「つくることは、生きることだった」デザインフェスタminiで出会った6人のクリエイターたちのリアルな手仕事

賑わう会場のなか、ふと足が止まる瞬間がある。派手な色使いや奇抜な形ではなく、「この作品、なんか気になる」と感じるとき。そこには、説明しきれない“作家性”が滲んでいる。2025年春、原宿で開催されたデザインフェスタmini。その小さなイベントの中で出会った4人の作家たちは、いずれも自分の手で、自分の表現を育ててきた人たちだった。
素材も、形も、売り方も違う。でも、そのどれもが、“つくる”という行為に、深く誠実に向き合っていた。だからこそ、彼らの作品は、心を動かすのだと思う。
第1章|【HINAHO】日常のきらめきを、そっとすくいあげる
「感覚的に残したいな、と思う瞬間があるんです」
そう語るHINAHOさんの作品は、ふわりとやさしく、だけど確かな存在感がある。ぬいぐるみや絵、すべての表現に共通するのは、丁寧さと“静かな偏愛”だ。

人気キャラクターの“がおくん”は、ユニコーンとも恐竜ともつかない、なんとも言えない可愛らしさがある。そのぬいぐるみは、愛を込めて粘土で原型を作り、型紙をおこし、手縫いで仕上げる。誰に習ったわけでもなく、自分の感覚に従って形にしてきた。
素材と創作の組み合わせに、心惹かれ、名刺にも想いが宿る。エンボスの凹凸加工は職人仕上げで、手に取るだけで「この人の世界は、触れることから始まる」と思わせてくれる。
第2章|【ビビビビット‼︎】“知らないからこそ、美しく描ける”
「音楽もタバコもやらない。でも、だからこそ作れる世界がある」
ビビビビット‼︎さんは、いわば“憧れから組み上げたカルチャー”を具現化している。タバコケース、麻雀牌モチーフ、CD風のキーホルダー──どれも、リアルな知識より“空想の美しさ”に重きを置いている。

面白いよね、タバコ、麻雀…それを素材にしながら、一切やったことがない。ただその形状の面白さに惹かれて、作品を手がける。実は何気ない日常にも、楽しい発想のヒントがあることを教えてくれる。
驚いたのは、彼らの拠点が、名古屋にある。リアルの店舗を構えながら、相方とともに全国を回る。ふざけているようで(失礼!)本気である。アクリルの加工もすべて自分たちで行い、イベントごとに客層に合わせてカスタマイズも実施するという徹底ぶり。
“自分たちが信じる世界”を、忠実に守り抜いている姿が印象的だった。
第3章|【OMAME】私は「目的地」──記憶に残るキャラクターになるために
「私を目指してきてほしい」
そう語ったOMAMEさんは、大きな“マップピン”を頭につけてブースに立つ。申し訳ないが、顔を見るなり、吹き出してしまった。そうする理由は明快。無数の作家が並ぶなかで、「一瞬で記憶に残る存在になりたいから」だ。
でも、見た目と裏腹に真摯な思いが感じられる作品。扱うのは、インドから輸入したリボンや、鍋で煮詰めて染め上げたアクリルビーズ──素材からこだわり抜いた、耳飾りやヘアアクセサリー。

きっかけはコロナ禍、Instagramを見ていて、リボンに魅せられた。アルゴリズムのせいもあるけど、一面、リボンが並んで、そこで可能性を感じて、自ら創作し始める。
数々の一点モノを見て、僕は問いかけた。例えば、(ネットなどでは、一個一個、ページを作らないといけないから)販売の仕方は難しくないのか?と。
なるほどなと思った。販売方法がユニークなのだ。インスタライブで紹介後、スクショを送ってもらい、先着順で購入権が得られるという“独自ルール”。つまり、そのスクショで商品を特定し、ファンからの応募を持って購入の意思を確認できるから、あとは決済を済ませれば、購入完了。
SNS時代ならではの距離感で、ファンとの深い関係性を築いている。
「キャッチコピーは、“アホな格好してますが、真面目に作品作ってます”。記憶に残るには、それくらいしないと」
第4章|【Speed of Silver】「銀粘土」を、彫って焼いて、命を宿す
Speed of Silverさんが扱うのは、“銀粘土”という珍しい素材。
見た目は粘土だが、焼くと純銀になる。彫刻のように形を削り出し、手作業で模様を加えて仕上げていく。少しでも失敗すれば、全体の印象が変わってしまう、緊張感のある作業だ。

「同じ型を使っていても、ひとつひとつが違う。だから全部が一点モノです」
やり始めた理由が面白い。元々、アパレルなども手掛けていたけど、子供の誕生を機にこれをやり始めた。というのも、忙しなく動く子供がいる中では、家の中で場所をとるアパレルの作業はやりづらい。これであれば、スペースは小さくて済むので、その環境下でも打ち込めるというわけだ。
こういうことにより、羽ばたけるのは、イベント販売のほか、minneなどを活用しながら、自分のペースで届けられるから。環境の変化により、様々な才能が埋もれずに済んでいることを痛感する。
第5章|【ARITOKEI】刺繍から始まった、“細さ”を愛する創作
「小さいものが好きなんです」
そう語るARITOKEIさんの作品は、まさに“手先の精密さ”が支えている。こちらの写真を見てほしい。

確かに小さい。そして、細かい。僕が同じことをやろうとしたら、たぶん30分で頭が痛くなる。でも、違うんだな──これが。
語弊を恐れず言えば、ARITOKEIさんにとってこれは「空いた時間に、つい編んでしまうもの」だという。
手が止まると落ち着かない。だから隙間ができたら、自然と手が動いてしまう。それはもう、癖に近い。まさに、「好きこそ物の上手なれ」そのものだ。
小さな刺繍、繊細なパーツ、時間をかけて組み上げる構成。そのすべては、集中力というより、日常に染み込んだ習慣のような創作だった。
ふと思った。
──才能は、隙間時間に宿るのかもしれない。
そして、minneのような販売の“着地”があるからこそ、そうした見過ごされがちな時間や技術が、ちゃんと光を浴びられる場が生まれている。それはとても静かだけれど、確かに価値あるものに思えた。
第6章|【BawWow】主張しない絵が、心の景色に溶けていく
「部屋に飾ってくれる人がいるんです。それが、嬉しくて」
そう話すのは、ブランド「BawWow」。確かにそれは調和する。縁取りのないやわらかなタッチで描かれた絵は、飾る場所を選ばない。
ステッカーもキャンバス作品も、まるで風景のようにそっと日常に溶け込む。その自然さが、むしろ心に残る。僕は、この絵のテイストが好きで、ずいぶん話し込んでしまった。

何気なく、話が盛り上がり、印象的だったのは、動画制作にも取り組んでいるという話題だった。映像もまた、絵と同じように“寄り添う感覚”を大切にしているという。主張しすぎない、でも気づけばそこにある。そんな世界観が絵から動画まで一貫していたのだ。
「見た人が、ちょっとでも元気になれたら嬉しい」
そう語る彼女の言葉に、作品すべての意図がつながった気がした。一方で、SNSやデザインまわりのトレンド対応は妹が担い、自身は“流されない感覚”で自分の表現を貫いているという。
作品は、飾ってもらってこそ完成する。BawWowの絵が日常の風景にすっとなじむのは、デザインが“調和”を意識して描かれているからだろう。それは単なる技術ではなく、「自分の絵で誰かが元気になれば」という、静かな願いがあってこそ生まれた表現だ。
僕は、こういう作品のあり方が、とても素敵だと思った。
第7章|「売れる」より「伝わる」ために──“自分で届ける”覚悟
今回、出会った6人に共通していたのは、“自分の手で、自分の世界を届けようとしていた”ことだった。
誰かに丸投げするのではなく、自分で売って、自分で話して、自分で反応を受け止める。そのプロセスまで含めて、“表現”だという感覚がある。便利なツールも、SNSも、もちろん使う。でも、最終的に「伝わった」と感じるのは、会場で作品を前に立ち止まってくれた人がいる時だと、みんなが口を揃えていた。
そのためのデザインフェスタなんだよね。特に、デザインフェスタminiは、狭い分(失礼!)クリエイターとの距離が近くて、本家のデザインフェスタにはない気づきがあったように思う。
改めて、デザインフェスタは、“プロになる前”の場所でもありつつ、“プロであり続けるため”の場所でもあると気づく。そのどちらであっても、ちゃんと魅せてくれて、感じとることができて、僕は共感することができた。
だからこそ思う。「創作すること」は、人にとってかけがえのない、生きることなのだと。
今日はこの辺で。