「顧客時間」を中心としたビジネスフレームワーク 顧客体験の再定義
縦割りではなく横断的に、顧客時間から逆算して、企業が一つになれるか。僕は「Next Retail Lab フォーラム」で、顧客時間の共同CEO 奥谷孝司さんと、岩井 琢磨さんの話を聞いて、とても共感した。語られたのは、単なるデジタル化ではない。それがもたらす顧客との繋がり。顧客が商品やサービスを選び、利用するまでの全過程を企業が経営層がどう構築し、価値を提供するか。そこなのであり、僕の視点でまとめてみた。
顧客時間とは何か?
顧客時間は、顧客が商品やサービスを選択し、購入し、使用するまでの一連の体験全体を指す。この時間は、単なる消費行動の時間ではない。企業がどれだけ価値を提供できるかを測る重要な指標である。顧客がその体験から得る満足度や、次回も利用し続けるかどうか。それを決定する上で、企業の戦略はこの「顧客時間」をいかに充実させるかにかかっている。
これが彼らの主張の真ん中にある。
改めて「顧客時間」は企業と顧客の関係を中心に据えたモデルである。とはいえ、体験とは何か。それは曖昧とされているから“顧客時間”という会社はそれを体系化して企業に提案している。
そもそも「企業」が提供する「価値」は何か。それがあるから「戦略」を立てられる。それが「顧客時間」を形成していくけど、完結するわけではない。今度は攻守逆転して、「顧客」が受け取る「体験」が何かが重要。そしてそれに伴う「利益」が大事となる。ざっくり説明するとそうなる。
このバランスを保つこと、それは経営。だから、経営視点が大切なのだというわけである。
デジタルイノベーションによってLTVの価値が高まる
それを可能にしたのが、デジタルイノベーションの進展である。つまり、今の時代、企業はそれらを駆使して、これらの顧客時間を個々に、形成していく。
必然的に、デジタル化が進むほど、LTVが大事となる。
釈迦に説法だが、LTVは、ライフ・タイム・バリュー。ある顧客が自社の利用を開始してから終了するまでの期間に、その顧客からどれだけの利益を得ることができるか。それを表す指標である。
LTVが大事な理由。それは今の時代、データにより顧客の管理が可能となり、それが個々の企業の個性を最大限に発揮させる所以となるからだ。
LTVという言葉を聞くと、CRMと並んで“古い”言葉と言われたりもする。それは、古くから、定期購入を主体とする通販事業者の間ではよく使われていた言葉だから。しかし、そういう発想をする人たちの方が、僕は古いと思う。デジタルの文脈になぞらえれば、寧ろ、そこに意味を持つ時代だからだ。
時代を超えて、今輝きを放つ「LTV」という言葉に重きを置く“顧客時間”の二人の姿勢。そこに僕は強い共感を覚える。今には今のやり方がある。
踏み込んで、彼らの場合、顧客時間の設計は、単なる販売チャネルの最適化にとどまらず、全社的な経営戦略として捉える必要があると指摘する。顧客時間の中で提供される価値が、いかに顧客の体験として実現するか。それを考えることが、競争力のある企業戦略に繋がるのである。
顧客時間に繋がるための4つの要素
それを構成する4つの要素。それを改めて、紐解くと、下記のようになりそうだ。
1.顧客価値の実現: 企業は顧客が感じる価値を最大化するために、どのような体験を提供できるのかを考える必要がある。これには、製品やサービスの質だけでなく、企業がどのように顧客とコミュニケーションを取り、ニーズを満たすかが含まれる。
2.顧客戦略: 企業はすべての顧客に最高の体験を提供することは不可能。そのため、ターゲットとなる顧客層を明確にし、その層に最適な体験を提供する戦略を練る必要がある。
3.システムの最適化: 顧客体験を実現するためには、企業のシステムが整備されていることが重要。これには、データ収集、分析、そして顧客行動に基づくリアルタイムの提案などが含まれる。
4.組織の整備: 顧客時間を最適化するためには、社内の組織やチームの連携が不可欠である。組織全体が顧客体験を第一に考え、どのような価値を提供できるかを常に意識する必要がある。
時代と共に顧客体験が変化していく
デジタル技術の進化は顧客体験に変革をもたらした。特に、インターネットの普及と共に、企業は顧客と24時間繋がることができる。これが新たな競争ルールを生み出しているわけである。
これが今までの動きと真逆となって、企業にとって遅れをとる要因となる。従来、企業は「製品を提供する」ことが価値のすべてであると考えていたからだ。
しかし、現代の顧客は単なる「物品提供」を超えて、企業からの体験や、自己実現の支援を求めている。この「トランスフォーメーションビジネス」の時代において、企業は顧客が「なりたい自分」に変身するまでのプロセスをサポートする必要がある。そう彼らは説明している。
それによって、顧客との長期的な関係を構築する。顧客あたりの価値(LTV)を最大化することは、企業の成長において重要な要素となる。特に、ナイキなどの企業は、顧客とのあらゆる接点を活用して、LTVを高める戦略を実行している。
体験に準じて顧客が受け取る利益
顧客のライフサイクル全体を通じて、どのように継続的な価値を提供できるか。それを考えることが、成功の鍵となる。かくいう僕も「ナイキ」のジョギングのアプリを入れているけど、彼らは物を売っているのではない。シューズを通した体験を共に作り上げていると言って良い。
つまり、体験に準じた顧客が受け取る利益も重要であるということ。利益とは単に金銭的なリターンではなく、顧客が得る満足感や利便性、さらには感情的なつながりも含まれる。今のナイキの話にしても、体験と共に、その裏側で顧客にパーソナライズされた提案を行っている。
だから、顧客が「自分のために考えられたサービスだ」と感じることができ、企業とのつながりが強化される。それは、顧客にとっての利益が増大していることを意味する。
プロダクト提供に終始すると足元を掬われる
そうすると、顧客体験は「今この瞬間」の体験にとどまらず、長期的な関係性に基づくものでなければならない。LTV(顧客生涯価値)を最大化するためには、顧客と継続的な接点を持ち、常にその体験を改善していくことが必要である。おのずとそういう着地になるのはわかるだろう。
そうすると、逆に、通常の物売りに終始する企業は、足元を掬われる。その典型例を示して、この記事を終えようと思う。
YAMAP(ヤマップ)というアプリをご存知だろうか。
登山者向けに特化したコミュニティ型のアプリケーション。このアプリはGPS技術を活用し、山中でインターネット接続がなくても利用できるオフラインマップ機能を提供している。これにより、登山者は道に迷うことなく安全に登山を楽しむことができる。
登山者はアプリを通じて山に関する情報を共有できる。また、登山計画を立てたり、登山の記録を仲間とシェアしたりすることも可能である。これにより登山者同士の繋がりが生まれる。すると、単なる道具としての利用を超えた価値が提供されて、その付加価値は増大する。
大事なのはここからだ。彼らは、それに基づく顧客データを活用して、ある戦略に打って出た。
“アプリ”のYAMAPはアウトドア“メーカー“の脅威となった
例えば、ユーザーが山の地図をダウンロードする。すると、その行動から「いつ登山をするのか」「どの山に登るのか」といった情報を収集することができる。だとすれば、YAMAPは、このデータを元に、アプリ内でユーザーに適切な商品やサービスを提案することが可能となって、ビジネスに広がりが生まれる。
たとえば、低山登山用のリュックの提案。あるいは、特定の時期に合った装備の推奨など。ユーザーに対して個別化された提案が行われているのである。
しかも、これらの情報がやり取りされるのは、登山の少し前の時。商品が欲しくなるタイミングである。欲しくなるのはいうまでもない。そして驚く勿れ、日本の登山人口が約650万人とされる中で、ヤマップの登録ユーザーはその半数を超える400万人を突破している。
いうまでもなく、これは多くの「アウトドアブランド」の会員数を凌駕する数字である。
果たして、物売りに終始してきた「アウトドアブランド」はこれほどまで顧客情報を握って、パーソナライズ化された情報を提供し、関係を築けているだろうか。これが、「顧客時間」の本質ではないかと思う。
だからこそ、旧態依然の事業形態じゃダメだ。どこかで間違いなく転換しなければいけないタイミングが来るだろう。それは間違いなく、デジタルを通した交流と、そこから生まれる「顧客時間」を起点に起こるのである。
今日はこの辺で。