人や文化と“対決”し凝縮した絵画『展示会岡本太郎』
非常に正直で、人間くさい人。それが僕の中での岡本太郎さんの印象であり、だから、今夏から、大阪、東京、愛知で開催されるという「展覧会岡本太郎」の資料を手にして、そのキャッチフレーズに目がとまった。「本職?人間だ。」と書いてあったからだ。
正直な人 岡本太郎
1.「本職?人間だ。」のキャッチに思わずうなづいた理由
別に会ったことはないけど、以前、僕は彼の著書で「日本再発見 芸術風土記」という本を読んだことがあって、素直に感じたイメージにやはり近い。全国を渡り歩き、その地域ごとのことを書き記した本であったけど、とにかく正直で、飾ることなく、率直に感じるままを口にする。
正直なのは敢えて人との間に議論を引き出して、そこに何かしらのメッセージを醸し出すという要素もあったのだろうと僕は見ている。図らずも、この記者会見で岡本太郎さんを表現する言葉として「対決主義」を挙げていたのは、なるほどと思ったわけである。
2.二つの太陽
この席上、「対決主義」を思わせたのは「二つの太陽」についての言及であった。一つは岡本太郎さんの代表作「太陽の塔」であることは想像に難くないけど、もう一つの太陽は、渋谷に設置されている約30mの壁画「明日の神話」で、この意図する中身が大事である。
「太陽の塔」は見上げれば、存在する自然の太陽であるけど、「明日の神話」は人間によって作られた人工的な太陽、原子爆弾を意図している。人類の進歩とは裏腹に、そこに内在する負の側面を描いたもので、彼の対決主義をよく示している。
元々はメキシコの壁画運動に共感して、彼がメキシコのホテルの壁画に描いたものだった。とはいえ、それが掲げられていたのはカフェのような明るいスペースであったそうで、その中で、この深い意味合いを持った壁画を描くあたりが、彼の対決姿勢をよく示していると思う。この「展覧会岡本太郎」ではこの「明日の神話」の下絵を展示する。
染み入るほどに吸収して形にする
1.ピカソに影響を受け、戦後の美術史に変革
元々彼の起源は18歳の時に、家族と共にヨーロッパに渡ったことにある。その後単身でパリへに滞在し、ピカソの表現に刺激を受けて、独自の表現を模索して、芸術運動に身を投じるわけだ。約10年滞在し帰国した後は、中国戦線へ出征した経験もあって、戦後の旧態依然とした美術界に変革をもたらす。
そんな意味で彼は常に、前衛的な作家であると言える。
2.孤独であったその理由
そして彼が手掛けた「太陽の塔」は万国博覧会で、多くの人の目に触れる。このイベント自体が、1400万人の来場者が集まるほどであり、それをきっかけに岡本太郎さんは日本で最も知られる作家となる。ただ、そうなるほど、本来の彼の在り方とは違っていく。前衛的で社会体制に対抗していく立場であったわけだから晩年、彼はその狭間で孤独を感じていたというわけだ。
3.大きく加筆して考え方の進化を示した
この時期、その作風にも変化が見られ「遊魂」など目のような顔のようなモチーフを入れて、こちらをじっと見つめられているような印象を抱くものが多くなっていく。
僕が印象に残ったのは「春」という作品。1947年に手掛けた作品を大きく加筆して違う作品へと生まれ変えさせたといい、過去を塗りつぶしてまでも今を表現したい気持ちがよく表れている。
4.よく勉強し、人や文化に強く関心を持った人
冒頭にも書いたけれど、この会見での話に加え、僕の読んだ著書などでも、岡本太郎さんは、あらゆるものを細部にわたってよく見ていて、何よりも本当に、よく勉強されている。だから、あらゆることに詳しく、そこに何らかの意味を見出そうとしている。
その上で、素直に思ったことをいいものはいい、ダメなものはダメと、正直に口にすることで、彼は議論をすることを拒まず、そこに真理を見出して、いろんな要素を一枚の絵の中に凝縮している。だから、きっと心に響くのだろうと思う。
どうせなら、それだけ色々なメッセージが凝縮されているのだから、ただ見るだけではなく、時代背景や彼の考え方を思い浮かべながら、その絵に込められたメッセージに思い巡らせることをお勧めしたい。きっと、ただ見えてくるその世界とは違った奥行きを感じられるのではないかと思うから。
今日はこの辺で。