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あなたは何の専門家? 顧客時間 奥谷孝司さんの指摘に学ぶ

 従来、「小売店」というと「商品を売る人」という印象が強い。でも、これからは少し違ってくるのかなと感じている。どういうことか?それは、先日、ネクストリテールラボで顧客時間という会社の奥谷孝司さんの話を聞いて思ったことなのだ。具体的にいうと「何においての専門家であるか」。そういうことが問われることになるんじゃないかなと。

・もう「売る」だけじゃいられない。だから問われる専門性

 奥谷さんが紹介してくれたのは、海外の百貨店の話。それが実に興味深くて、具体名を挙げると「NORDSTROM」。老舗百貨店でありながら、その姿勢が今の時代にマッチしている。要するに、お客様との手厚さのベクトルが少々、違っていることがポイントであり、ここに専門性と差別化要因が含まれている。顧客接点を重んじつつ、「売ること」への執着から脱却しているのだ。

 「NORDSTROM」が強調するのは「衣装のお直し」「化粧品にからんだケア」など。つまり、売ること自体というより、そこから発生する副次的な要素を専門的に取り扱い束ねて、その窓口として「地域に根ざす動き」をしていることなのである。そこで商品を買うのは勿論だが、「何かあれば話を持ち込める」顧客接点の拠点として、その百貨店が存在するというわけ。複数のブランドを横断的にその接点を最大化させる部分で強みを発揮させる。

 だから、ブランドも助かる。顧客接点の多様さが付加価値となって、百貨店に集まる要素を作り出しているわけだから。そうすると、多くのブランドがそこに意味を見出して、出店を決意するということになります。これは新しい動きである。

・ブランドにはできない痒い所に手が届く配慮

 ここでの話はデジタルを取り入れているけど、いわゆる「オムニチャネル」の議論とも少し違うという部分でも興味深い。ここが、冒頭で専門性がどこにあるのかと問いかけをした所以である。

 「お直し」もそうだけど、その延長線でアウトレットが存在する。「NORDSTROM」は、フルプライスの商品だけで一つの拠点を設計。その一方で、程近い距離に全く別の「オフプライス」の拠点も専門に用意しているのだ。この「近い場所」というのがミソである。

 少々、逆説的にはなるのだが、このリアルの専門性を彼らは深掘りする過程で、デジタルを活用する。そもそも「フルプライス」と「オフプライス」はアプリを分けており、どちらのニーズのお客様もそれぞれで、リアルとネットをシームレスに行き来するようにしている。

 それでいて両方の会員は紐づけられており、自らの専門性をより高めるために、デジタルリソースを活用しているというわけだ。

・リアルの体験を向上させる為のデジタルとのスイッチング

 昨今、ナイキなどもそうだけど、リアルのお店では、リアルの顧客体験を重んじて、アプリは在庫確認などのリソースに割き、それ専用の価値を持つ。ただ、一度、外に出れば、オンラインショップへと誘導する。そんな具合に、気の利いたスイッチができることが、魅力となっているのである。彼らもそれらを“専門性”を深める材料として使っている。

 つまり、彼らはブランドに依存するのではない。ブランドが手の行き届かないような要素を、彼らはリアルのリソースを使い、地域密着という強みの中で力を発揮する。そこで実は、シームレスな体験は必須になるから、デジタルを活用する。ここが従来にはない発想で先駆けている。デジタル化をするにも何を専門的に深掘りするかを決めないと、最大化できないってわけである。

 だから「ASOS」というブランドは同百貨店とのコラボを決断した。「ASOS × NORDSTROM」という個別のお店を用意して、それを「若年層への強化」という位置付けで価値を創造するわけだ。

・オムニチャネルではなく価値の深掘り

 なぜならASOSでは「返品」というニーズにおいて、若年層では「リアルのほうが好まれる」傾向が強いことを把握している。そうであれば、敢えてそれ専用のコラボ拠点をつくり、そのリアルでの専門家である「NORDSTROM」が応えて、お互いの強みを活かすわけである。

 つまり、それぞれの専門性に絡んで、シームレスに顧客体験の向上が模索されている。それゆえ、百貨店がただ「売ること」に徹していたら、ダメなのだと気付かされる。同じく、ブランドやメーカーもデジタルを実装して、個々にブランディングしているから、役割分担が不明確になるから。
 
 改めて、この百貨店はリアルで、地元密着するという価値を活かした「オリジナルの専門性」を見出したことで、デジタル化を推進できたのだ。だから、最大級の顧客満足度に直結し、安定的な収益を作るという意味で、デジタルを取り込み、大きな一歩を踏み出した。

 だから、「オムニチャネル」なんてもう古い。リアルとネットの融合や顧客IDの連携は確かに大事だ。しかし、果たして、それらが「何で活かされるのか」であり、大切なのは、そこだ。すると、自ずと「どこ」とどうやって共存共栄すればいいかの術も見えてくる。それが今という時代であり、関係性も明確にする中で、自分達が強みを発揮し生き延びるのである。

・専門性の発揮の仕方はここまで違う

 この話は一見すると難しそうに思えるが、でも逆である。それは無数に存在する分だけ、誰にもチャンスがあるからで、その専門性に決まりはないからだ。「NORDSTROM」が見出した価値も、自分たちの長らく愛されてきた理由を“因数分解”した中で生まれた一要素にすぎない。

 他の部分で見出したっていい。ただそれを他がやっているからという理由で自分の店舗に持ち込むことは意味をなさないというだけです。なぜなら比較の話ではないからである。

 奥谷さんが例として挙げた「petco」も秀逸。こちらはペットグッズのお店だが、大抵、日本では郊外にその拠点がある。でも、彼らは敢えて大都市の人口が密集するところに旗艦店を作ったところに、今の潮流がある。作った理由は、徹底して「ペットのケア」をその場でしてもらう為である。

 ブルーミング(毛繕い)や体を清潔にするためのサービスなどが、至る所で用意されている。飼い主にとって、それがどれだけ幸せなことかは言うに及ばず、素敵な空間ができている。

 確かにこの件も表面上見れば、「売る」ことではなく「体験」という言い方で済ませることができてしまう。だが、大事なのはそこではない。最初は物売りだったところから、そのリアルを取り込むことで、ペットケアのサービスに比重を置くことができた。すると商品だけではなく、サービスの品質に対しても信用が生まれ、そこに可能性が誕生する。

・「売る」と「体験」の対比で語る単細胞な話ではない

 ペットが病気になった時のために保険のようなケアサービスを用意していくわけである。つまり、ネットの価値を、リアルでどう活かしていくか。それがこれまでの議論だった。しかし、Petcoではそれと並行して、リアルの体験をきっかけに、もっとサービスの振り幅を拡大できないだろうか。そんな視点まで組み込まれて、事業展開しているのが見るべきところである。
 
 だから、繰り返しになるが、だから自分たちのお店の「専門性」なのだ。NORDSTROMとは専門性のベクトルが違うけれど、専門性が明確であれば、リアルを強みにデジタルとシームレスに体験を生み出せて、成長の幅を広げられるわけである。

 もうデジタルとリアルの融合を目的にするのではない。まずは、理想的な社会の実現という各々にある考え方をどう顧客接点の中に織り込んでいくか。そう考えると、SDGsなどの価値観が尊重される理由も理解できる。世の中に散らばる、特にその会社との「親和性の高い」メッセージを、体験に繋げられて、その部分でお客様を納得させ、心を動かすか。

 それを最大化させる中で、デジタルとリアルを融合させるというわけである。

今日はこの辺で。

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