販売員として。母として。限りあるものへの挑戦だから美しく ユナイテッドアローズ 仲 希望さん
物事には必ず、限界がある。時間も、吸収できる技術も、体力も。だから、限りあるものへの挑戦をすることで、人生はきっと豊かになる。それを先日、ユナイテッドアローズ新宿店の仲 希望さんの言葉から感じ取った。控えめな彼女ではあるけど、実は、「STAFF OF THE YEAR 2023」というイベントで8万人の販売員の頂点に立った張本人。なぜNO.1になれたのか。彼女の言葉と共に、その人となりや接客の実力を備えた理由を本質的に紐解いていこうと思う。
限りある中での最高のパフォーマンス
1.仕事への責任感
思えば、時間は、人それぞれに同じように与えられる。そして、各々に日常がある。だから、各自、その日常の中でどうやりくりして、仕事とどう向き合えば、最高のパフォーマンスができるか。それを考える。僕らは知らず知らず、「限りある中で」できる限りの成果を出そうと試行錯誤している。
仲さんは特に、仕事という文脈ではストイック。特に、本人にはストイックという意識はないが、対価に見合った働きをしようと、仕事への責任感の強さが、そうさせる。
彼女が勤めるユナイテッドアローズ新宿店の日常は、朝から慌ただしく忙しい。だから、裏側で業務に入るにしても、「裏へ行って問題ないか」確認し、要件を言付けしてから、それを実行する。それで、次の人が仕事に入れなかったりするからだ。限られた人員と時間の中で、日夜、その“限りある中”での生活で、習慣づいていたのだ。
彼女曰く、お客様に対して時間を意識して話すことはない。けれど、限られた中で、どうやってシンプルにコンパクトにそれができるか。必要な情報を伝えられるかは、その仕事に対して全うする中で求められることだから、こだわる。
2.大事な4つの過程
どういうことか。お店に来店するのは、一人ではないから。三人程度のお客様を一気に案内することもある。お客様が鏡を見て、悩んでいる時に、何を一言、声をかければいいのか。その間に、もう一人のお客様への対応を考え、答えを出してもらえるような、言葉を考えなければ、そう頭をめぐらせる。
だから、お客様を急かすわけではなく、自分自身の感覚の中で、時間の意識が徹底されて、内容に反映されてくるというわけだ。これは深い。
だから、1分半、お客様との間に時間ができたら、その時間に全力を込めることになる。そのために、その1分半の説明を色々な人に聞いてもらって、ブラッシュアップすることだってあった。「それじゃ伝わらない」そう言われれば、改良を重ねて、言い方を繰り返す。
語弊を恐れず言えば、心の奥底では、彼女は(そうではないだろうが、無意識に)ゲーム感覚で“楽しんでいる”ように見えて、その仕事が性に合っているのだと僕は思った。
勿論、それをやるためには、商品情報は全て頭に入れておくけど、全てを話したら、時間がいくらあっても足りない。だから、彼女は、ユナイテッドアローズで接客には「4つの過程」があることを叩き込まれ、それを実践している。
それは、、、
- ・ウォッチング
- ・アプローチ
- ・ヒヤリング
- ・プロポーザル
お客様の全てがヒントになる
1.一人で何人もこなせるその理由
お客様が発した言葉は最大のヒントとなる。だから、何を会話に持ち込むかが大事となって、自ずと、お客様を観察することとなる。それによって、言葉の手がかりを掴めるようになって、会話が弾むわけであるから。
お客様がどの商品を見ているのか。何を手にしているのか。それだけではなく、「どのくらいの速さで、店内を歩いているのか」。それひとつで、そのお客様にどれだけ時間があるのかがよくわかる。
それらを掛け合わせて、相手の求める情報を察知する。だから、相手にとって欲しい情報のみがセレクトされることになる。自然と4つの過程はお互いを補完し合いながら、それを自然に流れるように仲さんはこなしていく。
2.たとえどんなお客様であっても
ゆえに、「STAFF OF THE YEAR 2023」のイベントでも、その専門性が高く評価された。
ただ、僕は少し意地悪に、「観客席から見ていると、ゲストに当たり外れがあるのではないか」と聞いてみた。つまり、余談が多いゲストに当たったら、提案ができないので、大変ではないかと投げかけたわけだ。すると「寧ろ、余談の多いお客様の方が得意です」とニッコリ。
その言葉の意図する中身は、ここまでの話でわかるだろう。
もし、余談の多いお客様がいれば、それにも対応するのだ。ただ、それもお客様の目的に対して忠実であろうとする。だから、状況に合わせて対応するだけのことで、例えば、先日のイベントであれば、「時間が迫っているお客様」と仮定できる。
その動作が自然なのは、複数のお客様を見るために、必要に迫られ、時間を意識している経験があるからだ。その中で、複数を見ながら、個々のお客様には時間を感じさせず、不快感なく説明へと誘う術を備えている。
だから、結果、運でもなく、また、お客様との時間を意識しているのではなく、総合的に、色々な知見が合わさることで、どんなお客様でも、仲さんは確実に、結果を出したであろうことが想定できたということになる。
基礎学力と得意技
1.目的があるからこそ燃える
ちなみに裏話であるけど、彼女のストイックさ(本人はその意識はない(笑))を象徴するのは、イベントに向けて、徹底的に指導を受けたということだ。ロールプレイングが4分であることを想定して繰り返した。その話を聞いて、受験のようにも思えた。
けれど、それこそ、受験と同じで、基礎学力がなければ、試験問題が解けない。基礎学力は、上記の通り、備わっている。
彼女の場合はもう少し人間的であって、こう話す。「たとえ、どんなお客様でも各々“大切にされていること”があるんです。それに気づいて差し上げて、提案の中に盛り込むというのは、意識したかった」と。
2. ブラッシュアップされたコーディネート
その中で、仲さんの得意技は?というと、コーディネートなのかなと思った。面白いのは、このコーディネイト提案に関して、リアルの現場を主体にしてきた彼女でも、ネットでの提案が活きていると語る。確かに、ネット通販は目の前に人はおらず、4つの過程も通用しないが、彼女はしっかり、ネットでも実績を上げている。
仲さん曰く「ネットは、一方的にコーディネート提案をしていかざるを得ない。でも、そのお客様と向き合う姿勢は、常にあって、だから、実際のデータを見ていく。アクセスが多いのは何か。何がどのコーディネイトに絡んで売れているのか。それをもとに、コーディネートを再構築していく。すると、自然とそのトレンドもつかめてくる」。
例えば、ネットでの提案画像では、オモテからだけではなく、後ろ姿もみせている。よく、売り場でも「後ろを見せて」という声が多く聞かれたので、取り入れたら、ネットでも関心が集まっているという現実。
思うに、特に女性は男性と違って、スペックというよりは、つけ心地とそれを着用した全体の見え方を重視するから、そういう情報も極めて大事なのである。
敢えていうなら、ネットでのコーディネイト提案により、彼女の中にある「プロポーザル」がブラッシュアップされた。一個一個がバラバラではない。複合的に色々なコーディネイトが、目の前の相手に相応しい形でかけ合わさって、次から次へと提案が捗る。
3.リアルの知見がデジタルに行きデジタルのイベントで真価を発揮
また、不思議な話、彼女のリアルの接客の価値を知らしめたのは、デジタルの「スタッフスタート」のサービスというのも面白い。スタッフ単位での成果が以前よりも可視化されやすくなり、それも加味されて評価された仲さん。
その彼女が同サービスを提供するイベントで、リアルに価値を発揮する。それも、それで、多くの人の目の前で発揮されたのは、接客の意義、ユナイテッドアローズの素敵さであるというのは、不思議な因果の組み合わせだ。
やるからには1位しかない。それもまた、彼女らしい。思えば、接客もまた、「限られた中でいかに最高のパフォーマンスができるか」。それを、母親の顔と共存させながら、やっぱり「限りある中で挑戦する」わけである。そして、たどり着いたNo.1の地位。
やり切った彼女は、表彰を受けながら、涙した。
そこまで仕事に打ち込める理由
1.ユナイテッドアローズが私の一部
それでも、トップを極めた彼女は「もう少し、提案に厚みがつけられた」とイベントでの反省の弁を述べる。ほんの少しだけ、制限時間に対して、余してしまった部分があった。だから、もうひとつ質問をかわして、そこからもう一つくらい提案ができた可能性が高いと。彼女の勝負強さにうなづける一面だ。
最後に、なぜ、そこまで打ち込めるのか。その気持ちを支えているのは何かが気になった。聞いていて思ったのは、彼女自身が今置かれている環境なのではないかということだ。彼女の仕事に対する考え方は、入社から徐々に変わっていく。今では人生観に直結していて興味深い。
思えば、仲さんは新卒以来、販売員一筋。本人は「なかなか、やめられない体質」と笑うのだが、先ほども書いた通り、性に合っていたのだとも思う。
(本人はその意識はないが)仕事に対しては、俄然、ストイックさを露見するタイプ。元を辿れば、体育会系で、運動部の部長経験もあるそうで、その根本はありそう。だが、それは仕事ゆえなのだ。プライベートでは一転してゆるく「結構、遅刻もしちゃいます」と笑うくらいである。
2.結婚し、子供が産まれて仕事の意味が変わった
だから、最初のうちは「仕事には」打ち込んでいたし、それで精一杯だった。
だけど、そのうち、結婚をして、子供も生まれると、仕事が彼女の人生観を彩る大事な要素となった。子供を預ける学校、先生との対話、家庭内での役目を果たす中で、ユナイテッドアローズで販売員をしているという仕事の要素が、顔を出す。
ユナイテッドアローズで仕事をしていることが、そのそれぞれのコミュニティの中で、自分の個性として際立つ。何より大きいのは、それは同時に、お店を背負っているという思いも芽生えてきたことである。持ちつ持たれつ。彼女の振る舞い一つで、ユナイテッドアローズという会社のイメージも変わってくるだろう。
だから、その仕事への意識は、以前よりも深みを増した。仕事というより、それを含めた彼女の人生観により、より一層、プロ意識に拍車がかかるのである。
3.時間短縮でも発揮するその力の秘訣
子供もいるから、決められた時間で働くことになる。言われたことはしっかりこなす。それが彼女の性分だけど、どこで差がつくのかといえば、彼女が大事なことで厚みをつけているところだろう。
夕方まで働けないとすれば、店頭に立つ時間が減る。でも、それは惜しみたくないから、朝早く出勤して、店頭に立つ。限られた時間の中で、彼女は彼女の力をどこで発揮するべきかを考える。彼女の真骨頂はその店舗での発揮にあるから、その場所での感性を重んじる事を怠らない。
だからこそ「STAFF OF THE YEAR 2023」は来るべくして、やってきた。それへの関心を一層強めたのは、昨年、辞退をしたからなのだ。「自信がない」。当時はそう口にしつつも、昨期末、ユナイテッドアローズで開かれた店長会で、彼女は実績でもトップを飾っている。
まわりからの勧めもあって、そこに出場するべきではないか、という気持ちが湧いてくる。正直言えば、挑戦できなかった自分を悔やんでいた部分もあった。だからトライして得たNO1.は本当に大きい。販売員として。母として。限りある挑戦の中で、今度こそ、彼女は最高のパフォーマンスをやり通したのである。
限りあるものへの挑戦だから、美しく、そして、限りある人生も豊かになる。仲さんの想いは自らのコミュニティに燦然と輝き、また、ユナイテッドアローズを勇気づけ、誇りを持てる人生へと変えるだろう。
今日はこの辺で。