2024年問題 の真実 ドライバーの未来を想い 今こそ荷主が考えるべき時
来年に迫った「2024年問題」。表向きの話を見れば、働き方改革の一環。割に合わない労働時間に対して、メスを入れるものだ。しかし、これがここまで大きな問題になっているのは、もっと本質的な問題があるからだ。一言で言えば、「身から出た錆」だ。リンクス 代表取締役 小橋重信さんと話して痛感した。そこで今回は、表面的な問題を語るのではなく、その奥にある根本的な課題を紐解く。見えてきたのは物流会社だけで解決できるものではないこと。寧ろ、考えるべきは荷主ではないか。
根本的解決は?2024年問題
1.2024年問題とは?
本質に目を向け、根本的な解決とは何か。ここで、改めて「2024年問題」とは、何かについて、触れる。これは、2024年4月1日以降、自動車運転業務の時間外労働時間を960時間とする規制が設けられることによって生じる問題の総称のことをいう。
ただ、小橋さん曰く、制約されたことで何かが起こるというわけではない。法令を定めるよりも前に「人が少なくなっており、運べるものの数も減少しますよ」ということは以前からいわれていたこと。
それなのに、力技で、そこを潜り抜け、根本的な解決に努めなかった部分が大きい。2年前からその法令に関して、言われていたのに、いまだに改善されていないのは、それだけそれを取り巻く環境が深刻であることを指し示す。
法律で規制されるから、残業時間を減らしましょう。それを物流会社に伝えただけで、解決できる問題ではなく、もっと根が深い。関わる全ての業種が意識して、一体でその課題を考えていかなければ、その突破口は見出せない。
2.物流に潜む問題を顕在化
では、その大元はどの辺にあるのだろう。その点、小橋さんは、規制緩和を謳い、物流二法が改正されたところにありそうだと説明している。詳細は割愛するが「物流二法」とは「貨物自動車運送事業法」「貨物運送取扱事業法」の二つを指す。
実は、この法律の改正は、遡ること20年前、2002年に行われている。その内容は、一般貨物自動車運送事業の営業区域規制や運賃の事前届出制を廃止するというもの。
これらが「身から出た錆」であると冒頭、触れたことに起因する。
ここから負の要素が積もり積もっていく。物流二法の改正に伴い、ドライバーは免許制だったものは許可制へと変わった。それによって、何が起きたか。
参入障壁が下がったことで、今まで配送できていた業者が3万社だったのが、6万社にまで膨れあがり、つまり倍になったのだ。そうすると何が起こるか。
環境が20年で激変 ドライバーの仕事
1.儲かる仕事だった
それまで、ドライバーというのは「儲かる仕事」だった。余談だが、会社を立ち上げるために、脱サラしてドライバーをするなどの動きもあったくらい。確かに、僕の父親世代の往年の昭和映画を見ると、ギラギラしたトラックをドライバーが威勢よく、闊歩して、まわしている姿を目にした気がする。そうか、景気のいい業態だったのかもしれない。
話を戻せば、その改正に伴い、一変したわけだ。
それだけドライバーが増えれば、業者間での競争が激化する。自分のところへ仕事を回そうとするあまり、採算度外視で、他より安い価格設定をする。いつしか、それは、「儲からない仕事」になっていく。だから、大手配送業者を中心に、冷静になって、配送料の向上を盛んにいうようになる。割に合わない価格設定をしていたと。そりゃそうだ。
2.割に合わない仕事となり成り手が減少
一方で、ドライバーは急激に改善されるわけはなく、寧ろ、依然として過酷な環境で働くことになっている。
働く時間は多い割に、給料が安い。かつてのように、意気揚々と、ドライバーをする輩はいなくなった。むしろ、きつい仕事の代表格となるほど、今度は、ドライバーの成り手が減少していく。すると、少ない人員では無理が生じる。
だから、残業時間の規律を緩くしてでも、運ぶことを全うしようとする。この現状、おわかりいただけるだろうか。さらに、成り手が減れば、全体に占める高齢者ドライバーの数が増える。これまた、深刻である。
だから、一定時間の残業はこの法令により罰されることになる。その料金がかかるとすれば、「もう運ばないよ」ということになり、本当に運べなくなる荷物が出てくるわけだ。
3.すぐに解決しない根の深さ
それほどの問題にもかかわらず、猶予が与えられた2年間、何も変わらなかった。それは、それに関連する企業の意識がそこに向けられていないからだ。
昨今、ECが急激に伸びたといっても、まだ全体に占める割合は、1割〜2割程度。この増加を2024年問題に絡める向きもあるけど、それは早計だ。本質的に見る必要があって、EC事業者もそれを把握することは大事なのは、追って説明するけど、プラットフォームが物流との連携を密にしているから。
まず、課題となるのは、割合の多い「BtoB」の物流における構造的な問題。上記の環境に致命的にダメージを与える。
荷主の意識改革こそ、一番重要
1.物流は荷主都合で振り回され続けた
そもそも配送にあたっては「着荷主」と「発荷主」が存在する。わかりやすくいえば、小売業者は「着荷主」であり、作って届けるメーカーなどは「発荷主」ということになる。実は、この「着荷主」がその課題解決を徹底していないことで、倉庫で非効率な環境が生まれる。わかりやすい例で言えば、配送したからといって「運んだ商品はすぐに届く」とは限らない。
「朝イチで届けて欲しい」と着荷主が言われるがまま、倉庫まで行く。ところが、実は、同じように依頼された企業のトラックがずらり。
そのドライバーは自分の入庫の順番が来るまで、その倉庫で待ち続ける。なんと無駄なことだろう。それは、その後の配送にも影響する。
例えば、それで本来、朝7時に到着して入庫が済めば、その後の道路の環境により、スムーズに次の入庫先に届けられるはずだ。しかし、実態は、ここで2時間待たされたりすることも少なくない。朝9時になれば、状況は一変。交通量が増えるので、当初の予定よりも、ますますその仕事の効率は悪くなる。
2.構造的な問題も加味して更に過酷に
しかも、日本は流通における構造的な問題もマイナスに作用する。比較的、海外ではその問題が起きづらいのは、着荷主の側にその配慮があるからだ。
例えば、ウォルマートでは、それまでメーカー側に「在庫の責任」を委ねて、仕入れに特化していたのをチェンジして、自らが「在庫の責任」を持つようになった。というのも、受注予測に基けば、必要数量、必要な時に、自らで在庫を抱えることで、無駄な物流を減らすことができる。
関連記事:小売店とメーカー 在庫の責任はどちら?米国事例に学ぶ
ところが日本は、どうかというと、問屋が存在する。だから、その分、在庫の責任は、メーカー側にあって、適宜、小売からの要望にあわせることになる。だから、1個も、10個も変わらず、同じ感覚で、発注を出す。当然、トラックの積載効率など考える向きもなく、非効率な形で、配達が行われる。それだけでなく、単価は変わらない。
ゆえに、配送代金が高騰しているといっても、単純に物価の高騰と同じレベルではないのだ。いろいろな要素が絡み合った中でのもの。現状、その上がった代金でも、それに対応しきれているとは限らないのである。
3大きくのしかかる労働生産性の悪さ
つまり、労働生産性にも課題感があって、それらがなお、この問題を複雑にしているわけである。だから、2024年問題は、単純に、働き方改革で、働く環境を良くしていこうというような、学校の教科書に出てくるようなわかりやすい問題ではないのである。
今までは、物流現場が無理をしてでも、乗り切っていた部分がそうはいかなくなる。残業代が出せないから、物理的に運べないところが出てくる。そうなった時に、今まで放置していた上記の問題を、改めて見直さなければならなくなっているのだ。
それは、いよいよ来年、法令が施行されるようになって、それらの背景にある問題が必ず、顕在化してくる。2024年問題の価値は、そうやって多くの人に、長年積み重なった物流に関する問題に、目を向けさせるという意味でプラスに働くわけだ。
そして、この問題は大なり小なり、着荷主も、発荷主の意識の徹底にこそ、突破口があると考える。それは説明の余地もないだろう。先ほどの順番待ちの件も、発注の仕方も、全て荷主の物流に対しての考え方を変えないと、意味はない。幾ら、法で規制しようとも、根本的な生産性が改善されない限りは、下手すれば、お客様の利便性にも影響してくる問題なのだ。
ECプラットフォーマーも強く意識して欲しい
1.ECを物流一体で見るからこそ
先ほど、僕は、EC事業者もそれを理解すべきだと説明した。というのは、最近、Amazonや楽天をみても、ネット通販のプラットフォーマーが必要に応じて、自ら物流施設を持つことで、顧客満足度を高めようとしているから。
いうまでもなく、彼らが抱える店舗のスケールを活かしたもの。現にその施策を見れば、利便性と信用の両面で物流を味方につけている。例えば、ECの購入画面で、わかりやすく、配送・物流の把握を生かして、いつに届けられるという表記をする。
それがあることで、購入動機にはなる。けれど、ここで「早く届けること」だけを正義としてしまうと、これらの2024年問題に逆行する形になるわけだ。
2.新たな業務フローをそれように構築することの大事さ
小橋さんが、他の大手アパレル企業で、無理に「早く送り届けない」ように仕向ける施策を打った際に、結果、取り下げるに至ったことがあったという。つまり、届けるのが遅くなる分、倉庫に滞留時間が増えるので、結果、倉庫内の回転率が下がる。全体を捉えて、配送を加味した、良い行動なのに、その声に押されて、やめてしまったことがあったという。
倉庫内の業務フローを見直す必要がある。向き合うべきは、お客様一辺倒ではなく、全体の最適化を考えた上での業務フローである。そもそも、配送業社が運べなくなっては意味がない。
ECのプラットフォーム単位でみれば、それなりの規模感になってくる。だから確かにBtoBに比べれば、少ないのかもしれない。けれど、社会的な問題として、ECの物流に関するプラットフォームはここに向き合い、道筋を示すべきだと切に思う次第だ。
そして、それには店舗もその理解を持っていることが大事だから、彼らが率先して啓蒙の役目も果たして欲しい。
「自分が売れればいい」のではなく、全体を考え、「皆が疲弊することなく」連携してビジネスを構築していく時代なのだ。それが本当に、皆にとって幸せな環境づくりであり、会社として、社会的意義につながると思うし、顧客に支持されると思うから。
今日はこの辺で。