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「売り場」は、もはや場所ではない──futureshopがTikTok Shopと向き合う理由

 ECは長らく、「商品を探しに行く場所」だった。検索し、比較し、最短距離で購入する。その合理性こそが、ECの正解だと信じられてきた。だが今、その前提が、静かに、しかし確実に揺らいでいる。人は、もう商品を探していない。商品と“出会ってしまう”時代に入りつつある。futureshopがTikTok Shop連携をした背景には、単なる販路拡張や流行追随ではない、ECという概念そのものの変質がある。

 この日、対談したフューチャーショップ 取締役 安原貴之さんの言葉を丁寧に辿っていくと、そこに浮かび上がってくるのは「どう売るか」ではなく、人と商品が、これからどう結びついていくのかという問いだった。ここで扱いたいのは、TikTokという一つのサービスの解説ではない。むしろそれを手がかりに、小売業そのものが、どのように姿を変えつつあるのかを、少し引いた視点から俯瞰し、読み解いていきたい

序章1|TikTok Shopとは何か──「自社ECがなくても成立する」売り場

 TikTok Shopとは、ひと言で言えばTikTokアプリの中だけで、商品との出会いから購入までが完結するECの仕組みだ。

 動画やライブ配信を見ている最中に商品が紹介され、気になったらそのままタップして購入画面へ進む。外部のECサイトへ遷移する必要はなく、「見ている流れの中で、そのまま買える」ことが前提として設計されている。

 従来のECでは、商品ページを用意し、検索や広告で流入を集め、比較検討の末に購入されるという段階を踏むのが当たり前だった。

 一方、TikTok Shopでは、コンテンツそのものが売り場になる。動画やライブが入口であり、購買行動はその延長線上に自然に組み込まれている。

 そしてもう一つ、重要な特徴がある。TikTok Shopは、必ずしも自社ECサイトを持っていなくても出店できる。極端に言えば、TikTokというプラットフォームの中に商品情報を登録し、動画やライブで紹介できれば、それだけで“売り場”は成立してしまう。

 この点において、TikTok Shopは「ECサイト」ではなく、“プラットフォーム内蔵型の売り場”だと言える。

序章2|ただし、TikTok単体でECを成立させるのは案外むずかしい

 もっとも、この仕組みは、見た目ほど簡単ではない。商品名、説明文、画像、価格、在庫、配送条件。それらをすべてTikTok側の仕様に合わせて整えなければならず、さらに、動画やライブという形式の特性上、商品が「語れる状態」になっていなければ、そもそも売り場に立てない。

 ここで効いてくるのが、すでに自社ECとして商品情報や運用データを蓄積してきたfutureshopの存在である。futureshop側には、整理された商品データ、画像や説明文、SKUや在庫、カテゴリ構造といった、ECとしての「地盤」がすでにある。

 TikTok Shop連携により、一定の項目はそれらを適用し、埋めきれない項目が何かを表示させることで、そのチャレンジの敷居を下げることができる。その前提を踏まえて、彼らはなぜ、その連携をしようとしていて、TikTokにどんな価値が見られるからなのか、それを考えてみたいのである。

1|TikTok Shopは「モール」だが、従来のモールではない

 面白いなと思ったのは、安原さんが冒頭、それを説明する中で、TikTok Shopを「モール的存在」だと位置づけたことだ。

 正直に言えば、僕はそれまで、TikTokを例えば、futureshopのような自社ECプラットフォームの表現手法の一つになりうると感じていたのだ。つまり、動画やライブを使った、新しい見せ方の延長線。ECの“外側”を補強するためのチャネル。そんな認識だった。

 けれど、安原さんの説明を聞いて、その捉え方がずれていたことに気づく。TikTok Shopは、futureshopの機能拡張ではない。むしろ、独立して成立する「売り場」として考えた方がいい。

 実際、TikTok Shopは、複数のブランドが集まり、プラットフォームの中で商品を選び、購入まで完結する。その構造だけを切り取れば、楽天市場やAmazonと、よく似ている。

 ユーザーは自社ECを訪れるのではなく、TikTok Shopという“場”の中で買い物をするのである

2|成長の起点が「商品」ではなく「売る人」にある

 しかし──安原さんの話が本当に興味深かったのは、ここから先だった。決定的に異なるのは、その“モール”が「どこから成長し始めるのか」という点なのだ。

 従来のモールは、「店舗が集まる → 商品が増える → 客が来る → さらに店舗が増える」という循環で拡大してきた。主語は、あくまで「商品」と「店舗」だった。

 一方、TikTok Shopには、そこに第三の軸が存在する。それが、「売る人」──インフルエンサー、KOLと呼ばれる存在だ。商品が並んでいるだけでは、売り場は立ち上がらない。誰が語るのかがなければ、循環そのものが動き出さない構造になっている。

 これは、モールの進化形であると同時に、モールの常識を根底から揺さぶる構造でもある。

3|日本で売上が伸び悩む理由

 安原さんの分析は、極めて現実的だ。日本のTikTok Shopが伸び悩んでいる理由は、文化論でも、感情論でもなく、収益構造にある。日本国内で売れている商品の平均単価は、2,000〜3,000円。そこから得られるアフィリエイト報酬は、数百円に過ぎない。

 これまで「1案件 数十万〜数百万円、ワンショットで受ける」という仕事をしてきたインフルエンサーにとって、このモデルは、正直うまみがない。結果として、

  • ・売る人が増えない
  • ・紹介されない
  • ・ブランドも増えない

という停滞ループが生まれている。

 だから、日本で盛り上がらないかと言えばそうとは限らない。アメリカでは途中からこの構造が一気に反転した。TikTok側がインフルエンサーとD2Cブランドの双方を増やす施策を打ち、三軸が同時に回り始めた瞬間、流通額は跳ね上がった。

 日本も、いずれ同じ転換点を迎える可能性はある。その前段階に、今いる。

4|売る主体が変わると、商いの構造も変わる

4-1|感性に商品が紐づくから、KOLが効いてくる

 この面白さの芯を深掘りしたい。

 繰り返しになるが、TikTokがこれまでのECと決定的に違うのは、人が商品を探しに行かないという点だ。ユーザーは、ただ動画を見ている。そこにAIが割り込み、「あなた、これ好きでしょう?」と、文脈ごと商品を差し出す。ここで起きているのは、探す/比べる/選ぶというプロセスの省略ではない

 購買行動の前提そのものの転換だ。

 これがモールを形成する基準であるとすれば、それはもはや従来のように「商品が集まった結果としてのモール」ではない。アルゴリズムが人の関心や行動を読み取り、その瞬間ごとに“ふさわしい商品群”を立ち上げていく。言い換えれば、アルゴリズムがもたらした感性によるモールの形成に相当する。

 AIは、安さを見ているのではない。その人の感受性を理解しようとしている。だからこそ、検索では埋もれていた商品が、突然、的確な誰かに届く可能性が生まれる。

 その意味で、futureshopはその連携が意味をもたらすと考えているわけである。

4-2|インフルエンサーは「広告塔」ではなく「新しい店員」

 なるほど、それは面白い。そして、TikTok Shopは、その人の感性に商品を紐づけることができるからこそ、KOLが活きてくるのだ。商品だけを見せられても、人はなかなか購入には至らない。

 けれど、その商品を「この人が勧めている」という文脈が加わった瞬間、背中を押される感覚が生まれる。KOLは、まさにその最後の一押しを担う存在だ。そしてこれは、KOLにとっても一方通行の話ではない。

 アルゴリズムは、単なる拡散装置ではなく、自らのフォロワーと相性の良い商品を見つけ出すための装置でもある。相性の良い商品を選び、自分の言葉で語ることができれば、KOLは影響力そのものを高め、信用を積み上げていく契機になる。

 ここに、TikTokというプラットフォームの本質がある。

4-3|ブランドという「ハコ」が外れたとき、店員が主役になる

 それを聞いて、僕は安原さんにこう伝えた。

「インフルエンサー(KOL)は、“新しいショップ店員”かもしれないですね」

 これまでの商いでは、店やブランドという“ハコ”が先に存在し、その中でファンを集め、関係性を築き、信頼が積み重なった結果として売上が生まれてきた。だが、そのハコが取り払われたとしたらどうなるか

 そこに現れるのは、“剥き出しの店員”だ。店員自身が、自分の感性と相性の良い商品を探し、自らの言葉で説明し、信用を勝ち取っていく。日本では、TikTok Shopがまだ盛り上がりきらないと言われる。その背景には、企業名やブランドへの信用に強く依存してきた商習慣があるのかもしれない。

 しかし見方を変えれば、ブランドの垣根を越えた“剥き出しの店員”がKOLとして成立し、それだけで生計を立てられるようになったとき、このマーケットは、初めて本格的に動き出す。

 実際、商品の作り手自身がKOLとなり、自分の言葉で説明するなどして、成功を収めた実例では海外を中心によくみられる。だからこそ、商品と語り手が分断されることなく、一体となって売れていく構造が生まれたのだ。

4-4|店員は、信頼を切り崩しながら売っている

 店員は、何でも売ればいい存在ではない。その人が勧めるという行為自体が、信頼という預金を切り崩す行為だからだ。

 だからインフルエンサーは、自信を持てない商品、ブランド背景が見えない商品を、簡単には紹介しない。

 ここで重要なのは、フォロワー数ではなく、「誰に、なぜ勧めているのか」を語れるかどうかだ。インフルエンサー自身が商品開発に関わり、体験し、語れる状態にあるケースが強いのは、この構造があるからだ。

5|TikTok Shopはゴールではなく、出会いの場である

 とはいえ、TikTok Shop単体でのブランディングには、やはり限界があるように思う。その構造上、どうしても「一度買って終わる」関係になりやすい。なぜなら、そこには店やブランドという“ハコ”を、店員自身が持っていないからだ。

 だからこそ、店にとって重要になるのが自社ECの存在だ。TikTok Shopは、出会いの場。自社ECは、関係性を育てる場。

 この二つは、対立するものではない。役割が、はっきりと違うだけだ。TikTok Shopで商品を知り、興味を持ち、「この商品、いいな」と思う。

 その先で、どんな想いで作られているのか、どんな人たちが関わっているのか、なぜ、このブランドなのかを、じっくり知る場所として、自社ECが機能する。futureshopがTikTok Shop連携を“主戦場”ではなく“選択肢の一つ”として位置づけている理由も、ここにある。

6|事業者は、何を見て運営すべきか

 ここまでTikTok Shopを通して、サービスの説明に終始せず、今の時代のECのあり方を、俯瞰してきたのは、なぜだろう。それは、TikTok Shopにしても、まだ正解はないからなのだ。「アルゴリズムが頻繁に変わる」「昨日までの正解が通じない」という前提がある。

 では、何を見ればいいのか。安原さんは変わらぬ本質として「どんな人にレコメンドされたか」「どんな文脈で届いたか」という兆しを見るべきだと言う。

 「こんな人が買ってくれるんだ」その発見こそが、次の商いを設計するヒントになり、これから、自社ECを形成する礎になる。

7|最後に残るのは、「ちゃんとした商い」

 話は最終的に、極めてシンプルな地点へ帰着する。

  • ・誰に届けたいのか
  • ・なぜこの商品なのか
  • ・それを自分の言葉で語れるか

 この三つが揃っていない商品は、アルゴリズムが進化すればするほど、淘汰されていく。

 なぜなら、アルゴリズムによって商品は、AIの進化とともに、より多様に、より多彩な文脈の中で引き合わされるようになるからだ。その中で残るのは、他と似ていない、自分の中にある核心しかない。

 逆に言えば、ちゃんと作り、ちゃんと語っている商品は、これまで出会えなかった誰かに届く可能性を手にする。ただし、それは自動的に起こるわけではない。さまざまな接点を通じて、自らが言語化し、可視化し、伝え続ける必要がある

 そこで求められるのは、ツール任せではない、人間の思考時間だ。

 TikTok Shopは、魔法ではない。だが、試す価値のある「入口」ではある。futureshopが用意したのは、売るための近道ではない。変化に向き合うための、踏み台なのだ。

 今日はこの辺で。

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