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だから日本の“通販”は負け続ける 日野氏と西野氏語る“マーケティング”で 大切なこと

 通販は新しい局面に入った。「通販では、これまで売れる為の“手段”は議論されてきた。けれど、それだけでは不十分」。そう言って警鐘を鳴らすのが、長年その“手段”を指南してきたやずやの大番頭、西野博道さんだから僕は意外に思った。「商品を生み出す」までが蔑ろにされれば、CRM等“手段”は形をなさない。 マーケティング を早合点せず、真に消費者の心理を理解して、通販企業のあしたを指し示したい。 そう言って HERSTORY 代表取締役 日野佳恵子さんとの対談を切望し、ここに実現したのだ。

マーケティング で 大切なこと 通販企業が忘れてがちな原点

 西野さんは、やずやで年商6000万円の時代から470億円に至るまでの成長を牽引してきた。商品で繋がったお客様といかに深い関係性を築くかが念頭にある。接客で社員の個性を活かし、士気向上を図ると共に顧客満足度を向上させて、維持する事で経営基盤を作り、会社を長期的な視野で引っ張って成長へと導いた一人。

 ただその対談は、西野さんの意を決した「パンチの効いた発言」から始まったのである。

 「通販企業はCRMという言葉を口にはするもののCRMをやっている会社は殆どない。」

CRMとは

 西野さんとは色々取材してきたが、そのいずれもが売れる為の本質をついており、その一言が多くの通販企業を変えてきたのも事実だと思う。でも、今、敢えてそれを口にするのは、それだけではどうにもならない通販企業の現状を彼が察したからなのかもしれない。その証拠に「消費の9割の決定権を持つ女性の気持ちを通販企業はどれだけ理解できていて、きちんと求められている商品を提供できているのか」とも。

 CRMは起点となる商品企画と連動していて、そこが日野さんとの対談に直結する部分である。

 日野佳恵子さんは遡ること30年前に「女性の見える世界というのは10年先を行っている」そう言って起業した。女性の発想は今の常識にとらわれることなく、新しいマーケットを生み出す力があると言って女性マーケティングを通して、企業の発展に努める第一人者である。

 そんな日野さんを前にして西野さんは正直に打ち明けるのである。

「通販企業は“なんちゃってライフ志向”をやっていたにすぎない」と。

 そのユーモアのある表現に対して日野さんは笑みを浮かべて、丁寧に、そして興味深く「西野さんのいうライフ志向ってどういうものなのですか?」と尋ねる。

 すると西野さんは自ら感銘を受けたという日野さんの著書「女性たちが見ている10年後の消費社会」を取り出して、そこに掲載されている「女性視点“マーケティング”と従来“マーケティング”のアプローチの違い」の図について言及した。

 通販企業はこの図の「情緒(感情)的価値」を理解して、商品を提供しているつもりだった。しかし「つもり」でしかなくて、実際には少しもできていなかったことに気づかされたというのである。

 具体的には「便宜的価値」の「お得、値ごろ」の要素などを追いかけていたにすぎなくて、それで通販企業はライフ志向をわかったつもりになっていた。それ故の“なんちゃってライフ志向”だと。まさに、そこに今の通販企業が伸び悩むだけの課題があると指摘したのだ。

 今、通販企業の9割が伸び悩んでいて、ある程度の売上で行ったり来たり。その理由は、そうやって“マーケティング”を早合点して、真に消費者の心理を理解しようとしていないからだろうと彼は分析して、日野さんにこう問いかけた。「だから、本当は消費の9割の決定権を持っているであろう女性から“そっぽむかれている”んですよね」と。

日野さんが女性の意見に耳を傾ける理由

 日野さんはその言葉を感慨深く受け止め、彼女が女性マーケティングを重んじるようになった原点を、本質的に語り出したのである。

 「私が創業した30年ほど前は、スーパーの人は『エコや環境やオーガニックの事をいう人はいるけど、それでコーナーを作っても特別売れるわけでもないし、腐るのも早いから実際には売れないんだよね。僕らは売る為に商売しているのに』と言っていた時期でした。でも女性に聞いていると『売れるか売れないか』とは別に、毎年一年ずつそれが大事だという人が増えていったんです」。

 「つまり、その時はそういう人が少数派の希少な人です。でも翌年になると1人が3人に増え3年経つと10人になっていて、果たしてどっちの意見の人の方が大きくなっていくかということを考えた時に、後者のが大事だと。そして、それを教えてくれたのがママ友でした」。そう語るのである。

 だから日野さんは考えた。女性に情報を聞いておくと、社会の流れがどちらにいくか予見できると。これが女性の“マーケティング”をすることの意味であり、だから西野さんはここに興味を抱くようになった。日野さんに倣い、真に先を見越して、情報収集を怠ることなく取り組めば、通販企業が伸び悩んでいる部分を解消することができると考えたからだ。

 また、日野さんの話で興味深いのは「女性はそれを無意識に発している」という事で、それを理解して受け入れることの大事さである。逆にいうと、これまでそういう女性の性質を理解しようとしてこなかったことが今の通販での伸び悩みを招いていることでもあるといえる。だから西野さんは反省を込めて、それには通販企業自体が変わらなければならない事を意図するわけである。

ママは一体何が違うのか?

 「例えば、その予見者たるママは何が違うのか」と西野さんは尋ねる。「それは出産を機に、食べ物が変わったり、生活が変わったりする様子を見ていると、女性たちの生命維持とか、継承していく本能が選択を間違えないようにするように、動かしているのかもしれない」と日野さんの答えはテクニックというより本質的だ。

 西野さんは「よく商品企画ではインサイト(消費者が潜在的に思っている欲求)という言葉があって、そういう話を聞くと、やっぱり通販企業は表面上でしかそれを捉えていない印象があります。インサイトって言葉を使うことでいかにも消費者目線であるように見せてはいますが、その割に、消費の9割の決定権を握る女性のことを知らない」と話して、その女性の気持ちを真に掴むとは何か、そのアプローチの仕方に関心を示したのである。

1.オレンジが大事じゃなくオレンジを選んだ心理が大事

 すると日野さんはこんな例え話をして、“マーケティング”における考え方は従来のそれとは大きく違うことを示してくれた。

「例えばこの夏にオレンジ色の服が売れたとします。今、私は色の事を言いました。でも、その売れたものは商品を扱う側(お店)からすれば『襟がついていて』『ポケットが2個ついていて』『素材がコットンで』『丈が短くて』といった具合にこれらは全部、売れる要素としてスペックの情報で捉える傾向があります。」

 「だからこういう(スペックの)ジャケットが売れているからそれを『もっと出せ』とか『売れているからSEOの効果を上げよう』とか売れている事実を捉えて対策を打つのですけど、それが違うんです。私たちがインサイトインタビューをすると、女性たちはこういうんですよね。『コロナでネガティブ気分が重いので、明るめなものに目が行くんですよね』って」。

 オレンジではなく、オレンジを選んだ今の気持ちが大事だというわけで、これは深い。「この明るめなもの」というのが重要で、日野さんはこう続ける。

「『明るめのものに目がいくって例えば?』って聞くんですよね。すると『無意識にピンクの傘を買っちゃったり、オレンジの服を買うんですよね〜』と答えが返ってきます。そうすると、このインサイトは何かというと、自分たちの置かれた環境が今ネガティブな雰囲気を持っている中で、気持ちを上げたいと考えているという事になるんです」。

 これこそが真に女性のインサイトなのだと彼女は説くと「そうです、そうです」とニヤリとしながら西野さんがうなづく。今の後手にまわっている小売店の動きこそが、西野さんが漠然と捉えている「表面的なインサイト」という事になるのだろう。

2.ワークマンがなぜ女性にウケたのか

「その意味では実は、製造業の人たちの方こそ、本来の日野さんがやろうとしている女性視点マーケティングを受け入れられる余地があるのでないかなと思って見ています。「ことで売る」というか生活もくっつけて、商品を提供していけば、もっと今より買っていただけるものになる。ここの部分を見誤らないことが大事なのではないかと」と西野さん。

 日野さんはそれにうなづき、「そうですね。女性がその商品を手にしたのには理由があるんです。男性だとそれがサイズだったりするのだけど、女性で言うと、そこに『プラスアルファ』として何かがあるんです」と話してくれた。

 「プラスアルファですか、、、」西野さんはいう。

 彼女は続けて作業着のワークマンの例をあげた。一見すると無関係だった女性を味方につけて、今の躍進を作り出しているワークマン。例えば、これまでもキャンプに行く人用のジャンパーは置いてあった。

 「ほとんどが全面のチャックで開け閉めをするタイプでした。それは雨風が入らないようにするためでそれは作業着としてのこだわりがありました。でも、女性のキャンパーの人は、それらの生地はそのままでいいと専門性を高く評価しつつも『そのチャックが可愛らしくない』と。そこで木の丸いボタンに変えることによって、女性からの関心度が上がったのです」。

ボタンに変える、それが大事

 日野さんの話で重要なのはこの「可愛らしくない」という部分なのである。「可愛いものならいいんでしょ」という単純な話ではなく、ここにも女性ならではの心理が働いている。

 つまり、ファスナーであった場合、胸のあたりで止まっているタイプも多く、すると上からかぶらなければならない。ところが、女性はそもそも髪の毛が崩れることを拒むので、そこがネックとなって、「そこさえ変われば、買うのに!」というわけである。

 それともうひとつ。ファスナーの機能性はいいとしても、自然の中で“メタル感のあるパーツ”は、優しさや素朴さではない“人工的な違和感”が出てしまう事が気になるわけだ。例えば、それが調理器具などは解体用だからそれが仕方ないとしても、着用するものは自然な素材感、丸みの優しさで緩和したい、というのがあるわけだ。

 気持ちの揺れ動きを追いかける事が大事だと思う。さきほどの「オレンジ」の話と同じである。オレンジ自体を云々言っているのではなく、オレンジを選んだ胸の内のほうを重んじたように、「かわいい」そのもののイメージで捉えるのではなく、「かわいい」に込められた女性の内面的なものへの理解を深める努力が大事なのである。

 ワークマンはこうやって、商品力に女性のプラスアルファを足す事で結果を出した。

 だから、これまでの企業は「なぜこれが売れているのか」を考えるときに、意外と最後の最後で「情緒(感情)的価値」を落としてしまうと日野さんは言い、西野さんはその実態を「なんちゃってライフ志向」と表現しているという事になる。

 この情緒的(感情)的価値は女性の本能であり、男女は違うという認識が大事だという。違う以上は、理解をする。

 日野さんは男女の違いをこんな風に図で表して述べるのである。

 西野さんは「男性は目標物に対して、一瞬にして生きているものを仕留めないといけないから、レーダーチャートみたいなものが好きですよね」というと「そうですね、でも女性はその途中が大事なんです」と日野さんはそうなる理由についても説明した。

「女性はどうやっても子供を産む側の立場です。顔色を見なければ『子供が健康でいるのか』等そういう要素が見えません。また、用事があって抱き抱える赤ん坊を誰かに預けなければならないといった時もあるでしょう。そうすると周りの近所と親しくするふりをしないと生きていけない。なので女性は人の顔色をみて生きていますし、他人がどう自分が見られるか、というのが大事になってきます」と。その男女の性質の違いは人間の本質でもある。

マーケティング で 大切なこと 危機感を持たなければ海外に抜かれる理由

 違うものは違うのだ。それを理解できないと諦めてきた節もある。ただ日本の通販企業において、理解を怠る風潮は企業の首を絞めかねない。危機感を持って受け止めなければならない事は日野さんのマスクに関する話を聞いて僕も痛感したので、その例も示しておく。 

 「みなさん、マスクをしますよね。ところがカメラで見て、マスクで覆うと目の周りしか見えません。すると血色が悪く見えて病気に見えるということで、実は今『血色マスク』というのが通販を中心にヒットしています」と。

 男性であれば、マスクは高機能で99%ウイルスを防御など、高度なレベルのマスクで…という事になるだろう。だが、女性の場合だと、最後の最後、もう一つ付け加えて、顔の映りをよくする要素が決め手となって『血色マスク』を選ぶのだ。

 「この血色マスクは肌の血色がよく見えるという意味であって、それに気づいた人たちは皆、日本人も買い始めているんですけど、作っているのは全て韓国なんです」と日野さんは危機感を持って話す。

 「なぜ韓国に負けてしまうのかといえば、今、西野さんが日本の通販企業は女心を研究していないという指摘の通りで韓国は女心を掴むのがうまいんですよね」と続け、こうも話す。

 「ファッションに対しての興味も、10年前、韓国に行ったときにその商品は3分の1から5分の1位の価格で買えたのですが、今仕入れしようと思ったら、価格は韓国と日本はほぼ同じ。寧ろ日本の方が安いくらいになっています。」

手段を議論するなら商品をどうするかを考えよう

 日野さんは「こういう部分で売り方、ページの作り方は日本は非常に遅れています。なぜなら消費者の声を聞く場所に女性を入れていないから。女性社員にインカムつけてもらって、オペレーターという形で、労働者として活用していることはあっても実は消費の決め手となる意見を発言する場にいない。彼女たちこそ、必要な意見を持っているのに蚊帳の外です」と語気を強めていった。

 「西野さんがおっしゃる通り、技術はあって製造の国なんだから、今、この時点で高機能で女心とセットとして融合できるかどうかなんです。でも、それができなければ、本当に日本の企業は終焉を迎えることになりますよ」と日野さんは言い、西野さんがうなづく。

食でももはや日本と差がない(HERSTORYの調査より)

 先程、書いた通り、僕は西野さんとは取材を重ねてきて、売れる為の本質をついており、その一言が多くの通販企業を変えてきたのだろうと実感させられるものばかりだ。だが、語弊を恐れず言えば、売る為の手段はいいとしても、売れるそのもの、商品をどう生み出すかという部分ではまだ、彼なりの理論が成熟たり得ていないのかもしれない。だから、そのヒントを日野さんから学ぼう、そう思った部分もあるのではないかと。

 西野さんが、最後、ぽつりと「男性は昔の成功体験をひきづる」と漏らすと、日野さんは「多分、成功という定義が違うんですよね」という話をして、本質的だと思った。「女性にとっての成功体験は常に『家族が幸せか』や『母として、女性として人生、真っ当に生きているか』に結びついています。だから『成功体験って何か』というと『美味しいご飯を食べさせられていること』であるとか『子供たちが健康で元気でいること』など、『次世代継承型に対しての責任』が成功体験なんです」と。

 次世代継承型だから、一過性ではなく、商品企画においても先駆けであり、かつ定着しやすい。女性マーケティングの強さはここにあると思う。

 「そうなんですね」と熱心にメモを取る西野さん。男性はこうでなければならないのだ。もっと女性から学ばなければいけない。そして過去ではなく、先を見据えて商品を相手の“心に”ちゃんと届くように作っていかなければ、未来はない。これは通販業界に限らず、日本の企業全体に言えることなのではないかと思った。

 どうだろうか。あなたの会社は“なんちゃってライフ志向”で商品やサービスを提供していないだろうか。世の男性陣よ、通販企業よ、変貌しよう、今なら間に合う。あなたの周りの女性たちに耳を傾け、あしたを考えよう。

 今日はこの辺で。

やずや 西野博道氏 ハヤカワ五味氏 語る 通販 CRMとは?

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