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谷中銀座ライブコマース 実現までの全記録──坂の下から始まった挑戦

 2025年8月3日、谷中銀座の夏祭り「ひゃっこい祭」にて、ひとつの挑戦が幕を開けた。その名も──ライブコマース「谷中ぎんざだよ!全員集合!」。スマホひとつで全国どこからでも祭りに参加できる。そんな未来的な構想は、最初は小さな声から始まった。しかし、声に共鳴した人々が集まり、商店街の歴史や文化と結びついたとき、やがて壮大な準備のドラマへと膨らんでいく。

 ここでは、祭りの舞台裏で積み上げられた数ヶ月の記録を振り返る。発端から全体設計、店舗選定、商品開発、演出づくり、直前の調整まで──一歩ずつ積み重ねたからこそ、あの瞬間が生まれた。

坂の下の声から始まった物語──発端(3〜4月)

 物語の始まりは、春のある一言からだった。

 谷中銀座の夏祭り責任者である「やなか健真堂」店主・伊藤健さんが、ふと昨年のライブコマースを思い出して口にしたのだ。

 あれは、僕のメディアコミュニティ「チームメイト」のオフ会イベントとして企画したものだった。メンバーを集め、その場でライブコマースを実演してみせる──名付けて「18時だヨ!全員集合!」。

 スマホの向こうにいる人を惹きつけながら、目の前にいる参加者も楽しませる。そんな二重構造の試みは、当時、誰もやっていなかった挑戦だった。

参考:さあ始めよう!ライブコマース『18時だヨ全員集合!』が生んだ熱狂と絆「チームメイト」オフ会 舞台裏

 「あれを、うちの今年の夏祭りでやってみませんか」。

  伊藤さんのその一言に、思わず「え?」と返した。確かに面白い。元々、店舗には思いも温もりもある。それをライブでダイレクトに伝え、現場でその様子を見てもらうことで、「自分たちもやってみたい」と思ったり、新たな気づきを持ち帰ってもらえるはずだと思ったのだ。

 谷中銀座というまち自体にも温もりがある。その想いを発信に乗せられれば、夏祭りの場そのものを盛り上げることにもつながる。

 そこで僕は、昨年の配信に関わったメンバーを再び集め、「誰もやっていないけれど、おもしろそうなことを一緒にやろう」と説いた。すると、真っ先に賛同してくれたのが、あの配信で自ら語ってくれた店舗の人たちだった。その機運に後押しされるように、配信側のフューチャーショップも加わってきたのだ。

谷中銀座商店街とは?

 谷中銀座は、戦後の闇市から自然発生的に生まれた商店街だ。日暮里駅から集まる人たちがここで商いをして、必要な物資を手に入れる。それが習慣化して、出来上がった街なのだ。

 最古は大正時代から続く老舗もあり、時代ごとに人々の生活を支え続けてきた。

 長くこの坂を見守ってきた年配の店主もいれば、近年加わった若い世代もいる。

 その世代交代がちょうど今、進みつつあった。やなか健真堂の伊藤さんはこう語る。「僕ら40代が中心になって、次世代に渡していきたい。盛り上げる時はしっかり盛り上げる、廃れるなんてことは絶対にしたくない」。その言葉には、谷中の商人たちの矜持がにじんでいた。

 ライブコマースを「外の風」として取り入れることで、商店街に新しい息吹をもたらす。それは単なる配信ではなく、商店街の文化を“守りながら進化させる”挑戦だった。ひとりの声が、やがて多くの人を巻き込む壮大な物語の第一歩になったのだ。

仲間と時間割を描く──全体設計(5月)

 その声は伊藤さんから理事会へと持ち込まれ、正式に承認される。

 その瞬間、坂の下に広がるまち全体が──今年は一歩、これまでとは違う方向へ踏み出すことになった。とはいえ、場所が使えて時間が確保できたとしても、課題は山積みだ。スペースはどのくらい必要か? 通信環境は盤石か? ……承認が下りたと同時に、すぐに着手したのは全体設計だった。

 イベント当日までに「いつ・誰が・何をするか」を明確にするスケジュール案を描き、役割を可視化していった。小さな段取りの積み重ねが、大きな祭りを動かす。設計図がなければ、誰ひとり迷わずゴールにたどり着くことはできない。

 ネットショップ側からは早々に参加表明が集まった。水郷のとりやさん、伊豆河童、セレクトフード・コパン──いずれもライブコマースに積極的に挑んできた店だ。昨年の経験を糧にしながら「今年は商店街と組み合わせる」という新しい試みに踏み出していく。その熱意は、商店街側にとっても大きな後押しになった。

 同時に、フューチャーショップのスタッフも動き出す。

 配信基盤である彼らの「Live Cottage」の調整、プレスリリースの下書き。

 裏方として早くも準備を始める。さらにチームメイトの仲間にも声をかけ、現場を支える人員を募っていった。「この場は、みんなで作るんだ」という空気が、じわじわと広がっていったのだ。

 坂の下から始まった声が、やがて具体的な工程表になり、人を動かし始める。紙の上に書かれた線が、確かな道筋に変わった瞬間だった。

まちとネットが出会う前夜──関係者ヒアリングと選定(6月)

 そして僕は、谷中銀座商店街振興組合の会合に足を運んで、自らその趣旨を説明した。

 そこでは商店街の店主たちが集まり、日常の話題から祭りの段取りまでが語られていた。その場に混じりながら、「ライブコマース」という新しい仕組みをどう組み合わせられるかを探ったのだ。

 まず取り組んだのは、全60店舗の中から比較的こうした挑戦に前向きな店舗をピックアップしてもらうこと。そして、その概要を整理し、次にネット店舗側に共有した。自分たちの商材と掛け合わせ、どうすればより魅力的な商品を生み出せるか──その検討を託したのである。

 こうして議論を重ねるうちに、どの店とコラボすべきかの大筋が見えてきた。福島商店、越後屋酒店、九州堂──いずれも地域の“顔”ともいえる店が候補に挙がっていったのだ。

 福島商店は戦後から地域を支えてきた老舗。越後屋酒店は明治創業の歴史を背負う酒屋。そして九州堂は新しい風を吹き込む存在であり、同時に「コミュニティの拠点」として機能するカフェ空間を持っていた。

 やがてこの九州堂が、チームメイトの仲間たちが集う拠点となる。まさに、ネットとリアルをつなぐ橋頭堡だった。

 その場で語られたのは「守るべき文化と、取り入れるべき新しさ」についてだった。

 FutureShopは同時期にプレスリリースの原稿を準備し始め、イベントの輪郭を世の中へ示そうとしていた。小さな調整が、やがて大きな歯車を動かしていく。谷中とネットの距離が縮まり、初めて両者が交わる前夜──その高揚感が確かにそこにあった。

味が交わる瞬間──コラボ成立プロセス(7月上旬)

 7月に入ると、ネットショップと商店街の店主を引き合わせる顔合わせが次々に実現した。最初は互いにぎこちなさもあったが、机を挟んで商品を前にすると、一気に距離が縮まった。

 「水郷のとりやさんのレバーパテ、これに日本酒を合わせたら絶対に面白い」

 「伊豆河童のところてんに、九州堂の柚子ポン酢をかけたら、夏らしい清涼感が出ますね」

 「コパンの浜名湖うなぎに、福島商店のどじょうを加えたら、土用の丑の日にも負けないセットになる」

 試食をしながら、そんなやり取りが次々に飛び交った。

 その場に生まれた驚きと笑顔が、そのまま新しい商品企画へとつながっていったのだ。

 コラボは単なる組み合わせではなく、互いの文化や歴史を交差させる作業だった。越後屋の店主が「酒は料理を引き立てる脇役」と言えば、水郷の須田さんは「いや、鶏料理の旨みを支える主役にもなる」と応じる。九州堂のポン酢を味見した伊豆河童の栗原さんは「これならうちのところてんが全く違う顔になる」と驚きを口にした。

 その瞬間、ライブコマースは単なる販売の場ではなく、「人と人が交わることで新しい味を生み出す舞台」へと変わっていった。ここで交わされた一皿一皿が、後に画面越しの観客を魅了する物語の源泉となるのだった。

物語を言葉に変える──商品企画と演出準備(7月中旬)

 顔合わせを経て生まれたコラボの数々。その背景を一つひとつ取材し、言葉に落とし込む作業が始まった。商品はただのモノではない。そこには作り手の人生や、地域の歴史が宿っている。僕はそれを「物語」として紡ぎ直し、配信台本へと変えていった。

 水郷のとりやさんのレバーパテは、代々受け継がれてきた鶏の技と工夫が込められている。そこに合わせるのは越後屋酒店の日本酒。酒造りの歴史と鶏料理の旨味が交わる瞬間を、どう表現するか──その一文に頭を悩ませた。

 伊豆河童のところてんは、富士の湧水と150年の歴史を背負う伝統食。それを九州堂の柚子ポン酢が新たな清涼感で彩る。「口に入れた瞬間、夏祭りの涼風が吹き抜ける」──そんな表現を探すうちに、台本の言葉は徐々に温度を帯びていった。

 さらにコパンは浜名湖の鰻に挑んだ。新ブランド「でしこ」は、農家との関わりの中で育まれたサステナブルな一品。その鰻に、福島商店が誇るどじょう料理を組み合わせる。ユニークでありながら、どちらも「水の恵み」に根ざす食材だ。両者の物語をどう結びつけるかが演出上の肝となった。

 一方で、ヤマト運輸との連携も進んでいた。

 冷蔵・冷凍品に象徴される「クール便」、環境対応を示す「EV配送」、そして身近な常温配送の「軽バン」。これらを象徴するミニカーを商品に同梱し、「届け方そのものが物語になる」という新しい仕掛けが準備された。

 「どのミニカーが届くかではなく、どの届け方に共感するか」。そんな思想を織り込み、自ら商品を販売することも模索する。物流も祭りの演出に加わることになる。

細部が未来をつくる──試食演出と直前準備(7月下旬〜8月1日)

 街と配信の一体化で、象徴的だったのが“試食スタンプ”の導入だ。

 谷川商事に依頼し、商品を食べた人にスタンプを押す演出を加えた。観客はまるで縁日で遊ぶように、ライブ配信と連動して楽しめる。祭りならではの「体験の共有」を演出で補強しようとしたのだ。

 同時に、配信設備の擦り合わせも最終段階へ。FutureShopのスタッフと共に、カメラアングル、切り替えタイミング、照明、電源確保──細部までシミュレーションを行った。YouTubeの会議映像には「2畳四方のスペースで配信は可能か」「照明がなければ美味しさが伝わらない」といった不安と工夫がリアルに映し出されていた。

 また、ミニカーの納品も本番直前に完了。手のひらサイズの配送車両がテーブルに並ぶと、「これは本当に新しい挑戦になる」と現場の士気が一段と高まった。

 本番2日前、最終打ち合わせの場で石郷は胸の内を明かす。「準備をすればするほど、課題も見える。でも、それを超えた先に新しい景色がある」。参加者は大きくうなずいた。

 細部へのこだわりが、未来を形づくる。谷中銀座の商店街にとっても、そしてECの未来にとっても、この直前準備は欠かせないプロセスだった。

掛け声の直前、胸の鼓動──本番直前(8月3日)

 ついに本番当日。谷中の坂の下には、朝から祭りの支度をする人々の姿があった。氷柱が立ち並び、商店街は夏の熱気に包まれる。だがその裏側では、もう一つの大舞台の準備が進んでいた。ライブコマース──「谷中ぎんざだよ!全員集合!」の本番である。

 やがて時刻は刻一刻と迫り、時計の針が16時を指そうとしていた。

 通りには観客が集まり、モニターの向こうには全国の視聴者が待っている。僕は胸の高鳴りを抑えきれなかった。昨年のオフ会から一年、今度は商店街という舞台で再び挑む。「届けたいのは商品だけじゃない。この街の温もりも一緒に伝えたい」。その思いが込み上げる。

 そして──。

「谷中ぎんざだよ!全員集合!」の掛け声と共に、配信は幕を開けた。

 準備のすべてが結晶となり、まちと人とネットが交わる瞬間が訪れた。

 それではこの辺で。

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