“はかり”の新視点 寺岡精工 『GramX』マイナスは裏を返せばプラスである
マイナスをプラスに変える逆転の発想である。僕はスーパーマーケット・トレードショーの会場でその視点に驚いた。まず「はかり」に対して、みなさんはどういう印象を抱くだろう。体重計然り、「そのものの重さを量る」というのが常識的な発想。そこを捻った寺岡精工の秀逸な着眼点。量り売りの時、もとの食材の重量から、お客様が取り分けた分の重さを引くことで、その”量り方”の概念を製品で変えたのだ。
“はかり”の視点を変えてみる
1.「減算式」の視点でお店が変わる
量り方の変化が、小売のシーンにどう変化をもたらすのか。まずは、「量り売り」の場面を想像してもらいたい。デパートの地下食品売り場での光景で想像がつく通り、そのものの重さを量る。当たり前だ。それが“はかり”の本来の役目だし、それ以外、量って売ることができない。でも、この動画を見てほしい。重さを“引く”という新発想であり、そこで見えてくるのは・・・。
いわゆるお惣菜売り場のように、まず、いくつかの食材が並んでいるとしよう。ここに量り売りの機械があるわけだ。この機械の上には、もう既にその食材が乗っている。機械の名は「SBS-1000NFC」というそうだが、見てほしいのはその活用の仕方である。
2.“減った分”はイコール“取った分”である
この機械では「100g幾ら」なのかを予め設定しておくわけだ。すると、この機械では、取り分けた前と後での重量の差を割り出すのである。その数字こそ、食材の減少分の重量である。つまり、それがイコール、お客様の取った分量となる。
何気ないことだが、通常、存在しない概念で、製品を作ることがいかに難しいかを同社は口にする。この製品化にあたっても、計量法に基づき、型式承認というのが必要で、そこに苦心したというのだ。
しかも、勿論、その数字はかなり正確。その数字を割り出すために、傾いていたり、取り分けた際の振動がおまってから確定するようになって、緑色のランプがつく。
この緑色のランプがつけば、OKサイン。お客様ごとに用意した「NFCカード」をそこにタッチするのである。すると、先ほど設定にあった「100g」単位の額と差し引きで出てきた減少分の重量とで、金額を割り出す。そして、その重量と金額がカードのIDと紐づけされ、プリンターコンソールにインプットされる。
3.NFCカードをかざせば、取った分の金額が表示
レジ付近には、プリンターコンソールという別の機械がある。
だから、全部取り終わった後で、そちらのほうに「NFCカード」でタッチすれば、ディスプレイに明細が表示される。その明細というのは、マイナスした分、つまりはお客様が取り分けた分だ。タッチと同時に、シールが出てくるので、容器に貼れば、そのバーコードを読み取るだけで、会計ができるのである。
当たり前と言えば当たり前だが、素晴らしい。食材のマイナス分は、取ったお客様のプラス分である。まさに逆転の発想。マイナスがプラスになったと僕が、冒頭書いた所以である。
“はかり”を変えれば小売が変わる
1.実はエコになっている
そして、この変化が、小売店と我々の生活を大きく変貌させるポテンシャルを秘めている。具体的には、それ自体がエコにつながるし、現場での作業量も軽減できるのである。
例えば、従来のように、重さでそれを量るとしよう。そうすれば、その食材ごとに量るために、お客様側で、取り皿を別々に用意しなければならない。手間だし、無駄だ。しかし、このように減った量を計算してくれるのであれば、お客様が手にするのは、プレート一枚だけで良くなる。
それどころか、それはプレートですらなくて良くて、お客様が持参するお弁当箱で良いわけだ。だから、店側は容器すら必要がなく、それに伴って廃棄物も減る。エコになると書いた理由がわかるだろう。
2.店員の負担も軽減できる
これが小売りの現場を変えるかもしれない。それは、例えば、デバ地下を想像すればわかる。店員はお客様からの要望を受け、食材を取って、はかりにかける。そこには手間がかかるから、大抵、行列ができている。けれど、この『GramX』を使えば、各々お客様が自分でそれを取ってもらうことで、あとは、取った量も金額もそれが出してくれるから、会計を通すだけで良いのである。
思えば、この寺岡精工という会社は、「はかり」を作ったところから始まっている。だからこそ、今この時代において「はかり」ができることは何かと問う。そこで彼らが見出したのは、テクノロジーを通して、お客様自身が、それをセルフでやることによっての店の大改革なのだ。
3.青果を置くだけで決済がスムーズに
だから、こんな製品も見られた。レジ台に青果を置くだけで置いたものが何かを特定して、該当する青果のレシートを出してくれる。どういうこと?
実際には、モニターのすぐ左下にカメラがついていて、AIにより色と形でどの青果なのかを割り出せる。それを秤に応用して、瞬時に会計のためのバーコードラベルが発行できるようにした。
店が次のフェーズに行くために
1.店の生産性も高める
そこから派生して、はかりにとどまらず、スーパーなどの課題解決にまで及ぶ。よくスーパーで、10%OFF、20%OFF、半額などのシールが貼られていることを目にする人もいるだろう。これは時間を経て、変わっていく。10%OFFの上には20%OFF、という具合に、上から貼っていく。だからその度に、シールを貼る人員が必要となる。
だから、寺岡精工は考えた。わざわざシールを貼らなくていいじゃないかと。つまり、時間によって異なるマークをつけたシールに貼るのである。そのマーク自体が、どのタイミングで作られたものなのかの証となる。
ここで大事なのは、バックヤードでそのマークと時間とが管理されて、連動していることにある。だから、バックヤード側で、適時に何割引にすればいいのかのタイミングを把握しているから、それを商品横のディスプレイに、それをタイムリーに表示するだけである。そうすれば、わざわざ、改めて、その時間になって、人が時間ごと、シールを駆り出されて、作業をする必要がなくなる。
2.お客様の力も借りて利便性と生産性の両方をフォロー
これもお客様の方でそのルールを理解してもらうことで、圧倒的な工数削減になるということなのだ。これも標準化ということなのではないだろうか。
以前よりもテクノロジーの進化で、お客様にできることが増えている。それは実は、不思議とお客様の利便性を高める。だから、逆に、お店はお客様の協力によって、その運営を生産性の高いものに変えていくべきなのである。
思うに、テクノロジーとは人を助け、その作業を軽減していくことだ。そして、人は人がやるべきことに打ち込めばいい。それで、より一層、お店はきっと快適な空間へと成長させられるだろう。適材適所となって、やるべきことをやって、店の経営基盤を安定させようというわけである。
改めて、寺岡精工は「はかり」を起点とした会社である。その捉え方も時代によって様々。
その技術が進化して、デジタルと組み合わさった先に、見据える未来は何か。それは、店員に依存するのではなく、お客様も一体となって、より満足度の高いお店を形成していけるか。そんな時代の変化と、同社の変革に、気付かされたのだ。
今日はこの辺で。