デザインフェスタ 54 アート を通して会話する 未来の大物はいつもここから
猫のバルーンを購入し、到底不釣り合いかもしれない僕が、それを手にして歩く。そんな非日常も通用して、遊び心たっぷりで楽しめる、 アート の祭典。それは今日、僕が足を運んだ「 デザインフェスタ 」なのである。54回目を数え、東京ビックサイト西ホールを使い開催された。
ファンを想って各々作家は考えている
1.ねこのバルーンが会場内を闊歩する
猫のバルーンは、さとねことちゃんのアート。購入しますと意思表示すると黙々と、不器用ながら(失礼!)一生懸命、目の前で作業を始めた。
バルーンの中に、スパンコールやよくウェディングドレスなどに使うチュール素材を詰め込む。そして、空気入れをシュッシュと入れるとぷぅ〜っと膨らんでバルーンになる。猫の目と耳をつければ、もう完成。この臨場感が良くて、子供たちなどはその出来上がりまでの様を熱心に見ている。その様に夢があるのだ。
2.美大生がその才能を発揮
行列ができるこのさとねことちゃんのブースの横で、美大生の女の子。いろんな人が同列でブースを構えるというのがこのイベントの醍醐味である。ちょっと控えめなのも良い。
へのへのぐんじさんで、単に女の子を描くだけではなく女性に潜む魔性性を描いている。今回、初めての参戦。その経験はきっとこれからの創作活動に活かされるに違いない。彼女と話しながら、このイベントは「育てる」場でもあるのだと痛感したのだ。
ネットで表現することでチャンスを掴める時代
1.既にネットをテコにブレイクしている人も
さて、今回改めて実感したのは、実際、僕はずっとこのデザインフェスタに来ているものの、最近のアーティストさんの傾向が異なってきているということなのだ。
何が違うのか。以前であれば、普段は企業でデザイナーをやりながら、一方で、趣味で作品を手がけて、この場所に持ってきて、来場者の反応を楽しめれば、それで十分、ということも少なくなかったが、それもネットの環境が一変させたと言って良い。
最近は「minne」や「creema」があり、作家側からここに出しているんですと説明を受けることも多い。これらのサイトは、作家の作品を売るプラットフォーム。気軽に出店できるから、作品を売り、しっかりそれで生計を立てているのだ。
2.果物?いやいや革小物
「minne」の例で言えば、革工房Broonieさん。革職人であり、革小物を手がけて、生計を立てている。このデザインフェスタではチャレンジ精神がキラリひかる。少しエッジの効いたりんごやケーキなどの形をしたリングケースを出していた。
全て牛革。皮絞りという技法を使い、一枚の革を立体的に色んな形にしている。そこに作家の染色好きが嵩じて、これが出来上がった。要は、そこで色をつける際に、形も工夫して、作品に仕上げるわけが、りんごやスイーツにしてみたのである。果物モチーフにした可愛らしいリングケースのアイデアを提げて、今では革のパティシエを名乗る。
3.ゾウです?いや椅子です
他にも、別のフロアでは、変わったスツールを見かけた。そもそも「スツール」について、皆さんはご存じだろうか。スツールとは、背もたれも肘付きもない椅子。
「デコラデパート」というブースで陳列されていたのは、そのアレンジ。スツールに装飾を施して、インテリア価値を高めたという。これも「creema」などで販売しているとか。サイトに出品するのが作家のステータスなのかもしれない。
そこならではの悩みもありそうだ。「大きいので送料が高くなる。なので、なかなか買うのに躊躇するみたいです」と。ただ、逆にいうと、リアルで確かめられる「デザインフェスタ」のような機会を狙ってきてくれるお客様もいるそう。改めてこういうイベントの存在にも感謝している様子であった。作家も作家で、色々試行錯誤している様子である。
4.努力家Oimy、会社立ち上げアートのYouTubeで奮闘
また、Oimyさんは見た目、普通の女子である。しかし「実は去年、会社を作ったんです」と。え?マジで?その売上は大体、自ら描く絵。それもまた凄くて「まもなく第1期決算を迎えるところ。税理士さんと話しています」と語って、まず驚く。
つまり、その絵で生計を立てるほど、その絵を買ってくれるファンがいる。
その背景には地道にグループ展に出店しているからなのだ。努力家なのである。また、YouTubeなど今の要素を上手に取り入れて、力を発揮。絵のメイキング画像という切り口で関心を集めて、再生回数が6万回。おおお、受け身ではないのが良い。画家としてちゃんと今の要素と愛嬌を兼ね備え、生計を立てている。会社までやっているのは立派。
ネットの存在がアーティストの可能性を拾い上げている。おまけに、しっかりブランディングに寄与。彼ら自身の生活を支えている。
まわりに左右されずに自分でチャレンジすることの大切さだと思う。「絵でやれるんじゃないかという気持ちが舞い降りてきたのですよね」などと茶目っ気たっぷりに語るキャラクターも未来の大物を思わせる。
作品は来場者の対話のきっかけ
1.身近に猫がいるからリアリティがある
他にも、「これ、自分で作ったんですよ」と語る鈴木ズコさんのブースはアーチで来場者を迎える。彼女はFELISSIMOのYOU+MORE!の雑貨の動物イラストを手掛けていた。それも立ち上げ当時から。色んな種類を描いてきた経験が活きて、今では猫をモチーフにイラストを手がける。「これ、猫にしている理由はなんですか?」と聞くと、「うちも猫を飼っていまして(笑)」。
「あれ?王冠かぶってますね、この猫」と僕がいうと、そこがコンセプトのようだ。
「猫に限らず、ペットを飼っている人は自分のペットが一番というのがあります」と。だから、あなたの愛猫を王子・王女化しますよと呼びかけるわけだ。
『あなたの愛猫を王子・王女化してモビールにします』という募集を行って、個展やグループ展などで皆さんの愛猫を展示する試みを展開。かなりの応募数があるそうで、「飼い主さんの愛を感じます」と。なるほど。
2.人と人との触れ合いがデザフェスの良さ
「デザインフェスタって結構、初対面の人でも話してくれるんですよね」。改めて、デザインフェスタの印象について聞くとそう語る。フレンドリーに自分のことを話してくれる来場者もいる。中には初対面なのに、差し入れをくれる人もいると。それを為せるのは、このイベントの空気感によるところが大きい。
「アートは人との会話を引き出すきっかけなのかもね」と。別のブースに足を運ぶとこれまた愉快な作品に巡り合った。こちらである。
要はトイレットペーパーを積んでおくと、殺風景。なので、この作家は、その上下に自家製のオブジェを入れたわけだ。つまり、トイレットペーパーを挟むことで、違った価値を生んだ。
積み上げると、水道管のパイプに見えたり、神殿の柱のように見える。よく考えるなあと感心してしまった。
3.著名な陶芸家の作品も
「あれ?青木良太さんって」と僕が呟くと、「ご存じですか?」と白衣を着た女性が駆け寄ってきた。
青木良太さんは著名な陶芸家だ。ガチャで作品を出していて、その名も「チムチムゴットミニ」。その形状について多くは語らない。だが、元々は「チムチムゴット」という作品を手がけていたのを、敢えてミニチュアサイズにしたのである。彩豊かにガチャに入れて、来場者の意表を突く。青木さんの遊び心を見た。
それぞれにそれぞれのカラーがあって、有名人もこれからの人材もカオスのように混ざり合っている。だけど、それがこのデザインフェスタの醍醐味である。また、アートに興味を抱く来場者と、アートを通して触れ合いたい作家との心の通うコミュニケーションの場でもある。だから、聞くと色々な想いを話してくれるし、それがこの場所の良さである。
今では有名になった人もここは自分の故郷のようにして、未だに出店する人もいるくらいである。アーティストの背景は異なれど、今も昔も、皆一様に、この場所が彼らにとっての貴重な拠り所となっていることには変わりない。
今日はこの辺で。