシェアしてもらうこと。そこにどれだけの価値があるのかがよく分かる。
伝えづらいリアルの拠点の魅力を疑似体験で伝える
すると、企業の表現の受け皿として、メタバースが脚光を浴びる。肝となるのは、ユーザーの気持ちを触発する演出である。VR法人HIKKYは、単純に場所を提供するのにとどまらず、どういう演出が効果的なのか。それを過去の知見と照らし合わせて、考える。いわば、コンサルタントとしての要素もある。だから、安定した人気を誇っているのである。
例えば、このようにMESSEという会社は、新施設のプロモーションをここで行う。従来、パチンコの場所を提供している企業である。だが、彼らの本質は楽しい場所を作ること。だから、それを訴求する。2024年中に、三鷹に新拠点を作るというのだ。それは、サウナ、お風呂、カフェとダイニングラウンジを併設したもので新業態。その名も「FLOBA」と絶妙なネーミングで肝入り事業だ。
伝わりづらいその価値は、疑似体験をメタバース上で行うことで伝える。それでいて、お風呂のマナーを楽しみながら学べるようにしていて、価値が高い。まず体を洗ってから、湯船に浸かることを、実際にゲームで認知させる。同時に、サウナの使い方を指南する。さまざまな演出が、その場所へ行って実践したくなるような理由へと繋がる。それ自体が販促となっているのだ。
ユーザー体験がプロモーションになる「メタバース」
そうした動きは自治体をも動かす。中でも「焼津市」が積極的。まずは、ふるさと納税に着目。とかく、ふるさと納税は、自分の地元に寄付することが多い。だが、街自体の価値を伝え、愛着を持って、寄付してもらう。そんな新たなチャンスをメタバースで模索するわけだ。彼らなりの想いが詰まっていて、案内の漫画は焼津市で働く職員の人が描いた。上手!
また、自慢の港付近を、ドローンで飛ばして、360度の写真を収めた。それをどう使うのかというと、まさに、メタバース空間に当てはめるわけだ。YAIZUパノラマシアターといって、上下左右、360度、街の魅力を堪能できる設計。もう、馴染みのない街とは言わせない。
おわかりいただけただろうか。ユーザーが体験できること。そのこそが、価値である。そして、巻き込んで話題作りをする。そうすることで、企業や自治体の伝えたかった価値を訴求し、何よりもユーザーが自発的に行動することで、それらが広がっているのである。
ユーザーの声は勿論、生の声である。だから、広告とは違って、自然に人々の心へと行き渡る。表現手段が多様化している。だからこそ、変化が必要。メタバースはその意味で新時代の幕開けに相応しい伝達ツールとして価値を持つのである。
改めて、企業の表現力が問われる時代になっている。ちょうど先ほど、開始したばかりなので、一度、皆さんものぞいてみてはいかがだろうか。
今日はこの辺で。