集英社の漫画の視点、チームラボのデジタルの切り口 など、斬新アートで人を育む「麻布台ヒルズ」
麻布台ヒルズがこの“街”を作り上げる上で大事にしているのは文化なのである。だから、アートを重んじるのは必然。特に、世間一般で言われるアートとは別に、違った視点を拾い上げることすらあって、それがまたアーティスティックで良い。歩くだけで自然と、好奇心が高鳴る。
入って早々、ヒルズギャラリーでは、オラファー・エリアソン展が行われていた。そこからもう本気度が伺える内容。というのも、この写真を見てほしい。水の流線型を表現している。だけど、映像や光ではない。光に水を当てて、水そのものを使っている。ピチャッ。静かな場所に響く水の音がなんとも神秘的である。
●「集英社マンガアートヘリテッジ」
1.漫画も優れたアートである
圧巻である。集英社は、日本で唯一、漫画コンテンツをアート的視点で捉える拠点を麻布台ヒルズ内に作った。それが「集英社マンガアートヘリテッジ」だ。週刊少年ジャンプで連載中の「ONE PIECE」の「活版印刷」で作った作品が目に入ってくる。
活版印刷って何?そう思われる人もいるだろう。
要するに、金属板に活字を埋め込んだ版でプリントしてしたものの事である。漫画は知っているかも知れない。でもそれがどういう形で作られているのか。それについても、漫画の価値として尊重して、アートとして彼らはそれを表現するのである。
ヘリテッジというのは研究所。新規事業の部署で地味にこういう価値を追いかけ続けて、最近ではこういう「ONE PIECE」の巻頭カラーの一枚絵を絵画の様にして販売している。これも、アートとしての可能性を追いかけ続けたものだ。
ONE PIECE(C)2023,Eiichiro Oda/Shueisha Inc.
そんな部署だから漫画の価値をアートの一環でどう伝えようと考えた先に、活版印刷に繋がった。実は、1970年頃までは、漫画の絵の部分を亜鉛の板に腐食製版して作っていた。そして、吹き出し部分を糸鋸でくり抜いて、活字を埋め込んで、完成させていたのである。こういう過程があることを漫画の読者すら知る人は少ない。
2.製法の奥深さを伝え作品のアート性を謳う
僕はこの話を聞いて、日本の伝統、浮世絵を思い浮かべた。海外のアートは画家が書いたものが多いけど、日本は少し違う。浮世絵などは、印刷技術でその表現力を高め、絵の価値を知らしめた。つまり、印刷製法は文化を広める材料に使われていた。だから、漫画も作り出す手法自体が、日本としての誇りの様なものだと思い、アート性を感じたのである。
それも50年に満たない話で、「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の第一話も実はこれで、組版されていたのだから、驚きである。集英社はそこに光を当てたわけだ。
ところが、現物が存在していない。なぜなら、それを再度溶かして利用するのであり、原型がないのである。ゆえに、写真すらないのだという。さあ、大変だけど、それが具現化できれば漫画にとっての財産になる。
だからこそ、集英社はそこへの敬意をもって、その技術を持つところを探した。至難の業で、日本でも一件あるかどうか。それを見つけ出し、ONE PIECEの1ページでそれを再現したのである。
3.漫画家のこだわりがアートに花を添える
集英社の方と色々、話をしたが、何気なくつぶやいた一言が実に深かった。「ONE PIECE」作者 尾田栄一郎さんは漫画を全てトリミングしているという。
トリミングとは何か。
冊子も単行本も決まったサイズがある。例えば、週刊少年ジャンプで「ONE PIECE」を見ていても、紙面からはみ出すコマもある。でも、そのサイズで裁断されている先がどうなっているか。そんなことを考えたことはあるだろうか。
集英社の方が尾田栄一郎さんに敬意を示している部分は、どんなコマにも、コマに縁取りがしてあるのだ。だから、アートでの表現がしやすくなる。
ONE PIECE(C)2023,Eiichiro Oda/Shueisha Inc.
例えばその見開き2ページで誌面からはみ出し、(誌面では)その縁がなかったとしても、実は(白い縁が)存在する。だから、それを一枚絵にしたときに、綺麗に四隅に空白が生まれるのだ。つまり、漫画としての雰囲気を損なわず、アートとして冴え渡る。
それを第一巻から百巻を超える今までずっとやり続けているのだという。
純粋に作品自体で、漫画の良さに触れるのも良い。一方で、アート的側面で魅了されるのも良い。
また、彼らはそこに加えて、作る過程で魅了もしないと思っている。印刷における職人技に触れて、読む時のワクワクを大きく感じてもらいたいから。漫画への愛着がリスペクトともに、一層際立つアートの拠点が誕生したのだ。
●「チームラボ ボーダレス」
1.表現に終始したデジタルアート
また、企業単位でアートに取り組むチームラボのミュージアムもここに出現。かつてお台場にあった「チームラボボーダレス」であり、現在はまだ、工事中。
とはいえ、先行して、二箇所だけ見せていただいたが圧巻。その名の通り、壁も床もなく、全てがボーダレス。美しい色鮮やかな花や清々しい水の様子は、至る所で咲いては消え、流れては消える。
また、もう一つは球体がずらりと並ぶ。陽の光の様に明るく暗くを繰り返して、そこには息吹を感じ得る。この美しさと幻想的な空間は、デジタルの価値を別軸で示したもの。デジタルというと利便性を追いがちであるけど、そういうものには一切とらわれず、表現に終始する。
これらは何かの役に立つような必需品ではない。だからこそ、人にとってかけがえないものになっている。殊更、デジタルは利便性の側面で語られることが圧倒的。だからこそ、そういう価値を創造したことに意味があるのだ。
また、デジタルでありながら、自然の偉大さを思わせるその表現は、人の心を豊かに和ませ、ポジティブな気持ちへと誘う。
・Gallery Restaurant舞台裏
1.アートと共存するから 舞台裏
アートに関しても、各々の誇りがある。個々の可能性は互いの企業を刺激しあって、その場の価値を向上させる。The Chain Museumという会社が運営する「舞台裏」はまさに、剥き出しの骨組みの向こうにアート作品があるが、ここは飲食店である。
The Chain Museumの代表取締役の遠山 正道さんは、食べるスープの専門店「Soup Stock Tokyo」、ネクタイ専門店「giraffe」等を展開した事でも著名。その視点は従来のスープやネクタイとは違った提案をしたもので、店の在り方に新たな価値をもたらしました。そんな会社だからこそ、この舞台裏は従来の方にとらわれないイズムを感じる。
作品は加藤泉さんの木彫。まるで美術倉庫で、貴重なアート作品を発掘した感覚であり、飲食が一層贅沢に感じられる。
2.アートと共存する事で話と食は捗る
骨組みの部分は、この日は剥き出しでした。たとえば、幕を張って、ライブペインティングをしたり、使い道は様々考えられる。この店自体を表現の材料にして、店自体の価値を上げていく。ほっこりと仕事を癒すカフェ。そして、ストーリーのあるお店の数々。そして、人々の好奇心を触発するミュージアムなど、ここまで読んでもらえばわかるだろう。
ブランドを寄せ集めするのではなく、カテゴリーの枠を超えて、そこに住み、働き、遊びに来る人が、その中で、文化を作り出し、文化を堪能するのだ。
それは街であることで、一層引き立つ価値である。商業施設がこれからは、単純な箱で提案する時代はもう古い。地元で働く人、過ごす人、地権者など、街的な横の広がりを強固にして、真に拠り所とするような場所を作っていくことこそが大事なのである。
今日はこの辺で。