今さら聞けない Shopify Unite 2021 初心者 向け解説
自社でECを作れる「Shopify」が話題であるが「 Shopify Unite 2021 」というイベントで、そのアップデートを発表した。物凄い熱狂に包まれていると同時に、どの辺りが凄いのだろうとキョトンとしている人も多い(というか、僕がそうだ。涙)。難しい言葉は抜きに今回の発表が未来のECにどんな影響をもたらすのかを聞いてみた。お相手はお馴染みフラクタ代表取締役 河野貴伸さんである。
Shopify Unite 2021 できることの幅が広がった
(石郷)今回一番大きく変化したものは何でしょうか。
(河野さん)いくつかあって一つはこれまでもShopifyは自由度が高いと言われていたのですが、そうは言っても、まだ「できる事」と「できない事」がありました。その意味では「できる事」の幅が広がったという事でしょうね。
(石郷)その「幅」というと?
(河野さん)よく今まで「Shopify」では「ノーコード」でECサイトを作れるという文脈で説明されることが多かったと思います。「ノーコード」というのはソースコードとか知らなくても、プログラミングをいじっていけるよ、という話。全てのページがドラック&ドロップでデザインを変更したりできるわけで、それ程、システムに詳しくなくても作れちゃう。ここの部分は進化して、できることが増えました。
ただ、今回の発表でいえば、注目すべきは「ローコード」と「カスタムコード」なんですよね。
「ローコード」というのはHTMLとかプログラムを書けるという人に向けてのものであって、その部分においても、やりやすくなりました。自由自在に自分達なりにデザインを入れたり、プログラムを追加できるようになったというわけです。
「カスタムコード」というのは完全にゼロからプログラムを書くって事で、実は、この部分でも色々できるようになったという話なんです。
(石郷)河野せんせー!すみません。。この「ローコード」と「カスタムコード」の違いがまだわかりきれていないです。苦笑。
(河野さん)そうですねぇ「ローコード」をもう少し詳しく言うなら「Shopify」ってツールが用意されている中で、例えば「ここはいじっていいよ」という具合に「いじれる箇所」があって、その箇所でできる事が増えたって感じなんです。
それに対して「カスタムコード」っていうのは「完全にゼロから」なんですよね。
ここがShopifyの動きで大きなインパクトになっている事の一つです。この両方がある程度、できるようになった。要は、Shopify側でインフラ周りを用意するから、好きなようにプログラムをゼロから書いて、Shopifyの仕組みを自由に使って、サイト作っていいよというわけなんです。
(石郷)なるほど。そうすると、よりオリジナリティが出せそうな感じがしますが、それで正しい?
(河野さん)そうですね。ただ、今まででも十分、オリジナリティが出せる部分はあったので、彼らはそれで「ヘッドレスコマース」という言い方をして、それを具現化していたわけです。
ただ、そうは言いながら、色々環境を用意しなきゃいけなくて、完全なるオリジナリティとはいえなかったのが、本当のところ。今回、それは全部、Shopifyが用意するよって話になったので、ほぼ何でも自由にできるようになったと言っていいでしょう。
恩恵を受ける企業はどこ?
(石郷)なるほど。では、そういう動きがあったとして、これによって恩恵を受ける企業は具体的に、どういうところになるのでしょうか。
(河野さん)まず、いうまでもないのは「事業者」。「マーチャント」と言われるものを売ったりする人です。ただ、本当の意味で大きな影響を受けるのは、制作会社とか、開発会社。今回のアップデートで彼ら自体が大きく発展する可能性が出てきたと言えます。
(石郷)そうか!そういう制作会社にとっては提案の幅が広がるって事ですね?
(河野さん)そうなります。想像してみてほしいのですが、例えば「BASE」や「Stores」はある程度、決められたフォーマットに従い、皆似たような形にはなるけど、自分たちである程度、作れてしまう。そうすると制作会社、開発会社が敢えてそこに入りづらいし、お金にしづらいじゃないですか。「Shopify」はその意味で言うと、より技術者がお金にしやすい環境になったと言うわけなんです。
(石郷)そういうことか。。それを踏まえると、河野さんから見て、こういう風なショップが今後は新たにできてくるのではないかという具合に、これによって生まれるお店のイメージはありますか?
(河野さん)やっぱりその意味でいうと、よりオリジナリティのあるストアですよね、例えば3Dを使ってVRで買い物ができるとか、ゲームエンジンと組み合わせてゲームをやっている感覚で買い物ができるとか、ですよね。
(石郷)なるほど、、、そうか全然、小売のイメージすら変わってくるってことですね。
(河野さん)あと、もうちょっと先へ行くと動画の中にリンクがあってそれを押したら、そのままカートが出てきて買い物ができるとか、そういうものがやりやすくなりましたね。
(石郷)つまり、制作会社はその技術を深掘りをしながら、今までにない新しい提案できますと。店側はそれを受けて、自分達の持っている世界観をもしかしたら、こうやって深堀りできるかもしれない、と店としての新たな活路をそこに見出せるかもしれないってことですね。
ECも新たな次元に足を踏み入れた?
(河野さん)そうなんです。だから、これからは「クリエイティブ」や「テクノロジー」といった文脈で、EC上、色々な才能が発揮されやすくなったという事なんです。
(石郷)そうなると、ECも新たな次元に足を踏み入れたといっても過言ではない、、、と言うこと?
(河野さん)そう、過言ではありません。今まではそれをやろうと思って頭に描いていても、インフラとか手段にお金がかかったので、出来なかったかもしれない。けれど、今回の刷新で、あらゆる業界の人がECに参入できるようになったという事になります。
(石郷)あらゆる業界って例えば、どんなイメージなんですか?
(河野さん)そうですねぇ、ミュージシャンがライブ配信をしながら、お客さんにカンパを受けつつ、そこで商品を売るとかですよね。そういうレコード会社が出てくるんじゃないかな、、、みたいな。物販と配信をセットにするとかですよね。
あとは、BtoBという側面でアプローチするところも出てくるでしょうね。
(石郷)BtoBで?それはどういう事ですか?
(河野さん)今までは、「BtoB」に関してShopifyは牙城を崩せていなかったんです。ただ、今回のことが契機となって、自由度が高まれば、BtoBのビジネスにおけるやりとりを前提にしたカスタマイズもしやすくなるのです。
(石郷)ああ、そうか。BtoBならではのBtoCとは違う文化ありますものね。取引先や発注数量によって、卸価格を変えるとか、もっと色々あるんでしょうけど、そういうのに順応しやすくなったと。
(河野さん)そうです。
Shopifyが意図する未来ってどんなもの?
(石郷)なるほどな、小売を手段に、いろんなことができるようになるってことなのかな。改めてお聞きしたいのはShopifyが意図する未来って何なんですかね?そこに刷新におけるおける核心がある様に思います。
(河野さん)その意味でいうと、結構壮大ですよ。多分、彼らは店舗の体験をオンライン、オフラインをひっくるめて「ストアフロント2.0」ってくくりで提供したいと思っています。それは、言うなれば、購買体験そのものを世界が見た事がない風にしたい、という意味合いを持っています。
例えば、店頭受け取りとか定期購買とか、そういう次元ではなくて、そういう技術を単体のものではなく組み合わせて、全く新しい体験にしたいという感じなんですよね。全てが混ざり合う。
それは全てにおいてなので、スマートデバイスを当たり前に持つようになり、眼鏡をかけて商品を見ていて、欲しくなって、メガネの縁を触るとカート画面が出てきて、決済完了、みたいな。それをShopifyは「ノーコード」や「ローコード」で実現したいんだと思うんですよね。
(石郷)なるほど〜。Shopifyはここで勝負をかけてきたってことか。だって「ノーコード」「ローコード」でそれを実現させるためにはある程度その元となる知恵がないといけない。だからまずは自由度を高めて、自由闊達に様々なシーンが生まれるのを見ながら、その生まれた発想を必要に応じてShopify が平準化していくという事ですよね。
(河野さん)その通りです。だから、優秀な開発者やクリエイターの人がECの世界に入ってくるということをすごく大事にしていると思っています。
実は、今回の発表の大きな要素がそういう部分にも現れています。「Shopify」は、カスタマイズする上で、これまでデザインのテンプレートやアプリが存在していました。あれは20%手数料がかかっていたんです。ところが、年間で1億円までの売上に関しては、手数料が掛からなくなりました。つまり、ゼロになりました。
(石郷)それかー活況に湧いていたのは。
(河野さん)そう。これで殆どのアプリ開発者はアプリ税を払わなくていいわけです。
例えば、今までそのアプリでの売上が1億円だったとしても2000万円、Shopifyに取られていたというわけですが、それが全くゼロ。その企業にとっては、2000万円分、利益になるわけです。
すごいことですよね。しかも今回、1億円を超えた分の発生する手数料に関しても「15%」に落としている。だから、彼らが意図するのは、アプリとか、デザインなどにクリエイターを次々招き入れて、色々なものが生まれる巨大なエコシステムを作っていこうということなんですよね。
商いを自由化するShopify
(石郷)なるほど〜〜。ちょっとアーティスティックですね。自由に描けるキャンバスを作って、色々な形の筆と様々な絵の具を用意して、さあ、自由に、独創的な絵を描いて商売してください、ってそんな感じ。
(河野さん)すごく壮大です。やっぱり、この辺が日本の事業者とは違いますよね。割と日本の場合、アップデートといっても、機能がつきましたみたいな話が圧倒的に多い。
でも彼らはそれらの機能すら単体で捉える事なく、自由自在にいじれるようにしているわけです。あらゆることが自由にできる事になったので、さあ皆さん、自由にこの上でビジネスしてください、って姿勢なんですよね。もはや、国なんですよね。
(石郷)確かに壮大ですね。ちょっともう、Amazonとかのビジネスとはベクトルが違いますね。
(河野さん)そう、それでいうとこの動きは「モール2.0」なのかもなと思うことかあります。モールの仕組みの先には、実はこれがあったのではないかと。「Amazonキラー」とかではなくて、Amazonのその次、みたいな。
(石郷)いやー、限りなくECって自由なものになりますね。
(河野さん)要は、商いを自由化しているんですよね。
お店側が意識すべきことは?
(石郷)そこで思うんですけど、それでは店側は何を考えて生きていかなきゃならないのでしょうか?
(河野さん)それはですね、もうリアルと全く変わらなくなるってことだと思うんです。要は、リアルでやっていたことがそのままオンライン側で必要になっちゃう時代なんです。オンラインって「ハック」でなんとか乗り切れていましたから。
(石郷)ハックって何?
(河野さん)裏技みたいなものなんです。広告はこうすれば良いよねとか、SNSはこう獲得すれば良いみたいな。でもそれはゲームの中だったから、成立していたわけです。でも、全部がリアルと同じくらいになってくると、結局、リアルでやっていたことをもう一回やっていかなきゃいけなくなる。
(石郷)それ、もう少し具体的に説明できません?
(河野さん)そうですね、ゲームで例えましょうか。例えば、レーシングゲームがあったとして、ファミコンやスーパーファミコンの時代はゲーマーの車が一番、早かったわけじゃないですか。でも、今のレーシングゲームはどうかというと、ものすごいリアルなんですよね。
だから一番早いのはゲーマーではなく、、、、レーサーってことになっちゃう。
(石郷)あー、なるほど。
(河野さん)こういうのでもいいかもしれません。コロナ禍で最近、リアルでスポーツができないから、バスケットボール選手が、ゲームの大会に出たらどうだろうとやってみたんです。そしたら結局、選手が一番、うまかったという現実なんですよね。
(石郷)だとしたら、小売で言ったら、実際リアルでやっていることがすごく重要になってくるわけか。
(河野さん)そう。だから、結局、リアルで生きる人がデジタル武装をするという感じに近くて、そこに真の勝者がいるということです。
Shopifyの社長が自ら示した、その先の未来
(石郷)なるほどね、つまり、頭にあるものを自ら設計できる力みたいなものが求められているわけだ。それがあれば恐らくなんでも作れてしまう箱庭を、Shopifyは作ったっていうことなりますね。
(河野さん)そういうことになります。実は、今回のイベントで一番最後にやったデモンストレーションがすごく印象的で、まさにそれを体現しています。そのデモンストレーションは、Shopifyの社長がその場でコードを書きながら、ECサイトを作っていくというものなんです。
これの裏にあるメッセージというのはなんだと思います?ある程度、コードがかけて設計ができる人であれば、ほら、その場で作って見せられるんだよって。それをあれほどの巨大企業の社長が自らやってみせたということに意味があるわけです。
今までだったら、コードを書く人は別の人にお任せしていたわけじゃないですか。でも、自ら想像して自分の作りたいものが作れちゃう、それを彼らは狙っている。そんな無限の可能性しかないじゃないですか。あれ、僕は「皆もっと、焦ったほうがいいよ」というメッセージでもあると思ったんですよね。
(石郷)いやー、そうですか。十人十色とはよく言いますが、まさにそれが一人一人、個性として再現されて、ビジネスになる時代がやってくるということを、今回の「Shopify Unite 2021」では、象徴していたわけです。多分、これですごくその熱狂の意味は読者に伝わったと思います。ありがとうございました!