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当たり前を、当たり前に──exicoast Internet store 2号店が描く“王道を全うする”EC戦略

 改めて、逆転の発想。徹底したメカニズムによって着実に売上を積み上げる仕組みだと感じた。昨今はネットの表現力が高まり、「いかに店をブランディングするか」という視点で語られることが多い。けれど、この店は徹底して逆を行く──ブランディングをしない。その常識を覆し、成果を出したのが exicoast Internet store 2号店 だ。扱うのは誰もが知る“型番のお菓子”。一見すると差別化が難しく、大手が有利に見える領域で、一から挑み、成功へ導いたのが店長の石崎弘晃さんである。

 やがて楽天市場で高く評価され、SOYTRIPに招かれるまでに成長したのだから拍手を送りたい。彼らは「王道を全うする」という理念を掲げ、奇をてらわず、当たり前を当たり前に積み上げる。

それがなぜ最強の戦略になり得るのか。本稿では、取材で語られた言葉を手がかりに、その本質に迫る。

 そもそも歴史をひもとけば、彼は世界的な外資系ファストフードチェーン出身だ。細部は割愛するが、均質なサービスを迅速に提供し、絶え間なく顧客を迎え入れ、送り出す──その仕組みのノウハウは、この店の礎となっている。

「王道を全うする」──外資系チェーンで培った理念

 そんな経歴がありながら、扱っているのは「お菓子」。だからこそ、面白い。

 もし過去のファーストフードチェーンのやり方を表層でなぞるだけなら、流れ作業の一部で終わっていただろう。だが彼は仕組みの本質を見抜き、自ら立ち上げた企業とお店で、それを実践へと昇華させていった。

 こうして立ち上げた「exicoast Internet store 2号店」の経営理念は、「当たり前を当たり前にする」

 その表現として掲げた言葉が、「王道を全うする」である。一見シンプルだが、その背後には彼が長年身を置いた現場での学びが深く刻まれている。直営店舗の現場、本社勤務、そしてフランチャイズの現場まで、計12年。

 そのなかで彼が痛感したのは、「数字だけを追う合理主義の限界」だった。目の前のお客様や現場スタッフを何より大切にするべきだと考えたとき、組織の論理と自らの信念が衝突し、離れる決断に至った。

 そこで掴んだのは、「売上や肩書きよりも、目の前のお客様の満足を最優先する」という信念。目的から徹底して逆算し、余計を削いだシンプルな仕組みを設計し、それを再現しながら広げていく。話を聞けば聞くほど、あの巨大マーケットプレイスの運用思想に近いものを感じた。

 本人もまた、その思想に学び、それを自分たちの仕組みに自社流で翻訳してきたと明言する。

「ブランディングをしない」──誰もやらない場所で勝つ

 では、それをどうやって実現したのか。取材を進めれば進めるほど、その思想と実践の結びつきが鮮やかに浮かび上がってきた。

 まず話を戻せば、一見すると“不利”に思えるお菓子をチョイスしたところに、すでに彼らしい戦略がある。世の中の常識は往々にして「なんとなくのイメージ」で形づくられ、それが答えのように思われがちだ。だが実際には違う。

 たとえば、ECでお菓子を扱うことを敬遠する理由は想像に難くない。単価が低く、近所のスーパーでも売っている型番商品だから差別化しにくい。さらに競合がひしめき合い、価格競争のなかで大量の在庫を売り切るのは至難の業──これが一般的な“常識”だ。だから、僕自身、まずはその疑問を石崎さんにぶつけた。

「全然、そんなことはないんですよ」

そう涼しい顔で答えたのが、石崎さんだった。

「データがあれば、それを可能にできるんです」

③  「在庫は武器」──データで恐怖を優位に変える

  ここが、先ほど触れた「もとは本屋から始まった巨大マーケットプレイス」の思想と直結する。

 「品揃え」を広げれば顧客体験が高まり、満足度が上がる。満足は訪問客を呼び込み、アクセス増は販売者を惹きつけ、再び品揃えを厚くする──この好循環こそが成長を加速させるメカニズムだ。その循環を支えるために、早くから物流や在庫運用を高度化し、効率よく届けるインフラ自体を磨き続けていく。

 膨大な在庫が並ぶ環境でも、満足度を落とさずに売れるのは、仕組みが確立されているからに他ならない。

 突き詰めれば、それは「目の前のお客様の満足を最優先する」という思想でしかない。

 そこから逆算し、必要なデータとリソースを整え、属人化させずにシステマチックに運用する──そのメカニズムを回し続けたからこそ、今や膨大な商品を扱えるまでに拡張できた。

 石崎さんは、外資系チェーン時代に培ったオペレーション力と人材育成力、そして1秒を争う現場で鍛えられたスピード感を武器にした。大量に、正確に、効率よく捌くことが得意領域である。

 戦略はシンプルだ。参入が少ない「お菓子」というジャンルを選び、必要な数量を必要なタイミングで提供する。誰がやっても同じ品質で回せるオペレーションと育成の設計(チェーンで学んだ回転率の思想)を現場に落とし込み、データで検証し続けることで、無駄のない在庫管理と高い顧客満足を同時に実現してきたのだ。

④ 「在庫の常識を覆す」──恐怖を逆手に取る

 そうすると、華やかなブランディングは必ずしも必要ではなくなる。

 なぜなら、顧客がその店で商品を購入するきっかけは、店名ではなく商品名やメーカー名だからだ。だからこそ、仕入れる商品の選定が重要になる。要は「いま売れている商品」をあらゆる情報から吸収し、それを的確に揃えていくことに尽きる。

 先ほどから触れているように、データに基づいて実績を分析すれば、そのマーケットで求められる商品は自ずと見えてくる。そうすれば、着実に売上を積み上げていくことができるのだ。

 では、そこに“ハズレ”はないのか。現状、その兆しは見られない。

 なぜ、僕はこの問いを投げかけたのか。それはいうまでもなく、多くの経営者にとって在庫は恐怖だからだ。売れ残れば資金を圧迫し、経営を揺るがすリスクになる。

 しかし、同店では真逆の答えが返ってきた。

「在庫は武器」

 そう言い切れるのは、徹底したデータ分析に裏打ちされているからだ。販売実績をもとに月ごとの需要を予測し、ときに10トン単位で仕入れる。単価を極限まで下げ、安定供給を実現する。銀行が「リスク」と見なす在庫を、彼は「供給力の担保」と定義し直す。リードタイムを縮めるための備えであり、むしろ競争優位の源泉なのだ。

 「普通の人が怖がるものも、ロジックで制御すれば怖くない」

 その思考の転換こそが、この店の成長を加速させている。

 「箱売りの合理性」──欲しい人に欲しいだけ

 販売単位は常に「箱」。ハイチュウなら12個入り、ミンティアなら複数個入りだ。

 果たして、そんなに買う人がいるのだろうか──そう思うかもしれない。だが、ここにもネットならではの強みが生きている。想像してほしい。リアルの店舗には棚のスペースという限界があり、置ける商品数には制約がある。だから有名な銘柄であっても、実は店頭には並ばない“レアな味”や“地域限定品”が存在する。

 同店では、そうした商品を取り揃えることで購買意欲を掻き立てている。たとえばミンティアのように継続的に購入される商材では、「手に入らないからこそまとめ買いをする」「箱で購入する」という行動が自然に生まれるのだ。

 ここには、消費者目線での利便性と、事業者側の効率性が両立している点が素晴らしい。単なる大量仕入れではなく、需要を読み取ったうえでの“最適な品揃え”が功を奏している。もちろん、単品やアソート販売をすれば売上は一時的に伸びるかもしれない。しかし生産性が落ちる。だからこそ徹底して「箱売り」にこだわるのだ。

 しかも、顧客には「この味でなければダメ」という熱烈なファンがいる。コンビニで探し回るより、ECで箱買いするほうが便利で確実。その合理性がリピートを生み、安定的な売上へとつながっていく。

 この戦略は、大手外資系チェーンで学んだ「効率を極限まで高めるオペレーション思考」とも重なる。派手なマーケティングではなく、顧客の欲望を淡々と満たす。だからこそ単価は小さくても、積み上がれば大きなビジネスになるのである。

⑥ 「送料無料の全体最適」──部分ではなく全体で黒字を作る

 顧客の望むシーンから逆算する──その目的にストイックだからこそ、彼は最初から送料無料を実践してきた。ここにも、この店ならではの視点が際立っている。

 どういうことか。本来、送料無料は店舗にとって負担である。しかし彼らは「東名阪の7割で利益が出れば、他地域はゼロやマイナスでも構わない」と考える。

 つまり、部分最適に囚われず、全体最適で見るのである。

 北海道や沖縄で赤字配送が出ても、全体として黒字なら問題はない。むしろ送料無料の分かりやすさが購買を促し、結果的に売上全体を底上げする。ここにも、外資系チェーンで培った「全体で成立させるオペレーション思考」が活きている。

 そして、この強さは何より仕組み化されている点にある。だから対応が属人化することなく、安定的に運用できる。さらにこの発想は、人材育成にも通じている。部分で見れば未熟に映る人でも、全体で補い合えば大きな成果を生み出せる。

 物流と人材、異なる領域を同じ論理で貫く姿に、一貫した哲学が感じられる。

⑦「自前主義の物流」──顧客満足を支える投資哲学

 そして僕は物流の話に絡めて、こう尋ねた。「自前主義であることも大きいですよね」と。

 思うに、複数の事業者と連携すればするほど、どうしても縦割りが生まれ、結果として顧客サービスの低下を招きやすい。ならば、すべてのリソースを自前で用意し、一体で管理すれば、その問題は起きない。倉庫も自前なのかと聞くと、彼は「そうだ」と答えた。

 もう想像がつくだろう。スケールする土壌ができているからこそ、あとはそれに合わせてインフラを拡張していけばいい。

 倉庫はこれまでに5度移転し、そのたびに規模を拡大してきた。トラックやフォークリフトも、月商1000万円の段階で導入している。投資の判断基準は一貫して「回収できるロジックがあるか」だった。

 楽天倉庫を使わず、自前でほぼ365日の出荷体制を続ける。その背景には、彼の揺るぎない思想がある。

 「実店舗ならその場ですぐ買える。それが当たり前」──ネットだから遅くていい理由はない。顧客にとって自然なスピードを、自前で実現するのだ。その姿勢は平均レビュー4.8という数字に表れている。顧客満足を起点に逆算し、必要な投資を惜しまない。合理性とスピードへの執念が、唯一無二の顧客体験を生み出している。

⑧「理と情の両立」──人との縁が拓く未来

 それでいて面白いのが、案外、「自分は情に熱い」と語る点だ。そこで、楽天市場との出会いの意味を語る。語弊を恐れず言えば、かつて楽天を「広告を売る会社」としか見ていなかった。そんな彼にとって、SOYTRIPは大きな転機だった。

 ここまでの文章で分かる通り、それまで彼が重視してきたのは「理詰めのロジック」だった。

 仕入れも在庫も物流も、徹底的にデータと効率で制御する。だがSOYTRIPを通して出会った店舗仲間や社員との交流は、そこに「情の力」を加えてくれた。人と人が想いを分かち合うことで広がる可能性、文化や価値を守りながら共に歩むことの意味──その学びが、彼自身の懐を広げたのである。

 「SOYTRIPを経て、“人を信じる”“文化を受け継ぐ”という新しい視点が加わった」。

 彼はそう振り返る。ある種、ここでバランスを身につけたと言って良いかもしれない。

 結局のところ、“王道を全うする”とは、奇をてらわず当たり前を積み重ねること。そこに理と情を重ね合わせること。その普遍の戦略こそが、exicoast Internet store 2号店を唯一無二にしている。

今日はこの辺で。

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