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AIは「検索」を終わらせるのか──楽天市場が描く、新しいショッピング体験の正体

 生成AIの登場によって、「AIに聞けば答えが返ってくる」という世界は、すでに私たちの日常になった。しかし、その変化はまだ始まりに過ぎない。今回の説明会で感じたのは、楽天市場が目指しているものは、「質問に答えるAI」ではなく、「買い物そのものを変えるAI」だということである。

 考えてみれば、買い物とは、単に欲しいものを検索する行為ではない。「どれを選べばいいのかわからない」「自分に合っているものが知りたい」「思いがけない商品と出会いたい」。そんな曖昧な気持ちの中から始まることが多い。一方で店舗もまた、「誰に届ければ、この商品の価値が伝わるのか」を模索し続けてきた。

 AIが進化することで変わるのは、その両者の距離である。

①AIは「答える」から「出会わせる」へ。楽天市場が目指す買い物の未来とは

 AIという言葉を聞くと、多くの人は「質問に答えてくれるチャット」を思い浮かべるだろう。実際、この数年で生成AIは急速に普及し、「AIに聞けば何でも答えてくれる」という認識が一般にも広がった。しかし、楽天市場が今回示したAI活用の方向性は、その延長線上にはない。

 彼らが目指しているのは、「回答するAI」ではなく、「買い物そのものを設計し直すAI」である。

 考えてみれば、私たちは本当に欲しい商品を、最初から言葉にできているとは限らない。「夏に旅行へ行くから歩きやすい靴が欲しい」「子どもが生まれるので収納を見直したい」「結婚祝いを探している」といった具合だ。

 買い物とは、こうした曖昧な動機から始まることが多い。

 リアル店舗であれば、店員との会話を重ねる中で、自分でも気づいていなかったニーズが見えてくることがある。しかし、ECは長らく「検索して比較する場所」であり、欲しいものを自分で明確に言語化できなければ、本当に必要な商品には出会いにくかった。

 楽天市場がAIによって変えようとしているのは、まさにこの部分である。

 楽天グループが持つ膨大なデータを活用し、AIが利用者の文脈や興味を理解しながら、一人ひとりに合った商品や店舗へ導いていく。そして、その変化は消費者だけではない。店舗側にもAIが入り込み、分析や販促、接客支援まで含めて運営のあり方そのものを変えようとしている。

 つまり今回の説明会で示されたのは、「AIを導入しました」という話ではない。買う人と売る人、その双方の体験をデータによって再設計するという、楽天市場全体の進化なのである。

②AIの本質は「回答」ではなく、データを整理することにある

 生成AIが登場して以降、「AIは何でも答えてくれる」という印象が強くなった。しかし、それはAIの一面に過ぎない。むしろ本質は、知識量ではなく、「膨大な情報を整理し、その人に必要な情報だけを取り出せること」にある。

 例えば、「プレゼントを探しています」では、最適な商品は導き出せない。

 楽天市場がAIコンシェルジュで掲げた「会話品質の改善」とは、まさにこの接客をデジタル上で再現しようという試みである。質問の背景や文脈を理解し、会話を保持しながら、利用者自身も気づいていなかったニーズへ近づいていく。そのために、会話品質の向上、店舗知見の活用、パーソナライズという三つの柱を掲げている。

 特に興味深いのが、「店舗知見」の活用である。

 楽天市場には、それぞれ異なる専門性を持つ店舗が数多く出店している。ベビー用品に詳しい店、アウトドア用品に精通した店、ギフト文化を熟知した店。

 そうした店舗が長年積み重ねてきた接客ノウハウは、本来であれば店舗の中だけに蓄積される資産であった。

 しかしAIは、その知見まで取り込み始めている。商品情報だけではなく、レビュー、サイズ感、素材、注意点、さらには店舗が培ってきた接客経験までを組み合わせることで、「この人には何を提案すべきか」という判断の精度を高めようとしているのである。

 さらに楽天グループには、楽天カードや楽天トラベル、楽天モバイルをはじめ、70を超えるサービスが存在する。それぞれで蓄積される利用データは、当然ながら個人情報を適切に取り扱うことが前提ではあるが、顧客理解を深めるための大きな強みになる。

③ 「検索」から「発見」へ。楽天市場はSNS型ショッピングへ進化する

 ここで重要なのは、データが増えること自体ではない。増えたデータをAIが整理し、文脈として結び付けられることに意味がある。

 つまり、AIが賢くなったというより、「人を理解する材料」が豊富になったということなのである。

 これまでECでは、検索キーワードがすべてだった。しかしこれからは、その人が何を考え、どんな生活を送り、何に困っているのかという背景まで含めて理解しようとする時代になる。その入口として、AIコンシェルジュは大きな意味を持つ取り組みだと感じた。

 AIコンシェルジュが「対話」によって商品選びを支援する存在だとすれば、楽天市場がもう一つ力を入れているのが、「ディスカバリーレコメンデーション」である。

 これは一言で言えば、「検索する買い物」から「発見する買い物」への転換である。

 これまでECは、欲しい商品が決まっていることを前提として発展してきた。「掃除機」「炊飯器」「リュック」と検索し、価格やレビューを比較して購入する。つまり、自分が欲しいものを言葉にできる人ほど、便利な仕組みだったのである。

 しかし、現実の買い物は必ずしもそうではない。

 ショッピングモールを歩いていて、たまたま目に留まった商品を手に取る。SNSを眺めていて、「これ面白そう」と思って購入する。YouTubeで見た動画から興味を持つ。人は、必ずしも目的だけで買い物をしているわけではなく、「偶然の出会い」によって心を動かされることも少なくない。

直感をアシストするAI

 楽天市場がディスカバリーレコメンデーションで実現しようとしているのは、まさにその体験である。

 説明会では、ショート動画を中心としたSNS感覚の画面が紹介されていた。ユーザーの閲覧履歴や購入履歴、興味関心に合わせてコンテンツが表示され、スクロールするだけで商品との新たな出会いが生まれる仕組みである。

 近年、TikTokやInstagramのリール、YouTube Shortsが急速に普及した背景にも、同じ考え方がある。短い動画を次々と視聴することで、その人の嗜好がAIによって学習され、「この人なら興味を持つだろう」というコンテンツが次々と表示される。その結果、自分でも探していなかったものと出会えるのである。

 「何を買うか」だけではなく、「誰から買うか」。AIが店舗との出会いまで橋渡しする世界なのである。

 ECは効率を追求するほど、画一化しやすい。しかし楽天市場は、その逆を目指しているようにも見える。AIを使って一人ひとりに寄り添いながら、同時に店舗の個性も引き出そうとしているのである。効率化と人らしさ。その両立に挑もうとしている。

⑤ AI時代に店舗が磨くべきなのは、商品ではなく「物語」である

 こうした変化が進む中で、店舗側に求められる役割も大きく変わっていくのではないだろうか。

 そのキーワードは「ストーリー」である。

 これまでの商品ページは、「軽い」「丈夫」「安い」「高機能」といったスペックを丁寧に説明することが重視されてきた。それは検索を前提とした世界では合理的だった。利用者も、欲しい商品をある程度決めた状態でページを訪れるからである。

 しかし、AIが一人ひとりの生活や関心を理解し始めると、重要になるのはスペックではなく、「その商品が誰の、どんな暮らしを豊かにするのか」という文脈である。

 それは、先ほどのディスカバリーレコメンデーションでも、明らかなことだ。単なる年齢や性別だけではなく、「イベント好きの20代女性」「子どものための買い物が多い40代男性」といった生活シーンを軸にした提案が示されていた。

 20代女性だから同じものが欲しいわけではない。40代男性だから同じものを買うわけでもない。

 重要なのは、その人が今、どんな生活を送り、どんな場面で困っているのかである。

 例えばバッグを販売する店舗であれば、「軽量です」と説明するだけでは足りない。「保育園へ子どもを送り迎えする親が、両手を空けて移動できるバッグ」であることを伝える方が、その商品が必要とされる場面は、より具体的になる。

 つまり、商品を説明するのではなく、商品が活躍する場面を語ることが重要になるのである。

 AIは、そうした物語を必要とする人を探し出すことはできる。しかし、その物語そのものを生み出すのは、やはり店舗であり、人である。

⑥AIは「答え」ではなく、「次の問い」を整理する

 つまり、店舗運営もまた、AIによって大きく変わろうとしている。象徴的なのが、楽天市場に搭載されるデータ分析エージェントである。

 特徴は、「分析するAI」というより、「次に何を考えるべきかを整理するAI」である。

 例えば、「今年5月の概況を教えて」と質問すると、売上やアクセス数、転換率、客単価などを整理したうえで、「アクセスは増えているにもかかわらず、転換率と客単価の低下が売上減少につながっている」と分析する。

 そこで終わるのではなく、「新規顧客とリピーターでは違いがあるか」「売上が落ち込んだ商品はどれか」と、さらに深掘りすべき質問まで提示するのである。 

 楽天市場は、店舗運営で何を分析すべきかを理解している。だからこそ、その順番に沿って情報を整理し、店舗が考えるべきポイントを示せるのである。

 実際、利用店舗の72.9%が追加質問によって分析を深掘りしており、1つのスレッドで複数回対話を続けるケースが大半を占めている。店舗はAIと対話することで、自店の強みや課題を少しずつ掘り下げているのである。 

 AIは万能だから価値があるのではない。楽天市場というプラットフォームが蓄積してきた店舗運営の知見を整理し、「次に何を見るべきか」という形で返してくれることに価値があるのである。

⑦AIが生み出すのは「効率」ではなく、考える時間である

 そして、情報整理によって生まれる最大の成果は、時間である。その時間を、楽天市場は「店舗がお客様と向き合う時間」に変えようとしているわけだ。重要なのは、その時間を何に使うかである。

 実際に紹介された事例は、その考え方をよく表している。

 巣鴨のお茶屋さん「山年園」では、レビュー返信作成AIによって毎月10時間かかっていた返信作業が3時間へ短縮された。削減率は約67%。スタッフの負担が軽くなり、その時間を別の業務へ振り向けている。 

 だから、振り分けた先に、「顧客との体験をアップできるか、と視点を変えること」が大事になってくる。仕事の中身が変わっていることを店は感じなければならない。

 実際、その好例が「party shop Hanamei」である。そう言った時間を、AIチャットを活用してレビューの分析にあてるのである。そうすると、「配送情報」と「サイズ情報」が不足していることに気付き、それを商品ページへ反映したところ、転換率は40%改善したというわけである。

 これは、従来の店舗運営とは大きく異なる流れである。ページ改善にかかる時間も90分から20分へ短縮されたというおまけ付きだ。

 これらの事例を見ていると、AIが店舗の仕事を代替しているようにも映る。しかし、実際には逆である。AIが整理しているのは、問い合わせや分析、文章作成といった「考える前の作業」である。

 だからこそ店舗は、その商品が誰に必要とされるのか、どんな生活シーンで価値を発揮するのかという、本来向き合うべき問いに時間を使えるようになる。

 楽天市場がAIによって目指しているのは、単なる業務効率化ではない。

 情報整理をAIが担い、人は価値を考える。その役割分担こそが、これからの店舗運営の姿なのだ。 

 今日はこの辺で。

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