AIの進化と楽天の挑戦—楽天カンファレンスで三木谷さんが説く「生成AI」がもたらすECの未来
いつになく、実用面に言及した話。それだけ今、AIは、頭で理解するというより体で覚え込ませて、自ら使いこなすフェーズにきているのだ。先ほどまで、僕は、楽天新春カンファレンスにいて、そこで代表取締役会長兼社長の三木谷浩史さんの講演を聞きながら思った。いつもは大局的な未来の話が多い氏の話。ところが、今回は、実践的な使い道の説明に終始している。やってみてくださいと言わんばかりに、背中を後押しする内容だったのだ。
EC事業者のためのRakuten AI
ただ、聴講者に当たるEC事業者は、素人である。だからこそ、少しでも、普段馴染みのない人でも取り組めるようにと、Rakuten AIを自ら専用に作り出している。すなわち、いくら生成AIが有能であっても、目的が明確でなければ、何をどう使えばいいのかわからない。
例えば、chatGPTは優れている。だが、それとは別の次元の話。楽天市場など、EC事業者にとって必要なものに特化させて、独自で開発したのがRakuten AI。だから、単純に世の生成AIと比較対象となるものではない。
実際、それらは出店店舗に利用してもらうことで、その結果をシェアできる。また、その実績をもとに、自らのAIの内容をブラッシュアップさせることで、その専門性は高くなる。
いうまでもなく、楽天にも、出店店舗にも、お客様にもプラスとなるというわけだ。おそらく、彼が今回、一番、言いたいのは、そこなのだろうと思った。
もはや生成AIは固有のサービスではなく、インフラ。だからこそ、何に特化した生成AIかが大事になる時代なのだ。ゆえに、使って当たり前の時代が来るのである。
楽天AIの実践例
というわけで、三木谷さんの話をベースに「具体的な」内容を明らかにしよう。
例えば、ECサイトの運営では、商品画像のクオリティは売上を大きく左右する。そこで、生成AIの活用例として挙げたのが、「雑貨ショップドットコム」の話だ。
ここでは「商品画像加工支援AI」を導入。1商品あたりの画像作成時間を10分から1分へと短縮させたのである。結果、業務リソースの90%を削減し、月100点以上の新規商品登録が可能になったという。
さらに、このAIは画像のリサイズや背景処理を自動で最適化し、視認性の向上にも寄与していく。ゆえに、ユーザーが求める商品情報にすばやくアクセスが可能。コンバージョン率の向上にもつながっていく。
データ活用と検索体験の進化
次に、「ワインショップソムリエ」では、「店舗カルテAI」を活用。報告資料の作成時間を60分から10分に短縮させた。当然、浮いた50分は他業務に充当できるようになり、さらなる業務改善を実現させた。
これらをみて思うのは、生成AIを利用する道筋を楽天は示している。
そのおかげで、AIに馴染みのない出店店舗においても、それを利用して、最新の技術を取り入れつつ、自らの価値向上に繋げられる。実際、このAIは、過去の売上データや顧客レビューを分析。最適なレポートを自動生成する機能を備えている。
これにより、担当者はより戦略的な業務に集中でき、売上向上に直結するアクションを素早く実行できるようになった。
これら生成AIは、勿論、事業者の生産性を上げるものである。ただ、それとともに、利用者の利便性を向上させるように実装されている。だから、楽天市場では、AIを活用した「セマンティック検索」と「セマンティックレコメンデーション」を導入した。
生成AIによるマーケティング変革
この「セマンティック検索」と「セマンティックレコメンデーション」が結果、事業者側に利点をもたらす。大きくわけて2つ。
・検索意図を理解し、検索結果ゼロを 98.5%削減。(セマンティック検索)
・ユーザーの好みに合った商品を表示することで、レコメンデーションの購入率が 59%増加。(セマンティックレコメンデーション)
また、購入数やコンバージョン率、顧客満足度を向上させるために、生成AIを働かせるダイナミックな広告も実装している。この広告のパーソナライズ化により、コンバージョン率を 4%向上させた。
こうなると、いわば、「ワード」単位で検索結果にたどり着いたのが、過去の話となる。つまり、ユーザー単位で検索結果に辿り着くのである。
つまり、より広告は通り一辺倒ではなく、見る人に合わせて変容していくものへと変わっていく。当然、広告に限らず、その検索に対しての表示だって変わっていくことになる。
例えば、「ブラシ」と検索した際、ユーザーの購買傾向をもとに異なる検索結果が表示される。
・ ユーザーA(革製品の購入歴あり)には「靴用ブラシ」が表示
・ ユーザーB(美容系商品を頻繁に購入)には「メイク用ブラシ」が表示
・・・という具合。縦割りで形成されていたものがAIにより横断的に、柔軟にお客様に対応していくので、それの材料を先回りして、何を提供したいのかを明確にする必要が出てくる気がするのである。
楽天の経済圏を拡大させる戦略
このようにAIの部分で店舗への努力を促すとともに、楽天としての利点を改めて説明。それはいうまでもなく、経済圏の活性化だ。特に、楽天モバイルや楽天カードといった他のサービスとの連携。
楽天モバイルは、800万回線を突破。特筆すべきは、未来を担う若年層を中心に広がっていることだ。
また、モバイル加入後も経済圏にプラスに作用している。というのも、楽天モバイルを利用すると、楽天スーパーSALEでの購買金額が+30.1%という結果が出ている。また、 楽天カードをモバイルと併用すると、購買金額が+18.3%。両方を活用すると、購買金額が+71.9%に急増する。
つまり、まだその回線数は他の通信キャリアよりも少ないけれど、2000万回線などというレベルになれば、それは、楽天市場に与える影響は大きい。
この話を聞きながら思うのは、ここからは少なからず、プラットフォーム間のシェアの取り合い。おそらく、これまで程、EC市場に急激な伸びはない。
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だからこそ、今、分散しているお客様のどれだけを楽天経済圏に引き寄せられるかになる。だから、彼らはモバイルの適切な価格を全面に出し、新たな顧客を獲得することに意味を見出している。
集まる度合いが増して、データの精度が高まる。そうすれば、ますますAIの利用価値は出てくる。
AIがもたらす未来
これにより、人間はより創造的な業務や戦略的思考に集中できるようになる。そして、AIと共存しながら、人間ならではの強みを発揮することが、これからの時代の成功のカギになる。
繰り返しになるが、生成AIは避けて通れぬ。ただ、簡単ではないのは、無限にその価値が謳われているから。だからこそ、楽天がその専門性を活かした生成AIを提案して、目的とそこへの最短距離を示す。だから、店舗においては、安心してチャレンジして欲しいと説くわけだ。
それが生成AIを生かして最も早く、店が成長していく道のりだからであると。そして、それら多くの業務が自動化される一方で、「人間の役割はどうなるのか?」という疑問も浮かぶ。しかし、三木谷氏は講演の中で、「AIはツールであり、人間の仕事を奪うものではない」と語る。
人間が持つ「感情」や「共感力」「創造性」こそが、AIにはない価値。それを活かした働き方が求められる時代になっているから、そこを伸ばすためにAIでありたい。前日行われたショップ・オブ・ザ・イヤーはそれをシンボリックに示している。店舗が持つ、積み上げてきた血と涙と汗の結晶を今こそ、自分たちの飛躍の材料にしていくのだ。そして、そのための生成AIへのトライなのである。
まさにここからが人間としての力の見せ所と考えるべきではないかと思う。
今日はこの辺で。