デジタルが変えるキャラクターIPの未来──NFTとコミュニティの可能性「The Mafia Animals」に学ぶ
NFT(非代替性トークン)を通じて、新たなコンテンツの形を提示する「The Mafia Animals」(以下、TMA)。動物とマフィアという意外性のあるテーマをもとに、絵師Rii2(リツ)の個性が光るキャラクターたち。それが、ファンとの絆を深めながら進化している。キャラクターコンテンツの在り方も根本的に変わっていくのだろう。このプロジェクトは、NFTが単なる資産の枠を超え、コミュニティ形成の中心となることを証明する好例である。今、その歩みと未来を語るムカイさんの声を通じて、TMAの本質に迫ろう。
1. 「47体の魂」──Rii2(リツ)の手がけた唯一無二の作品
TMAのプロジェクトは、2021年10月、47体からなる「幹部キャラクターの肖像画」から始まった。
このキャラクターたちは、全てRii2(リツ)が一枚一枚手描きで仕上げ、NFT化されている。そもそもNFT(ノンファンジブルトークン)とは、何か。デジタルデータの所有権をブロックチェーン技術で証明する仕組みである。一見すると、コピーなどすれば、誰でも持つことができてしまう「デジタルデータ」。
簡単に言えば、そこに記名ができるわけだ。するとそれは有限となり、唯一無二のデジタル資産になる。
結果、TMAで言えば、その47体のイラストが「唯一無二」という価値を持つ。コレクターたちはこれを所有することでTMAにより深く関与するわけだ。ここまではいいだろう。
ただ、この運営に関わるムカイさんは「この作品たちは、単なるデジタルアートではなく、コミュニティの心そのものです」と語る。実は、NFTが生む所有感は、デジタル上に絆を作る新たな形を示しているのだ。
まず、それらの大元の47体のNFTを「Genesis Collection-ジェネシスコレクション」と位置付けた。そして、一方で、多くの人々が保有できる「Generative Collection-ジェネラティブコレクション」を生み出した。似ているようで異なる。この2層構造にこそ、コミュニティとしての価値を高める秘訣がある。
2. ジェネラティブNFTがもたらす新たな可能性
僕が思うに、「ジェネラティブコレクション」の仕組みこそ、TMAの革新性を象徴する部分。
繰り返しになるが「ジェネシスコレクション」のNFTは47体のキャラクターが一つひとつ手描きされ、希少性の高い「唯一無二」のデジタル作品である。一方で「ジェネラティブコレクション」は、この47体のキャラクターをモチーフにしながらも、1万体のバリエーションをデジタル技術で生み出したものなのだ。
どういうことか?
つまり、「ジェネラティブコレクション」の制作プロセスでは、47体をベースとしたイラストを作り、それらは全て同じ方向(正面)を向くデザインに統一したのだ。そこで、キャラクターの表情、服装、背景、アクセサリーなど、細かく分けられた2000種類以上のパーツを組み合わせて、ランダム生成により「全てが異なる1万体」を作り出したわけだ。
例えば、パンダのキャラクターでも、笑顔の表情に帽子を被ったバージョンや、クールな顔つきにスーツを着たバージョンなど、多種多様な個性が生まれたのである。
これにより、正面を向くこの統一感が全体として一体感を生み出すと同時に、それぞれのキャラクターが唯一無二である個別性を持つわけだ。ゆえに、個性と共存が矛盾することなく存在させることができる。そこで1万人の所有者がつけば、それぞれのキャラクターを持ちつつ、TMAという大きなコミュニティの一部であることを実感できるのである。
3. ジェネラティブが生む「所有」と「連帯」の仕組み
ジェネラティブコレクションの大きな魅力は、「全てが個別である」ことにある。
1万体のキャラクターは、細部が少しでも異なればそれぞれが唯一無二の存在。その結果、NFTとしての所有権が生まれる。いうなれば、その仕組みによって、NFTの持つポテンシャルを最大化させたのである。
これこそがNFTの本質的な価値である。
所有権をブロックチェーン上で証明する技術と、唯一無二の作品であることの希少性が結びつくことで、参加者同士の連帯意識を高める仕組みが作られる。この連帯感が、単なるファン層を超えたコミュニティ形成を促進し、TMAを特別な存在へと押し上げていく。
そして、何が大きいのか。それは、所有者であるファンが主体性を持って、コンテンツの発展に寄与できることである。
これまでのIPにはない。IPとは「Intellectual Property」の略。「知的財産」であり、メディアに露出され、認知が広まるから、商品化したいという声が出る。だから、その版権管理者が現れ、徹底的にその扱い方を監視する。IPのイメージを崩さないように。
ところが、NFTを起点としたキャラクターは、なりたちが異なる。コミュニティ的な要素を持っているのである。だから、それを活かすべく、TMAのキャラクターは「ほぼライセンスフリー」として提供されているのだ。ここが完全に通常のIPにはありえない。
4. 「ファンが才能を発揮する場」──Rii2(リツ)の世界を超えて
結果、それをモチーフに二次創作が活発に行われて、そのデザインをフックに、ファンたちが自身の才能を発揮できる。
極論だけど、そのキャラで漫画やゲームを作ってもいい。そうやって個々の才能が開花する一方で、TMAは新たな物語や価値を加えることができる。同じTMAのコミュニティ内にいる他のクリエイターとコラボレーションする事例も出てくるはずだ。
誰かがリーダーとなってプロジェクトを立ち上げてもいい。
「TMAはただのコンテンツではなく、ファンそれぞれが主人公になれる世界です」。そうムカイさんが強調する意味がわかる。多くの才能がキャラクターの元で最大化され、それが触発されるほど、コンテンツは成長していく。それは、また、才能が開花される土壌となるだろう。
言うなれば、この連帯感こそがこのNFTを土台に発生するコンテンツの価値である。だから、それを触発しようと、また、新しいことに着手する。
5.仮想通貨の理解を深め、NFTの全体像を把握する
ここまでNFTがもたらす価値をわかってもらった上で、改めて、仮想通貨についての理解も深めておこう。これらの事象の全体像が見えてくるからだ。
繰り返しになるけど、NFTは、「ノン」ファンジブルトークンの略である。ということは、「ファンジブルトークン」も存在するわけだ。
それが、ビットコインやイーサリアムなどの暗号資産なのである。ファンジブルトークン(ノンがついていない方)は、他人が持っている1ビットコインも、自分の持つ1ビットコインも、どちらも同じ1ビットコインである。つまり、紙幣や貨幣と同じであり、仮想通貨と言われる所以である。
だから、「ノン」がつくことで、それができない。完全にそれが所有者に紐づく形になる。
ゆえに、わざと小難しい言い方をすれば、「ノン」ファンジブルトークン(=NFT)で固有の資産化された作品を、「ファンジブルトークン(=イーサリアム)」で購入するということなのだ。これらはデジタル上で、全て貨幣経済のようにして、成り立つから価値を持つ。
この仮想通貨の金額は変動する。NFTも価格が変動する。すると、アート作品のようにして、投機的な目的で使われることもある。ただ、本当の意義は、僕はそこではないと思う。人と人とがIPによって結びつき、新たな価値を生むことにあると僕は思っている。敢えて、この記事でNFTの意義から話した所以だ。
6.仮想通貨やNFTに立ちはだかる壁
ここまでがNFTに関連するところの本質である。
ただ、ここからは現状を踏まえて、未来も見ていきたいと思う。
それでいうと、どうしても、仮想通貨やNFTに挑戦するには、初心者にとっていくつかのハードルがあるのも事実だ。
例えば、取引所で個人情報や口座情報を登録し、仮想通貨を購入する。その後、購入した仮想通貨を管理するためにデジタルウォレットを作る必要がある。このプロセスは慣れていない人には手間がかかり、さらにNFTを活用する際には技術的な知識も必要である。
敢えて、ドライな言い方をさせてもらえば、こうした取り組みが一般層に広がるのは限られた範囲にとどまるのが現状だ。
7.FiNANCiEがもたらす新しい可能性
一つ、面白い動きを紹介したい。TMAも導入している「FiNANCiE」というアプリの活用である。
このアプリでは、ブロックチェーンの知識がなくてもよい。簡単にトークンを発行したり取引したりすることが可能なのだ。
具体的には、FiNANCiE上のデータベースで管理されるトークンを利用する。従来のブロックチェーン技術とは異なる。けれど、その分、Appleアカウントを作るような感覚で、誰でも手軽に利用を開始できる。
また、このトークンは日本円でポイントのようにチャージできるのだ。
例えば、TMA(The Mafia Animals)では「契(ちぎり)トークン」という独自のトークンを発行している。これを使って、ファン同士が送り合ったり、コミュニティ活動に貢献するメンバーにリワード(=報酬)として提供したりしているのだ。
具体的には、SNSでの拡散やコメント、リアクションといった行動に対してトークンをリワードとして与えることができる。つまり、この仕組みによって、「いいね」を超えた新たな価値の交換が生まれる。コミュニティ内でのつながりがより深まるだろう。今までにないコミュニティの活性化案である。
そして、従来のポイントの概念とも異なる。お得とは無縁だ。というのも、トークンの所有状況や利用状況がファンのコミット度を示す「ステータス」として機能するからだ。
8. デジタルを活かす人と人との絆
ここまでで、お分かりだろう。NFT は思いがけず、TMAのようなコミュニティを生み出した。それは、好きなIPコンテンツを軸に、心地よい人間関係を築く場である。そのIPが好きだからこそ、自分の才能を持ち寄り、その価値向上へと寄与していく。
それはTMAの発展となり、ファンをもっと高みに登らせてくれる。この発想自体が、デジタル時代を反映したもの。だから、そういう新しい価値観を活かそうと動く人たちもいて、極論、NFTすら使わずして、関係構築を図るべく、FiNANCiEの登場なども起こったわけだ。
ムカイさんの話で興味深かったのは、AIによって人に任せる領域が減る分、人との関係が希薄になるかも知れないということだ。逆に彼らのように出会いを創出し、関係を深めること。それは、価値ある動きとなるのではないかと。
それで、彼はいう。人と人とが交わる真ん中にTMAというIPがある。
NFTとデジタルコミュニティがもたらすキャラクターIPは、今までにない未来を見せてくれるに違いない。TMAの取り組みはその一つに過ぎない。それを通じて、デジタル時代における新しいIP活用の形を学びつつ、コミュニティが人々にとってどれほど大切な存在になり得るか。
それを再確認できたのではないかと思う。
デジタルでありながら、人間的。未来のIPとコミュニティのあり方を大きく変える可能性を秘めている。
今日はこの辺で。