ほぼ日が生み出す暮らしの楽しさー生活のたのしみ展2025レポート
会場に足を踏み入れた瞬間、そこに漂う“ゆるくて優しい空気”を感じた。やってきたのは、新宿住友ビル三角広場で開催された「生活のたのしみ展2025」である。その空気感は、このイベントを主催する「ほぼ日」が生み出しているものなのだろう。「暮らしを楽しむ」というコンセプトを軸に、訪れる人々が心地よく過ごせるよう工夫された空間が広がっているのだ。
その商品の背景や作家の想いに浸る
「生活のたのしみ展」は、毎年恒例のイベント。
ほぼ日刊イトイ新聞でおなじみのアイテムや「ほぼ日ストア」で人気の商品を筆頭に、製作者の顔が見えるアイテムが集まる。だからこそ、それらを手に取れるだけでなく、背景にあるストーリーや作り手の思いを感じることができるのだ。まさに、メディアである「ほぼ日」らしい特徴を持ったイベントである。
商品を購入すること以上に、生活そのものに付加価値を加える“体験”が提供されているのである。
まず、クスッとしてしまったのは、ミチルさんのお店。
ミチルさんは、XやInstagramで話題を集める作家。日常をエンタメに変える想像力豊かな雑貨類が並んでいる。例えば、氷山の一角 ティッシュケース。下の写真の通り。
青く透明なケースで、中にティッシュペーパーを入れる。ティッシュペーパーは、引っ張り出すものだから、自然と、中で積まれたティッシュの層が山のように隆起するわけで、それが雪山のように見えてくる。
「カニ泡ソープディスペンサー」は、泡状のハンドソープの吹き出し口にカニの人形を取り付ける仕様である。プッシュするたび、それが泡を吹き出しているように見える。
他にも、遊び心満載のグッズに見ているだけで、心が躍る。下の写真は座布団だけど、漢字の「図」。まさに図に乗るとはこのことだ。
ゆるさが心を和ませる
同じく雑貨系では、HOBO SUPER OMISE SHOPのセンスが絶妙。
クリエイティブディレクター塚本太郎さんが手がけたお店。そのセレクトに個性があるのは、ザ・コンランショップでの経験を経て、2002年に「リドルデザインバンク」を設立した経歴を見れば、それも納得だ。
例えば、ポスターライト。作家のunpisさんに描いてもらったのが照明を持つ人のイラスト。照明部分が膨らんでおり、その中にはライトがある。それゆえ、ポスター全体がふんわりと明るく部屋を照らすというわけだ。
その隣には、ザリガニワークスの「コレジャナイロボ」。超合金ロボを欲しがる子供に手作り感たっぷりの木製ロボットを与えたら、というシチュエーションで、笑いを誘う。「欲しかったのは、コレジャナーイ!」。
肩に力を入れずに、生活を楽しもうよ。そんな“ゆるさ”が「ほぼ日」らしくもある。
地域や作り手のストーリーを感じる
単に商品を購入するだけでなく、その背後にある作り手の思いや地域のストーリーに触れることができる。
「まるで旅、なコーヒー店」は、コーヒーを通して、地域を知る。
全国各地のコーヒーに思いを馳せ、旅をしている気にさせる。たまたま、スタッフの方がコーヒーに精通していて、自身が好きなものとして、山梨のAKITO COFFEE、沖縄の宗像堂を紹介してくれた。珈琲好きにはたまらないコーナーらしい。また、コーヒーは、焙煎度によって、苦めな深煎り・中煎り・浅煎りと分けられる。それぞれに豆の色が異なるので、それも実物で案内してくれた。
ハッとしたのは、水産業や農業と違う点。地域が別にコーヒーの味に関係しているというわけではない。お店の店主が個々にそれぞれ味を工夫して、それでファンを集めて、いつしか、それが地元の名所になったという順序こそが大事。
必ずしも地元の名産品ではなくとも、地域の価値は発掘できる。そんな新しい視点がここにある。
また、斉吉のちゃわん食堂には、漁港のある気仙沼で店を営む斉吉さんが企画したメニューが絶品。僕も田舎が仙台ということもあり、応援の意味で「海鮮ちゃわん」を日本酒とともにいただいた。気仙沼と能登で獲れる海鮮を詰めて、かき込むご飯は格別である。
体験を重んじてこそ感じる商品価値
そして、個人的に親近感が湧いたのは「TABANERU BOOKS」。なんとも庶民的な東急池上線の石川台の上り坂を登ったところにある。
通っていた美術系の学校を辞めて、自宅を改装して始めたユニークなブックショップ。地域とのつながりを大切にしながら、選び抜かれた本やグッズを提供している。
大事なのは、その場所を訪れる体験自体が特別な時間を生み出す点。絵本であったり、本のギミック、キャラクターのぬいぐるみなど、本の付加価値を大事にする。手作りの雑貨や一点物のアート作品も、作り手の哲学を伝えるアイテムとして来場者を引きつけていた。
これらの商品は、手に取るだけでその背景にあるストーリーを感じさせる。まさに「暮らしを彩るヒント」と言えるだろう。
好奇心を触発する仕掛けもまたこのイベントの醍醐味
また、運営のスタイルにも新しい挑戦が見られている。
たとえば、「石田ゆり子さんがいっしょに暮らすものたち」。石田さんが暮らすイメージの部屋を設営して、そこに入れる人を予約制にした。予約をして入った人のみが、その中にある商品を購入できる。この二段階の楽しみ方が、ほぼ日独者を触発し、予約は既に埋まっていた。予約への応募数の多さから抽選式になっており、誰でも手にできるものではない。
ちくちくフェルトのくまショップもそうだ。ずらりとくまやねこが並んでいる。いずれも、作家Sleepy Sheepさんの手により、一つ一つ作ったものである。このイベント会場でそれを見ることができても、購入するには、予約が必要。しかも、数に限りがあるから、抽選でしか購入できない。
世界観を大事にしている。だからこそ、手に入れるまでのプロセスそのものが楽しみとなる。それがあるから、仕組みが活きてくる。ほぼ日がかねてより大事にしているコンテンツ力こそがこのイベントの真骨頂なのだ。
ほぼ日らしく優しく商品で背中を後押ししていく
だから、「ほぼ日」自身も商品制作に関わっているものもある。それがヘアメーキャップアーティストの岡田いずみさんとともに作る「Shin;Kuu」。
その背景を知り、価値を実感することで、商品を購入するスタイル。これも、メディアだからこそ追求できる部分。成分は、北海道・日高地方で育てられたサラブレッドの胎盤から抽出したプラセンタ。それゆえ、肌にみずみずしさ・ハリを与えるというわけで、美容液などを販売している。
疲れた日常を綺麗に、美しく乗り切れる現実。それは、その製品自体の価値とそこに触れるストーリーの厚みによってもたらされるのである。
おわかりいただけただろうか。「生活のたのしみ展2025」は、ただ商品の売買をするだけの場ではなく、「暮らしをどう楽しむか」を提案する場所である。
だから、訪れた人々は、手に取る商品を通して作り手の思いや哲学に触れ、そのアイテムが日常の中でどのような価値を持つのかを想像する。
ワクワクしてくる。糸井さんが語っていたように、このイベントは「優しく、無理なく、楽しく」暮らしを楽しむための場。肩に力を入れなくて良い。感じればいいのである。
商品一つひとつの背景に込められた思いが息づいており、訪れる人の心を温める空間が広がっている所以が理解できた。特別な体験を通じて、日常に新たな彩りを加えてくれるこのイベント。それは、まさに「たのしみ」の宝庫であった。
今日はこの辺で。