衝撃!?経産省・電子商取引の調査 2024年の“真実” デジタルコマース研究所 本谷さんの見解と本音
正直、驚いた。2024年も毎年恒例となる経済産業省の「電子商取引に関する調査」が発表された。だが、そのデータには正確ではない部分があるという。同調査は、長年にわたり、企業や消費者が電子商取引をどのように利用しているかを分析した資料。この資料の編纂に関わり、最初に「EC化率」という言葉を使い、その指標を編み出したデジタルコマース研究所の本谷さんが言うのだから、その信憑性は高い。ただ、この点をとやかくいう前に、それを踏まえて読み解けば、隠れた真実が見えてくる。それを書き示したい。
物販系BtoC ECの伸びは14兆6,760億円よりも多い
なんとも皮肉なことだ。本谷さん曰く、2024年発表の「電子商取引に関する調査」(2023年に関するデータ)における一番のトピックは、そこにあるというのだから。
まず、基本的な部分をおさらいしておこう。
同資料によれば、物販系分野のBtoC EC市場は、前年の13兆9,997億円から4.83%増加し、14兆6,760億円に達した。増加率は4.83%だ。そしてEC化率は9.38%(前年は9.13%)である。下記の図のとおりである。
特に、コロナ禍以降「巣ごもり需要」によりEC利用が拡大した。だが、その波も2023年にはひと段落し、成長率がやや緩やかになっている。ただ、本谷さんによれば、市場規模の数値はこれよりも高くなるべき。結果として、その他とのデータの関係性に矛盾が生じているという。
それについてまず言及しよう。物販系分野のBtoC EC市場の増減率は4.83%とある。だが、それに対して、EC化率の増減率はわずかに2〜3%台。
EC化率の増減率は資料にはない。けれど、今年が9.38%で、前年は9.13%なのだから、それで計算すれば2%程度だとわかる。つまり、流通額の伸びに比べて、EC化率の進展が追いついていない。そんな不整合が見られるのだ。
ここで重要なのは、「EC化率とは何か」という根本的な議論に立ち返ることだ。
EC化率とは何か?
EC化率とはECを使用している人の率?それは違う。正確には「全商取引に対する電子商取引の割合」を示す指標である。
市場規模が拡大している度合いに対して、EC化率の伸びが小さい理由には、最近の物価高騰が関係している。つまり、EC化が進むのとは別次元で、物価の高騰により、売上は各社、自然増であるはずなのだ。本来、EC化率はそれを織り込んで、数値化しないといけない。なのに、それができていない。だから、市場規模の拡大とEC化率の伸びにおける数値に、辻褄が合わなくなっているわけだ。
要するに、市場規模が大きくなっているとはいっても、実は成長はこの発表の数値よりも鈍化している。むしろその方が、多くのEC事業者の実感により近いものではないか。
市場規模の伸びに関して、遂に増減率が5%以下となった。確かに、それだけでもトピックではある。(なぜなら、2022年の増減率は「5.37%増」、その前年(2021年)の増減率は8.61%なのだから)。
モールの伸びがEC化率を牽引
ただ、実際には物価高を織り込めば、恐らく、増減率は3%程度と考えるべき。考える以上に、深刻であると本谷さんは指摘する。つまり、中長期的に見れば、明らかに、物販系のBtoC ECは「ダウントレンドに入った」と見るべきである。
さらに本谷さんが詳細に分析したところでは、物販系BtoC ECで伸びているのは「マーケットプレイス」。つまりショッピングモールである。なかでもAmazonが突出していて楽天が続いている。(左の2社に加え、Yahoo!ショッピング、au PAY マーケット、ZOZO、Q10)6モール合計で、全体に占めるGMV(流通総額)は78.0%(昨年は76.2%)。
逆に言えば、自社EC市場は縮小傾向にあるということになる。
本谷さん自身、自社ECで伸びている店舗を一部、調査してみると、モールと掛け持ちをしていることが多かった。自社ECが堅調な企業は、モールを通じても売上を作っているという話なのである。これについては、自社ECはそれ独自で売上を作ることができる向上策を持つことが大事だと説いた。
さて、市場規模とEC化率の実態はジャンルごとの成長を見ると、より現実が見える。
今年も順調な伸びを示したのが、食品や飲料の分野。ネットスーパーの台頭によりスーパーマーケットに行かなくても済むようになった。つまり、生活変容が起きている。こういう箇所を見逃さないことが、時代の流れを掴む上では大事。
どこで生活変容が起きているのか
家電製品も依然として強い分野。それは、オンラインでは詳細なスペック表示が可能で、それを通して、消費者の購買を後押しできるからである。こういうネットならではの強みを発揮するジャンルは引き続き、強い。そのまま、市場規模の拡大は追い風となる。ヨドバシカメラなどの通販が依然として好調なのは、それを反映しているわけである。
ただ本谷さんの指摘によると、この資料で、過小評価されているのは化粧品・医薬品の分野だという。
というのも、実は、ここにも生活変容が起こっているはずだから。
実は、化粧品と医薬品は2014年からこの統計に加えられた。まさに彼が編纂に関わっていた時代。だが、医薬品の取り扱いは法律改正が行われたばかりで、数字としては小さかった。なので、化粧品と合わせて、カテゴリー分けしたのである。
ただ昨今、「Amazonファーマシー」がそうであるように、近年、医薬品をネットで取り扱う場面は増えた。この医薬品を切り分けて、伸びを調査すれば、生活変容がどのように起きているかが一目瞭然。今後、医薬品の伸びは少なからず影響を及ぼすことになるだろうから、来年以降の切り分けに期待したいと、指摘している。
BtoB ECは構造的な転換が必要
それ以外で言うと「BtoB EC」についてである。これには、正しい理解が必要だと説く。
ここで読者の方々に質問。「BtoB EC とは何」を指すのだろうか。
アスクル?それもそうなのだが、“経済産業省の定義する”「BtoB EC」とは「EDI(Electronic Data Interchange)」を中心としたものである。
EDIとは企業間で商取引に関する文書を電子データで交換する仕組みだ。
資料によれば、BtoB-EC市場は465兆2,372億円に達し、前年比10.7%の成長を遂げた。
ただ、今話したとおり、この指標のメインはEDI。
ただ、EDIについては、その導入に大きなコストがかかり、中小企業の間では、これが課題となっている。なぜならEDIの導入には、サプライチェーン全体をデジタル化する必要がであり、部分的な解決ではなく、全体的な最適化が求められて、経営目線で考えないと乗り越えられない。
ちなみに、海外ではアリババなどがインフラを提供し、共通して、DXが進展しているのに対して、日本は進んでいない。それは、卸売りが介在しているので、一朝一夕には解決できない構造的な問題がある。流通構造を変えていかないと、BtoB ECにとっての伸びは見込めないと、考えるのが筋なのである。
このように、経産省のデータに隠された真実を見つけるために、誤差も包み隠さず書いて、現状の構造的な問題点を再確認したわけである。
未来の展望と地方のEC化率
さて、これを踏まえて未来を展望してみよう。
繰り返しになるが、明らかに成長が鈍化している物販系BtoC EC市場。その解決策はどこにあるのだろうか。
実はこの議論は、日本の未来を左右する重要な問題とも関連している。本谷さんは地方の消費が減少することを懸念している。
彼は、独自で調査した、「地域ごとの商業施設の拠点数」と「その商業施設の人口カバー率」を見せてくれた。それぞれともに高い数値を示すのは、圧倒的に「東京」。
その背景には地方における商店街の衰退がある。
大店法の廃止により、個人商店が次々に姿を消した。これはデータにも表れている。法人の店舗数は1994年頃から2021年にかけてずっと減少し続けている。本谷さんは減少の都道府県ランキングまで示した。減少度合いが高いのは北海道、東北、四国・九州といったところである。
その間、個人商店で買っていたものは、イオンなどの大規模店舗でまとめて購入する形となった。その証拠にそれらの店舗数は横ばい状態である。では、大規模店舗はこのまま横ばいを維持できるのだろうか?
都市部一極集中と少子高齢化
いや、そうではないだろうと本谷さんは指摘する。だからこそ、大規模店舗も安心していられない。ここに重くのしかかるのは、少子高齢化である。15歳から64歳までの現役世代は、20年で激減する。2024年段階で、7340万人いるのに対して、2044年には、5824万人まで減少する。わずか20年で21%減少すると見込まれている。
徐々にその影響を実感するのは地方からである。これが一つ目の重要なポイントだ。
だからこそ、地方と都市部の格差の拡大を是正していくべき。ここに対して本来、歯止めをかけられる要素があるとすれば、ECなのだと説く。
ご存じの通り、ECは国内のどこに住んでいても商品を購入できる。
このため、地方で勢いのある事業者はネット通販を通じて全国に商品を売り、売上を伸ばしている。しかし、その購入者の多くは一部の都道府県が占めているのだ。地方の消費や税収が特定の都市に依存している現状がある。
だから、このままでは地方独自での消費はさらに衰退し、格差は広がる一方だ。
ここで救いの手となり得るのがECなのは、なぜか。地方でも、ECを通じてさまざまな商品を入手できる環境が整えば、若年層をはじめ、地方からの流出が減るだろう。
ECの付加価値が最大化されているのは都市部のみ
しかし、現在の地方の住民の多くは高齢者であり、近隣のイオンなどで十分に用が足りる。そのため、ECを利用する必要性が感じられていない。だから、オムニチャネルも、それらによって受ける恩恵も都市部に限られる。提供されるサービス段階で、もう格差が生まれている。
これでは地方のEC化率が上昇するはずがない。そこで、本谷さんは熱っぽく語る。経済圏争いは熾烈だけど、その一点に関しては大同団結すべきであると。例えば、イオンなどの大規模店舗があらゆるECの受け取り拠点になればいい。
また、海外の事例に見られるが、そのお店の商品でなくとも、他のECのサービスで買った衣装の修繕や返品などを引き受ける。あえて、大型店舗は、地域に密着したサービスを提供する。リアルとネットの垣根を超えて、日常的に活用できる環境を整備するわけだ。
地方と都市部のEC格差がなくなれば、利便性に違いがない。だから都市部への集中に歯止めがかけられる。これがEC化率の向上に直結するだけではなく、地域の活気を取り戻す鍵となるわけである。近い将来、物販系BtoC EC市場は頭打ちになるだろう。
だからこそ、覚悟が必要だ。それがなければ、EC市場は予想よりも早く成長の限界に達するだろう。今こそ、構造的な問題を見直し、DX(デジタルトランスフォーメーション)を進める。それで、中小企業の効率化と地方の活性化を実現しなければならない。
今日はこの辺で。