小売店 の デジタルシフト その前に “在庫”で生産性を高めよ
コロナ禍で今までの考え方を一新しなければならない。特に、リアル店舗はそうで、その証拠に、続々と閉店を余儀なくされている。でもどう変われば良いのか。AMSの古田俊雄さんと話していて、気付いたのは、まずは在庫への着手である。
なぜ“在庫”の意識改善が必要なのか
1.リアル店舗では数への意識が薄い
リアルという拠点が苦境に立たされているから、「デジタルで販売したい」と逸る気持ちはわかる。だが、そこにたどり着く前に大抵がつまづく。そう語るのが古田さん。彼曰く、多くが「在庫」の課題に悩まされ、そこを乗り切らないと、本当の意味でのデジタル化は推進できない。
その背景には何があるのか。実は、これまでアパレルブランドは、かなりの割合で発売日が確定していない。当然ながらリアルの店舗とオンラインストアの発売日が異なる企業も少なくない。届いたものから順次売っていくという心理の方が先にあって、全体感が見えていないのである。
その証拠に、リアル店舗に商品が届いて販売される段階になって初めて、オンラインストアでの商品登録が始まる。これでは、両社が在庫に対して共通したイメージを持つはずはないだろう。
2.スケジュールの徹底から始まる
そこで、AMSでは、リアル店での発売日を決めるのだそうだ。それで、オンラインストアの発売日との差を割り出し、その開きを埋めるべく必要な施策は何か。そこを思案するところから始めるのである。シンプルだが、各売り場、共通の発売日を設定。そこから逆算して、それぞれがすべきことをスケジュールで管理していく。
すると、いつまでにどの部署が何をしなければならないか見えてくる。そのデータを正しく整理し直して、それを全体のフローの中に無理なく馴染ませるのだ。自ずと、それだけでも、スケジュール感をきちんと皆、コントロールできるようになってくる。
細かな話であるが、ECサイト用に商品撮影しようとしても、その撮影現場に到着する数量がわからない。そんなこともあったようだ。つまり、撮影する側の想定する以上に商品点数が届けば、それは遅延を生む。当然、スケジュールが乱れることになる。
しかも、会社内に複数のアパレルブランドが存在すれば、それらは縦割りになっている。他のブランドのそういう状況を把握できなければ、尚更、その現場は混乱することになるわけだ。
3.デジタルシフトは、曖昧から脱却させる点にある
つまり、デジタルシフトでは、徹底した数値による管理と予測、そしてそれに対しての行動が一体化してはじめて、成立するわけだ。だが、これが今までの風習にはない。そうすると、後回しになる。だから、今度は、どこに在庫があるのかがわかりづらい。
リアル店舗同士、あるいはネットとリアルとの間で、生産性の高い売り方ができなくなっていたのである。それは気がつけば、企業そのものを窮地に追い込む要因にもなりえていた。
だから、本当に基本的なところから着手した。
スルーされがちであったものをデータ化し、それをエクセルシートで可視化。それを業務フロー改善のための材料にして、新たな流れを作っていくのである。データは存在してもその使い道がわからない以上、宝の持ち腐れである。使い道の指南をして初めて、会社の事業の効率化を徹底させていくことが可能になる。
AMSとしては、そこは本業ではない(笑)。でも、その前の段階からこうした関わりを持ち、意識からの変化を促した。思えば、実は、そのことこそが、自分達として一番大きな役目なのではないかと語る。
企業のボトルネックを洗い出す
1.ネットは単なる一店舗ではない
まだまだ、商品の色、サイズごと、きちんと在庫状況を示しているオンラインストアは少ない。ここでそれをすることの意義は、二つある。当然ながら、お客様にとって非常に買いやすい環境であるということ。特に彼らが強調するのは二つ目。一見、見えないブランド側にもたらす利益の方が大きいということなのである。
何が言いたいのか。昨今、コロナ禍で閉店に追い込まれる店舗も少なくない。けれど、それは純粋に、外出自粛の影響に伴う部分だけでないのだ。つまり、潜在的に在庫が生まれやすい構造と、それをカバーしづらい環境があって、それ故、不振に追い込まれざるを得なかっただけのことなのだ。
だとすれば、オンラインストアの存在はこれらを解決する。それ故、本当に、ブランドにとって救世主になるとも言えよう。
こういうことを言うと「それってオムニチャネルでしょ」と言われがち。だが、それは流行り言葉に踊らされているにすぎない。大事なのは「なぜ、その仕組みを取り入れるかの理由」。この窮地を契機にして、社内全員が俯瞰的に在庫を見る視点こそが本当に大事なことなのである。
2.流通を生み出すだけではない
デジタル化はデジタルという流通を生み出すことが大事なのではない。デジタルされることで一つに「在庫」管理が徹底される。この知見をリアルに取り入れ生産性の向上を図れば、会社全体の収益を改善させる。この本質こそが大事である。
「チャネル(場所)に顧客が集まっていた時代」から「顧客にチャネル(場所)を合わせる時代」へ。ただ、それは「リアルもオンラインもその他も在庫が一つ」という認識の上で初めて成立する。冒頭、デジタル化で考えるべきは「在庫」と話したのはこういうわけだ。
このコロナ禍を急場しのぎにしてはならない。また、アフターコロナは決して過去と同じであってはならない。曖昧にやり続けてきた過去と決別しよう。デジタルを手段に、自らの生産性とふさわしいビジネス構造を模索する中に、本当の進化があると思うのだ。
今日はこの辺で。