越境ECで日本の美を世界へ──上田直之が語る実践型海外展開のリアル

越境ECと聞いて、あなたはどんな印象を抱くだろうか。「難しそう」「大企業の話でしょ」——そんな先入観を払拭するように、自ら実践の最前線で海外市場を切り拓いているのが、株式会社キレイコム代表取締役・上田直之さんだ。物流業界からキャリアをスタートし、今や中国、ベトナム、シンガポールなど6カ国に展開。現地での販路開拓やライブコマース、SNS活用に至るまで、リアルな実例を交えながら語られたセミナー内容には、海外市場への可能性と実行力のヒントが詰まっていた。
物流から越境ECへ──現場を知る者だからこそできた一歩
上田さんの原点は「物流」。アーツという物流会社を経営する中で、製品を運ぶだけではなく、「売ること」にも挑戦したいという想いから、2018年にキレイコムを創業。
人生とはわからないものだ。そこから彼の世界に向けた視野が一気に開ける。
以降、日本国内にとどまらず、ベトナム、シンガポール、香港(設立準備中)などに拠点を広げ、現在では6カ国で販路を持つまでに成長している。
国によって異なる売り方──SNS・テレビ・サロン…多様な販路戦略
上田さんが強調するのは、「国によって売り方を変える」ことの重要性。
たとえば中国では、SNSプラットフォーム「RED(小紅書)」で日本のサプリメントを販売し、月間ランキング13位を記録。
ベトナムでは、美容サロン向けに日本製の商品を卸し、SKU単位で月6000個売り上げる実績も。
シンガポールでは老舗百貨店「ロビンソンズ」のECでの販売に加え、テレビショッピングでも月300万円規模の売上を達成している。まさに“現地の文化とチャネルを活かす”多層的な戦略が光っている。
次に狙うはEUと旧ソ連圏──注目の越境ECアプリ「Joom」
新たに注力しているのが、ヨーロッパと旧ソ連地域だ。
そこで忘れてはならないのが、越境ECアプリ「Joom」。2016年にロシアで発足したスマートフォンアプリ中心のプラットフォームで、ロシアと欧州の売上がほぼ同等という特徴を持つ。
特に低価格の商品が豊富で、日本製品の販売にも対応している。さらに、Joomは自前のSNS機能を持ち、インフルエンサーマーケティングをアプリ内で行うことが可能で、商品プロモーションにゲーミフィケーションを取り入れ、ユーザーを引きつけている。
上田さん曰く、越境ECアプリ「Joom」は、月間アクティブユーザー2500万人、累計ダウンロード数4億8000万超というスケールを誇る。しかも、売上の50%が欧州、45%が旧ソ連圏という、まさにこのエリアに特化したプラットフォームだ。
日本ではまだ知られていないが、「Joom」は上田さんにとって次の大きなチャンス。着実に、日本製品の認知と販売ルートを築き始めている。
「連結ストア」で海外テスト販売がもっと身近になる時代へ
上田さんは、より多くの中小企業が海外へ踏み出せるよう「連結ストア」という共創型ECプラットフォームの立ち上げを進めている。その基盤に選んだのが、アジア圏を中心に高い評価を得ているECプラットフォーム「SHOPLINE」だ。
2013年に香港で誕生したSHOPLINEは、世界で60万以上のショップに導入されており、ノーコードで簡単にECサイトを構築できるのが大きな魅力。
多言語対応に加え、ライブコマースやPOS連携、ソーシャルコマース機能など、オンラインとオフラインを統合的に管理できる設計となっている。視聴者とリアルタイムでつながれるライブ配信機能は、まさにグローバル市場を視野に入れる上で強力な武器だ。中小企業でも負担なく海外展開をスタートできるエコシステムが整っており、実行力あるプレイヤーの背中を押してくれる存在といえる。
この中で、上田さんは、より多くの中小企業が海外へ踏み出せるよう「連結ストア」という共創型ECプラットフォームの立ち上げも進めているわけだ。ベースに、多言語・多通貨に対応した「SHOPLINE」を採用するのである。
これにより、各国インフルエンサーの活用や、在庫リスクを抑えたテスト販売が容易になるという。会員限定で出品できる仕組みも整え、越境ECの“最初の一歩”を後押ししている。
ライブコマースの波、日本にも──台湾のスターインフルエンサーと連携へ
海外展開においてライブコマースの可能性も見逃せない。
上田さんは、台湾の人気インフルエンサー「菜菜子(Nanako)」さんとの連携を発表。彼女は韓国でのライブ配信で、3時間で5000万円を売り上げた実績を持つ。
5月29日には、日本国内の倉庫からナナコさんによるライブ販売を予定しており、指定倉庫からの即時出荷体制も構築。上田さんは「これが、メーカーにとっての新たな販売の形になる」と意気込む。
「越境ECの可能性は、無限大」と語る上田さん。
その背景には、物流の現場を知り、販売の仕組みをつくり、現地の文化に寄り添ってきた実践者ならではの視点がある。ただ「海外で売りたい」と願うのではなく、「どの国に、どの方法で、誰に届けるか」を突き詰めて考えること。それが、いま求められる越境ECのあり方なのだと、彼の言葉は教えてくれる。
今日はこの辺で。
