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楽天とHPが描くAIが“外の知”をつなぐ日

 AIは、どこまで人の想像に寄り添えるのだろう。先ほどまで、僕は楽天グループと日本HPの記者会見にいた。HPのPCに「Rakuten AI」を導入するという発表。一見、製品連携のニュースに見えるかもしれない。けれど、その場に漂っていた空気には、今という時代を象徴する“何か”があった。

 会見では、クラウドと端末──両方の強みを融合させた“ハイブリッドAI”という新しい発想が語られた。そして僕は、どうしても確かめたくなって、日本HPの岡戸伸樹社長に話を聞いた。

 そこで語られたのは、AIを「企業の頭脳」に閉じ込めるのではなく、「社会全体の知恵」として循環させるという考え方だった。なるほど──AIを囲い込む時代から、開いていく時代へ。それを体現するのが、今回の「Rakuten AI for Desktop」なのかもしれない。

1.デスクトップ上でも「Rakuten AI」

 どういうことなのか。その核心に入る前に、まず発表の概要を整理したい。

 来年春から、ほぼすべてのHP製PCに「Rakuten AI」のデスクトップ版が導入される。PCを開くと、そこには「Rakuten AI」アプリがあり、ユーザーは会話形式であらゆる質問に答えてもらえる──そんな仕組みだ。

 もともと「Rakuten AI」は、楽天モバイルなどで既に実装されており、楽天のユーザーにはお馴染みの存在だ。自前のリソースを活かし、70を超える楽天サービスに特化した設計になっているため、汎用AIでは得られない“使い心地の良さ”と“具体的な使い道”を提供できる。

 これまでその活用は主にスマートフォン上にとどまっていたが、今回、HPのPCにも搭載されることで、ビジネスの現場にも広がる。資料作成や情報整理といった作業の中で、「Rakuten AI」が自然に寄り添い、PCそのものの価値を高めていく。

2.企業ごとのAIが進化する時代に訪れる“閉じた知”の壁

 ただ、この記事を書こうと思ったのは、その発表内容を伝えるためではない。話を聞きながら、ふと考えたことがあった。

 近年、各企業が自社に特化したAIを開発し始めている。特に大企業ほど、社内データをもとに最適化されたAIを設計し、自社の風土や習慣、ルールに沿った“独自の頭脳”を作ろうとしている。確かに、それは企業にとって使いやすい環境を整える合理的な進化だ。

> (関連記事):生成AIの本質は「答え」より「問い」にある──ビジネス活用の鍵は“気づき”のデザインに

 おそらく、こうした動きは今後さらに広がっていくのだろう。だが、僕はその流れを見ながら、ひとつの疑問を抱いた。──HPのPCに「Rakuten AI」を入れたところで、すでに企業が自前のAIを持つ時代に、どんな使い道があるのだろうか。

3.企業の外から導く入口がPCの付加価値となる

その問いを、岡戸伸樹社長にぶつけてみた。彼の答えは、予想とは違う角度からだった。

「企業単体で導き出される答えがすべてではありません」と岡戸さんは言う。確かに、過去の事例をもとに最適解を導くAIは効率的だ。だが、それは“保守的な知”でもある。新しい視点や文化と交わらなければ、そこから未知を想像する力は生まれない。

 つまり岡戸さんが指摘したのは、企業の枠を超えた“外の知”とつながることの重要性だ。異なる領域と交わることでしか、本当の革新は生まれない──彼の言葉はそういう意味を込めてのことだったと僕は受け止めた。

4. 岡戸伸樹氏の言葉:「楽天AIは、外の知見を連れてくる」

 岡戸さんは、その点を静かに、しかし確信をもって語った。
「楽天さんには経済圏があって、その経済圏の活動状況から導き出せる答えがあるんです」。

つまり、そこには企業の枠を超えた“外の知”が存在するということだ。楽天の持つ膨大なデータやサービス群は、ひとつの企業の経験や判断だけでは見えてこない、多層的なインサイトを運んでくる。

「Rakuten AI」を通じて企業がその知見を取り入れることで、ビジネスの発想はより広がり、社会全体が学び合う構造へと近づいていく。

 僕はこの話を聞きながら、AIを“自社の中で完結させること”だけが目的ではなく、外の世界とつながる回路を持つことこそが、AIの真価だと感じた。

 そして、その思想を形にする“器”として、HPのPCが存在している──。

5. AIを“使う”から“共に考える”へ──クラウドとデバイスの融合

 これは実に面白い。もしAIが人に新しい気づきをもたらす存在だとすれば、それは単に便利なツールではなく、思考のきっかけをくれる存在になるということだ。

 そう考えると、今回の提携で、楽天の価値がAIを通してさらに発揮される未来が見えてくる。

 これまで楽天は、ポイントを軸に経済圏を築いてきた。しかし今後は、「AIを通じた経済圏」──つまり“知の循環”を基盤とした新しい構造が生まれていくのかもしれない。

 楽天AIはクラウドの広大な知を持ち、HPはPC上でオンデバイスAIを動かす技術を持つ。その組み合わせによって、HPのPCはハードウェアの枠を越え、ソフトウェアとしての知性を手に入れた。

 クラウドAIは大きな知を、オンデバイスAIは人に寄り添う感性を。その両方をつなぐ発想こそが、“ハイブリッドAI”という考え方だ。AIが「動く」だけでなく、「共に考える」時代が、ここから始まっていく。

6. PCが「経済のハブ」になる──AIが回す新しい循環

 楽天と聞くと、一般的にはBtoCの印象が強い。だが実際には、楽天はBtoBtoCの構造を持ち、楽天市場で言えば“対店舗”、楽天トラベルで言えば“対宿泊施設”といった形で、多くの企業と直接つながっている。

 だからこそ、「Rakuten AI」がHPのPCに搭載されることは、楽天経済圏に関わる企業に最もフィットするデバイスが誕生するという意味を持つ。言い換えれば、AIを“使うための端末”ではなく、経済圏全体が使いやすい“業務のインフラ”としてPCが機能するようになるのだ。

 岡戸さんもこの点に大きくうなずいていた。

 「HPのPCが『Rakuten AI』との親和性を高めることで」ことで、経済圏に属する企業が自然と「最も快適に仕事ができるデバイス」として選ぶようになる。それは、単なる連携ではなく、実質的な新規開拓のチャンスでもある。

 HPにとって、これはビジネス的にも極めて大きな一歩だ。そして、もう一つ見逃せないのが、オンデバイスAIがもたらす信頼性の部分だ。

7.オンデバイスAIの利点を発揮するHPのPC

 さらに、オンデバイスAIの導入によって、AIはクラウドを介さずに動作する。

 だからこそ、プライバシーが守られ、データはユーザーの手元に留まる。セキュリティへの信頼性が高まり、業務利用にも安心して導入できる。

 それは、単なる技術的な利点ではなく、人が安心してAIと共に働ける環境をつくる新しい使い道でもある。それは、HPが長年追い求めてきた“信頼”そのものでもある。

 つまり、「Rakuten AI × HP PC」は経済圏の共鳴と、企業の実益を両立させる仕組みとして動き始めたのだ。

 今日はこの辺で。

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