コロナ禍で生まれたキャラクタープロデュース―学生×企業の試みが示す未来

コロナ禍は人を悲観的にさせる部分もありつつ、人に新たな気づきを与えるのも事実である。それを 法政大学 経営学部 小川孔輔ゼミナールの 学生 から教わった。彼らがとりくだのは「ゼロからのキャラクタープロデュース」。それを通して見えてきた、産学連携の可能性や学生の創造力について考えたい。
産学連携が拓く、新しいキャラづくりのかたち
このプロジェクトは、株式会社レッグスの協力を得て「学生が一からキャラクターを創り、世の中に発信する」という大きなゴールを掲げて進められた。オンライン授業が主体となり、仲間同士でも直接会えない状況が続く中で、学生たちはどうすれば魅力的なキャラクターを誕生させられるのかを模索していく。
僕が取材した生徒達は前期班長の齋藤梢之介くん、後期班長 葛西理彩さん 中本理香子さん、前田早貴さん、木村廉くん。キャラクターを知るべく、下記の点に留意して、進行させていった。
• プロの講師を招く
キャラクタービジネスの最前線を知る専門家を講師として招き、人気キャラクターの成功要因やマーケットの動向などを学ぶ。
• ターゲットを明確にする
「大学生にしかわからない大学生あるある」を盛り込み、リアリティとユーモアを両立させる。
• 分析を活用する
「リッカード尺度」という5段階評価を用い、メンバー間の意見を数値化して公平に意思決定を進める――オンライン中心でも客観的に合意形成ができる仕組みを工夫。
こうした一連のプロセスは、単に「かわいいキャラを作る」だけでなく、キャラクターとは何か、誰に向けて発信するのかを考え抜く作業でもあった。
産学連携が拓く、新しいキャラづくりのかたち
さて、ではそれぞれを深掘りしていくことにしよう。聞く限り、その授業の中身は本質的。
最近のキャラクターの流行は、可愛らしい見た目に反して言葉使いが変だったりと、その「ギャップ」を楽しむ傾向がある。また、食べ物と動物など何かしら「掛け合わせ」することで、その個性と可愛らしさを表現している。聞いている僕もなるほどと思うものばかり。そうやって、人気キャラの共通項を洗い出し、それをヒントにオリジナルを生み出すのである。
そして、キャラクターを作るにあたり、そのターゲットを自らと同じ大学生に設定した。「大学生のことって大学生にしかわからない。大学生の為のスタンプなら、面白いものが作れるんじゃないかな」と語っており、それは的を得ている。
そのほうが真にターゲットに近いメッセージを発信できる筈だ。
いかにして キャラクター プロデュースを
さて、どんな「掛け合わせ」をして、どういうキャラクターを作るか。
ベースに選んだのは「動物」。理由は見慣れている分見た目と中身のギャップが出しやすいから。その代わり珍しいものを選ぶことにした。
とは言え、このゼミのメンバーは男女複数いて、価値観も多様。珍種を一つ選び出すのも大変で、結局、選ばれたのはハリネズミ。この選定過程がコロナ禍ならではの話で「リッカード尺度」を活用したということなのだ。要は選択肢それぞれに5段階評価をつける。

リアルのような膝を付き合わせた議論が難しい分だけ、彼らなりの公平な判定基準を見出したところに、頼もしさを感じる。
そして、試行錯誤の末、ハリネズミと「芋」を結び付けて表現することに辿り着く。そのきっかけは「芋女(イモオンナ)」というキーワード。
「友達の前ではキラキラ女子でも、家では垢抜けてない野暮ったい女子ということはなくはない。この冴えない状態を芋女というんです」と。
そんな芋女なんて…と検索してみたら、確かに出てきた。知らなかった、すまぬ。

しかも、彼らは女子大生約150名にアンケート調査を実施して、7割弱の女子大生がオンとオフの差が激しいことを実証。視点の正しさに胸を張って見せた。
キャラが映し出す学生たちの視点:ハリネズミ×芋
かくして学生たちが生み出したのは、ハリネズミの見た目と“芋”という要素を組み合わせたキャラクター。ちょっと意外な組み合わせに思えるが、背景には大学生のリアルな「オンとオフ」のギャップがあるということ。
- • 「キラキラ女子だけど家では気が抜けている」
- • 「オンは華やか、オフは冴えない姿」
この二面性を「芋女(イモオンナ)」という言葉で表現。それをサツマイモ(オフ)とスイートポテト(オン)にかけてキャラクター化。“ハリネズミ”という動物をベースに選んだ理由は、愛らしいビジュアルと尖った個性のギャップが際立つから。
こうして誕生したのが「いもやまはり子」というユニークな女子大生キャラ。その個性を活かしたLINEスタンプのリリースを目指す。プロジェクトは実際のビジネス化と変わらぬ環境を視野に入れて進めた。
いもやまはり子 女子大生キャラの誕生

名付けて「いもやまはり子」。ここに女子大生キャラクターの誕生である。
学生プロジェクトの意義――枠を超えた学びと挑戦
このキャラクタープロデュースは、単なる授業課題にとどまらず、学生たちにさまざまな気づきをもたらす。
1. 実践を通じた学び
講義で得た知識をすぐに実務に落とし込む。そうすることで、問題解決能力や企画力が自然と身につく。産学連携ならではのリアル感が、学生たちのモチベーションを高めた。
2. オンライン時代のコラボレーション
オンライン主体のやり取りは「直接会って話し合えないから不便」というデメリットがある。その反面、アンケートを活用したデータ分析やデジタルツールによるブレストなど、新たな合意形成ツールを導入するきっかけにもなった。
3. ターゲット目線を持つ強み
「大学生のことは大学生がいちばん知っている」。この強みを最大限に活かし、自由な発想でキャラクターを生み出す。そうすることで、既存のキャラ市場では見られない独自の切り口を提示できた。
4. 自己表現と社会貢献のバランス
キャラクターを介して社会にメッセージを届ける経験。それは、自己表現と他者への配慮を同時に学ぶ良い機会にもなる。
たとえば「いもやまはり子」が抱えるオン・オフのギャップは、コロナ禍の孤独感や自己肯定感の揺らぎといったテーマにも通じ、その意味で多くの若者が共感できる要素を含んでいた。
何気なくここまで書いてきた。だが、大学生がウェブ一つでここまでくるなんて、誰が想像しえたろう。
まとめ:どんな状況も学びと創造のチャンスに
「いもやまはり子」をはじめとするキャラクター開発。
それは、法政大学の学生たちがコロナ禍という制約を逆手に取って生み出したクリエイションの一例。オンライン時代ならではの工夫や、仲間との試行錯誤で得た経験は、教室だけでは身につかない実践的な力を育んだ。
また、こうした産学連携はいつの時代も、教育の枠を超えて社会に新しいアイデアを届ける源泉となり得る。現代の学生はデジタルネイティブ世代。だからこそ、柔軟な発想やスピード感があり、企業やクリエイティブ業界にとっては見逃せないパートナーである。
この取り組みにも、学生ならではの発想力と企業のノウハウがうまく結びついた強みがある。コロナ禍は確かに制約が多い時期だった。だが、その中で学生たちは「今、自分たちにしかできない挑戦」を形にした。
どんな状況でも、一つひとつの創意工夫がチャンスを生み出す。そうした視点こそ、これからの社会やビジネスに欠かせないものになっていくだろう。
人には人の、今には今の“できること”がある。限られた環境だからこそ見つかる道があるのだと、この学生たちの挑戦は教えてくれる。
今日はこの辺で。