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挑戦者たちの交差点―堀江貴文と鳥羽周作が仕掛ける「小麦の奴隷」のパン 新たな挑戦

 2025年2月5日、東京・原宿で行われた記者会見には、多くのメディア関係者が集まっていた。登壇したのは、「小麦の奴隷」を発案した堀江貴文氏と、ミシュラン星付きレストラン「sio」を率いる鳥羽周作シェフ。この特別プロジェクトの発表は、単なる新商品発表ではなく、ものづくりの新たな形を提示する場だった。

 正直、僕はこの記者会見に行くまで、「小麦の奴隷」というパン屋の背景や、彼らの挑戦をほとんど知らなかった。しかし、そこで知ったのは、「パン屋の概念を根底から変え、地方の未来を拓こうとする動き」だった。今回のコラボ第一弾として発表されたのは、「塩ミルクフランス」。このパンは、ただのコラボ商品ではなく、地方のパン屋を支え、パン作りの新たな可能性を示す象徴でもある。では、なぜこの二人が手を組み、今このパンを生み出したのか? その背景を追った。

地方をパンで救う――「小麦の奴隷」の革新と覚悟

 そもそも「パン屋の構造を変えたかった」。そう語るのは堀江貴文氏。彼が主宰する「HIU(堀江貴文イノベーション大学校)」が起点となり生まれたのが、地方活性型エンタメパン屋「小麦の奴隷」だ。これは単なるパン屋ではない。

 なぜなら、従来のパン屋は「夜中から仕込み、朝に焼き上げる」という過酷な労働環境が当たり前だった。しかし、「小麦の奴隷」はその構造を根本から変えた。生地を冷凍し、工場から店舗に直送することで、職人の負担を軽減しながらも、高品質なパンを提供できる仕組みを確立。それで負担が軽減された分、訪問販売などの要素にリソースを割くわけだ。なるほど、と思った。

 さらに、北海道広尾郡大樹町からスタートしたのも意味がある。地方に根付く産業は、どうしても大手に依存しがち。しかし、そこから独自の動きを生み出し、パンを通じて地域を活性化させる。

 語弊を恐れず言えば、北海道広尾郡大樹町は人口だって多いわけではない。でも、そこでちゃんと根付くビジネスモデルを確立。そこで、フランチャイズすれば、全国の同様の地域も救われるに違いない。

 フランチャイズしやすい「仕組み」化とともに、こうして「小麦の奴隷」は全国へと広がり、80店舗以上が誕生している。

 このモデルがあるからこそ、今回のコラボが成立するのだ。既に彼らのコラボの前の素地がある。

「おいしい」を最大化するコラボ――鳥羽シェフとの化学反応

 「新しいパンを作るなら、最強のシェフと組むべきだ」。そんな発想から今回のプロジェクトが生まれた。鳥羽周作シェフとの出会いは、ラジオ番組への出演だった。「何か一緒にできることはないか?」という会話が、そのまま実現したのが今回のコラボパンだ。

 もともと鳥羽さんも活動は精力的で、型にとらわれない。数々のレストランなどをプロデュースするなどしていて、その才能を色々なところで開花させている。この会見が行われたのも、東京・原宿の東急プラザ“ハラカド”「ファミレス(FAMIRES)」。これも彼がプロデュースしたお店だった。

 そして、今回のパンの話である。実は、堀江さんが「小麦の奴隷」のパンの中で一番好きなのが、塩パンだった。

 その「小麦の奴隷」のシンプルな塩パンに、練乳クリームを加えた「塩ミルクフランス」。堀江さんと鳥羽さんの間では色々、アイデアが出ていたものの、この組み合わせは、現地の開発会議の場でふと生まれたものだった。

 「これに練乳入れたらどう?」

 その場で練乳を持ってきて試食。「うまい!」と即決。「おいしいものって、シンプルなアイデアの中に本質があるんですよ」と鳥羽シェフは語る。

スピード感が生む味――ものづくりの裏側

 今回のコラボの面白いところは、開発期間の短さだ。

 「普通、新商品開発には時間がかかる。でも、これは本質的にうまいから、一瞬で決まった」と鳥羽シェフ。そして、パン屋の2階での打ち合わせ中、「これに練乳入れたらいいんじゃない?」という一言から試食に至るまで、わずか数分。

「普通においしいし、やっちゃおう」

このスピード感こそが、ものづくりの裏側にあるリアルな決断力なのだ。

 確かに、SNSをやりながらタイムリーに世の中の反応を見ながらやる時代。本質的にビビッときた時に、その場でやらないと、乗り遅れてしまう。そう鳥羽さんも話していた。

 こうして、新たなパンの未来を拓くプロジェクトは、第一歩を踏み出したのだった。

 ここでコラボをして付加価値を上げる意味もある。というのも、パンを作るには、先ほどの効率化をしても、手間のかかるものなのだ。堀江さんはそれをやってみて、実感したという。なのに、安く提供してしまう。

 確かに、コンビニに並ぶパンは安いが、そこと競争するのではなく、それ自体のクリエイティブにお金を払ってもらうべきだというのである。

 手間の費用対効果である。考えてみればわかる。堀江さんも話していたけど、無洗米などは、米びつに入れて、炊飯器のボタンひとつでできてしまう。(勿論、米を炊くにも、こだわりはあるだろうけれど)。それに比べれば、パンは手間がかかっている。その過程に着目すべきだというのだ。

地域で培った知見が全国に広がる

 今回のプロジェクトを通じて感じたのは、地方こそが持つポテンシャルの大きさだった。

 北海道の小さな町で生まれたこの動きが、全国へと広がり、同じく地方で奮闘する人々を勇気づけている。その裏には、単なる商売の枠を超えた、社会構造そのものを変えようとする挑戦があった。

 パン屋の労働環境を根本から見直し、冷凍生地という仕組みを活用することで、働き手の負担を軽減しながら質の高い商品を安定して届ける。そして、そこに付加価値をもたらすために堀江さんのネットワークが動き、さらに鳥羽シェフの知見が加わることで、「美味しさ」という価値まで最大化されていく。

これは単なるパンの話ではない。

 地域を盛り上げること、持続可能な仕組みをつくること、そして美味しさで人を笑顔にすること。そのすべてが、この塩ミルクフランスには詰まっていた。これからも新たな挑戦が続いていくのだろう。

 ただ、会見では、堀江さんと鳥羽さんが自らパンを振る舞ってくれたのに、後ろで、堀江さんの後ろで小さな声で、「うま・・」としか呟けなかった僕が残念(笑)。

 練乳がとにかく濃厚。シンプルなのに、口の中で絶妙に混ざる塩気と甘み。そして、もちっとした食感。パンの価値に触れられた。実は、この日、春に第二弾、トバい!キーマカレーパンの発表もあって、さらに物語は続いていく。

 かくして新たなパンの未来を拓くプロジェクトは、第一歩を踏み出したのだ。

今日はこの辺で。

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