逆風でも成長を続ける「アカチャンホンポ」納得の理由 データ・ドリブン戦略が企業にもたらす価値
ただ闇雲にデータを集めるだけでは、ことの本質は見えてこない。ただ、それらのデータを一旦、味方につけられれば、どれだけ逆風化の状況であるとしても成長が遂げられる。要は何を選択して、データで確認しているのか。「アカチャンホンポ」の取り組みには学びが多い。少子化で子供の数が減少していく昨今。逆に、子供を対象としたからこそ得られる誕生日などの情報をテコに、顧客である家族の姿を浮かび上がらせ、満足度とともに、売上を伸ばしている。これぞ、強い企業に見られる潮流である。
どんどん縮小していくベビー用品市場
マタニティに関する業界の実態を見ていこうと思う。ベビー用品の市場規模は、2400億円。2015年対比で80%までシュリンクしている。背景にあるのは、婚姻数の減少で、2022年時点で50万人。1997年時の婚姻数は77万人いたので、そことは35%減である。必然的に出生数もそれと比較して、36%減っている。ちなみに、22年段階で出生数は77万人。
今までのように、一見さんを相手にして、一品一品を売っていては下降ラインに入る。だから、彼らはデータを用いるのだ。必要に応じて、顧客のニーズを浮かび上がらせ、そこに対して仮説と検証を繰り返すのだ。そうすると、妊娠してから育てる期間の間は、彼らのサービスを受け続けるようになって、商品購入に伴うものを自分のところに引き寄せることができるわけである。
ここでも肝になっているのは「継続的な」利用を促す関係性である。赤ちゃん本舗 取締役執行役員 マーケティング本部長土師 弘明さんの話を聞いていると、そう思う。そして、彼らのビジネスならではの要素があって、一番、着目するべき点はどこだろう。
聞く限り、僕はそれを誕生日だと考えた。
誕生日が肝になる理由
赤ん坊が生まれるその誕生日を、ごく自然に、情報として受け取れる彼らの企業の特性。それを長所に変えて、ビジネスのマネタイズ部分に活かしている。そして、この誕生日が起点となって、保護者の行動が概ね、決まってくるわけである。だから、彼らはここの部分の精度をデータとの間で、高めてていくことで継続的な利用のきっかけを手にできたのだと思う。
かつ、彼らの取り組みに学びが多いのは、その誕生日を起点としながらも、あらゆる情報を掛け合わせて、より顧客ごとの環境を特定して、満足度につなげている点である。もう少し、わかりやすく説明しよう。
要するに、顧客がいれば、黙っていてもデータは集まる。それを闇雲に直感で判断して、アクションするのはあまりに勿体無い。そうならないように、まず複数の人間が関与することが大事。それで、データを「整え」、「見える化を行う」ことが何より大切なことである。
彼らの手元には、購買情報、顧客情報、アプリ閲覧履歴、地理情報などバラバラに存在している。けれど、大事なのはこれを、それらデータの連携を行い、一つの情報に集約するのである。
継続するだけの理由
それで、妊娠何週目に、何を購入したのか。店舗から遠い人はどういう購買行動をしているのか。逆に近い人はどういう購買行動をするのか。
つまり、地理情報単体では、活かされないけれど、購買行動と紐づけることで、それらのお客様の置かれている状況が見えてくるわけである。だから、仮説が立てられるわけであり、その仮説が施策となって、その説に対しての精度を高めるわけである。
こうすれば、自ずと顧客と企業は寄り添えることになる。
当然、全ての顧客から深い情報が得られているわけではない。だから、欠損しているものがあれば、そこで初めて、AIにより効率よく、予測をして補うわけだ。それによって、スタッフ側が次の購買体験、時期を予測を立てて、仮説を立て、施策によって、検証できるわけである。
お客様を特定するから満足度も信用度も上がる
そうするとお客様を特定できるから、今度はそれをさらに別の尺度で分析をしていく。これにより、あらゆる部分で顧客を深掘りできるようになる。例えば、「どのカテゴリー」の「どの商品」は「どのタイミングで購入しているのか」を洗い出せる。
たとえ、カテゴリー内でも単価の高いものは、どのタイミングで購入されているのか。光の当て方を変えると、違った顧客の表情が見えてくる。「何かと一緒にまとめて買ったのか」。買ったとすれば何が多いのか。ついで買いの商品なのか。単品でも欲しい商品なのか。
それらを掛け合わせると、一人ひとりに向き合った施策が可能となる。そして、満足度の向上とともに信用度も増して、継続度が高まるというわけだ。
例えば、哺乳瓶には、2サイズある。最初の頃は、小さいものを用意するのが定番。それらの購入は、同社では「妊娠時の購入時に多い」と読んでいたが「出産時に購入している」という結果が多いことに気づく。
「母乳が出るか出ないかわからない」などの理由もあることが判明。そうやってお客様を絞り込む。特定できれば、その理由に対してアクションを起こしてみるわけである。
おわかりいただけるだろか。少子化が叫ばれ、利用者が減る中だからこそ、このような視点がなければ、企業は生き残れない。その母数が減っているのだから、その母数単位で顧客にフィットして継続させるための向き合い方を模索しないといけない。
顧客理解と、購買促進は同時進行
自分たちに提供できる価値を、お客様とのやりとりで考える。
購買データとそれら以外のデータとを掛け合わせて、顧客が何を求めて、自分たちが何を解決しているのか。それを可視化できれば、自分たちの立ち位置を知り、やるべき施策が見えてくる。施策との相性を見て、それを随時、取り入れていけば、新たなお客様は、そのやり方に沿って、やっぱり継続していく。
しかも、彼らは初産の時に利用される率が高い。第一子の出生数が35万人。23年度の誕生日の子供の登録件数は26万人。ということは、下手すれば、75%程度占めているのではないかと推測される。
そして、彼らはその先を見据えている。それぞれの保護者が抱える問題すら可視化されてきた。だからこそ、最近では、助産師の力を借りて、専門的知識を動画で配信することなどでフォローしている。
顧客理解を深めながら、購買促進のアプローチをしていく。そのために、解像度の高いデータを、「見える状態」にして、誰もがデータの分析ができる環境を、徹底していく。それができるのがデジタルの力であり、正しい運用をしていくことこそが、いわゆる、データ・ドリブンの真髄である。逆風をもろともしない「アカチャンホンポ」の強さをここにみた。
今日はこの辺で。